中国共産党軍所属の戦術機部隊の残存を、負傷機ともどもに地表方面へと送り出した後、侵攻部隊はその数を力としてハイヴ地下茎を進んでいた。そして10kmと進む前に、おそらくはソビエト陸軍所属であったであろう戦術機の残骸を発見した。
「どうやらパーティに呼ばれてもいない迷惑な乱入者はこれで最後のようだ」
戦闘部隊からその報を受けたターニャは、一応は友軍と言えなくもない戦術機衛士の死にさえも、皮肉げに嗤って見せる。
記録として残るはずだが、ターニャは先行していた戦術機部隊を中ソ所属だと認めたように取れる言葉の上に、彼らへの誹謗を一切隠す気が無い。通常であれば問題とされかねない発言だが、今の状況ならば無視できる要因だ。
『あ号標的』撃破が成功すればこのような発言など些事とされるどころか、無理やりに捩じ込んできた中ソへの攻撃の材料ともなるし、もしも失敗してしまえば叱責される立場に戻る方法の一つともなりえる。
「まったく……コミー共には無駄な働き者という言葉が最も似合うな。前方に7万規模集団が接近中だ。各自十分に注意を」
先のターニャの言葉に眉を顰めたであろう者たちも、続く報告を聞いて中ソの暴走に怨嗟の声を上げる。中ソ戦術機部隊の乱入は、第一次降下部隊がS92で文字通りに半壊するほどまでに耐え凌ぎ稼ぎ出した誘引の成果、それを無に帰しただけではない。侵攻部隊と同様のルートを取ったことで、その妨害を企図したかのようにBETA群を引き寄せていたのだ。
さすがに真那を筆頭に斯衛の面々は非難の声どころか態度にも表していないが、合衆国陸軍も国連軍からも聞くに堪えない罵詈雑言が中ソに向けて叫ばれている。
「コミー共への腹立ちはもっともではあるが、その怒りの矛先はまずは眼前の土木機械共に向けたまえ。なに、先ほどまで同様、火力を以って磨り潰していくだけの単純な作業であろう?」
そしてそのターニャの言葉通り、7万規模のBETA群を前にしても侵攻部隊は足を鈍らせはすれど押し留められることもなく、粛々とというには五月蠅過ぎるほどの砲声を響かせながら着実に距離を稼いでいった。
ハイヴ地下茎へと侵入したSW115と目標たる『あ号標的』、その行程を三分の二ほど費やした位置で、部隊は一度足を止める。『桜花作戦』においては同行した国連軍はここから別ルートを取り陽動を担ったが、今回の侵攻計画ではこの場に在日国連軍の残存戦力が留まることになる。
ACTV仕様に改装された陽炎を駆る在日国連軍部隊は、侵攻開始時には損耗はあれど2個連隊弱だったが常に部隊先頭に立ち続けたこともあり、今は1個連隊強。それもその大部分は何らかの損傷を受けていた。
「予定通り、国連軍の諸君には、いましばらくはここで待機してもらうことになる。なに、我らは先に行くが、すぐに異星起源種どもが遊びに来てくれるであろうから、寂しくはあるまい」
『はははっ、むしろできるならばなみなみと注がれたジョッキを片手に暇を持て余したいところですな』
「残念ながらその希望に応えるにはあと数時間ほど必要だな。代わりと言っては何だが、なぜか朝鮮半島方面、鉄原ハイヴの間引きに使うはずだったS-11がこちらに届けられていたので、諸君らにもお裾分けしていこう」
『なるほど、パーティに誘われてきたBETAどもを歓待するためのクラッカーといったところですな。ありがたく頂戴いたします』
当然、S-11の余剰分は輸送のミスなどではない。確かに書類上は、朝鮮半島での間引きに参加する部隊へと配備される物だったが、間引きにおいてS-11が運用されることは少ない。それならば使う機会が多いであろう喀什攻略へと「誤配達」された。
おそらくは横浜基地司令にして攻略作戦最高司令官たるラダビノッドにその管理責任が問われることになるが、これもまた作戦が成功すれば有耶無耶にできる範疇だろう。
