問題児たちと最後の吸血鬼が異世界から来るそうですよ?   作:問題児愛

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今回はライムと耀のラブコメ中の別視点の話になります。

つまり、十六夜・黒ウサギサイドの話です。


十五話 力試しと疑惑

 少し遡り、ライムと耀の見舞いのあと、十六夜と黒ウサギは談話室にて話していた。

 

「春日部は疲労で倒れて寝込んでるみたいだったが、真祖ロリの方は大丈夫なのか?」

 

「はい。耀さんは兎も角、ライムさんは出血が酷かったので、増血を施しました。彼女は人間ではなく吸血鬼ですので、回復にそう時間はかからないかと」

 

「そうだな。何せ昨夜の白夜叉との戦いで大量に血を失ってるはずなのに、春日部の血を吸ったらケロッと復活したしな」

 

「ですね」

 

 十六夜の言葉に頷く黒ウサギ。ゲーム終了後に駆けつけたらライムと耀が血塗れで倒れていたから肝を冷やした。けど、耀は外傷は一切なく、ライムも傷は塞がっており、こんなことを言うのは失礼かもしれないが、血さえ与えれば復活する吸血鬼なのですぐに冷静になることができた。

 それから黒ウサギが二人を全速力でコミュニティの工房に行き、速攻で増血を施して今に至る。恐らくもうライムは復活している頃だろう。耀は疲れがまだ取れてなくて寝ているかもしれないが。

 

「ま、あいつらならもう大丈夫だろ。それで、例のゲームはどうなった?」

 

 二人が本拠の三階にある談話室で話している本題は、仲間が景品に出されるゲームのことだった。

 十六夜が参加してくれると聞いて大歓喜の黒ウサギだったが―――

 

「ゲームが延期?」

 

「はい………申請に行った先で知りました。このまま中止の線もあるそうです」

 

 ―――申請から戻ると一転して泣きそうな顔になり、ウサ耳を萎れさせる黒ウサギ。

 十六夜は肩透かしを食らったようにソファーに寝そべり、

 

「なんてつまらない事をしてくれるんだ。白夜叉に言ってどうにかならないのか?」

 

「どうにもならないでしょう。どうやら巨額の買い手が付いてしまったそうですから」

 

 十六夜の表情が目に見えて不快そうに変わり、盛大に舌打ちした。これは人の売り買いに対する不快感ではなく、一度はゲームの景品として出したものを、金を積まれたからといって取り下げるホストの考えについてである。

 

「チッ。所詮は売買組織ってことかよ。エンターテイナーとしちゃ五流もいいところだ。〝サウザンドアイズ〟は巨大なコミュニティじゃなかったのか?プライドはねえのかよ」

 

「仕方がないですよ。〝サウザンドアイズ〟は群体コミュニティです。白夜叉様のように直轄の幹部が半分、傘下のコミュニティの幹部が半分です。今回の主催は〝サウザンドアイズ〟の傘下コミュニティの幹部、〝ペルセウス〟。双女神の看板に傷が付く事も気にならないほどのお金やギフトを得れば、ゲームの撤回ぐらいやるでしょう」

 

 黒ウサギは十六夜の何倍も悔しい思いをしているけど、箱庭においてギフトゲームは絶対の法則だから冷静にいられた。

 敗者として奪われ、所有されてしまった仲間達を集めるのは容易ではない。しかし仲間を取り戻せるのもギフトゲームしかないと、黒ウサギは承知していた。だから今回は純粋に運がなかったと諦めるしかない。

 

「まあ、次回を期待するか。ところでその仲間ってのはどんな奴なんだ?」

 

「そうですね………一言でいえば、スーパープラチナブロンドの超美人さんです。指を通すと絹糸みたいに肌触りが良くて、湯浴みの時に濡れた髪が星の光でキラキラするのです」

 

「へえ?よく分からんが見応えはありそうだな。超美人ねえ………真祖ロリが〝我の方が超絶美少女だぞ!〟とか言ってタメをはってきそうだな」

 

