Muv-Luv LL -二つの錆びた白銀-   作:ほんだ

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漸進の明徴

「失礼いたします、白銀武、入ります」

 207Bの皆を戦車級の対処練習に張り付けさせたままに、武はシミュレータから降りて管制室に戻ってきた。

 

 武がシミュレータから出た時から、教練はまりもが指示を出している。とはいえ、今は予定通りに戦車級の対処を進めているだけだ。出来る限り口を挟まず、訓練兵が自らの才覚で切り抜けられるように、適度に出現数を調整しているくらいだ。

 

「ご苦労だったな、白銀」

 代表としてターニャが声をかけてくるのに合わせ、管制室に入ってきた武にまりもを除く四人の視線が集まる。

 

 斯衛の二人に対するXM3の事前説明は、まりもたちに丸投げしてしまっていたが、武自身が説明するよりもうまく話してくれていたようだ。所属の違う者が六人も集まっているのだが、最初に感じたよりは各々の距離感が縮まっているようにも見える。

 

 

 

「如何でしたか、月詠中尉殿」

「教練の方法としては、少々頷ける部分もなくはないが……ああ、いや。OSの話だったな」

 

 今もモニタに映し出されている207B訓練分隊の吹雪の姿は、有体に言って酷いものだった。

 機体全身に張り付いている戦車級を、短刀や突撃砲で引き剥がそうとしているものの、圧倒的な物量を前にしては無力だ。一体を引き剥がした隙に二体に取りつかれるような勢いである。

 

(彩峰は……すげぇな、もうコツを掴んできたか。何気に鎧衣も手早いかな)

 それでも的確に捌いてる者もいる。慧と尊人は二本の短刀を器用に操りながら、掴まれた先から引きはがせるようになってきている。

 

 千鶴も先程の武の言葉通りに、IFFを切ったうえでロックオン機能を使わずに二門の突撃砲で、接近を許さずに対処し始めている。

 冥夜は足さばきで何とか凌いでる感じだが、手元が疎かになっているせいか、新しく張り付かれることは少ないものの振り落す速度は左程ではない。実戦であれば、間違いなく装甲を齧り棄てられている。

 近接戦や機動反応の苦手な純夏と壬姫は、もはや戦車級の山に埋もれてる、といった状態に近い。

 

 

 

 一見無様な207Bの訓練状況だが、それを見て頷けると言ってしまえるほどに、真那にしても戦車級への対処方法を身に着ける重要性は理解している。そして彼女たちの挙動が、シミュレータといえ累積搭乗経験20時間にもならない訓練兵が取りえるはずもないほどに滑らかなことも、判ってしまう。

 

「白銀臨時軍曹だったか? 貴様が教練についている間に、事務次官補殿からOSの概要については承っていたが、たしかにその言葉通りの物であるとは理解した」

 

 今回の訓練は207Bに対してはBETAの説明の為だったが、真那たちに対してはXM3のプレゼンである。

 真那の態度は、武の冥夜への対応などは含むところがあるのだろうが、XM3の性能には納得している、といった様子だ。戎は武に何か言いたげな表情をしているが、さすがにターニャや真那の手前、口を挿むようなことはしない。

 

「それで、だ。これは純粋にOSの能力と見ても良いのか、白銀臨時軍曹?」

「はい、いいえ。開発に携わったものとしては少々口惜しいと言ってしまいますが、訓練兵たちの素質による部分も大きいかと愚考しております」

「やはり、か」

 真那は武の返答を聞いて、少しばかり考え込んでしまう。

 

 XM3が如何に対応性を高めたOSだとは言え、207Bの中でも差があることからも判るように、誰もがいま眼前に行われているほどに早く修得できる物ではない。そして真那には熟練の衛士としての経験から、いくつか問題点も見えてしまう。

 

 

 

「このOSを搭載した実機はないのか?」

「神宮寺軍曹の搭乗を予定している撃震の換装が、今整備の者たちの手で進められておりますが、実働可能になるのは明日以降との話です」

 A-01の方でもまだ実機への搭載は行われていない。まずは整備班も熟練している撃震で実働試験をしてから、不知火と吹雪への換装を進める予定だった。そちらは早くとも週明けになるはずだ。

 

「となると、実機での問題点が判るのは、しばらく先か」

「いくつか予想されている問題点はありますが、そうですね……確認できるのは早くとも来週以降でしょう」

「予想されている、な。なるほど、当然その程度は考えているか」

 苦笑未満の顔で、真那が頷く。シミュレータを外から見ているだけでもいくつかの問題に気が付くのだ。その程度は想定していないはずがないと、思い至ったのだろう。

 

