Muv-Luv LL -二つの錆びた白銀-   作:ほんだ

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廉直の静謐

 分隊長命令という千鶴の遠まわしの気遣いとともに、ハンガーに武と冥夜の二人を残し、他の207Bの皆は部屋へと戻っていった。

 

 一見、冥夜の問題から眼を逸らしたかのようにも思える千鶴の態度だが、解決できるのが武しかいないと判断した上でのことだろう。

 

「なにやら俺に問題解決が押し付けられた、といったところか?」

「ふふふ……皆には気を使われてしまった、な」

「今のは気遣いというか、アレだな。以前の失敗を繰り返したくないんだろ。ま、それが判ってるなら、後で一言伝えておけよ?」

 

 それぞれの立場を壁にして、隊内の個々人の問題に眼を背けあった結果が、一回目の総戦技演習の失敗だ。

 

 冥夜自身から問題を口にしない以上、千鶴だけでなく他の皆も何に悩んでいるのかは知りようがないが、部隊員の問題から距離を取ることは止めたようだ。ただ闇雲に問い質してくるのではなく、説明できるようになるまでの余裕を作ってくれたとも、見れる。

 

 

 

「このままここで話を続けるってのもアレだな」

 斯衛から派遣されている整備の者たちが今からする話を漏れ聞いたとしても、不用意に広めるようなことはないとは思うものの、要らぬ心配事を増やすこともない。

 

 今の時間の護衛は真那一人だと確認し、目線で軽く挨拶だけはしておく。

 少し風にでも当たるかと、冥夜を連れてハンガーを出る。

 

「とは言うものの、PXでする話でも無しとなると、あそこか」

「私は聞かれて困る話をするつもりはないぞ」

「俺が聞かれると困る話をしそうだからな。月詠中尉には少しばかり迷惑を掛けることになるが、これも任務のうちと飲み込んでもらうさ」

 

 冥夜が何に悩んでいるのか、千鶴たちとは異なり、武にはそれなりに推測できる。そしてそれに合わせて今から武が話そうとすることは、周囲に聞かせてよい内容ではない。

 

 

 

「まあ、すぐそこだ。ちょっと付き合ってくれ」

 そう言って武は先に歩き出す。二人ともに口数も少なく、どうしても足早になる。おかげで思っていたよりも早く着いた場所は、校舎裏の丘だ。

 

「ほう、このような場所があったのか」

「別に敷地外ってわけでもないんだがな。少しばかり離れてることもあって、物好きでもなけりゃわざわざ来ねぇよ」

 

 そういえば誰にここを教えてもらったのか、今となっては思い出すこともない。

 

 EX世界線では何かと学校の伝説的な噂話には事欠かなかった場所ではあるが、こちらではそういう話は聞いていない。探せばいくらでも出てくるようなありふれた噂話もあるのだろうが、武にせよ冥夜にせよ他の訓練兵とはまったくと言っていいほどに接触がないために、そういった話には疎い。

 

 

 

「なんだかんだで街は明るいな。石油発電ってまだ大丈夫なのか」

 この世界線で目覚めた日にも夕呼と霞、そして冥夜を伴って夜の柊町を正門前から眺めたが、その日と同じく街には人々の生活の明かりが灯されていた。武の知るBETAに蹂躙され、そしてG弾によって破壊されつくした街並みとは異なり、かつてのEX世界線で過ごしていたかのような夜景が見渡せる。

 

「ん? 80年代の石油危機の話か?」

「ああ。今原油ってどうなってたかな、と。ふと思い出してな」

 

 UL世界線などでは、中近東の産油地帯が完全にBETA支配地域下であり、原油生産量は非常に限定されたものだった。石油系の内燃機関の使用制限なども含め、電力供給さえ覚束ないという話を聞いたような記憶もある。

 

「アンバールハイヴが作られアラビア中東が陥落したときには原油不足が予測されて、一時期は電力供給にも不安が出たというな。そのため灯火管制までしかれそうになったと聞くが、私たちが物心付く前の話だろう」

 何を当たり前のことを、と怪訝そうに冥夜が見つめてくる。

 

「ああ……そういえばアメリカのほうが何か、新しい石油を見つけたか何かだったな」

「シェールオイルだな。新しいというわけではないぞ。ただ、かつては採掘困難だとされていたらしいが、昨今では普通に生成されているらしい」

 アメリカが生産する石油があってようやく人類は戦い続けられている、と冥夜が続ける。

 