「それはもう!加えて思慮深く、黒ウサギより先輩でとても可愛がってくれました。………ふふ、確かにライムさんなら張り合ってくるのが目に見えてきます」

 

「ほう?それは是非とも会ってみたいものだな」

 

「「(あん・え)?」」

 

 二人は窓の外を見る。コンコンと叩くガラスの向こうで、にこやかに笑うライム―――ではない金髪の少女が浮いていた。

 

「レ、レティシア様!?」

 

「様はよせ。今の私は他人に所有される身分。〝箱庭の貴族〟ともあろうものが、モノに敬意を払っていては笑われるぞ」

 

 跳び上がって驚いた黒ウサギが急いで窓に駆け寄り錠を開けると、レティシアと呼ばれた金髪の少女は苦笑しながら談話室に入る。

 美麗な金の髪を特注のリボンで結び、紅いレザージャケットに拘束具を彷彿させるロングスカートを着た彼女は、黒ウサギの先輩と呼ぶには随分と幼く見えた。

 

「こんな場所からの入室で済まない。ジンには見つからずに黒ウサギと会いたかったんだ」

 

「そ、そうでしたか。あ、すぐにお茶を淹れるので少々お待ちください!」

 

 久しぶりに仲間と会えた事が嬉しかったのか、黒ウサギは小躍りするようなステップで茶室に向かう。

 十六夜の存在に気が付いたレティシアは、彼の奇妙な視線に小首を傾げて、

 

「どうした?私の顔に何か付いているか?」

 

「別に。前評判通りの美人………いや、美少女だと思って。目の保養に観賞してた。………ふむ、これは真祖ロリも敵わねえかもしれないな」

 

 十六夜の真剣な回答に、レティシアは心底楽しそうな哄笑で返す。口元を押さえながら笑いを噛み殺し、なるべく上品に装って席に着いた。

 

「ふふ、成る程。君が十六夜か。白夜叉の話通り歯に衣着せぬ男だな。しかし観賞するなら黒ウサギも負けてないと思うのだが。あれは私と違う方向性の可愛さがあるぞ」

 

「あれは愛玩動物なんだから、観賞するより弄ってナンボだろ」

 

「ふむ。否定はしない」

 

「否定してください!」

 

 紅茶のティーセットを持ってきた黒ウサギが口を尖らせて怒る。温められたカップに紅茶を注ぐ際も少し不機嫌な顔だ。

 

「レティシア様と比べられれば世の女性のほとんどが観賞価値のない女性でございます。黒ウサギだけが見劣るわけではありませんっ」

 

「いや、全く負けちゃいねえぜ?違う方向性で美人なのは否定しねえよ。好みでいえば黒ウサギの方が断然タイプだからな」

 

「………そ、そうですか」

 

 不意打ちの言葉に思わず頬とウサ耳が紅くなった。今まで似たような賛辞や愛の言葉を星の数ほど贈られてきたはずなのに、十六夜の言葉は不自然なまでにウサ耳に残った。

 

「………黒ウサギ。まさか私は無粋な事をしたか?逢い引きの最中だったとか」

 

「め、滅相も御座いません!して、どのようなご用件ですか?」

 

 慌てて話題を戻す黒ウサギ。レティシアは他人に所有される身分。その彼女が主の命もなく来たという事は、相応のリスクを負ってこの場に来ているのだろう。

 ならばただ会いに来たわけではないはずだ。それなら彼女はジンにも顔を見せていただろう。ジンに聞かれてはまずい話をしに来たと推測する。だが、レティシアは苦笑して小首を振り、

 

「用件というほどのものじゃない。新生コミュニティがどの程度の力を持っているのか、それを見に来たんだ。ジンに会いたくないというのは合わせる顔がないからだよ。お前達の仲間を傷つける結果になってしまったからな」

 

「………やはり、木々の鬼化やギフトゲームのルールを決めたのは、レティシア様でしたか」

 