通常ならば戦術機の股関節部分に各機一発ずつしか収納できないS-11だが、XG-70dシリーズが随伴する関係で余剰分を前線へと持ち込めている。XG-70d艦内に収納した資材類をハイヴ地下茎内で展開するのは危険もあるが、XM3によって人型の大型作業機械としての性能も向上している戦術機を使えば作業時間は以前に想定されていたよりも短縮できる。
その余剰となるS-11の用途は何も自決用というわけではない。事前に敵BETA群の侵攻予測ルート上に爆破方向を指向して設置しておけば、強力な地雷原として使える。地中侵攻などには対処できないが、この中継地点の防衛に限定すれば十分以上の火力だ。
「なに、我々が作戦に成功し帰還するにせよ、上の連中が痺れを切らして降り立ってくるにせよ、数時間ほどのことだ。せっかくのプレゼント、余らせることなく使い切ってくれたまえ」
『了解いたしました。最後までお付き合いできぬことは国連軍士官として……いえ一帝国臣民として誠に残念ではありますが、これまで同道できたこと感涙の極みでありました。皆様の作戦成功、そして無事の御帰還を祈らせていただきます』
「ああ、こちらも貴君らのこれからの活躍をこの目で見れないことを残念に思う」
『では、これにて失礼いたします。帝国に……いえ、人類に黄金の時代を』
ターニャと通話していた国連軍指揮官が、ふと冥夜の駆る武御雷へと視線をやったように見える。帝国臣民と言い換えたように、やはり将軍家に関わるものと轡を並べられたこと、何らかの力になれたであろうことに、ターニャには実感しにくいことなのだが思うところがあるのだろう。
そして彼だけでなく、この場に残る者は皆、出身は違えど死に臨む覚悟をあらためて決めたようだ。
この場に残るということは、死守命令を下されたに等しい。
今までと違い、XG-70dからの支援砲撃は無くなる。加えて残るのは損傷の程度の高い国連軍戦術機部隊だ。たとえ推進剤と弾薬に余裕がありS-11までもが余剰に配備されたとはいえ、100機程度の戦術機戦力だけで耐え凌げるのはわずかな時間だけだ。
今も部隊の最前方および後方では、合衆国陸軍の戦術機が接近してくるBETA群を種別に関わらず排除し続けている。ここからその戦力が欠ければ、残るのは疲弊した国連軍だけだ。
『連隊ッ、整列ッ!! 先行く皆様に、敬礼ッ!!』
再編が終わり、武たちA-01と合衆国陸軍が先を進む中、国連軍戦術機は各自わずかな時間ではあったが砲撃の手を止め、礼を送ってくる。
「サラマンダー00よりフェアリー04へ、通話を許可する」
『フェアリー04了解』
一言掛けさせるだけで士気が高まるのならば、少し移動が遅れることなど目を瞑れる。ターニャは冥夜に通話許可を与えるという方便で、命じた。
『……皆様の挺身に、心よりの感謝を。我らが道行を切り開いていただいたこと、誠に喜ばしく思っております』
『過分な御言葉ありがとう存じます……御剣少尉殿。聞いての通りだ諸君ッ! 今しばらくは人類希望の盾となるぞッ!!』
『『『了解ッ!!』』』
国連軍側士官もパフォーマンスだと理解してくれたようだ。期待通りに配下の者たちを煽ってくれた。
国連軍を中継地に残し、ターニャの指揮の下に侵攻部隊は損害を出しつつも歩みを止めず、ハイヴ地下茎を進んでいく。水平距離にして60km、深度にすれば2500m近く下ったはずだ。
(コミー共の無駄働きがあったにもかかわらず、想定以上に順調に推移している……とは言え合衆国軍はそろそろ厳しいか)
たしかに損耗はある。戦力的に半減とまではいかないが、それでも降下直後からすればかなりの数が脱落していた。なによりも問題となりつつあったのが、国連軍に変わり先頭に立つことになった合衆国陸軍の臨時編成部隊だった。
彼らが使う機体はXM3に換装されているとはいえ第二世代のF-15Eだ。傑作機とは言えるものの、第三世代機のラプターや不知火・弐型は当然、在日国連軍が半ば無理やりに改装したACTV仕様の陽炎と比較しても、咄嗟の反応性で劣る。
