Muv-Luv LL -二つの錆びた白銀-   作:ほんだ

84 / 121
擬態の脱略

 訓練が始まってすでに36時間以上。

 歩兵訓練ならばさほど珍しくもない時間だが、JIVESをこれほど長時間にわたって利用することは、きわめて稀だ。

 

 このJIVESを用いた長時間演習が、プロミネンス計画が実戦運用試験に拘ることに対するターニャが示した回答の一つだった。

 JIVESの利用にはシミュレータや通常の運用試験に比べ、多大なコストがかかるとはいえ、ユーコンからペトロパブロフスク・カムチャツキー基地まで開発小隊を移動することにからすれば安いものだ。

 

 なによりも状況の設定が可能という点が、実戦運用試験に比べれば意味が大きい。

 カムチャツキー基地では、実戦とはいえどこまでいっても御膳立てされた限定的な戦域でしか試験はできない。JIVESならば地形的な制約こそあれ、状況想定にはほぼ限界が無い。

 

 加えてJIVESであれば、周辺状況のみならず試験機そのものの状態も任意に設定できる。

 あたりまえだが実戦運用試験においては中破状態で試験を続行することなどは通常ならばありえない。しかし、こと実戦においてはそのような状況下であっても戦闘を継続しなければならない局面は多い。

 JIVESなら機体パラメータ側で各部の損傷状態なども設定可能であり、機体異常を前提とした訓練のみならず、損傷個所による影響拡大などもシミュレートできる。

 

 また実戦であれば衛士や整備兵の状態も十全であることなど、このBETA対戦においては極めて稀だ。人的にも機材的にも過度のストレス状況下で、どれほどまでに運用できるかを試験することもJIVESは可能だった。

 

 

 

 ただターニャの狙いはそれだけではなかった。

 演習開始前のブリーフィングの際、一石二鳥どころか四鳥くらいは狙いたいな、とターニャが嗤っていたのが思い出される。

 

 まず単純に、武たち、とくに冥夜と純夏に対する長時間演習だ。即席というのも烏滸がましいほどに、元207Bの衛士訓練期間は短い。本人たちの素質のおかげで形にはなっているものの、付け焼刃と言っても良い。

 

 なによりも長時間にわたる戦闘経験は、訓練兵時代を含めても皆無だった。先の九州防衛戦に際しても、戦域の移動も多く搭乗時間は長くとも、個々の戦闘時間は極めて短かった。

 歩兵としてであれば戦技評価演習などもあったが、衛士としての連続戦闘経験はない。

 

 

 

 さらに弐型とACTVへのXM3最適化も、目的の一つだ。

 アルゴス小隊の衛士四人がまずはXM3の習熟に専念することとなったため、弐型とACTVとはXM3へと換装されたものの試験運用は中断された。もちろんユウヤたちのXM3慣熟が完了次第再開されるが、二週間ほどの遅延は発生する。

 

 それを待てる余裕は日本帝国陸軍はともかくも、第四計画にはない。

 加えて、早期の採用実績を必要とするボーニングの意向もあり、XM3最適化に関してのみアルゴスだけでなくフェアリー小隊でも試験運用が認められた。

 

 もともとXFJ計画の開発衛士から日本人が排除されたのは、経済的・政治的要因でしかない。国連軍とはいえ採用予定国家たる帝国の衛士が試験することは、ボーニングが強く反対でもしなければ、とくに問題にもならず許諾された。

 

 

 

 そして最期の目的がXM3の提示という、武たちフェアリー小隊本来の任務に関わるものだ。

 

 まりもがこのユーコンに来てから連日他開発小隊へと折衝に出ていたため、アルゴス小隊と行ったようにそれぞれ個別に日程を調整したうえで演習をこなし、合わせてXM3の概念説明をするものだと武は思い込んでいた。

 ただ10に近い開発小隊を相手に個別での教導及び演習を行うにはどうしても時間が足りないという問題が、武であっても思いついてしまう。

 