「ああ」

 

 そう。予想していた通り、鬼化していた木々はレティシアのものだった。

 鬼種の中でも個体が最も少ない一つとされる吸血鬼の純血。その生態は十六夜の知るものとさほど変わりない。大きな相違点があるとすれば、互いの世界における吸血鬼の思想だろう。

 箱庭創始者の眷属であるウサギが〝箱庭の貴族〟と呼ばれるように。

 箱庭の世界でのみ太陽を浴びられる彼らは〝箱庭の騎士〟と称される。

 彼らの齎す恩恵はあらゆる儀式過程を省き、互いの体液を交換し合う事で鬼種化を成立させる事ができる。この恩恵を受けたものは吸血鬼として食人の気を持つ事になるが、〝純血〟以外の吸血鬼に血を吸われても鬼種化する事はない。

 よって血に飢えたものは独自にギフトゲームを開催し、参加者からチップとして吸血を行う。箱庭で人と吸血鬼が共存できるのは互いにこのルールを尊重しているからだ。

 太陽の光を浴び、平穏と誇りを胸に生活できる箱庭を守る姿から、吸血鬼の純血は〝箱庭の騎士〟と呼び称される存在となったのだ。

 

「吸血鬼?成る程、だから美人設定なのか。真祖ロリも美少女設定なのは吸血鬼=美人はここも外も同じってわけか」

 

「は?」

 

「え?」

 

「いや、いい。続けてくれ」

 

 十六夜はヒラヒラと手を振って続きを促す。

 

 

「実は黒ウサギ達が〝ノーネーム〟としてコミュニティの再建を掲げたと聞いた時、なんと愚かな真似を………と憤っていた。それがどれだけ茨の道か、お前が分かっていないとは思えなかったからな」

 

「……………」

 

「コミュニティを解散するよう説得するため、ようやくお前達と接触するチャンスを得た時………看過出来ぬ話を耳にした。神格級のギフト保持者が、黒ウサギ達の同士としてコミュニティに参加したとな」

 

 黒ウサギの視線が反射的に十六夜に移る。恐らく白夜叉にでも聞いたのだろう。

 四桁の外門に本拠を持つ〝階層支配者〟の白夜叉が、最下層である七桁の外門に足を運んでいた理由は、秘密裏にレティシアを此処まで連れてくる為だったのだ。

 

「そこで私は一つ試してみたくなった。その新人達がコミュニティを救えるだけの力を秘めているのかどうかを。だが、私にも予想外の事態が起きてしまった」

 

「予想外の事態、ですか?」

 

 黒ウサギが首を傾げて聞き返すと、レティシアは、ああ、と頷き、

 

「本来は私がガルドに力を与え、新人達を試す手筈だった。しかしガルドは既に別のものによって吸血鬼化していた。修道女のような格好をしていた者が連れていた吸血鬼によってな」

 

「修道女………?吸血鬼………?―――あっ!」

 

 レティシアの話を聞いて、黒ウサギは思い出したように手を叩く。

 

「ジン坊っちゃんから聞きました。〝虎を吸血鬼化させた犯人は我の姫だ、とライムさんが言ってました〟―――と」

 

「何?ライム………というのはさっきから君達が話している吸血鬼の真祖のことでいいんだよな?その姫君が、ガルドを吸血鬼化させたというのか?」

 

「YES」

 

「確証はあるのか?」

 

「あるぜ。真祖ロリは血と同類には敏感だって言ってたしな。まさか自分のお姫様の気配を間違えるはずねえだろ」

 

 今度は十六夜が答える。それを聞いて、それもそうか、と納得するレティシア。

 

「なんで真祖ロリのお姫様が、自分の母親の敵の虎に協力したんだろうな」

 

「そうですね………ジン坊っちゃんはライムさん曰く〝我の姫は自分から悪いことをするような子ではない〟と言っていましたけど」

 

「……………」

 