そもそもが突発的な作戦参加、それも半ば叛乱じみた形でだ。一個大隊すべてで降りて来た者達もいるが、分隊だけでの参加という場合もある。参加将兵のすべてが実戦経験者であるから指揮系統の再編も比較的速やかに執り行われてはいたが、十全とは言い難い。
そして彼らだけでなく、合衆国陸軍の主力ともいえるラプター一個連隊にしても、CP将校はいない。
帝国では、A-01から始まった中隊付きCP将校を複座型に搭乗させ部隊に随伴させる形が採られていたが、合衆国はそれを採用しておらず、各大隊長が直接指示を下している形だ。
もとよりも戦術機適性のあるCP将校という人材が、帝国でもさほど多いわけではなかったが、合衆国ではさらに少ない。先ほどまで先頭を進んでいた在日国連軍がA-01や斯衛同様の形を取れたのは、負傷し衛士としては戦いにくくなった者をCP将校として再教育した上での採用だった。
結局のところF-15Eの臨時編成部隊は、ターニャが直接指示を下しているような形で運用されていた。予定通りであればターニャはXG-70dの支援砲撃の完成を主とし、第一中隊への支持を一部兼任する程度だった。
それが今では侵攻部隊全隊の指揮を執りつつ、臨時編成の部隊に個々の指示を下しているような形だ。戦術機の数が減ってきたことで指示を密にできるようにはなってきたが、どうしても無理がある。
第一中隊に関しては、他部隊と異なり例外的にターニャと霞のCP将校が二人随伴してるため、ほぼすべての指示を霞に任せている。
ルートを分かつことになる53層『広間』44に到達した際には、ラプターにも被害が出ており、合衆国陸軍は一個連隊強となっていた。
(まったく。作戦全体の指揮権が私にあれば、この場で隊の分割などせず忌々しい『あ号標的』に戦力を集中するものを……)
さすがに言葉にはできず脳内で毒づくだけに止める。もとよりも『い号標的』、通称『アトリエ』G元素貯蔵区画たるそこをハイヴ侵攻中に占拠することにターニャはさほどの重要性を認めていなかった。
ソビエトを筆頭に資源強奪を企図する東側諸国が作戦に参加するならばともかくも、実質的に日米共同での本作戦においては、急ぎアトリエを確保する意味は薄い。以前は反応炉と見做されてた重頭脳級を排除した後、ハイヴ内からBETAが近接ハイヴへと逃走したその後で、ゆっくりと資源採掘に取り掛かれば良いはずなのだ。
だが、いくつか提案した作戦計画の内で許可が下りたものは、合衆国陸軍は『い号標的』の占拠、そしてG元素の確保を第一とする物のみだった。『あ号標的』たる重頭脳級の撃破が可能かどうかではなく、そもそもそこまで到達できるかすら疑わしく思われているのだろう。合衆国政府としてそのような判断を下すことに理解はできる。
だが理解できたとしても納得できるかどうかはまた別だ。
『桜花作戦』においては誘引効果を期待してという面もあったのだろうが、XG-70dがこちらにあり、またBETAから見ても最重要施設たる重頭脳級周辺の戦力を動かすとは想定しにくい。
むしろ合衆国側の思惑としては、こちらこそが囮であり、本命はG元素だ。
(現地状況を考慮してという形で全権を握るべきか……いやラプターのパイロットに選ばれるような連中に、軍の命令に反するような指示を納得させることは困難か)
何度か考えたことだが、事前の抱き込み工作は非効率だと判断し、却下したのだ。
ラプターに乗っているような連中は、腕は良く合衆国への忠誠も高い。ただ独自判断で作戦目標を切り替えるような柔軟性には欠ける。
元より合衆国陸軍は、前線に派兵される機会そのものが海軍や海兵隊と比較すれば乏しく、そこに所属する衛士にしても実戦での経験は少ない。用意された戦場での能力は極めて高いが、指揮系統が破壊されたような状況での対応能力はどうしても劣ってしまう。
つまるところは、今この場で少しばかり言葉を費やす程度では、彼らの指揮権を掌握することはできない。
