Muv-Luv LL -二つの錆びた白銀-   作:ほんだ

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奉謝の相克

 光線級吶喊。

 

 夕呼の命令は耳には届いたものの、武は指示された内容の異様さに返答に詰まる。

 武自身への指示だけならすぐさまに了承もできた。XM3が一応なりとも完成し、第三世代機に乗せられている身だ。いつかは命じられるだろうと、予想もしていたのだ。

 

 ただそこに冥夜の名が並ぶとなると、躊躇いよりも先に違和感が感じられる。たとえXM3を搭載した武御雷、それも最高峰の機動性を誇るR型、そしてまだ上陸が開始された直後とは言えど光線級吶喊を敢行しての安全など保障しようもない。

 

(いや、どう考えても無茶過ぎないか、夕呼先生?)

 

 声には出さない程度の分別はあれど、意識は眼前のBETAに集中できなくなっている。繰り返された経験から無駄に空回る思考とは別に、身体だけは迫りくる戦車級に対し36mmを降り注ぐように射撃を続けていた。

 

 

 

『香月副司令ッ!! 光線級吶喊などと言う命を下すとは、何をお考えですかッ!?』

『斯衛の……誰だっけ? ま、いいわ。別にアンタに命令してるわけじゃないわよ。ウチの部隊の突撃前衛二人に言ってるの』

『くッ!!』

 

 ただ武が何かを応えるよりも先に、真那が通信に割り込む。しかしそれは夕呼にしてみれば予想された抵抗でしかない。命令系統という正論をもって封じる。

 冥夜の所属は国連軍の、それも夕呼の直属たるA-01だ。斯衛の独立警護小隊とはいえ、部外者たる真那にしてみれば、夕呼が配下の者に対して命じたことを覆せるはずもなく、押し黙るしかない。

 

『別に二人だけで吶喊しろって話でもないわ。伊隅の部隊に任せるつもりだったんだけどね、ちょっと数が減ってるから手伝ってきなさい。まあ斯衛がどう動くかは、あたしの知ったことじゃないわ』

 

 真那の焦りを誘うのは、夕呼の想定通りなのだろう。後出しで状況を説明しながら、真那が冥夜に付いていくことを許可したような体で、なかば命じてくる。

 

 

 

『フェアリー04、了解いたしました』

「……フェアリー02、了解。現担当地区を離れ、第9中隊への合流へ向かいます」

 

 反論とも抗議とも取れそうな言葉を真那が口にする前に、冥夜が割り込むように了承を伝える。

 それを聞いてようやく武も言葉をひねり出せた。みちるの部隊、第9中隊ヴァルキリーズの数が減っているという夕呼の発言に、隊の誰かが犠牲となったのかとも思い至るが今はそれを追求する時間はない。

 

『……ブラッド01より、フェアリー01へ。我らはフェアリー04に同行いたします』

『フェアリー01、了解。ただし帝国軍への連絡があるため、いましばらくその場にて戦闘を続けられたし』

『ブラッド01、了解……感謝いたします』

 

 大きく息を吸った後に吐き出すように真那は告げる。その敵前逃亡とも取られかねない発言を、まりもは当然のごとく受け入れた。

 真那は戎には確認も取っていないが、冥夜付きの者としてみれば、この場に残されることを受け入れるはずもないことは明白だ。たとえ光線級吶喊と言えども、護るべき主に付き従わないはずもない。

 

『話は纏まった? 細かい指示は合流後に伊隅から受けなさい。光線級の排除後は海に出て、戦術機母艦だったっけ? そっちに乗っていいわ。白銀と御剣はそのまま白陵に帰ってきなさい。じゃあね』

 

 そしてこちらからの返答は聞く気配も見せず、夕呼は言いたい事だけを告げて無線を切った。

 

 

 

『観測機としてはブラッド01に代わり、私自身が前に出る』

 