 不思議がる十六夜と黒ウサギとは対照的に、あの時のことを詳しく思い出そうとするレティシア。

 修道女が何かを握っているような気がする。真祖の姫君を無理矢理従わせたのかもしれない。ライムの言葉通りのいい姫君ならば。

 それよりも一つ、不可解なことがあった。それは、自分の血をあの姫君が啜っていたことだ。なんでそんなことをしていたのか理解不能だ。

 現段階ではライムの証言のみで物的証拠はない。故に彼女の姫君がどうしてガルドに協力したのかの動機は不明確ということになった。

 

「まあ、その話は置いておこう。真祖の姫君がガルドを吸血鬼化させ、私は簡単にはクリアできないようゲームのルールを決めて新人達の力を試した。だが―――ガルドでは判断材料にはなりえなかった。ゲームに参加した真祖は兎も角、他の彼女達はまだまだ青い果実だったからな。………こうして足を運んだはいいが、さて。私はお前達に何と言葉をかければいいのか」

 

 真祖の実力は、白夜叉が直々に試してくれたから大体分かった。だが他の人間二人は………何とも言えない。

 そして判明している真祖のみの力では〝魔王〟には太刀打ちできない。黒ウサギの隣にいる彼の実力も知りたいところだが、他に試せる相手を探していられる時間などもうない。

 何とも言えないこの現状にレティシアが苦笑していると、呆れたように十六夜が笑い、

 

「違うね。アンタは言葉をかけたくて古巣に足を運んだんじゃない。古巣の仲間が今後、自立した組織としてやっていける姿を見て、安心したかっただけだろ?」

 

「………ああ。そうかもしれないな」

 

 十六夜の言葉に首肯する。しかしその目的は果たされずに終わった。仲間の将来を安心して託すには至らない。かといって解散をして新たなコミュニティを作るように諭す段階は、〝フォレス・ガロ〟を倒した時の事を考えれば、それはもう手遅れだ。

 危険を冒してまで古巣に来たレティシアの目的は、何もかもが中途半端に進行してしまって自嘲が拭えないレティシア。しかし十六夜は軽薄な声で続ける。

 

「その不安、払う方法が一つだけあるぜ」

 

「何?」

 

「実に簡単な話だ。アンタは〝ノーネーム〟が魔王を相手に戦えるのかが不安で仕方がない。ならその身で、その力で試せばいい。―――どうだい、元・魔王様?」

 

 スッと立ち上がる。十六夜の意図を理解したレティシアは一瞬唖然としたが、すぐに哄笑に変わった。弾けるような笑い声を上げたレティシアは、涙目になりながら立ち上がる。

 

「ふふ………成る程。それは思いつかなんだ。実に分かりやすい。下手な策を弄さず、初めからそうしていればよかったなあ」

 

「ちょ、ちょっと御二人様?」

 

「ゲームのルールはどうする?」

 

「どうせ力試しだ。手間暇かける必要もない。双方が共に一撃ずつ撃ち合い、そして受け合う」

 

「地に足を着けて立っていたものの勝ち。いいね、シンプルイズベストって奴?」

 

 笑みを交わし二人は中庭へ同時に飛び出した。

 開け放たれていた窓は二人を遮ることなく通す。窓から十間ほど離れた中庭で向かい合う二人は、天と地に位置していた。

 

「へえ?箱庭の吸血鬼も翼が生えてるのか?」

 

「ああ。翼で飛んでいるわけではないがな。………ん?〝も〟ということは、君達の仲間の真祖も翼が生えていたのか?」

 

「ああ。黄金の蝙蝠なんていう珍しい翼を生やしてみせたから引っ張って遊んだ」

 

「は?」

 

 十六夜の言葉に、目を点にするレティシア。

 そんな彼女を、十六夜はいいことを思いついたとばかりに笑い、

 

「そうだ。アンタの翼も引っ張らさせてくれよ。真祖ロリの翼とどう違うのか知りたい」

 