溜息を付きそうになるが、通話に拾われることを危惧しつつ、ターニャは意識を切り替える。
「こちらサラマンダー00。随伴してくださった合衆国陸軍の方々へ、感謝を。任務成功を期待しております」
『正直、火事場泥棒じみた行いではありますが、我らは我らの任を果たしてまいります』
「G元素の確保は、優先すべき任でありましょう。こちらのことは考慮せず、作戦の遂行を第一義としてください」
思ってもいないことだが、そう言うしかない。先の中ソへの言及と違い、合衆国の軍部と政府への不満など、明確に記録されることは避けておきたい。
『はははっ、いやむしろ火事場泥棒らしく騒ぎ立て、BETAどもを引付させていただくといたしましょう。今まで少々楽をさせていただいた分、少しばかりは引き連れていきたいところですな』
「第二作戦目標と定義されておりますが、それはあくまで本作戦が、この偵察機器の試験運用が主目標だったからでしょう。合衆国への献身をお見せください」
『有りがたきお言葉感謝いたします。では……連隊各機ッ、ここからは機動戦闘へと切り替える。これよりは速度こそが力だッ!!』
ターニャに応える連隊指揮官は、命令に一切の疑問などないような態度で笑ってみせる。楽をしてきたと思うならば、このまま『あ号標的』まで付き従えと言いたくなるが、それは堪える。表向きの言葉だけを並べて笑って見送って見せた。
「さて……では我々も進むとしよう。彼らを見習って、以降は連続跳躍推進で進む。ただし前方に12万規模の敵集団の振動を感知している。気を付けたまえ」
『『『了解ッ!!』』』
ターニャの手元に残ったのはA-01と斯衛の一個中隊、そして寄せ集めの合衆国陸軍部隊の戦術機150機程度だ。『桜花作戦』の最終侵攻部隊と比すれば20倍近い戦力と言えど、安心できる要因は思い描けない。
なによりも単純に、これまでのように接触する敵BETA群を磨り潰していくような火力はもはや期待できない。既存の作戦のように戦闘は最小限、可能な限りの速度をもって突破していくしかない。
ここから先は、ある意味では戦術機衛士として手慣れた工程だ。事前に繰り返したシミュレーションも、最も時間をかけて繰り返してきた。
(まあ『主広間』前まで残すは10kmと無い。そこまで一気に踏破、『門』級の開放作業を援護しつつ、最終突入への準備、といったところか)
戦闘行動を取りながらとはいえ、その程度の距離を突破するだけならば300秒とかからない。『主広間』の掃討はS-11の連続投射を主軸とし、XG-70dの砲撃、今まで使わずに温存してきた電磁投射砲とで対処する予定だ。
今は先頭をA-01の第二と第三大隊とが、後方に合衆国軍が続く。当初予定ではA-01だけでこの先を乗り切るはずだったのだ。第二世代機の寄せ集め部隊といえど予備戦力と言える余裕があるのは喜ばしい。
12万規模のBETA群は脅威と言えば脅威ではあるが、現有火力で対処できないほどではない。
今少し余裕があれば広間44から続くルート上にS-11を地雷化して設置しておきたいが、さすがにそれは贅沢な望みだ。時間的にも保有弾数的にも少し難しい。
『第四中隊から連隊各機へ。「主広間」への「門」の開放手続きに入る。援護を期待する』
最前列に位置する不知火・弐型がこの時の為だけに装備していたドロップタンクから『門』開放のため化学物質注入を開始するが、開くまではいましばらくの時間が必要だ。
地下茎は巨大で広く、また戦力が欠けつつあるとはいえ、150機の戦術機が一カ所に纏まれるはずもない。支援砲撃のためにXG-70dはできうる限り前に出なければならないが、そのためには一部の部隊は後ろに回ることになる。
「少しばかり時間が必要なようだな。各機、周辺の敵勢力排除を続けたまえ」