 いまは武たち武御雷による前衛小隊でBETAの進行を遅らせ、そこにMk-57による支援砲撃を集中させている。孝之たちの中衛小隊と、律子が指揮する帝国陸軍の戦術機部隊とは、それらが撃ち漏らした敵を山道を縦深陣として徐々に数を減らしていくような形で対応していた。

 前衛小隊の4機がこの場を離れるとなれば、その代わりが必要だった。問題は、まりもに残された兵力だけでは、中衛の小隊にまりも自身を加えたとしても、少しばかり不安が残る。

 

『あ~09より01へ。大尉殿に前に出ていただけるのは助かりますが、それでも少々手が足りないかと愚考いたします』

 

 慎二がわざとらしいまでに情けない表情で進言するが、今の中衛小隊は孝之に慎二、そして晴子の3機の吹雪だ。まりもが前に上がってきてくれれば数だけは武たちの前衛小隊と同数となるが、武御雷に比べれば格段に機動性が劣る編成だ。

 火力はともかくも、機動防衛という面では間違いなく

 

『たしかに我ら中隊だけの再編というわけにもいかぬ。それも含め帝国陸軍と改めて協議する』

 

 

 

「とりあえず……俺たち前衛小隊の交代が決まり次第、一度村に戻って装備の変更、だな」

『む? ただちに指定の合流地点に向かうのではないのか? 時間的な余裕は無かろう?』

 

 光線級の上陸を許し、偵察用UAVが落とされた現状、周辺状況の詳細な情報は不明瞭だ。それでも時間が経てば経つほどにBETAの上陸を許し、後方の防衛線に負担が蓄積していくことは明らかである。

 冥夜にしてみれば、今すぐこの場を離れるものと考えていたようだ。

 

「光線級吶喊なら追加装甲が要るさ。さすがに推進剤の補給まではしないけどな」

 

 この須野村までの移動と、今も続く戦闘でそれなりに推進剤は消費しているが、それでもまだ6割近くは残っている。この後の移動と、吶喊のことを考えれば、程よく軽量化できているとも言えた。

 ただ、たとえXM3の機能を十全に利用したとしても、完全に光線照射を回避することなど困難を極める。追加装甲があれば、時間にして数秒ほどだろうが、照射にも抵抗できる。

 

 

 

「あとは……対光線級の機動なんてほとんど教習もしてないから、とりあえず俺の挙動に合わせてくれ。タイミングはなんとか指示するようにする」

『04了解。今までと同じく、そなたに合わせよう』

『ブラッド01より、フェアリー02。こちらも貴様の機動に従おう』

 

 冥夜だけでなく、真那も戎も同意する。斯衛の二人にしても光線級吶喊の経験などあるはずもなく、またXM3を搭載した武御雷による光線照射回避にしてもシミュレータで試した程度なのだ。

 

「ありがとうございます。しかしここに至って機体編成がバラバラだったのが、改めて問題になりましたよ。演習で一度でもやっておけばよかった」

『ははっ、いまさらながらではあるが私の欠点だな、それは』

 

 冥夜は軽く笑って済ませるが、自身の部隊連携に関する技量不足は自覚している。

 XM3教導用の部隊という位置付けもあって、結局第一中隊としてはまともに中隊規模での部隊運用演習をこなせていない。光線級吶喊などの、中隊から大隊規模で行われるべき機動に関しては、冥夜などは訓練兵たる207B時代に簡単な概略をなぞっただけに等しい。

 

 この九州での防衛が始まってからも、各小隊に分かれての分断運用が基本だった。

 前衛小隊として先陣を切って敵BETA集団を挫くといえば聞こえは良いが、結局のところ小隊長の真那か分隊長たる武に追随する形で、眼前の敵を排除してきたに過ぎない。

 

 

 

「あ~しかしこれは……Mk-57を使おうとした連中の気持ちも判るな」

『たしかに。要撃級がこうもあっさりと落ちるとは』

 