「いや待て。触りたいと言うのは分かるが、何故引っ張る必要があるんだ?」

 

「それもそうだな。なら、今すぐ降りてきて触らせろ」

 

「い、いや、遠慮しとくよ」

 

 顔を引き攣らせて断るレティシア。チッ、と舌打ちする十六夜。

 レティシアは、こほん、と咳払いをし話を戻す。

 

「それより、君は制空権を支配されて不満に思わないのか?」

 

「いいや。ルールにはそんなのなかったしな」

 

 飄々と肩を竦める十六夜。立ち位置からして十六夜に不利な戦いだが、彼は別段それを口にすることもなく構える。レティシアはその態度をまず評価した。

 ギフトゲームにおいて、対戦者は全てが未知数であると考えるのは基本である。

 例えば、鳥が自由に空を駆けることを猿が不平不満を漏らしたところで、ギフトゲームでは空すら飛べない猿が悪いとしか弁のしようがない。未知の相手が見せる新たな一手に、自らの持つギフトで如何に対抗するかを競うことこそギフトゲームの真髄であり醍醐味なのだ。

 

「(成る程。気構えは十分。あとは実力が伴うか否か………!)」

 

 満月を背負うレティシアは微笑と共に黒い翼を広げ、己のギフトカードを取り出した。

 金と紅と黒のコントラストで彩られたギフトカードを見た黒ウサギは蒼白になって叫ぶ。

 

「レ、レティシア様!?そのギフトカードは」

 

「下がれ黒ウサギ。力試しとはいえ、コレが決闘である事に変わりない」

 

 ギフトカードが輝き、封印されていたギフトが顕現する。

 光の粒子が収束して外殻を作り、突然爆ぜたように長柄の武具が現れる。

 

「互いにランスを一打投擲する。受け手は止められねば敗北。悪いが先手は譲ってもらうぞ」

 

「好きにしな」

 

 十六夜の返事を聞くや否や、レティシアは投擲用に作られたランスを掲げると、

 

「ふっ―――!」

 

 レティシアは呼吸を整え、翼を大きく広げて全身を撓らせた反動で打ち出した。その衝撃で空気中に視認できるほど巨大な波紋が広がった。

 

「ハァア!!!」

 

 怒号と共に放たれた槍は瞬く間に摩擦で熱を帯び、一直線に十六夜に落下していく。

 流星の如く大気を揺らして舞い落ちる槍の先端を前に、十六夜は牙を剥いて笑い、

 

「カッ―――しゃらくせえ!」

 

 

 ()()()()()

 

 

「「―――は………!??」」

 

 素っ頓狂な声を上げるレティシアと黒ウサギ。

 しかしこれまた比喩ではない。他に表現の仕様もない。鋭利に研ぎ澄まされ、大気の壁を易々突破する速度で振り落とされた槍は、鋭い尖端も巧緻に細工された柄も、たった一撃で拉げてただの鉄塊と化し、さながら散弾銃のように無数の凶器となってレティシアに向けられたのだ。

 

「(ま、まずい………!)」

 

 なんと馬鹿馬鹿しい破壊力。これは受けられない、避けなければ。

 しかし思考に体が追いつかない。否、追いついても意味がない。

 鬼種の純血である彼女なら、たかが銃弾如きなら振り払うこともできただろう。しかし第三宇宙速度に匹敵する馬鹿馬鹿しい速度で迫る凶弾を退けることなど、今の彼女には不可能だった。

 

「(こ………これほどか………!)」

 

 着弾する間際、苦笑が漏れた。尋常外の才能を目の当たりにしたレティシアは、自分の目測の甘さを恥じ入ると同時に安堵した。

 これほどの才能ならばあるいは………と、血みどろになって落ちる覚悟を決めた時、

 

 

「魔眼発動―――〝念動力〟」

 

 

 そんな言葉が耳に入るや否や、レティシアに迫っていた凶弾達が()()()()()()()()

 

「「………は?」」

 

「あん?」

 