敵BETA群は『主広間』に終結しているようで、こちら側には散発的に出てくる程度だ。とはいえそれでも数は多い。侵攻作戦中の脚を止めての防衛戦は、時間限定とはいえ衛士への精神的負担も大きい。
「フェアリー13、今のうちに12に電磁投射砲の最終確認を指示しておきたまえ」
「はい……」
微妙に時間が空いてしまうような形だったが、するべき準備は多い。ターニャは霞を通じて壬姫に電磁投射砲の準備に入らせる。『門』が開き、敵戦力の詳細確認が完了次第、掃射に移る予定だ。
S-11の破壊力は確かに強大だが、単純に『主広間』は広い。どうしても討ち漏らしは発生し、また無尽蔵ともいえるBETA群の追加投入も予測される。時間との勝負となるため、戦術機だけでの掃討では追いつかないと考え、電磁投射砲はここで使うと決めた。
『あ号標的』へと向かう前に、ある程度後方の安全を確保するためにも、一度は『主広間』を制圧する必要がある。残弾に余裕があれば『あ号標的』にも撃ち込みたいところだが、それを考慮してこちらの制圧に時間がかかるようでは本末転倒だ。
第一中隊と第九中隊とは『あ号標的』との戦闘に際し主力となると判断し、ここまではXG-70dの直掩として温存してきた。電磁投射砲も先に国連軍と分かれる際に再装備した形で、残弾数は十全のはずだ。問題は、試験兵装ゆえの信頼性の無さだが、こればかりは帝国技術廠を信じるしか無い。
(そろそろ『門』が開くか……)
敵集団の出現予測位置を指示しながら、ターニャは注入作業の進捗を確認する。『主広間』での排除作業の進み次第だが、早ければあと15分程度で『あ号標的』と接触できる。壬姫には電磁投射砲の準備をさせているが、こちらも『あ号標的』に対する主兵装となる1200mm超水平線砲の最終確認を始める。
「サラマンダー00から第四中隊各位へ。『門』が今少しで開くぞ。カウントは取れぬから、S-11の投射タイミングは各自判断に任せる。が、無駄に先走るなよ?」
『『『了解ッ!!』』』
注入作業を進める二機の弐型以外が、股間接ブロックからS-11を取り出し、投射姿勢に入る。対象の情報が少なく、また有機系機材のため、どれほど投与すれば開くのかが正確には掴めていないのだ。
一番怖いのは、下手に開ききる前に投射してしまい、門手前側で起爆してしまうことだ。そのような自爆的行為をするような衛士はA-01にはいないと思いたいが、何が起きるかわからないのも、また戦場という場であった。
「ッ!? 左舷下方から、大規模な振動感知ッ! 接触まで100秒とありませんッ!!」」
「……母艦級か?」
「おそらくは、そう思われます」
オペレーターからの報告を受けて、ターニャは一瞬考えこむ。XG-70dのラザフォード場で押し潰すには予測出現位置が悪い。予測位置は、門を正面に捉えれば、少し左側になる。今その場には第一中隊が展開しているのだ。
移動指示を出し場所を変わることもできるが、それをすればXG-70dから『主広間』への砲撃は当然、壬姫による電磁投射砲の投射も不可能となる。
(あの土木機械共に高度な戦術判断ができるとは思えんが、絶妙なタイミングとは言えるな。この場で動かずに対処するしかない、か)
下手に動けば母艦級を無力化できたとしても『主広間』からの物量に圧倒されることになりかねない。
『フェアリー02から、サラマンダー00へ。意見具申、宜しいでしょうか?』
「02許可する。なにかね?」
武からの通話を受け、ある程度は予測できるが一応は聞いてみる。
『出現する母艦級にはこちらで対処します。全隊は現状の位置を変えず、「主広間」への対処に注力していただければ、と』
「ふむ? できるかね」
『幸いここは広さには余裕があります。出現予測位置の壁面から200mを確保出来れば、S-11の初期投射に失敗することは無いかと』
「ああ……そういえば貴様はシミュレーターで中の要撃級に殺されていたな」
『は、はははっ、あれを教訓に幾度か訓練いたしました」