 冥夜の緊張を解すためにも、武は眼前の戦闘に意識を戻す。だが、あまりにも余裕のある防衛戦に、逆に気が抜けてしまいそうにもなってしまう。先ほどから戦車級を撃ち続けてはいるが、進攻経路が限定されているため密集はしているものの、対処は容易いのだ。

 

 この村に進攻しつつあるBETA群は連隊規模にまで拡大しつつあるが、真那が観測機として一歩下がった位置にいてさえも、武たち前衛小隊が先ほどから雑談ができるほどに敵前面の圧力が薄い。

 

 現在の状況が想定以上に余裕があるのは、村から砲撃を続けてくれている後衛小隊の火力支援によるところが大きい。特に冥夜の言うとおり、通常ならば戦術機での近接戦では対処しづらい要撃級が、砲撃予定地点に入ると同時にほぼ瞬時に無力化されていく。

 

 要撃級は前腕部に強固な装甲外殻を持ち、突撃級ほどではないが、正面からでは突撃砲の36mmだけでの撃破は難しい。それが間接砲撃として上部からの57mmの砲弾を受けて、即座にただの肉塊へと打ち砕かれる。

 

 

 

『だがこれは兵器としての中隊支援砲が優れているのではなく、フェアリー00の的確な指示によるものなのではないのか?』

『04の言うとおりだ。こちらでは整理もしていないデータを転送しているだけなのに、先ほどから確実に要撃級へと的確に砲撃を集中させている』

 

 冥夜の言葉を裏付けるように、真那が補足する。

 

「え? ブラッド01が攻撃目標を選定しているのではなかったのですか?」

『こちらは本当に周辺の敵勢力を観測しているだけだ。貴様らと比較すれば手が空いているとはいえ、そこまでは無理だな』

 

 武の疑問に、苦笑するように真那は答える。

 その言葉通りに、できる限りは場所を移動しないように、そして視界を広くとれるような位置取りこそ心掛けてはいるが、真那自身も押し寄せる戦車級を排除し続けているのだ。

 

 近接戦闘に慣れた斯衛の衛士といえど、確かにこの状況下で支援砲撃の目標選定などは困難を極めるだろう。

 

 

 

「ウチの少尉の的確な指示と、あとはやはり陸軍の、大上中尉でしたっけ? あの方の場所選定の良さ……ですかね、これは」

 

 武たちが支援砲撃を集中させるために敵を押し留めようとしている地点は、律子に指定された場所だ。村へと続く山間の細い道路だが、指定されたところはさらに道路両側が切り立った崖のような場所だった。

 山の中は木の密度も高く、戦車級と言えどそこを無理に通れば分断され、速度も落ちる。どうしても切り開かれた道路に沿って進行してくるのが大半だ。そしてその道路には要撃級の巨大な残骸が積み重なっていくのだ。

 

 平地であれば80km/hを誇る戦車級であっても、この場ではそんな速度では移動できない。敵BETA集団の密度は高まり、射線を適当に合わせるだけでも数を減らせる。

 

 時折無理やりに山中を突破してきた戦車級などを避けるために跳躍はするものの、それも先にある程度足場を作っていたこともあり、危なげなく距離を取ることができていた。

 

『気を抜くなよ、フェアリー02。光線級吶喊の前に、その武御雷に傷でも付けようものなら、叱責だけで済ますつもりはないぞ?』

「ははっ、以前にお伝えしたように、大切な預かり物です。返り血の汚れはともかくも、傷なくお返しいたしましょう」

 

 

 

 

 

 

『大上中尉。申し訳ないが少々状況が変わった。こちらの前衛小隊4機を別地域に派遣することとなった』

 

 武たち前衛小隊がそんな話をしている間にも、まりもは彼らが抜けることでできる穴を塞ぐために、帝国陸軍との協議を始めていた。武たちに改めて状況を説明する時間を惜しむつもりか、まりもは中隊内回線を開けたままに律子へと声を掛けた。

 

