Muv-Luv LL -二つの錆びた白銀-   作:ほんだ

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頒行の計謀

 XM3α版の試験としてシミュレータ室に集まっていたが、いくつかの驚きはあれ、OSの性能としては皆が満足していた。

 

「さて。改めて感想とさせてもらうとだな、遊ばせてもらっただけだが、白銀の言うとおりだな。各動作での違和感というものは、戦術機であることからの限界ともいえそうだ」

 ターニャにしてみれば、久しぶりなどとは言えぬ程の時間を開けた「ロボットゲーム」だ。遊びとしては十二分に満足している。

 戦術機用OSとしての精度や機能は、衛士としての専門教育を受けていないターニャからは口を出せるものではない。そのためにあくまで感想に止めている。

 

「ただ私から言えるとすれば、問題と言えばインターフェイス周りだろうな。現状では少々見にくい上に使いづらい。まあどうせコンボ選択などは複数の意見を拾いながらでなければ詰め切れまいし、ここで今すぐどうこうする部分でもなかろう」

 時間が無いとはターニャも判っているが、こういう部分は時間を掛けなければ改善しにくい部分でもある。そしてそのような修正は第四で行う範疇ではないことは、この場にいる誰も認識しているので、あとはライセンスを得た各開発会社に任せるしかない。

 

 

 

「ほぉ、局長がそれほど直接的にお褒めになるとは、私も使ってみるのが楽しみですな」

 ウォーケンが正に珍しい物を見た、とでも言いたげにわざとらしく笑って見せる。それくらいには評価が高いようだ。

 

「ふむ、常日頃から私をどう見ているのか少々問いただしたいところだな、ウォーケン少佐?」

「はははっ、まあそれはともかく、ですな。このXM3の教練には、複座型が必要なのではありませんか?」

 強引なまでにウォーケンが話を変えるがターニャもわざわざ追求しない。それに変えた話の内容自体も、納得のできるものだ。

 

「教導官を後ろに乗せて挙動を体験させる、ということでしょうか、少佐殿?」

「そうだ、神宮寺軍曹。君くらいの衛士であれば、映像を見ただけあるいは挙動データの追体験だけでもXM3を習熟できよう。が誰もがそれをなせるわけでもなければ、その時間があるわけでもない」

 今後XM3を最初から使って教練を受ける世代ならば問題は少ない。

 だが、あまりにも新しい概念の挙動が含まれるために、既存の衛士訓練を受けた者が転換訓練に時間がかかるのではないかと、ウォーケンは懸念している。

 

「そのあたりはビデオ教材やデータの蓄積、コンボの整理などで、運用する各国機関で対応してもらうべきことだな。まあこの国の本土防衛軍辺りの頭の固い連中は文句を言って来そうだが……香月博士には腹案があるのだろう?」

 

 

 

「はい。XM3を機能ごとに段階的に分割した物を、それぞれに用意することで、出来る限り不要な摩擦は避けようかと」

「あ~やっぱり分割販売ですか?」

「アンタみたいな挙動を誰もができると考えるのは、止めたわ」

 XM3の最初の話では「白銀武」が行う挙動を、コンボ機能などを用いてすべての衛士が再現できるようになる、という触れ込みだった。だが、段階を踏んで開発していくことで、逆に明白になってきたのが、誰も彼もがそこまで機体を制御できるはずもない、という事実だ。

 

「それに伊隅からも意見が上がっててね。XM1以外は帝国だと嫌がられるんじゃないかって話よ」

 XM1のキャンセルだけであれば、中隊内でも比較的スムーズに馴染んだらしい。ただ、XM2の先行入力が実装されたところで、逆に熟練の衛士たちが戸惑い始めたという。まだみちるたちは使っていないが、コンボまで含めたXM3となると、新人はともかく熟練衛士ほど余計に転換に時間がかかるのではないかと、予測されている

 そしてA-01の連中であれば問題ないという話だったが、帝国陸軍などの自称「ベテラン」ほど、コンボや先行入力に拒否反応を示すのではないかと、意見されたという。

 

 

 

「ふはは、なるほど、な。生き残っていることを自身の能力と過信しているような輩が、だだ無意味に積み上げた時間に傲り、内実を見れぬということか」

「あ~いや、新しい機材に拒否感が出てる、といえばなんとなくは判ります」

 ターニャの悪意に満ちた感想にまでは同意しないが、武としては呆れそうになる一方、理解できなくもない。今自分たちが出来ていることをなぜに新しい別の方法でやらねばならぬのか、と言われれば答えにくい。

 