(そういえば、本来って言い方もアレだが、事務次官補に言わせれば21世紀に入らないとできなかった技術だって話だったな)

 

 変更可能な事例と不可能なものとの話で、ターニャが介入して成功したものの一つだったはずだ。少なくともガソリン自動車の所有などが制限されない程度には、石油の生産量には問題が無いらしい。

 

「まったくアメリカ様々だな」

「依存のしすぎには気をつけねばならぬが、今のBETAとの戦いにかの国が無ければ、人類は一年と持つまい」

「頼りすぎるわけにはいかないが、頼らなければ生活さえ危うい、か」

 

 武にしてもアメリカが正義だなどとは決して思わないが、アメリカの意向を無視して戦えるはずが無いという程度のことは理解している。

 

 

 

「しかし生活といえば、そなた休日にも実家には戻らぬのか?」

「戻っても誰も居ないからな。親父たちは東南アジアのほうらしいし」

 

 そういえば、この世界線の両親のことも調べておかなければ、といつも先送りにしていたことを思い出す。記憶障害という言い訳があるとはいえ、これほどまでに無関心では逆に訝しがられそうだ。

 

「俺の記憶、そうだな記憶障害みたいなものについては、落ち着いたら話す。ってこれ前にも言ったな」

「感情のすり合わせ、だったか? そうだな。なにやら私と鑑には話さねばならぬことがある、そういう風には見て取れたな」

「見過ごされてた、か。鑑のほうも、どうせ感づいてるんだろうな」

「彼の者は、人の心の機微に聡いからな。それでも直接そなたに問いたださぬのは、あの者なりの気遣いなのであろう」

 

 純夏に対して何か隔意でもあるのかと、口には出さないが、冥夜のその目線が雄弁に問いかけてくる。

 ただいまだに武には、それに応えられるだけの区切りができていない。

 

 

 

 

 

 

「俺自身の話はまた今度にしておくか。で、そっちがうだうだと思い悩んでいるのは、午後のシミュレータ訓練……じゃねぇな。篁中尉の態度か」

「ふふ……あの場に居たそなたには誤魔化しようがないな。そのとおりだ」

 

 時間があればもう少し状況を整えながらに、穏やかに切り出すことができたかもしれないが、その時間があまりにも足りない。

 

 大きく見れば、武の持つ喀什の情報が有効に活用できるまでの期限。それに伴う第五を牽制可能な時間的上限。帝国周辺に限っても、年内にはBETAの九州侵攻が予想されている。

 

 身近なところでは、明日の会談如何によっては、武が想定しているように冥夜たち207Bは11月末を待たずに任官される。そして任官してしまえば、御剣冥夜は、自由意志など無いかのように、否応無く各組織の力関係で動かされることになる。

 

 本人の意思を問うのは、もう今この時しかなかった。

 

「私自身は御剣の者だと確信しているのだが、なかなかに周囲の認識は厳しいな。篁の次期当主とされる方にもあのように振舞われてしまわれるとは」

 気に病んでも仕方がないのだが、と口ではそう言うものの冥夜の顔色は優れない。

 

 それを気遣うことは今の武には許されることではなかった。

 誰よりも武自身が、冥夜を追い詰めようとしているのだ。

 

 

 

「なあ、御剣。お前が国連軍衛士として任官したとして、前線に出て戦えるか?」

「無論だ。そなた、何を当然のことを問うのだ? 我らは力なき民草を護る為に、この非常時これほどまでに金銭や労力を投入してまで鍛え上げられておるのだぞ」

 

 何を当たり前のことを聞くのだとばかりに、冥夜は少し呆れたように答える。

 その言葉のとおり、衛士の育成には金が掛かる。そして冥夜たちに限らず第207衛士訓練部隊は第四計画直轄のA-01への配属が確定していたために、通常よりもさらに多数のコストを掛けられている。

 特別扱いされていることを自覚している冥夜にすれば、与えられた以上のものを返そうとするのは当然のことだった。

 

「そうだな。その上でもうひとつ条件を足すぞ、いいか?」

「そなたにしては迂遠だな。何かあるのか?」

 

「このままあの紫の武御雷を駆って、常に前線で戦い続ける意思はあるか? 御剣冥夜にそこまでの覚悟ができているのか?」

「っ!?」

 

 問われた意味を悟り、冥夜は文字通り絶句する。

 