 まりもと律子は現在村の入り口にて機械化歩兵とともに最終防衛ラインとでもいうべき位置にいる。

 道路を通らず、山中を直進してくる個体が存在する可能性はさほど高くはない。が、千鶴たち支援砲撃を続けている機体では自己の防衛もままならず、また歩兵だけではその護衛としても荷が重い。

 

『それに合わせ、私自身も前に出る』

 部隊全体の指揮を執るためにも、また後衛の護衛という意味でも、この場から動くことは得策ではない。それでも中隊指揮官たるまりも自身が前を埋めるという意味を、律子は正確に理解するはずだ。

 

 

 

『……別地域ですか? あ、いえ。申し訳ありません。了解いたしました』

 ただ律子は前衛小隊をいきなりに動かすという話を聞いて、対応が遅れる。さらにその驚きからか、上官それも別組織の者に対して問いただすような言葉を発してしまうが、直ちに詫びた。

 

『こちらの別部隊に合流するために、移動させる必要が出たのだ。いや、秘匿するような話でもないな。糸島市方面に向かう中隊があるのだが、そちらが定数に満ちていないらしい。それの補填だな』

 

 前衛小隊、つまるところ紫の武御雷を下げるという意味だと律子が受け取ったことに、まりもは思い至り、苦笑交じりに説明を加える。

 広告塔とも言える紫の武御雷を、今の安定した状態であれば無理に下げる必要など通常であれば考えにくい。もうしばらく持ちこたえて、敵の進行が鈍ったタイミングを見計らうほうが安全だ。

 

 

 

『糸島市ですか……なるほど。では、こちらからも二個小隊ほど前に出しましょう』

 

 だが糸島市海岸部に光線級が上陸したという情報は帝国陸軍にも伝わっている。

 律子にしても、そちらへ武御雷を向かわせるという意味は、即座に読み取れてしまう。帝国軍人であれば「将軍」の御前で敵に背を向けることなど、自身に許すことなどありはしない、とそう考えてしまった。

 まさかそのままに光線級吶喊を敢行させる予定だなどとは、ごく当たり前の帝国臣民としては思いもよらないのだ。

 

 それゆえに、まりもが律子の配下をも含め、部隊再編を想定することに対し進んで協力しようとする。

 

『話が早くて助かる。こちらの中衛も前には出すが、それでも手が足りん』

『戦術機の再配置で縦深配置による敵勢力削減に漏れは出るでしょうが、そこは歩兵の方々に負担してもらいましょう』

 

 律子は笑って請け負って見せるが、やはりその表情はわずかに苦みがある。いまでさえ支援砲撃を行っている部隊を護衛するためこの場に留まっているとはいえ、本心としては部下とともに前に出たいのだ。

 

 

 

『いや大上中尉。前に出るのは我らに任せていただこう』

『沙霧大尉殿ッ!?』

 

(沙霧大尉って、沙霧尚哉大尉か!? なんであの人がこんなところにいるんだよ?)

 

 まりもと律子、指揮官同士の会話はこの村を離れることになる自分たちには関係が薄いと武は半ば聞き流していたが、知った名前それもこの場にいるとはまったく想像もしていなかった尚哉の声を聴くと、さすがに驚きで一瞬動きが止まりそうになった。

 

(あ~いや、そういえば帝国陸軍側で白陵基地でのXM3の教導にも参加してくれてたんだったっけ? なら九州方面の部隊への教導に出てきていてもおかしくはない、のか?)