 その問題に対しターニャが提示した解法は、もっと大規模でありながら大雑把だった。

 

 フェアリー小隊がJIVESを使用し、ひたすらに実戦に近しい状況設定で演習を続けているので参加したいのならば参加しろ。XM3の概念に関しては最低限の簡単な教本を用意したので、勝手に理解しろと言い放っていた。

 もちろん言葉はそれになりに飾ってはいたものの、尊大かつ傲慢としか言いようのない提示だ。

 

 

 

(神宮司大尉殿が、あれだけ疲れ果てるのも仕方ねぇよな)

 

 先日、いくつかの開発小隊との最終折衝にターニャと共に赴いたまりもが、部下である自分たちに対し疲れ果てた表情を隠しきれなかったのも、ターニャの言動を知れば当然だと納得できた。

 

 ウォーケンがちらりと漏らしてたところから聞くに、先のハイネマンに対する対応に近い程度には、他の開発小隊でも煽りまくっていたらしい。

 彼らが積み重ねてきた開発実績を無駄と浪費だと貶しあげられたうえに、新概念に基づく改良型OSなどという胡乱な物で目標が達成できると豪語された相手側開発小隊の面々の心情は、想像もしたくない。

 

 そのような対応でXM3採用国が増えるとは、武には考えにくかった。が、ターニャ曰く、XM3を提示することは目的の一つではあるが、それは売り急ぐことと同義ではない、らしい。

 

 

 

(実際のところ喀什攻略に限定すれば、合衆国陸軍が採用してくれなきゃなんの意味もねぇ……か)

 

 一衛士と言わず一人の人類としても、早期のXM3普及で衛士の生存率が上がることは悦ばしい。

 

 だが第四計画に従事する者として考えれば、なによりも優先すべきは喀什攻略だ。そこに参加する部隊がXM3を採用してくれなければ意味は薄く、なによりも現状のままでは突入戦力に疑問が残る。

 

 帝国の方では、陸軍だけでなく斯衛も在日国連軍でも、作戦参加予定部隊のXM3への転換訓練がすでに始められているはずだ。

 問題は、いまだ戦力の提供さえ確約されてはいない合衆国陸軍の方だった。

 

 直接戦力として参加するのは数的な主力は帝国各軍の連合となるが、武だけでなくターニャでさえも合衆国陸軍から一個師団を想定していた。

 それが現状で合衆国陸軍から提示された提供戦力は、一個連隊規模だ。これではあまりに少なすぎる。第四の喀什攻略失敗に備え、代替計画たる「フラガラッハ作戦」として戦力はすでに準備されているというので、それらを何としても提供させなければならない。

 

 

 

『……02? 02ッ!? こちらの補給は完了したぞ?』

「あ、……ワリぃ、ちょっと意識跳びかけてた」

『ふふ、そなたでも戦場で呆けることもあるのだな。いや、気を抜くべき頃合いの選択が上手いのか?』

「そこは笑ってくれよ? だいたい俺はいつでもボケてるぞ」

 

 分隊内通信での冥夜の呼びかけで、武は気を取り戻す。眼前の戦場から、完全に意識が離れていた。

 冥夜なぜか感嘆しているようだが、間違いなく武の不注意だ。演習の目的やその背後にあるターニャの思惑など、たしかに重要な要件ではあるが、今この場で考えるべきことではない。

 

「さて。補給は十分とは言えないものの、まあ……我慢するしかねぇな」

 

 今の状況をあえて口にすることで、戦場に意識を戻す。

 

 この長時間演習の意図も重要性も理解はできている。訓練の意味を思い返すことで気力をかき集めてもみる。

 ただそれで疲労が解消されるわけではない。

 

 

 

 中国共産党軍の補給コンテナから取り出した82式突撃砲だが、諦め気味にマッチングしたものの、エラーもなく運用には支障はなさそうだった。

 