「もしよろしければ、月詠中尉殿が問題だと思われる点を、お聞かせいただけませんか?」

「そちらの予測とほぼ同じだとは思うが、良いだろう。まずは習得にかかる時間だな。既存の戦術機操作に慣れた者ほど、このOSに乗り換えるのには時間がかかろう」

 とくに斯衛で問題となるのはキャンセルだという。

 

「ベテランほどに習得に時間が掛かるであろうとは予測されていましたが、キャンセルが、ですか?」

 一番受け入れやすいのではと思っていた機能が、真那に否定されてしまい、武としても話をどう続ければいいのか判らずに問い返してしまう。

 

「先行入力であれば、問題なかろう。先の行動を予測するというのは、衛士としては当然のことだからな。その先行入力と前提動作とを繋ぐためのキャンセルならば受け入れやすいのだろうが、誤った入力を書き換えるとなると、な」

 キャンセルによって既存の行動を停止、上書きできるということは、今までなら先を見越して行動を入力していた者ほど、違和感があるはずだと真那から指摘される。

 

「ああ、なるほど。先の先を読むのは斯衛の衛士であれば、当然ですね」

「そういうことだ。先読みを廃し、刹那的に動作を指定、過てば書き換えるというのは、衛士としてどうなのだ、と私には思えてしまう。安全性が高まるというのは理解できるのだがな、無駄な操作故により煩雑になってしまっているのではないかとも、考えられる」

 そもそもが「動作を過つ」という時点で衛士として失格ではないのか、と真那には思える。ただそれが自身の属する斯衛での狭い常識だということも判ってはいる。

 

 

 

「ふぅむ。横から失礼するが、月詠中尉、それは帝国斯衛軍であるからこそ可能なのであって、一般の衛士誰もができることでははないと考えるが、違うかね?」

 ウォーケンが口を挿むのは、合衆国の教育システムによるところも大きい。数で押すとまでは言わないが、合衆国軍においては突出した個の技量ではなく一定水準の平均した能力を要求する。

 

「はい、その通りです。今の指摘は斯衛や帝国軍の手慣れた衛士にとって、このOSの習得が難しいのでは、という問題点の指摘であります。今後の衛士育成には、現行のOSよりも適したものだと考えます」

 そもそもが幼少より武道などに親しんだ者が、さらに斯衛の訓練校で鍛え上げられるのだ。それと同じほどの時間を一般衛士の教練に与えられるほどの余裕が帝国軍には無いことは、真那とて理解している。

 

「ですのでキャンセルの修得などは衛士の慣れの問題であろう、と思われます。時間さえあれば解消できましょう」

 みちるなどからも指摘されていたが、やはり既成概念の壁は大きい。一度身に着けた技術を、壊して再構築する必要があるのだ。そしてそれは現状の技術力が高い者ほどに時間が必要となる。

 

 

 

「次にだ。実機での運用がまだなされていないとはいえ、このOSは機体への負荷も大きいのではないか?」

 真那が続けて指摘したのは、衛士ではなく整備および補給面での問題だ。こちらは既に想定済みの問題でもあったので、武としては余裕をもって答えられる。

 

「試算したところによると、既存OSに比較して最大で3割ほど、関節に負担がかかる場合があると予測されています。一応は機体の耐久上限以内ではあります」

 「特例的挙動(eXtra Maneuver)」と銘打ってはいるものの、そもそも戦術機がハード的にできない挙動ができるようになったわけではない。それでもXM3は従来のOSよりも機体を「振り回す」ことが増える。キャンセルや先行入力などで各部の挙動がスムーズに繋がることで、既存OSでは想定外の局所的な荷重がある可能性は、今の段階では否定できない。

 

 まりもなどはすでに、XM3の機能を駆使しながら途中の無駄な停止挙動を排除することで以前よりもスムーズな動きを実現しているが、おそらく大半の衛士にはそのようなことは無理だ。無用な先行入力とそのキャンセルとで不必要な挙動を繰り返してしまうことは予測されている。

 将来的により洗練された挙動が組み上げられていけば解消されると考えられているが、配備から数年の内は補修パーツは余剰気味に用意する必要があるはずだ。

 