 

 武には尚哉が不知火に乗っている姿しか記憶にない。それもあって、まさか撃震しかいない部隊に彼が居たことに混乱してしまう。とはいえ教導任務でこちらに来ていたのならば、撃震に乗っている理由なども含めある程度は推測できなくもない。

 

 なによりも、後を託すという意味では沙霧尚哉以上の衛士など、探し出せるはずもない。まりもだけでなく、彼に任せられるのであれば、この場に残る第一中隊の皆の安全など武が心配する必要がないほどだ。

 

 

 

『後方にて敵勢力削減に務めたほうが良いかと思っていたが、前衛小隊が欠けるとならば話も変わろう』

『沙霧大尉殿には初期の予定通りに、工兵隊の後退支援に就いて貰いたいところですが……』

『大上中尉。我が小隊は直接は彼らと教導任務に就いたことはないが、それでもXM3搭載機の機動戦闘に関しては、短期間ではあるがそれなりに身に付けてきたと自負している』

 

 律子が口を濁すが、尚哉は村への被害を避けるために、自身を含めての戦術機での前進しての漸減策を提案してきたほどだ。それが可能となる戦力が整った今、後方へと下がることを良しとするはずもない。

 さらに砲撃補佐としてまりもたちに並ぶならば、XM1仕様の機体しか知らぬ律子の隊よりかはまだしも連携がしやすいはずだと、尚哉は告げる。

 

『……了解いたしました』

 尚哉を説得して押し留めることを諦め、溜息を付きそうな表情ではあるが律子は納得した。

 

『ならば工兵隊の後送護衛に関しては、こちらから機体を回します』

『我儘を言って申し訳ない、大上中尉』

 

 配置変更の許可を律子から受け、尚哉たちはすぐさま機体を前に進める。

 

 

 

『あ~ちょうど良いや、副長ッ!! さっきの勇み足の罰だ。貴様が工兵隊護衛の指揮を取れ。斯衛の方々と並んで戦えるという栄誉は、貴様らにはやらんぞ?』

『はははっ、これは失敗しましたな。紫の武御雷を護って戦い抜いたと、先に逝った連中に九段で吹聴するつもりでしたが……了解いたしました。工兵の皆様方には傷一つ付けずにお送りいたしましょう』

 

 律子は、もともと下げようと計画していた、損傷の激しい機体を選出し後方に下がるように指示する。副長にしても、数が減るとはいえまりもたち国連軍が残ってくれるのであれば安心できるようで、素直にその命を受けた。

 

 

 

 

 

 

『フェアリー01からブラッド01。聞いていた通りだ。帝国軍の小隊が到着次第、その場から下がれ』

『ブラッド01了解。沙霧大尉の隊と交代の後、装備更新のために村に下がります』

 

 尚哉が率いる撃震の小隊が移動を開始したのを、視界の隅に表示される地図で確認する。観測機としての性格上、真那だけはまりもの到着まで大きくは動けないが、武たち他の3機は徐々に後退の準備に入る。

 

 

 

『06より01。意見具申、よろしいでしょうか?』

『06、どうした?』

『Mk-57を装備した機体を少なくとも1機、前衛小隊に同道させるべきかと愚考いたします』

 

 前衛小隊の動きを確認しながらか、砲撃を続けながらも千鶴がまりもへと中隊内の再編を提言してきた。

 今から武たちが向かう地域は、海からの支援もなく、機甲兵力も撤退を始めているのだ。千鶴の言うとおり、たとえ1機であっても後方からの支援があれば間違いなく吶喊する部隊の負担は下がる。

 

『……いや。貴様らの撃震では遅すぎる。武御雷の脚を殺すだけにしかならん』

 

 まりもはその千鶴の提案を、一瞬は迷いを見せたものの却下した。

 まりもとて支援砲撃も何もない状況で中隊規模での光線級吶喊など、たとえXM3搭載機と言えども非常に困難だとは判っている。だが説明通りに撃震では逆に部隊の機動性を殺すだけになりかねない

 

 撃震の跳躍ユニットはF-4シリーズの最終形ともいえるE型に相当する物が搭載はされているが、それであっても第三世代機の、それも機動性に特化した武御雷に比べると非力である。巡航ならばともかく、短距離とはいえ光線級警報下での進攻では、随伴することも困難だ。

 

 

 