「あとは国連、というかあたしに対する嫌悪といったところかしら」

 XM1であれば、それに必要とされるCPUの改良は帝国軍内部でも可能だ。国連の、第四計画が設計した物を使用する必要が無い。ブラックボックスの無い、既存の物と同様に扱えるということだ。

 

「というか、夕呼先生の印象って、やっぱりこっちでも悪いんですか?」

「無能の相手に時間を割くほど、あたしは暇じゃないわ」

 直接の回答ではないが、それで理解できてしまう。

 根回しは必要だと判っているのにそこに注力しないところは天才ゆえの驕りと見るか、それを使いこなせない周囲の無能を嘆くべきか。

 

「取引先相手なんですから、少しは譲歩しましょうよ……」

 

 

 

 

 

 

「それで夕呼先生、このXM3ってどうやって広めるんですか?」

 夕呼の人徳の薄さを今すぐに改善することはできないので、意識を切り替える。

 XM3は、OSの完成度としては今のところ問題ない。問題なのは、第四や夕呼自身へのものも含めた「新装備」への拒否感だ。この拒否感がある限り、導入を見送る組織は多いはずだ。

 

「A-01は、まずは伊隅の第9中隊に習熟してもらってから、それを元に連隊全体に広げる。これはこっちでやっておくわ」

 第四直属のA-01に限れば夕呼の好きにできる。武の記憶にあるほどには損耗していないようで、詳しくは聞いていないが第9中隊だけという状況ではなく、余裕はあるらしい。

 

 

 

「帝国海軍であれば私自身の伝手もあるので、どうにでも出来そうだ。ただ、そもそも帝国海軍は戦術機は配備しているのかね?」

「確かイントルーダーの帝国仕様があったはずです、局長」

「ん? ああ、海兵隊が無いからか。あれはどうなのだ?」

 

 ウォーケンの言葉に対しターニャは問いを重ねるが、どうなのだと問われてもさすがにこの場にいる者には答えられない質問だった。

 武もまりもも、そしてウォーケンも間違いなく一線級の衛士ではあるが、陸軍に所属する言ってしまえば「普通」の戦術機にしか乗っていない。海軍の、それも水陸両用の攻撃機に、なにが必要なのか想像するくらいしか出来ない。

 

「どう、なんでしょうね、アレにXM3って」

「三次元機動とは水中でも可能なものなのか? いやアレは水中で攻撃できる兵装が搭載されているか?」

「上陸後であれば歩行行動も取るようですから、わずかばかりの機動性向上は見込めるかもしれませんが……そもそも走れるのでしょうか?」

 

 スペックデータなどは見たことがあるはずなのだが覚えているわけもない。

 しかも三人共に海神との合同作戦の経験が無い。いまの朝鮮半島防衛戦にでも参加していればともかく、まりももウォーケンもその戦歴は大陸内部に限定される。どういう運用がされているかさえ知らないのだ。

 

「ふむ……その様子だと、帝国海軍への公的な伝達は保留だな。一応は話だけは流しておこう」

「お願いいたします。合衆国海軍でしたら空母運用なので、自信を持ってお勧めするのですが、帝国海軍は戦術機空母は存在しませんから」

 

 帝国海軍でも使って貰えればうれしいが、今のところはこちらからは強くは推さない、という消極的な対応になってしまう。

 

 

 

 

 

 

「本土防衛軍の連中には見せ札程度に晒しておいて、本命は大陸派遣軍、できれば斯衛ね。次の作戦の時にこっちに兵力を提供させることを条件に、XM3の優先供与をチラつかせるわ」

 

 夕呼は「次の作戦」と軽く言うが、狙いは喀什の「あ号標的」だ。

 BETAの学習と命令系統が喀什の重頭脳級「あ号標的」を頂点とする箒型であると判明している現在、下手にフェイズ2のハイヴなどを攻略としたとしても、それに対応する手段が構築されてしまえば、反撃の糸口を失う。狙うとすれば頭を潰してからの「駆除」しかない。

 

「問題は、その条件をどうやって飲ませるか、だな」

「議会向けはCPU関連のライセンス提供を提案しますが、軍部はどうでしょうね」

 

 ソフトとしてのOS自体はコピーすればよいが、CPU廻りは追加生産が必要だ。大規模に配備するともなれば、国の補助は当然必要になる。そしてそれは帝国国内の生産業にとってはプラスだ。諸外国も運用し始めるのであれば、ライセンスだけでもかなりの物になるはずだ。

 ただ帝国軍部からしてみれば、XM3の提出は第四を誘致して後援していることに対する当然の見返り、と考えられてもおかしくない。

 

 

 