 異常な光景に間の抜けた声を漏らすレティシアと黒ウサギ。十六夜も眉を寄せて、声のした方に視線を向けた。

 するとそこには、大事そうに耀をお姫様抱っこしているライムの姿があった。瞳は紅の輝きが増した状態で。

 

「同類の気配がしたから本拠に戻ってきてみれば………一体何をしておるのだお主達?」

 

 よく分からない現場を目撃してライムが小首を傾げる。魔眼を解除したのか、空中で静止していた凶弾達が重力に負けて自由落下していった。

 念動力。サイコキネシスは本来、手を触れることなく意思で物体を動かす、という超能力ものだ。しかしライムの魔眼は、動いている物体を静止させてみせた。もしや彼女の念動力は、〝物体を動かす〟ではなくそれから離れた〝何かを思いのままに操作する〟というものなのかもしれない。

 ライムの姿を確認するや否やで、黒ウサギが窓から飛び出して駆け寄った。

 

「ラ、ライムさん!?もう起きて大丈夫なんですか!?」

 

「うむ。心配かけて済まぬ黒ウサギ」

 

「いえいえ!ライムさんが復活できてなによりです!」

 

 元気そうなライムを見てホッと胸を撫で下ろす黒ウサギ。が、

 

「ところでライムさん」

 

「なんだ?」

 

「どうして耀さんを抱きかかえているのですか?」

 

「ぬ?それは決まっておる。耀を独りにするのは可哀想だからだッ!」

 

 クワッ!と目を見開き力強く言うライム。黒ウサギは一瞬キョトンとして、

 

「た、確かに可哀想ですけど、耀さんは戦いで疲れてるのですよ!?連れ出す方が酷だと黒ウサギは思います………!」

 

「耀ならばついさっきまで起きておったから平気だぞ黒ウサギ」

 

「へ?そうなんですか?」

 

「そうだ。今、耀が気を失っているのは―――我が接吻したせいなのだッ!」

 

「胸を張って言わないでくださいお馬鹿様!?―――って接吻ですって!?」

 

 驚愕の声を上げる黒ウサギ。それに歩み寄ってきた十六夜が、へえ?と面白そうに笑い、

 

「お前らもうそこまで進展してたんだな。今朝の態度からして真祖ロリが春日部のことを意識してたのは目に見えていたが………まさか春日部も真祖ロリのことを意識していて両想いだったとはねえ」

 

「ああ。接吻は我が無理矢理してやったがなッ!」

 

「おい」

 

「だが耀も喜んでおるから問題なかろう?」

 

「………それもそうだな」

 

「ちょ、納得しないでください十六夜さん!?」

 

 耀が口元に笑みを浮かべて眠っているのを見て、納得する十六夜。それに怒る黒ウサギ。クックッと笑いながら耀の頭を優しく撫でるライム。

 一方、レティシアはライムの顔を見て、ありえないものを見たような表情をしていた。

 

「(馬鹿な!?何故………()()()()()()()()()!?)」

 

 そう。それはありえないことだったのだ。だってあの女―――〝   〟の()()はレティシアがこの手で葬ったはずなのだから。

 それが自分の眼下にいる。それも、外界の吸血鬼として。真祖として復活し、この箱庭に帰ってきているのだ。

 

「(………いや。もしかしたらただの他人の空似かもしれない。〝   〟のそっくりさんがそう偶然に箱庭に召喚されるとは思えないが)」

 

 そう。他人の空似だったとしても、こんな偶然が起こりうるものなのか。何か嫌な予感がしてならない。

 いや、と首を振ってライムをよく観察してみる。

 まず名前。ライムと黒ウサギが言っていたから、あの女とは名前が違う。

 あの女の胸は、自分の記憶が正しければ、ライムほど大きくなく小さかったはず。

 口調。あの女の一人称は〝我〟ではなかった。確か―――と考察を張り巡らせていたその時。

 

「―――いつまでそこにおるのだお主?」

 

「え?」

 