『07より01へ。であれば、自分が行きます』

『柏木ッ!? あ……07、あなた後衛じゃないでしょうッ!?』

 

 自分が行くと言えるからこそ、千鶴にしても光線級吶喊への随伴を申し出たのだろう。それをいまは中衛に組み込まれている晴子が名乗り出てくるとは思いもしていなかったはずだ。

 

『こっちは吹雪だし、ね。戦闘機動じゃなくて移動だけなら、その中隊支援砲を担いでても、武御雷には大きく後れることはないよ』

 

 からからと笑いながら、晴子は言う。千鶴へと説明するようで、まりもへと自分ならできると証明するかのように余裕を装う。

 それになによりも晴子には、この任を千鶴だけでなく元207Bの面々に担わせるつもりはない。

 

『また同じ吹雪とはいえ、05や09の両中尉に今この場を離れられては残る皆が心配です。それにヴァルキリーズは自分にとっては古巣です。今行かねば、後方に残している涼宮にも顔向けできません』

『……わかった。07、予備の支援砲を2門と、弾頭は余裕をもって携帯しろ。あちらでも誰かが使うはずだ』

『ありがとうございます。そして05、独断での発言、申し訳ありませんでした』

 

 まりもからの許可は得たとはいえ、小隊長たる孝之に晴子は詫びる。半年ほどの短い間だったとはいえ、晴子もヴァルキリーズに所属していたのだ。孝之と慎二、そして涼宮遙と速瀬水月との関係はなんとなくとはいえ耳にしていた。

 

 

 

『05より07へ。気にするな。たしかに俺も行きたいが、この場を放棄して行ったらアイツに怒られそうだ』

『ははっ、間違いない。助けに行ったつもりでも、アチラの突撃前衛長に撃ち落されかねん』

 

 おそらく孝之自身が他の誰よりも、駆け付けたいと思っているはずだ。慎二にしても行けるものなら行きたいのだろう。だが結成されて間もない第一中隊の先任として、二人の中尉がこの場を離れられるはずがない。

 

 

 

 

 

 

『フェアリー00より、02、04および07へ。第9中隊との合流ポイントへの移動ルートは指定の通り。なお合流後は、そちらの指揮下に入られたし』

 

 尚哉の小隊に前衛を任せ、武たちが拠点としていた分校校庭に戻ると同時に、指揮系統の切り替えをターニャは簡単に告げてきた。

 当然ながら、CP将校としてのターニャは第一中隊への指示に就いている。加えていまは射撃指揮所としても動いており、本人の能力としてはともかく、それらと並行しながらの光線級吶喊の指示などは無理がある。

 

 これ以降、移動中に関しては真那が指揮を執り、武たち国連軍の三人に関しては合流の後はみちるの指揮下に入ることになった。

 

 

 

 校庭に残された装備の中から、武と冥夜とは左腕の装備を増加装甲に持ち変え、晴子は予備も含めMk-57を2門抱えていく。Mk-57の予備弾倉に関しては、真那と戎とがある程度は運ぶ形だ。

 

『フェアリー00より04、御剣少尉。再出撃までの短い時間だが、なにか帝国陸軍の方々へ伝えておきたいことはあるかね?』

 そんな準備の合間に、ターニャが冥夜へと声を掛ける。

 ターニャにしてみれば「将軍」偽装の強化と帝国軍士気高揚の一環だ。いままでも冥夜からの通信は原則中隊内に限定はしていたが、時折こうした機会は作ってきていた。

 

 

 

『帝国陸軍の皆様方、防衛協力に馳せ参じておきながら最後まで共に戦えぬこと、申し訳なく存じます』

 ターニャに促された形ではあるが、冥夜としては確かに中途なままにこの地を去ることに忸怩たる思いもある。特定の誰かに対してという形ではなく、冥夜はこの場にいる者たちすべてに、任を果たす前に立ち去ることを告げた。

 