「なるほど。私が思い浮かぶ程度の懸念は、対処済みということだな」

「対処済み、とまでは言い切れませんね。あくまで問題となるだろうと予測しているところでして、対処方法などはこれから実機での使用を経て、その上で整備班などとの連携によって対応策を構築していく、といったところです」

 問題としては判っているのだが、今のところはあくまでシミュレータ内部のことであり、実機に搭載した時に発生するであろう各部パーツへの想定外の加重などはどうしても発生すると考えられている。

 そして必要とされる余剰パーツが兵站に、そして後方の生産施設など民間も含めて、どれほど負担をかけることになるかなどは武にはまったく想像もできない。

 

 

 

 

 

 

「しかし……彼女たちは、すごいな」

 予想通りに、自分が問題だとと思った程度は想定されているとあらためて説明されて、真那はXM3に関する質疑応答は終わりだとばかりにモニタに眼を戻す。

 

 武も教練の方に意識を切り替えて、207Bの様子を確認する。

 が、モニタの詳細を見るまでもない、真那の言葉通りにシミュレータ内部の戦車級の数が減り始めているのだ。まりもが意図して出現数を絞っているわけではない。少しずつ連携らしきものが生まれ始め、対処できる数が増えているのだ。

 

 

 

『珠瀬さん、ちょっと待ってっ』

『え、鑑さん何を?』

『そっちの腕に張り付いてるのを引き剥がすから、こっちのを撃ち抜いてっ』

『う、うん。判った、了解です、鑑さん』

 

 純夏が、壬姫の右腕に取り付き突撃砲の操作を妨げていた戦車級を、短刀でその頭部を破壊することで削ぎ落とす。

 即座に空いた右腕の突撃砲で、IFFを切ったうえで、壬姫が的確に純夏の機体に取り付いていた戦車級を排除していく。

 

 戦車級は小型種の中では比較的大きいとはいえ、至近距離からの36mmに耐えられるほどではない。純夏の機体には影響を与えない位置に、壬姫は確実に一撃で撃ち込み、短時間で排除を達成する。

 

『ありがとーっ。じゃあ、珠瀬さんのに張り付くのは、どんどん横から剥がしていくから、近くに居てね』

『はいっ、鑑さんには一匹たりとも近付けさせませんっ!』

 二人の言葉通りに、即席のエレメントが結成され、純夏と壬姫の機体周辺の戦車級の数が目に見えて減っていく。

 

「思っていた以上に、対応が早いですね」

 武としてはもうしばらくは個々人が勝手に対処しようとして気力が尽き果てるか、という予測もしていた。

 珠瀬の射撃の腕が冴えわたっているのは確かだが、今のは純夏の機転が良かったと手放しで誉めることができる。

 

 

 

『20701より02御剣っ、05珠瀬と03鎧衣とで三機編成で背面を無くしてっ、そちらの指揮は任せるっ』

 そしてその状況の変化を感じ取った千鶴の判断もまた、武の予想よりも早い。

 コールサインに苗字を加えるという、少しばかり迂遠な呼び方ではあるものの、いまの浮き足立っている状況下では最適かもしれない。

 

『04彩峰と06鑑は、こちらにっ』

『えっ? はっ、はいっ06、了解っ』

 

 戦術機の編成で基本となる二機分隊ではなく、三機の変則編成で死角を無くすべく、千鶴が指示を出していく。

 立ち直った純夏と壬姫とを、個人技で対応できる慧と尊人に振り分け、再編の足掛かりとするようだ。

 

『……04から01へ意見具申、私と06とが合流する地点に01が来るべき』

『っ!? そう、ね。位置的にも時間的にもそちらの方が早いわね。先の命令は撤回するわ、04彩峰と06鑑とは合流を最優先』

『06了解っ、彩峰さんの方に走るね』

『04了解、ゆっくりでいいよ』

 

 だが千鶴の命令の不備を慧は指摘する。戦術機の機動にいまだ慣れているとは言いにくい純夏を移動させるよりかは、全員で集結する方が早いという提案だ。

 そして千鶴も、言葉が足りているとは言いにくい慧の提言を読み取り、即座に修正していく。

 

 

 

『02了解。02から03、05へ。05珠瀬を中核に集合する。05はその場で持ちこたえろ』

『03了解。珠瀬さんちょっと待っててね』

『05了解です。鑑さんが作ってくれた隙間、護りぬいて見せますっ』

 もう一方の、即席の変則的なエレメントリーダーに選ばれた冥夜の判断も手堅い。

 