「では、許可しよう。第一小隊はS-11の投射準備を。タイミングと出現予測はこちらで処理する。13任せた」
「はい。……カウント、はじめます……25……20……15……」
武の言葉をそのままに信じたわけではないが、今この瞬間に対処する方法としては、最善手と言えなくはない。詳細な指示などは霞に任せ、ターニャは『門』の状況と、母艦級との接触予測カウントを眺める。
(第一中隊が排除に失敗した場合は、左腕の1200mmを使うか。『主広間』への支援砲撃は減少するが、即座に致命的状況に陥るとは思えん)
一応の予備案を考えはするが、どちらかに欠けが出る。このXG-70dの砲撃手の腕をしても、支援砲撃と同時に1200mmの投射は無理だ。ならば、前衛に立つ第四中隊の損耗は受け入れて、XG-70dを守るように動くしかない。
「10……5、4、母艦級、出現します」
『ッ!!』
緊張感をまったく感じられない、いつも通りに淡々とした声で霞はカウントを終わらせる。その声が消える前に、武の駆る黒の武御雷はS-11を投射した。
地下茎壁面を引き裂くように出現した、巨大というにもバカバカしいほどの有機的シールドマシン、母艦級がその口を開ききる前に、武が投げたS-11はまっすぐにその中へと導かれたかのように入っていく。
第一中隊の他の者たちも投射姿勢を取っていたが、結果が分かるかのように僅かも動かない。
そして一瞬の後に、36mmなどとは比較にもならぬ爆発音が響き、開き始めていた母艦級の口が力なく垂れさがった。
『お~? タケルちゃん、成功した?』
『……たぶん、な。まあ中身がどれほど生きてるか判らねぇから、あと何発かは要るだろうけど』
『01より、03、04へ。続く投射のタイミングは13の指示に従え。他中隊各機は周辺の敵勢力排除を続けろ』
母艦級がどれほどの規模なのか、いまだその全容を見た人類はいない。一応は制御機能が先端部分にあるのか、そのあたりを破壊すれば今のように止まるようだが、それはそれとして内部に詰め込んでいるBETA群が指向性を持たせたとはいえ、S-11一発ですべて排除出来ているはずもない。
まりもが警戒を解かぬままに中隊員へと指示を飛ばすが、
「よくやったフェアリー02。まったく予定外の乱入者が多いパーティではあるが、どうやら我らをようやく招いてくれるようだ。『門』が開くぞ」
母艦級の中身には警戒を続けるべきだが、なによりも『主広間』を制圧しなければならない。全部隊が中には入れれば、場合によっては、この門を何らかの方法で閉じてしまうという手も取れなくはない。
少しばかり作戦予定時刻を上回りつつはあるが、『あ号標的』はもう眼前と言える。あのような責任能力のない現場端末と話し合う必要なども、ターニャは特に感じていない。『主広間』を抜け、重頭脳級のある空間に出れば、1200mmを左右連続して投射すればいいだけだ。
このただ消費を続けるだけの詰まらぬ戦争も終わりが見えてきたと、ターニャは声に出さず嗤っていた。
デグさんもう勝ったつもりですが、一定以上の火力を投入して無理矢理に押しとおって勝つという機動戦信奉者とは思えない方法で『主広間』までサクサクと進みました。と言いますか、原作だと部隊員それぞれの見せ場があって盛り上がるのですがこの話だとそのあたり端折っていくので、こういう感じに。
で、母艦級の外殻に至近距離からの1200mmは有効なのかどうかナゾだったりしたので、結局撃たずに。まあモニュメント破壊を想定した兵器なのでたぶん効果はありそうですが、その場合中身が駄々溢れしてしまいそうなので、密閉空間にS-11放り込むという二次創作よくあるヤツで対処してます。
でで、次はどうなるかどうかちょっと悩んでますが、さすがにあと5回以内には終わる、ハズです。宜しければお付き合いください。
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