 取り回しの向上を意図したストック部分の短縮で、たしかに噂になるようにWS-16Cに比べるならば命中精度の低下はあるだろう。とはいえ武は背部兵装担架からの砲撃が基本だ。確実な命中を期待するならば、至近と言っても過言ではない距離まで近づくことに変わりはない。

 一瞬、二門ともに82式に代えるべきかとも考えたが、思いとどまる。余剰があるとはいえ他小隊ための物資だ。

 

 冥夜の方はマガジンのみの補充だったため、先の言葉通りにすでに準備はできているようだ。

 

「フェアリー02から01へ。02および04の補充完了。コンテナ群前方500の位置へ移動します」

『フェアリー01了解、こちらもすぐに着く。しばらく周辺警戒に専念しろ』

「フェアリー02了解」

 

 報告と同時に、まりもと純夏の陽炎がこちらに近付いてくるのを確認し、冥夜共々位置を交代するように前に出た。

 

 

 

 

 

 

(神宮司隊長はともかく、鑑が陽炎に乗れてるのは、嬉しい誤算ってヤツか)

 

 純夏はF-15系列への十分な機種転換訓練など経てはいない。慣れていないはずだが、危なげなく機体を操っている。

 

 元207Bの面々は冥夜を除けば撃震に搭乗しているが、他の機種に乗れないというわけではない。207Bの訓練時代、ありえないほど無理な予定で、実機においては撃震と吹雪を、シミュレーターでは陽炎と不知火とを並列していたのだ。

 

 とはいえどうしても得手不得手のみならず、好みの機体というものはあったようだ。不知火が性能面では抜きんでているとはいえ、狙撃を主体とする壬姫などはむしろ軽装の吹雪を好んでいたようにも見える。

 そして咄嗟の反応速度に自信がないのか、純夏は古い設計思想ながら装甲のある撃震が気に入っていたようだ。

 

 

 

 陽炎がバックブーストで下がりながら、2km以上先の戦車級集団に的確に牽制射を加えている。その動きは、当然まりもからの指示によるものだろうが、陽炎にというよりはXM3に慣れ親しんできたからできる滑らかさがあった。

 

(鑑も動きが良くなってきたけど、やっぱあのテキストのおかげ、って事だろうな)

 

 先日、VGたちと駄弁っていた時にも話題に出ていたが、武がXM3の提示で問題視していた教導用テキストだった。しかしこれに関しても、すでにターニャが解決していた。

 武たちが教導資料をどう作っていくかと悩んでいた内に、ターニャはすでに作り上げていたのだ。

 

「事務次官補殿がご用意されていた」

 ブリーフィングの際、そう言いながら武たち第一小隊の衛士四人に冊子を差し出したウォーケンの何とも言えない微妙な表情から、副官たる彼にも知らされていなかったようだ。

 このユーコン基地にいるすべての開発小隊にも配布が完了しているという。

 

 テキスト量もさほどなく、ページは薄いと言ってもよいくらいだ。判りやすさを重視したのだろう、イラストが多かった。読み流すだけであれば10分もあれば読める程度だ。

 

 

 

(アレってよくよく考えたら、ゲーム攻略本とかの最初にある操作説明みたいなもんだったよな)

 

 ターニャが提示したのは、パッケージに付いてくる取扱説明書だけでは理解しにくい細かな操作を、イラストやスクリーンショットを多用して説明しているようなものだった。

 

 渡されたテキストを見て武が感じたのは、自分が自覚できないほどにこの世界に慣れてしまっていたという寂寥にも思いだった。戦術機の新OSということで、必要とされるテキストがこの世界における既存の物と同じように考えてしまっていた。

 なぜ自分で思いつけなかったのかと、ブリーフィングの最中だというのに、頭を抱えてしゃがみ込んでしまいかけたくらいだ。

 