 壬姫は確かに射撃は天才的ではあるものの、戦術機機動では隊内では間違いなく低い方だ。その壬姫を動かさずに、機動にはそれなりに自信がある冥夜自身と、慧に並ぶほどの尊人の二人で動くことで、隙を減らしている。

 

『珠瀬さん以外は、コンボで周辺掃討関連のがいくつかあるから、敵が固まってるあたりに銃口指定して、あとはお任せしかないね』

『そうだな。その上であまりに接近してきた物は私が斬る』

『あははー近いのはお二人にお任せしますね』

 そして尊人は、XM3の機能をこの二日程度で理解し始めているようで、使うであろうコンボを提案している。

 この様子であれば、ほどなく207Bの殲滅能力が戦車級の投入数を上回ることは明らかだ。

 

 

 

 

 

 

「さて、デグレチャフ事務次官補殿。国連軍衛士の訓練兵のシミュレータ教練を我々斯衛に見せたとは、何をお考えでありましょう?」

 これ以降は繰り返し訓練だな、と真那はモニタから目を離し、武ではなくターニャへと向き直る。

 

「端的に言えば売り込みだな。帝国陸軍だけでなく、斯衛軍でもこのOS、XM3の導入を検討してもらいたい。できれば君たちの小隊でも実用試験に参加して欲しいくらいだが、どうかね?」

「なるほど。理解いたしました」

 

 真那を伺うと、やはりそうかと納得している様子だ。

 いくら冥夜のための警備部隊だとはいえ、国連軍からわざわざその訓練内容を提示されることなどは異例だ。ならば話の根幹は、OSの提示であることくらいは推測できる。

 

 

 

「御剣訓練兵が戦術機教導に入れば、どうせ貴様らのことだ。武御雷を持ち込むのであろう?」

 

「っ!? ……申し訳ありません。そのような質問にはお答えできかねます」

「答えずとも良いよ。代りと言ってはなんだがね、月詠中尉。もし持ってくるのであれば、シミュレータ用データはもちろん、もう一機都合をつけておきたまえ」

 だが、真那とはいえ、今ターニャからかけられた言葉は予定していなかったようだ。一気に表情を固め、警戒心を元に戻すが、そんな真那の様子などまったく気にもかけず、ターニャは自分の要望だけを積み重ねていく。

 

「……事務次官補殿、それは国連から帝国斯衛軍へのご命令でしょうか?」

 真那からしてみれば、ターニャの発言は国連の名を借りてアメリカが武御雷をそのシミュレータ用データごとよこせ、と言っているに等しい。

 

「なにを勘違いしている月詠中尉? 国連が加盟国の防衛軍に対して、装備を出せなどと命ずるはずが無かろう? あくまでもそちらの意向に沿う形での、提案だよ」

 他組織とはいえ上位の者に向けるには険しすぎる視線を真那はターニャに向けるが、ターニャの方は涼しげなもので、ただ無表情のままに極々当たり前のことを話すように返す。

 

「だいたいだな、武御雷ただ一機持ち込まれたとしても、207訓練小隊でどう扱えというのかね? 武御雷のエレメントにまさか撃震を付けろとでも? 教導とはいえ、第一世代機にエレメントの相方を務めさせるのは、どちらにとっても不幸な話ではないかね?」

 そもそも武御雷が搬入されていない現在、仮定として無茶苦茶なことをターニャは言い出しているが、可能性としてはありうる話だった。第三世代訓練機の吹雪は、207Aの訓練が完了した後に別基地に送られたために、現在この基地には一機も配備されていない。

 吹雪の再配備が行われるかどうかは、現時点では公式には確定していないのだ。

 

 

 

「それにだ。細かな資料はあとで用意させるが、207B訓練分隊には、今後もXM3を搭載した機体で行う予定だ」

 ターニャの説明では、御剣冥夜をモルモットとして使っている、と言っているに等しい。

 冥夜以外の207B訓練分隊のことも考えれば、即座に危険な物だとは断言はできないだろうが、新型の装備それも機体制御の根幹となるOSだ。本来であれば十全な開発環境下で取り扱われるべきものである。けっして未熟な訓練兵などに提供されるはずがない。

 

「……つまり今後の実機訓練にも、その新型OSが使用される、と?」

「その通りだ。理解が早くて助かるよ、月詠中尉。それを見たうえで、先の提案をどう捉えるか、という話だ」

 