「い、いや、待て。あの武御雷は新型OSのデータ取りのために、あくまで一時的に、私に貸与されているのに過ぎないのでは……」

「月詠中尉にから聞かされてないのか? あれは御剣冥夜のために、かのお方が手ずからご用意されたもの、だ」

「そ、れは、月詠の言葉の綾、ではない……のだろうな。そなたまでがそう言うのであれば」

 

 

 

 冥夜は一つ大きく息をつき、どこか遠く、おそらくは帝都のほうへと視線を送る。

 

「正直に答えよう。今までそこまでのことを自覚しておらなんだ。月詠たちのみならず、そなたにも甘えておったな、許すが良い」

「許しを請うなら俺じゃなくて月詠中尉に対して、だな。俺は俺の目的もあって、御剣の武御雷を国連軍への持込む際に、便乗した形だからだな」

 

 黒の武御雷を用意しろと言い出したのはターニャだが、それを好機と思ったのは間違いなく武自身だ。

 

「しかし、国連軍で武御雷を運用できるのか? そもそも不可能だと思い、我らが任官の暁には殿下、いや斯衛にお返しするものだとばかりと、疑問にも思わなかったのだが」

「お前の意思がしっかりと固まっているのであれば、あの武御雷に乗り続けることにはなる、と考えてる。配属的にはかなりギリギリのところではあるが、国連軍のままになる、とは思う」

 まだ未定どころか妄想に近いが、と前置きした上で武は続ける。

 

「個人的感情だけで言わせて貰えば、正直なところは衛士として戦えるのであれば所属には拘らぬ」

 冥夜にしてみれば、戦うことで国や民になにかを返すことができるのであれば、階級や地位、そして搭乗機などを選り好むつもりなどない。

 

 

 

「だが篁中尉のご様子などから考慮すれば、私が斯衛に直接所属することがなくとも、それもかの武御雷を駆ることになれば、要らぬ騒動を巻き起こすだけではないのか?」

「いやはや御剣訓練兵は、ご自身の問題が実感できているようで何よりだ」

 

 少しばかりわざとらし過ぎたかとは思いながらも、ターニャをどこか真似るように、武はあえて軽い話のように笑ってみせる。

 が、すぐさまに表情を引き締め、本題に入る。

 

「まあ、お前があの武御雷を駆るという意味は、俺がとやかく言う以上に御剣には判ってると思う。その上で、お前には任官した後も在日国連軍衛士として、あの武御雷には乗り続けてもらいたい」

「ふむ……そなたの意図が掴みきれぬ話だな。私に立場を偽れ、という単純な話ではないようだが」

 

 

 

 

 

 

「簡単に言ってしまえば、お前の名前どおりの道を押し付けるってことだ」

 先ほどの冥夜以上に大きく息をつき、武は本題を切り出す。

 

 そう口に出したことで浮かんでしまったのは、いつかどこかの武の記憶だ。

 「煌武院悠陽」の傍に立つ、斯衛の黒を纏った己の姿を、思い出してしまった。それを打ち消すためにも、武はさらに言葉を紡ぐ。

 

「御剣冥夜には完全に影になってもらう」

「それはそなた、いや国連軍あるいは香月副司令からの命か?」

「命令なら従うって顔じゃないぞ、御剣。それに俺も夕呼先生も、そんな命令が出せる立場じゃない」

 

「命令ではないとはいえ、任官後にかの武御雷以外の機体を用意しない、となれば同じではないか」

 武の言葉の穴をすぐさまに指摘してくる。

 第四計画に関係しない範囲であっても、夕呼の副司令という立場があれば、よほどの無理でも通すことは可能だ。

 

「そうだな。それは否定しない。だから、だ。お前自身の覚悟を問うてる」

「かの方の影となるのに否は無い。だが、なぜそれが私がかの武御雷を駆ることに繋がるのだ」

 

 冥夜自身、悠陽の影武者になることには躊躇いはない。

 心底不思議そうに聞いてくるのは、それが武御雷に乗ることとどう関係するのかが、見当が付かないからだ。

 

 

 

「影、という言い方が判りにくいか」

 どういえば伝わりやすいのかと考え込んだものの、結局ターニャや夕呼にしたような時代劇の例えを出して、冥夜に説明する。

 

「……なるほど。私が御剣冥夜だとどれほどに名乗っても、周りはそうは捉えない、ということか」

「篁中尉がいい例だな。かのお方のお姿を知っている者ほど、お前を御剣冥夜だとは受け入れられなくなる。紫の武御雷を駆っていれば余計にそうなる」

 