 もちろん書かれている内容のほとんどは、武からすれば当然と言っても良い話だ。目新しい要素は少なかった。冥夜や純夏も、今まで行っていた機動を、あらためて絵として説明されたといった感じだった。

 ただそれだけであっても、理解は深まる。言葉にされ図解されたことで今までの行動を俯瞰する事ができた。そこで初めて判ることもある。

 

 

 

 テキスト内容としては、前提として戦術機は航空機とは違うと断りながらも、1962年に提唱されたエネルギー機動性理論を基本としていた。

 元々のそれは戦闘機の機動性に関する理論であり、空戦理論だ。航空機の機動は当然ながらエネルギー保存則に縛られる。そして位置エネルギーと運動エネルギーとは相互に転換できる、というのがその理論の骨子だった。

 

 そしてXM3環境下における戦術機の戦闘機動概念は、これまでの陸戦兵器としての二次元的運用ではなく、航空機以上に自由度の高い三次元機動が根幹となると定めていた。

 

 移動中の機体を止めることなく動き続けることでむしろエネルギーの損失を控え、回避行動と攻撃のための位置取りとを両立させる。たとえ光線級警戒下であったとしても、高度があるということは機動回避のための運動エネルギーを保有していることであり、それはまた回避のみならず攻撃に最適な位置取りを選べる自由でもある。

 

 

 

(事務次官補殿からすれば、時間はあったんだろうからな)

 

 元々からXM3に限らずとも、空間機動戦闘の概念はターニャの頭の中にはあったはずだ。「原作知識」などと限定する必要さえない。武同様にゲームやアニメなどの動き、それらの中から、対BETA戦に応用できると思えるものを選んでいけば良いのだ。

 

 それに加え、ターニャには時間もあった。なにもXM3がこの世界線で開発されるのを持っている必要もない。テキストだけならば事前に書き上げておくこともできる。あるいは武とは違うであろう先の世界線において、すでに一度は作り上げていたという事も考えられる。

 

 

 

 

 

 

 周辺を掃討した後に下がっていたとはいえ、BETAの数は無尽蔵だ。すでにフェアリー小隊が抜けた箇所からは戦車級を主体とした群れの浸透が始まっている。それでもすぐに接敵するほどの距離ではない。加えて撃ち漏らしで少数が浸透してきている可能性もあるため、まりもたちの補給完了までは突出もできない。

 

(Mk57とは言わねぇが、さっきのところで支援突撃砲の一本でも持ってくればよかったか。いや俺が使っても当てられない上に、周辺警戒を疎かにするだけか)

 

 緊張を切らすわけにはいかず、近辺の警戒はしなければならないが、どうしても目に入る遠方の敵影が気にかかる。

 

 確かにこういう場面ではMk57などでの支援砲撃ができるならば、戦術機だけでも取れる戦術も広がる。広大な大地での防衛撤退戦を主軸とするユーロで"オール・TSF・ドクトリン"が生まれ、中隊支援砲が採用されたのもよく判る。

 

 とはいえ今は無いもの強請りでしかなく、また武自身の技量では使いこなせないだろうことも確かだった。

 

 

 

『って何コレ、どこの砲よッ!? こんなの使える訳ないじゃないッ!!』

 

 補給完了後にどう動くかと思い悩みながらも周辺の警戒に徹していた武の耳元に、オープン回線で暴風小隊の隊長らしき声が響き渡る。

 

『どうやら暴風小隊の方がこちらのコンテナを発見してくれたようですな』

 

 ニイラムではなく、ターニャが告げる。淡々としているはずの声に、嗤いが含まれていると感じてしまうのは、武の邪推だけではないはずだ。

 

 当然と言えば当然なのだろう。こちらに暴風小隊の補給コンテナがあるならば、どこか他のポイントに日本帝国仕様のコンテナが投下されているはずだ。どうやら今回は、帝国と中国共産党の設置場所が入れ違っていたようである。

 