「やっぱり国内向けのトライアルは必要ね」

「大陸派遣軍ならいざ知らず、本土防衛軍に香月博士の手が入っている装備がそう易々と広まるとは思えんからな。性能の公開だけで解消できる問題ではなかろうが、やらぬわけにもいかん」

 

 武の知る世界線ほどではないが、第四への帝国国内からの風当たりは強いようだ。不知火を連隊規模で確保していることも、それを帝国軍とは別個に運用していることも、やっかみの要因である。だが何よりも「何をしているか判らないのに予算が取られている」というのが大きい。

 夕呼の対応にも不味い部分は多いが、結局のところは予算問題と縄張り意識だ。

 

 これが実戦を経験している大陸派遣軍の方であれば、まだXM3の性能を証明することで採用の可能性はある。戦術機の性能向上も、衛士の損耗抑制も、前線では渇望されている。

 ただ本土防衛軍であれば、逆に第四の権限拡大を阻害するために、採用を拒否することも考えられる。

 

「恩を押し売りできるほどには権限が無い、というのが問題ですよねぇ」

「あくまで第四は国連主導だからね。内政干渉になりそうな部分は無理よ」

 第四計画からは、帝国の国防に関する命令は出来ない。どこまで行っても提言止まりだ。帝国軍内部の対立構造を逆手に取り、XM3の導入を進めるにしてもあと一手何かが欲しい。

 

 

 

 

 

 

「あと他諸外国向けには、帝国内部での配備が形になる前後で一度に公開したいところですけど……」

 計画推進国が使っていないような技術が、外部で受け入れられるはずもないが、外へ知らしめるとなるとさらに場所も機会も限られる。帝国内での配備が済んでからなどと言っていては遅すぎる。

 

「そうなると、アラスカが一番妥当だな」

「やはり、そうなりますか」

 

 予想していたとはいえ、夕呼にはいまいち旨味の薄い場所だ。

 先進戦術機技術開発計画、通称「プロミネンス計画」を進めるアラスカ・ユーコン基地。国連の旗の下、各国が戦術機開発のために集結し、切磋琢磨している。それだけ聞けば、確かにXM3のお披露目には最適な場所に聞こえる。問題は合衆国国内基地であるにも関わらず、アメリカ自体はプロミネンス計画には消極的であり、一切関与していないということだ。

 

 夕呼にしてみれば、アメリカだけを相手にしてXG-70や各種のG元素を回してもらう方が直接的には利益が大きい。ユーロやアジア圏の前線国家からのわずかばかりの支援を約束されるよりも、安保理内部での権限拡大の方が意味があるのだ。

 

 

 

「いや、香月博士。アラスカでXM3を見せ札にすれば第四直轄戦力として、少なくとも中隊、上手くすれば大隊規模の戦術機甲部隊はコミーどもから手に入れられるぞ?」

「ああ……あちらでもまだそんなことをやっていましたね。そしてソビエトがこれだけ出したのだから、と。アメリカとイギリスあたりからはさらに引き出す、と」

 

「?」

 ただ、その辺りは武には判らない話だ。ターニャの言葉に納得しているのは夕呼一人で、まりももウォーケンも判っていないようなので、ただの衛士では踏み込めない内容のようだ。

 

「ん? 神宮寺軍曹はともかく、白銀もウォーケン少佐も知らなかったのかね? ユーコンで連邦がやっているのは戦術機開発ではない。戦術機『衛士』開発だ」

「……まさか、それは」

 武とウォーケンはその意味が推測できてしまい、霞の方に眼をやってしまう。

 

「ご推察の通りだ。第三計画のESP発現体を元にした『衛士』を作っている。グレーというには少々黒すぎるな」

 ターニャがアラスカを推す理由はアメリカにはない。狙いはソビエトの方だ。第三の遺産を今もって弄繰り回している計画がユーコンのソビエト区域では進められている。厳密に解釈すれば、それらは第三凍結時に第四に譲渡されていなければならない技術と資産なのだ。XM3を第四の関連技術として発表し、その提供を約束する代わりに、第三由来技術のすべてを接収しておくつもりだ。

 

 

 

 

 

 

(しかし見せ札、か。そうだよな見せ方で相手の捉え方が変わる……と考えたら、問題なのはXM3の提示の仕方、か)

 ユーコンの方の詳しい事情は武には判らないが、見せ方を変える、という方向であれば、武には一つ考えが浮かんだ。

 

「で、ですね。夕呼先生、このXM3の開発の実績って、第四としてはどれくらい必要なんですか? 帝国向けなのか、国連向けなのか、アメリカ向けなのか……実のところよく判ってないんですが」

 ただ確認しておかねばならないのは、第四とそして協力体制となるJASRAにとっての、利益だ。

 