 直接前線に立つことが難しい悠陽の代わりに、常に先陣を切り、兵を鼓舞し続けることを期待している、と武は言う。

 そして、すべての功績は実行した冥夜ではなく、ただ隠れていた悠陽のものとなるのだ、と。

 

 

 

「しかしそれは私が、あのお方の名を騙る、ということか?」

 悠陽の名を汚すつもりかといわんばかりに、殺気を篭めて睨みつけてくる。

 

(まったく。自分の名が一切表に出ないことになるってところには、一欠けらの躊躇いもないんだよなぁ)

 

「いや、お前はそのまま国連軍所属の御剣冥夜、のままだ。兵には勝手に誤解してもらう」

「共に戦う皆を謀る、というのかそなたは」

 どちらにせよ誰かを騙すのではないかと、和らいだとはいえ非難を含む視線で武を見やる。

 

「騙すといえば騙すんだがなぁ……まあ皆が幸せになれる嘘、とでも言うべきか」

 さてどう説明すべきか、と頭を捻る。

 

(いや、ある意味で明日の予行演習といえなくもない、か。御剣一人を説得できずに、第四への協力を斯衛から取り付けられるはずもないな)

 

 誰かを騙す、というところで冥夜には拒否感があるようだが、武の話を頭ごなしに否定してきているわけではない。必要なこととまでは言い切れないが、全体としては納得できる理由を探しているようにも見える。

 

 

 

 

 

 

「まずは、だ。帝国が前線国家になるまでに、もうそれほどの余裕はない。そこは理解してるよな?」

「そう……だな。半島からの撤退が進む今、そう遠くない未来には九州が戦地となろう」

「そう遠くない未来……か」

 

 冥夜は武ほどには正確な情報を得ていないはずだが、市井のニュースなどからでも予測程度は立てられる。ただ、明確な日時を口に出せるほどではなさそうだ。

 

「下手をすると年内、遅くとも来年の春までには、九州への大規模侵攻がある」

「っ!? それほどまでに早い、と副司令はお考えなのか」

「違う。夕呼先生が想定してるとか予測してるとか、そういう話じゃない。ほぼ確定された未来だ」

 

 冥夜に緊張感がない、ということではない。

 もはや帝国が前線だという意識が、軍の中でさえいまだに形作られていないのだ。

 

「で、だな。お前一人が悪いってんじゃない、おそらくはこの国の大多数が、まだ帝国には時間の余裕があると考えてると、俺は思う。そんな余裕、どこにもないんだがな」

 

 直接的な戦闘経験を積み上げている大陸派遣軍や海軍であればまだしも、帝国を守護する主力となるはずの本土軍の動きが鈍い。

 

 

 

「そんな状況で、だ。陸上戦力だけでさえ、陸軍の大陸派遣軍に本土軍と、帝国軍参謀本部直轄の本土防衛軍、そこに斯衛とさらには在日アメリカ軍に俺たち国連軍ざっと陸軍だけでもこれだけの寄り合い所帯だ。陸海の連携どころじゃない。今のままじゃあ参謀本部が纏め上げる間もなく、九州を落とされる可能性さえある」

 

 本来であれば、陸・海・宙の三軍を統括する帝国軍参謀本部には、他三軍の参謀本部の統括する権限がある。だが武の知る世界線の状況とは異なり、大陸派遣軍が戦力を維持している現状、逆に帝国軍参謀本部に権限が収束しきれていないようなのだ。

 

「そこまで腑抜け、あ、いや……」

「言いたいことは判る。が、極東戦線が他の地域と比べて、順当に防衛できていた弊害、とは言いたくないが、どうしてもまだ事態を甘く見ているようには思える」

「耳が痛いな」

 

 普通の兵であれば間違いなく雲の上の話と聞き流すところであろうが、冥夜にしてみれば理解していて当然の領域なのだろう。自身の不甲斐なさと合わせて、自戒としている。

 

 冥夜がそういった上の立場から事態を見渡せていることを確認したうえで、武は話を続ける。

 

 

 

「今のままで九州の防衛なんてことになれば、間違いなく末端の兵士だけじゃない、誰もが浮き足立ち、十全な態勢で迎え撃つことは難しい」

 