(120㎜滑腔砲を105mmに替えるってのは、帝国全軍だけじゃなくて、参加部隊全部一気にやっちまうくらいじゃないと絶対混乱するな、これは)

 

 自分でも自覚していたつもりだが、やはり疲労のために意識が散漫になっている。戦闘中、それも前線に戻るというタイミングでありながら、脳裏に浮かぶのは先のことばかりだ。

 だが補給のミスからくる混乱は準備をして避けられるならば、その準備をするべきだ。

 

 忘れないうちに記録するべきかとどうでもいいような思考に流れるが、そもそもがメモ帳自体、どこのポケットに押し込んだかさえあやふやだった。

 

 

 

「フェアリー02から、01。こちらのコンテナを持って暴風に合流しますか?」

『ふむ……』

 

 自分の目を覚ますためにも、武は一応形だけではあるが進言はしてみる。

 

 フェアリー小隊が抜けた穴は、徐々に押し込まれつつある。本来ならばそちらを埋めるために先の場所に戻るべきではあるが、暴風小隊が補給のためにここまで下がってくるるようならば、今度はそちらの防衛線に穴が開く。

 最低限のコンテナを持って暴風に合流、そちらであらためてフェアリー小隊も補給し、、加えて帝国軍仕様のコンテナを持って元の位置に戻れるならば、一見無駄は少なく思える。

 

 戦術機での補給コンテナの移送となると、分隊でのペアで一個を抱えることになる。中隊規模でならばともかくも、手持ちの戦力が小隊で四機のみの現状では、移動時の防衛も考慮すれば二機が声で二機が搬送となり、一個しか動かせない。

 それでも小隊ごとに補給に下がることのリスクに比べれば、マシだと思える。

 

 

 

 しかし、まりもが即決しないように、問題はある。

 弾薬類の補充はできても、推進剤に関しては解決されるかどうかが怪しい。最低でも小隊各機に行き渡る四基のドロップタンクが無ければ、継続した機動防衛戦闘は難しい。コンテナの搬送などで推進剤を消耗することも合わせて考慮すれば、次の補給まで脚部走行機動に限定しなければならない可能性さえある。

 

 不知火弐型もそうではあるが、ACTV仕様となった陽炎も推進剤を多量に使う。燃費自体は改善されてはいるが、それでも必要とされる総量は原型機より多い。とくにACTV仕様となった陽炎は、推進剤の消費が激しい。

 

 ACTVの特徴ともいえる、第二世代機のF-15を第三世代機に準ずる機動性を与えるために増設されていた背部の追加スラスターではあったが、この長時間演習が始まってすぐにいくつかの問題が露になった。

 

 背部兵装担架の代わりに設置されたその追加スラスターは、当然ながら二基の兵装の搭載が不可能となり、長時間に渡る防衛戦などにおいては制圧能力と継戦能力に欠ける。

 この演習においては初期の段階で問題があると判断され、すでに通常の兵装担架に戻されてはいるが、機体重量の増加などの要因もあり推進剤の消費量に関しては左程の改善はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

『暴風小隊だけでなく、イーダル小隊もその付近に展開を始めております。ちょうど良いタイミングです。その場では最小限の弾薬補給だけで、一度基地に戻られては?』

 

 まりもが判断を下すよりも早く、CPからターニャが告げる。CP将校としての発言ゆえに、ターニャは疑問の体で提案するが、実質的には命令だ。東側のイーダルや暴風には、至近でXM3の演習を見せる機会さえ、与えるつもりは無いようだった。

 

『フェアリー01、了解。これより一時帰投する。推進剤と弾薬類の補給を最優先とし、再度の出撃を予定する』

『ソビエトの御自慢の「機体」です。我らが抜けた穴など、すぐさまに補ってくれましょう』

 

 まりももターニャの思惑は理解しているようだが、それでも遠回しに破損個所の修復は無視してでも急ぎ演習に戻ると告げた。

 が、ターニャは嗤って流す。

 