「あたしとしては難しいけどアメリカ相手の取引材料に使いたいってところね。さっきも言ったけど帝国向けはCPU関連のライセンス提供程度でいいでしょ。あと第五発動までの時間稼ぎにでもなってくれれば、それでいいわ」

「こちらとしても第五への警戒程度だな。第四の本筋とはいささかズレているために、安保理の方ではそれほど期待できん」

 

 武やターニャの知識を元にした共同レポートは安保理の方に上げたらしいが、その評価が下るまではいましばらくかかる。XM3は今のところ明確な結果が出せていない第四の最初の実績とはなるものの、方向性の違いから計画の大きな進展とは見なされない。

 それもあって夕呼もターニャも、XM3は第五計画への交渉材料としてはさほど強力なカードだとは考えていない。

 

 そもそもが前線国家ならば低コストで戦術機の性能を向上できるXM3は有用だが、後方のそれもG弾ドクトリンを主軸とするアメリカにとっては優先度が低い。

 

 

 

「でしたらXM3は斯衛から……いえ殿下から夕呼先生に開発を依頼されていた、という形で公開するのはどうでしょうか?」

「どういうこと?」

 当たり前だが、そんな話はまったくない。煌武院家は比較的に第四に対し協力的だが、直接的な援助があるわけではない。また逆に第四が、煌武院家に対して、何らかの成果を送り届けたこともない。

 よくいって表面的には友好的な中立関係、といったところだ。

 

「簡単な話ですよ。実績も何もない、どこの誰だか判らない訓練兵が言い出した謎の新型OSなんてモノ、使いたがる衛士がいますか?」

 まりもやウォーケンに向かって武は問いかけるが、二人とも答えられずに黙ってしまう。既に試しているまりもはともかく、ウォーケンにしても、管制室からのみの情報だがXM3の有用性は深く理解している。

 その上で、答えられないのだ。一般の衛士の、出所不明の新兵器に対する拒否感というものは、それほどに深い。

 

「あ~申し訳ありません。お二人であれば、部下を説得してでも導入してしまいそうですね……」

「いや白銀。貴様の言いたいことも判る。極論、このOSがソビエトで開発された物だと言われれば、私でも躊躇うぞ」

「確かに神宮寺軍曹の言うとおりだな。バックドアの存在に怯えながら使うような機材は、さすがに遠慮したい」

 真顔で断りを入れるまりもに対し、ウォーケンは苦笑気味だ。アメリカ軍であれば笑い話で済むかもしれないが、帝国軍には国粋主義とはまた別の方向で、ソビエト製戦術機導入の動きもあるのだ。

 

 

 

「しかし、なるほど。それで殿下のお名前をお借りする、ということか」

「殿下御自身も衛士訓練はお続けになっておられますし、このXM3の挙動の一部は斯衛の動作に近しい物も含まれます。詳しい者が疑問に思ったとしても、それほど不自然な話とは受け取られないかと」

 

「ふむ? 帝国の将軍自らが前線に立つというのは、儀礼的な物だけではなかったのかね?」

「ああ……ウォーケン少佐殿にしてみれば異質に思われても当然でしょうが、煌武院悠陽殿下であらせられば、政治的問題さえ解消できているのならば、最前線にてその太刀をお振るいになられます」

 

 それほど交流の記憶があるわけでもないが、なぜか武はそう断言できてしまう。

 だが逆に、ウォーケンが疑問に思うのも理解できる。ショーグンが最前線で戦うというのだ。プレジデントが戦術機に乗って最前線に切り込むのと同様に思えるが、それは映画の中の話だ。現実には起こりえない。そもそも年齢的にも苦しいだろう。

 

 だが、今の帝国は違う。

 煌武院悠陽であれば、必要となれば間違いなく、前線に立つ。

 

 

 

「ま、将軍家御用達とでも言いますか、そういった御印さえあれば、大陸派遣軍だけでなく本土防衛軍に対しても採用を躊躇う『言い訳』を潰せます」

 言ってしまえば免罪符だ。殿下のご意向に沿ってXM3は作られたという形があれば、帝国内部での受け入れには抵抗が少なくなる。

 

「白銀。そこまで言うけど、それはあくまでこっちの利益よ? どうやって城内省や斯衛、そして煌武院家を納得させるつもり?」

 

 00ユニットの開発を一時停止している今の第四計画が、帝国そして斯衛などに求める物は、まず単純な戦力だ。喀什攻略に向けて帝国内部の団結を高めておきたい、というのも第四の視点からの目的で、けっして城内省などに利益があるという物でもない。