 唐突に声をかけられてハッと顔を上げると、黄金の蝙蝠の翼を背に生やして飛んでいたライムの顔があった。かなりの間近に。

 

「………ッ、ああ、そうだな」

 

「ぬ?」

 

 ライムに言われて頷き、レティシアは翼を畳んで地上に降り立った。ライムの顔が〝   〟とそっくりだからあのまま長時間見つめられていたら気がどうにかなりそうだ。

 ライムはレティシアを不思議そうな顔で見つめたのち、小首を一回捻ってから地上に降り立った。耀は変わらず彼女の腕の中で眠っている。

 すると黒ウサギが思い出したようにレティシアに近づいてきて、

 

「………!く、黒ウサギ!何を!」

 

 ギフトカードを掠め取った。レティシアが抗議の声を上げるが、黒ウサギは聞くウサ耳持たずで彼女のギフトカードを見つめ震える声で向き直った。

 

「ギフトネーム・〝純潔の吸血姫(ロード・オブ・ヴァンパイア)〟………やっぱり、ギフトネームが変わっている。鬼種は残っているものの、神格が残っていない」

 

「っ………!」

 

 さっと目を背けるレティシア。それに十六夜が白けたような呆れた表情で肩を竦ませ、

 

「なんだよ。もしかして元・魔王様のギフトって、吸血鬼のギフトしか残ってねえの?」

 

「………はい。武具は多少残してありますが、自身に宿る恩恵(ギフト)は………」

 

 十六夜は隠す素振りもなく盛大に舌打ちした。そんな弱りきった状態で相手をされたことが不満だったのだろう。

 

「ハッ。道理で歯応えがないわけだ。他人に所有されたらギフトまで奪われるのかよ」

 

「いいえ………魔王がコミュニティから奪ったのは人材であってギフトではありません。武具などの顕現しているギフトと違い、〝恩恵〟とは様々な神仏や精霊から受けた奇跡、云わば魂の一部。隷属させた相手から合意なしにギフトを奪うことはできません」

 

 それはつまり、レティシアが自分からギフトを差し出したということだ。二人の視線を受けて苦虫を噛み潰したような顔で目を逸らすレティシア。

 話についていけないライムがキョトンとするなか、黒ウサギが苦い顔で問う。

 

「レティシア様は鬼種の純血と神格の両方を備えていたため〝魔王〟と自称するほどの力を持てたはず。今の貴女はかつての十分の一にも満ちません。どうしてこんなことに………!」

 

「………それは」

 

 言葉を口にしようとして呑み込む仕草を幾度か繰り返すが、打ち明けるには至らず、口を閉ざしたまま俯いてしまった。

 ライムは唐突に挙手して、

 

「済まぬがまるで話が見えぬのだが………そもそも何故十六夜は我と同類の、吸血鬼と戦っていたのだ?」

 

「ああ、それな。丁度いいし、それらを含めて話は屋敷に戻ってからにしようぜ」

 

「………そう、ですね」

 

 二人は沈鬱そうに頷き、ライムも、う、うむ、と頷いた。




レティシアはライムを、あの女ではないかと疑っています。

レティシア登場。
十六夜VSレティシア。
ライム復活そして接触。


ライムの容姿が〝   〟に酷似している模様。
〝   〟の中に何が入るのか、恐らくほとんどの方が予想できてしまうであろう名前が入ります。
問題は、白夜叉が〝   〟と面識あるのだろうか?というところなんですよね。もし面識あるならライムの顔見た瞬間、気がついてないと話がおかしくなってしまうのです(^_^;)


・魔眼〝念動力〟
見たものを自在に動かしたり止めたりする真祖の異能。ただし自分より霊格の低いものじゃないと無効化される。
今回は十六夜が殴りつけた物にたいしてだから発動できたが、十六夜本人にやれば無効化される。

ちなみに〝催眠術〟の魔眼とは別物である。


最後に、オリジナル設定と原作改変をタグに追加しておきます。

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