『お心遣いありがとうございます。ですが、この地の防衛はもとより我らが任。お手を煩わさせたこと、我らこそが詫びるべきでありしょう』

『詫びることなどございませぬ、大上中尉殿。帝国の地を護るべきは、この国に住まう者すべての任であります。そこには我らも当然含まれております。わずかな時とはいえ、中尉殿とその配下の皆様方と肩を並べて戦えたことは、我が身にとっても光栄なことでありました』

 

 この村での遅滞戦闘を担わされた者、そして隊を預かる者の立場から、律子は代表して冥夜に応える。冥夜にしても、言葉は飾る必要はあれど、共に戦えたことを本心から悦ばしく感じていた。

 

 

 

『過分なお言葉、恐縮いたします。ですがやはり感謝するのは我らかと』

 冥夜の想いは律子にも伝わったようで、短く定型的な返答とともに、感謝を表す。

 まだ戦闘は継続してはいるが、これ以上大規模なBETA軍の追加進行が無ければ、この村での防衛は成功する。気を抜ける余地は無いが、勝ちつつあることは確かだった。

 

『正直、村を焼かねばならぬと諦めとともに割り切っておりましたが、「国連軍」の皆様方のおかげで、何とか守れそうです』

 言葉にすることを躊躇うかのように間が開いたが、分校とその少し先を見つめなおし、律子は続けた。

 

『帝国軍人としてだけでなく……この須野村で生まれ育った者の一人として、心からの感謝を。ほんとうに、ありがとうございます』

 

 指揮官ではなく、ただの村人の一人として、律子は冥夜にあらためて感謝の意を伝える。

 

 

 

『大上中尉殿は、この村の出身だったのですか?』

『はははっ、恥ずかしながら、軍に入って以来一度も戻る機会もなく、疎開の手伝いさえできませんでしたが、この小さな村がかつては自分の全世界でありました』

『ならば、帝国の民が住まう地を護る機会を我らに与えていただけたことに、改めて感謝を』

 

 九州防衛と謳いながら、その実態は海岸部の都市を焼きながらの遅滞防衛だった。冥夜にしてみれば、護りたいと思い続けたものを踏み躙らねばならない現実を直視させられ続けていたといってもいい。

 

 たとえ小さい村だとはいえ、ここでの戦いは帝国臣民の縁となる地を守るという、判りやすい充足感を与えられたのだ。そしてそれが単なる自己欺瞞だと判ってはいても、村民の一人である律子から直接感謝の言葉を伝えられたならば、どうしても満足感を得てしまう。

 

 

 

『ではそろそろこちらも発たねばなりません。皆様方のご武運をお祈りいたしております』

『隊を代表して、ありがたくお受けいたします。そして御身に安らぎをもたらせるよう、我ら帝国臣民一同、尽力いたします』

『……皆様に、重ねての感謝を』

 

 律子の言葉に、深く眼を閉じることで冥夜は答え、武御雷を跳躍させた。

 

 

 

『さーって、野郎どもッ! 「国連軍」の皆様に、無様を晒すんじゃねぇぞッ!!』

 

 飛び立つ武御雷を背後に、律子は配下の兵に檄を飛ばす。

 その姿を見て、この地での防衛は必ず成し遂げられると、武は確信を持つのだった。

 

 

 

 

 

 




光線級吶喊するよ~といいながら、やはり以下次号ッ!?
たぶん次々回くらいで何とか九州終わらしたいなぁ……と夏コミ準備が本格化してきたなぁ、とかドタバタしております。

というなぜかこのタイミング?でPSO2でマブラヴコラボとか、久しぶりに立ち上げるかと本気で考えてしまったり。PCからもPS4からもアンインストールしていたので実現してません……

あとたぶん形にはしないし出来ないのですが、「15万の大軍を率いる転生者VSフサリア3000」は、ネタ元読んで以来、春先からタマに妄想しております。前提条件で予算を使い果たさせる以外で、勝てる道筋が思いつかないので、人任せモードですけど。

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