 新兵どころか訓練兵を用いての開発などという有りえないことが国連の名の下に行われている。それを隠そうとしないことが、逆に真那を冷静にさせた。

 つまるところ、新OSの評価を今この場で下せ、と真那に言っているに等しい。斯衛にとってXM3が有益かどうかを判断し、必要であれば開発機材として武御雷を提供しろ、ということだ。

 

「しかし新型OS、XM3……ですか。あらためて資料を拝見した上で、一度帝都の方に打診してみます」

「そうしてもらえるとこちらとしても助かるよ、月詠中尉」

 

 真那にしても一衛士としての立場だけであれば、XM3の導入には賛成なのであろう。

 ただ冥夜の件を別にしても、新規OSの採用など関わる勢力が多岐に渡りすぎる。帝国と国連その背後のアメリカのみならず、国内でも武家や議会の力関係の変化が想像できてしまうだけに、簡単には返答ができない。

 

 最初とは打って変わって力なさげに形だけの敬礼をターニャに返し、戎を連れて管制室から辞去していった。

 

 

 

 

 

 

「良かったんですかあんなに煽って。それに武御雷を持って来いとかシミュレータ用のデータ出せとか、無茶過ぎませんか?」

 A-01に不知火が配備されるときにも、国連軍を通して諸外国への情報流出が懸念されたという。ましてや帝国最強の武御雷である。整備であっても専属の者たち以外には近寄らせない実機であればまだしも、コピーの容易いシミュレータ用データの提出など、城内省が認めるとは考えにくい。

 

「シミュレータ用データは無理でしょうな、局長。合衆国にラプターのデータを要求するようなものです」

 ウォーケンからも同意される程度には、無茶な話だ。たとえ同盟国であろうと国連であろうと、国防の為には出せない物は出せない。

 

「BETAの九州侵攻までに、最低でも斯衛にはXM3が広まっていなければ、困るのは貴様たち帝国の方ではないかね?」

「それは、確かにそうなんですけど」

「それとも何か? ハイヴ侵攻部隊用に武御雷を用意しなくても良い方法でもあるのか? あるのならばそちらの方がよさそうなのだが」

 だがターニャとしては、必要であれば提出しておけと言っただけだ。もともと少数配備しかされていない武御雷に対しては戦力としては懐疑的なのだ。ただ現状の戦術機の中では、ハイヴ侵攻に最も適しているだろうという判断の下に、武御雷へのXM3搭載を予定しているだけだ。

 

「正直なところ、時間的な余裕があるのならば噂の不知火新型に期待したいのですが……現状では帝国の保有する武御雷をすべて投入するようなつもりでいて貰いたいですね」

 

 鉄原ハイヴの間引きが成功したとは言えない現状、攻勢に出るにも防衛に徹するにも時間が無いのは武にしてもよく判っている。下手をすれば年内には九州への攻撃がありうるのだ。それに対応するためにも、少なくとも斯衛にはXM3の早期導入が望ましい。

 そのうえで、喀什攻略の為には武御雷の数が欲しい。

 

「まあ、もう一機武御雷が届かなければ、壱型丙でも用意してもらってそれで御剣とはエレメントを組みますよ。一応はあれが武御雷の原型でもありますし」

「いや、壱型丙も国連には提供されにくいのではないかね?」

「それなら、もう諦めて撃震でどうにかします。斯衛でも瑞鶴に随伴されることはあり得るでしょうし」

 自分から言い出したこととはいえ、不知火・壱型丙も帝国陸軍にとっては最新鋭の戦術機だ。不知火自体、A-01に提供した以上に追加で持ち込めるとは考えにくい。来てくれれば助かるが、そこで無理を通して第四の立場を悪くするほどでもない。

 

 

 

「ああしかし……これは今日の教練も無事終了、ですかね」

 すでにシミュレータの方では戦車級に齧りつかれている者など一人もいない。周辺掃討用のコンボを的確に選択しながら、戦車級を寄せ付けないように、各自がそれぞれの死角を補い合っている。

 

 武用として搬入される機体への興味が無いわけではないが、207Bの成長を見せられると明日以降の教練をどうするかと、今はそちらの方に意識が行ってしまう。

 

 

 

 

 

 




原作だとコールサインの20706はご存知タケルちゃんなのですが、この世界線では順番通り?純夏さんになっています。タケルちゃんは一応20707です。が出てくるかどうか微妙のところ。

でで、そろそろコミケ前のドタバタ期間なので投稿が遅れるかもしれませんが、なんとか週二回は死守できたらいいなぁ……くらいで続けてみます。

あとなんとなく予約投稿時間を朝方に変えてみます。

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