 以前の世界線で、たとえ台風の影響で初動に問題があったとはいえ、一週間で九州から中国、四国地方まで侵攻を許したのは、帝国の皆が虚を突かれたとしか言いようがない。

 

「そんなときに、だ。王や貴族といった『上に立つ者』が前線にいるというだけで、とりあえずは纏まる。兵の士気も上がるんだよ、あくまでそれなりにではあるが」

 

 御伽噺だと笑ってもいいが、象徴たる者が前に立つ、人はそれだけで安心できる。

 

 

 

「あとはまあ、ユーロやアフリカの王家なんかから衛士が出てるのに、帝国は出してないって言うちょっとした批判は避けられる」

「いや、私はだなっ」

「はいはい、御剣冥夜は御剣家の次期当主、ただそれだけだと言いたいんだろうが、ちょっと待て」

 自身は将軍家とは何の縁もないと言い出しそうになる冥夜を、簡単に武は押しとどめる。

 

「国内向けというか、武家向きの言い訳はこの場合不要だぞ、御剣。どうせ諸外国のその筋にはお前の血筋なんて隠しようがない」

「それはそうやも知れぬが……」

「そういったやんごとなきお方のところは、似たような因習もあるからわざわざ表立って口を出してくることもない、はずだ」

 

 実際のところ、武には諸国の王室の意図など知りようがない。だがそれほど大きく間違っていることは無いはずだ。

 

 

 

「つまりだ。私が『国連軍衛士』の『御剣冥夜』としてこの武御雷を駆って先陣を切ることで、兵の士気は高められ、且つ日本は諸外国にそれなりの面子を保つことができる、と言いたいのだな」

「そういうことだ。問題は、お前の気持ちひとつ、だな」

「この身が国と民のためになるならば、いかような処遇でも受け入れると、先にも申したぞ」

 

 最悪、御剣家は断絶という可能性があることさえ、冥夜は予測した上で武の企みに加担することを誓う。

 

「しかしそうであれば、かのお方の名を汚さぬように、明日以降の教練は今まで以上に気を引き締めねばならぬな」

「無茶なことはするなよ? 何気にお前は自己管理が下手だからな」

 

 冥夜がゲームガイで徹夜していたことをふと思い出してしまう。悠陽のためとなれば、それこそ寝食を忘れて鍛錬に励みそうだ。

 

 

 

「そのような心配は無用だ。ただ、な。それでも判らぬのは、先の問いでもあるが、これは香月副指令の命なのか?」

 今回の話が夕呼が計画するようなものではないというのは、冥夜にも予測できるようで再び聞いてくる。

 

「夕呼先生の許諾は取ってるけど、言い出したのは俺だ。そもそもが俺の個人的な我侭みたいなもんなんだよ」

「ますます判らぬな。そなたは政治的な意図なく、このようなことを企てたとでも申すのか?」

 先ほどまでの睨みつけるような視線ではなく、武の真意を問うために言葉を重ねてきた。

 

「政治的というよりは、さっきも言ったように軍事レベルでの意図はあるぞ? 兵士の士気は大切だからな。それに政治的にはむしろ下手をすると余計に混乱するというのは考えなくもなかったんだが、そのあたりを含めての、俺個人の我侭だな」

 

 冥夜を悠陽の偽装に使えば、将軍の政治利用だと言い立ててくるであろう者たちがいることは、確実視している。それが今後の混乱の元となることも、だ。

 

 

 

「わかった。この身の使いよう、そなたに任すと申したのだ。私は何一つ知らぬ素振りで一国連軍仕官として、かの武御雷に恥じぬ衛士となろう」

 

 どこか割り切ったかのような清々しい笑みで、あらためて冥夜は誓う。

 

「助かる。いやまったく、お前の心配事を解消するはずが、俺の問題を押し付けてしまって、ホントに悪い」

「なに気にするでない。私の心配事とやらがいかに矮小であったか気付かされた思いだ。むしろそなたに感謝を」

「……その言葉は今しばらく取っておいてくれ」

 

 

 

 感謝を受け入れるのは、悠陽と冥夜とが何にも隔てられずに言葉を交わせるようになった時だと、武は口には出さずに冥夜に誓う。

 

 

 

 

 

 

 




冥夜さん関連の話のようでなぜか半分世界説明な気がしてきました。おかげでヘンに文字数増えてます、個人的比較で。次こそ会談のはず。

あと34話ではトライアルの日時を「明日」と書いてしまいましたが、2001/11/18あたりの週末予定です。修正しています。

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