『フェアリー01から、フェアリー各機へ。聞いての通りだ。帰投する』

 

 

 

 

 

「って、あれがイーダルか」

 

 武たちフェアリー小隊と入れ替わるように前線へと上がる二機の戦術機がレーダーに映り、すぐさまに目視でも確認できた。概略だけは事前に目を通していたが、見るのは初めてだった。Su-37UB、チェルミナートルと呼ばれる機体は、遠目にもかなりの大型機に見える。

 

『む? 小隊と聞いたが、もしやすでに堕ちたのか』

「いや撃墜報告は上がってないから、最初から分隊だけみたいだな。って実際は一機だけか」

『たしか、スカーレット・ツイン、であったか?』

「ああ、だろうな」

 

 冥夜も見ていたようで、分隊内通信で話す。イーダル小隊の戦術機はたったの二機だ。しかも内一機は前線に向かってはいるがかなり後方であり、突撃砲の有効射程にも入ろうとしていない。

 対して、前方を進む一機は、勢いの乗ったままに要撃級を含む中隊規模の群れへと突入した。

 

 そしてスカーレット・ツインと思しき機体が進むに従い、レーダー上からBETAほを示す赤のグリッドが目に見えて減っていく。

 

 

 

(さすがにそりゃルール違反だろう)

 

 口にはしないが、武も呆れるしかない。現場を見ず、上がってくる報告だけを鵜呑みにするならば、なるほどイーダルの開発しているチェルミナートルが近接密集戦闘において優秀な戦術機だと思えるのだろう。

 イーダルが戦術機開発ではなく、衛士開発だとターニャが揶揄していたが、その意味がよく判る配置だ。

 

『ふむ? どこかそなたの動きに似ておらぬか、02?』

「おいおい……俺はあんなに当てられねぇよ。ほとんど外してねえんじゃないか?」

『まったく、言葉がないな』

 

 XM3の機動に慣れた身からすれば、粗削りというよりは推力に任せた無茶な動きに見える部分もあるが、位置取りが上手いのか突撃砲の命中精度も異様だった。どこか未来予知じみた芸当にも思える。射撃を苦手とする冥夜が苦笑じみた言葉を漏らすのも当然だった。

 

 それほどまでにスカーレット・ツインの殲滅速度は速く、そしてまた正確であった。

 

 

 

(未来予知とか幸運選択だったら夕呼先生が放っておくとは思えないから、共感能力を拡張した上での予測能力、ってところなのか?)

 

 チェルミナートル自体の機体能力は確かに高いものの、よく言って2.5世代機だろうと思える。複座仕様だという大型の機体を高推力で無理に振り回しているようにも見える。

 足りない機体能力を補うために、間違いなくESP発現体を無理やりに近い形で運用しているであろうことは武にでも予想できた。霞の様子を思い返すに、搭乗している衛士にはかなりの負担が掛かっているに違いない。

 

「あ~あんな一発芸は、認めるわけにもいかねぇか。補給が終わり次第、即座に戻らなきゃ、だな」

『ふふっ、XM3の優位性を示す、であったか?』

「ま、そんなところだな」

 

 少しばかり冥夜がズレた予想をしてくるが、訂正するほどでもない。また説明するのも難しい。

 

 

 

 長く続く演習は、まだ終われそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 




よーやくイーダル出てきましたが、どうやって落とそうかはまだ未定だったりします。あちらはユウヤに頑張ってもらうのが本筋なので、あまり介入しない感じでは考えていますどーしましょう?状態。

んで暴風はホントにちょい役です。むしろガルム小隊とか名前だけでも出したかった……とはいえ出すとなるとタケルちゃんでも勝てない感じのネタ元の方になるのでちょっと我慢。

Twitterやってます、あまり呟いてませんがよろしければフォローお願いします。
https://twitter.com/HondaTT2

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。