 逆に帝国議会からならばともかく、一部武家の保有する企業への優先的な根回しくらいしか、第四が求められているという物は思いつかない。

 

 

 

「将軍としての実績として頂いて、ご自身のお立場の強化……と言いたいですが、殿下ご本人がそれを望んではおられないんですよねぇ……」

 悠陽が自分の立場を強化することに執着するような人物なら、いくらでも交渉の余地はあった。が、そのようなものはない。

 

(すげー個人的な利点としては、御剣と殿下とをお会いさせることができるかもしれないってのがあるけど、それこそ首を縦に振らねぇよなぁ……あの二人なら)

 直接言葉を交わした記憶があるのは、先のAL世界線でのクーデターの時くらいだが、それくらいのことは判る。結局のところ、似た者二人だ。「滅私」という言葉があれほどに似合ってしまう姉妹も珍しい。

 

「……あ、殿下相手なら簡単だ」

 冥夜の姿が浮かんだ瞬間、武には一瞬で解決方法が浮かんだ。

 ヘンに考えることではないかったのだ。

 

「なにかあるのかね、白銀?」

 ターニャにしても悠陽や城内省を説得する材料が浮かばず、有力武家を個別に説得するしかないのか、とまで考えていた。

 

「お気を悪くされるとは思いますが、お二人を相手にして考えすぎました。XM3の件で、悠陽殿下を相手に説得する必要なんてないんですよ。XM3があれば衛士の損耗が、帝国だけでなく世界規模で軽減される。これだけで彼のお方は協力してくださります」

 

 民の為。

 その理由だけで、煌武院悠陽ならば協力してくれるはずだと、武は確信していた。

 

「ふ、ふはは……なるほど確かに我々とは根本的に考え方が違うな」

「ええ……ですが、白銀の言う通りですわね。殿下であれば、ただそれだけで動かれるでしょう」

 ターニャも夕呼も、虚を突かれたかのように一瞬固まってしまっていたが、すぐに笑い出す。悠陽とは真逆ともいえる思考傾向を持つ二人だが、共に自覚しているだけはあって、逆に理解が早い。

 

 

 

 

 

 

「……夕呼先生。鎧衣課長に頼んで、直接殿下は無理でしょうが、できれば斯衛軍の紅蓮大将か五摂家のどなたかにお会いできませんか?」

 ただ、それでも名を使わさせてもらうというのであれば、説得には行かなければならない。

 

「トップダウンで強引に話を進めるつもりか、白銀?」

「たとえ殿下のお名前をお借りしても、今すぐに帝国陸軍全軍というのは難しいでしょう。が、斯衛であれば殿下のご一存、あるいは紅蓮大将とまではいかずとも斑鳩を説得できれば、配備が進みます」

 この世界では会ったこともないが、武はUL世界線においては斑鳩当主たる斑鳩崇継の指揮下に入っていたこともある。記憶が定かではないとはいえ、おおよその人柄は理解している上に、崇継であればXM3の有用性をすぐに理解するはずだという思いも、ある。

 

「ああ、そうだ。崇宰の方であれば先日私も会ったところだ。挨拶も出来ていないし、こちらに戻ってくるようであれば声を掛けよう」

 

 G弾の投下で有耶無耶になっているが、ターニャが朝鮮半島に展開していた国連軍を視察していた件は、いまだ完了したとは言い難い。ターニャが意識不明のまま検査の為と最優先で日本に送られたために、声もかけられていない。崇宰恭子が帝国に戻ってきているのであれば、会うには都合のいい理由になる。

 

 

 

「あとは夕呼先生、斯衛でしたら月詠中尉に、XM3の試用をお願いできませんか? 事前に情報は持って行っておいて欲しいので」

「月詠って、あの御剣にくっついてる連中の?」

 

 夕呼にしてみれば、その程度の認識だ。だが伝手という意味ではかなり強力である。

 月詠真那中尉に、直属の神代巽、巴雪乃、戎美凪の三名が所属している第19独立警護小隊。煌武院家の意向を受けての、御剣冥夜の護衛任務だけがその任務である。それだけに煌武院家への繋がりとしては大きい。

 

「ここのシミュレータの見学と使用とは許可しておくわ。ただし説得は任せるわよ。あたしが出たら、逆にこじれそうだしね」

「りょーかいです」

 俺が顔出しても下手すると斬り捨てられそうなのだが、とは武としては思ってしまうものの、夕呼に任せるよりはまだマシかと諦めた。

 

 

 

 

 

 




XM3海神は、マブラヴSFにおいては射程範囲1.5倍でコスト据え置きというたぶんバグなんでしょうが便利でした。脚遅いけどね。


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