問題児たちと最後の吸血鬼が異世界から来るそうですよ?   作:問題児愛

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今回は文字数多いです。


十七話 交渉

 夜も更け、夜空には星が輝いていた。一晩遅れの満月が箱庭を照らしている。

 街灯ランプは仄かな輝きで道を照らしているが、周囲から人気らしいモノは一切感じられない。道中、十六夜は足早なまま空を見上げて、

 

「こんなにいい星空なのに、出歩いてる奴はほとんどいないな。俺の地元なら金取れるぜ」

 

 一方、飛鳥はこの満天の星空が見える夜空を疑問に思い、首を傾げた。

 

「これだけハッキリ満月が出ているのに、星の光が霞まないなんておかしくないかしら?」

 

「箱庭の天幕は星の光を目視しやすいように作られてますから」

 

「そうなの?だけどそれ、何か利点があるのかしら?」

 

 太陽の光から吸血鬼などの種を守るというのは理解できる。しかし星の光を際立たせたところで意味があるとは思えない。

 黒ウサギは焦るような小走りだったが、歩幅を緩め、

 

「ああ、それはですね」

 

「おいおいお嬢様。その質問は無粋だぜ。〝夜に綺麗な星が見れますように〟っていう職人の心意気が分からねえのか?」

 

「あら、それは素敵な心遣いね。とてもロマンがあるわ」

 

「………そ、そうですね」

 

 黒ウサギは敢えて否定しなかった。納得したのなら今はそういうことにしておこう。話せば長くなるし、店先までほんの僅かだ。

 

「……………」

 

 耀は布で丁寧にくるんで中身が見えないようにしている巨大な十字架のようなモノ(その正体は石像と化したライム)を大事に抱きかかえながら早歩きで十六夜達よりも先を急いでいる。早くライムを解放したくて堪らないようだ。そんな彼女の背をジンは苦笑いで見ていた。

〝サウザンドアイズ〟の門前に着いた五人(布巻き十字架(ライム)含めて六人)を迎えたのは例の無愛想な女性店員だった。

 

「お待ちしておりました。中でオーナーとルイオス様がお待ちです」

 

「黒ウサギ達が来ることは承知の上、ということですか?あれだけの無礼を働いておきながらよくも『お待ちしておりました』なんて言えたものデス」

 

「………事の詳細は聞き及んでおりません。中でルイオス様からお聞きください」

 

 定例文にも似た言葉にまた憤慨しそうになる黒ウサギだが、店員の彼女に文句を言っても仕方がない。

 店内に入り、中庭を抜けて離れの家屋に黒ウサギ達が向かう。中で迎えた亜麻色の髪に蛇皮の上着を着た線の細い男―――ルイオスは黒ウサギを見て盛大に歓声を上げた。

 

「うわお、ウサギじゃん!うわー実物初めて見た!噂には聞いていたけど、本当に東側にウサギがいるなんて思わなかった!つーかミニスカにガーターソックスって随分エロいな!ねー君、うちのコミュニティに来いよ。三食首輪付きで毎晩可愛がるぜ?」

 

 ルイオスは地の性格を隠す素振りもなく、黒ウサギの全身を舐め回すように視姦してはしゃぐ。黒ウサギは嫌悪感でさっと脚を両手で隠すと、飛鳥も壁になるよう前に出た。

 

「これはまた………分かりやすい外道ね。先に断っておくけど、この美脚は私達のものよ」

 

「そうですそうです!黒ウサギの脚は、って違いますよ飛鳥さん!!」

 

 突然の所有宣言に慌ててツッコミを入れる黒ウサギ。

 そんな二人を見ながら、十六夜は呆れながらも溜め息をつく。

 

「そうだぜお嬢様。この美脚は既に俺のものだ」

 

「え!?」

 

「そうですそうですこの脚はもう黙らっしゃいッ!!!ジン坊っちゃんもなに驚いてるんですか!?そんなわけないのですよ!!」

 

「よかろう、ならば黒ウサギの脚を言い値で」

 

「売・り・ま・せ・ん!あーもう、真面目なお話をしに来たのですからいい加減にしてください!黒ウサギも本気で怒りますよ!!」

 

「馬鹿だな。怒らせてんだよ」

 

 スパァーン!と十六夜の頭にハリセン一閃。今日の黒ウサギは短気だった。

 すると耀がカッと瞳を見開き宣言した。

 

「黒ウサギの脚よりも、ライムの脚の方が絶対に素晴らしい。真紅のドレススカートとニーハイの間の絶対領域の白い柔肌を触ったらきっとスベスベツルツルに違いない」

 

「むっ、それを言われては黒ウサギも対抗したく、ってなりませんよお馬鹿様ッ!!!」

 

 スパァーン!と耀の頭にもハリセン一閃。本当はちょっと不服に思った黒ウサギであった。

 耀がライムを推す意味が分からず首を傾げる飛鳥とジンと白夜叉。十六夜だけは笑いを噛み殺していた。

 肝心のルイオスは完全に置いてけぼりを食らっている。六人のやり取りが終わるまで唖然と見つめ、唐突に笑いだした。

 

「あっははははははは!え、何?〝ノーネーム〟っていう芸人コミュニティなの君ら。もしそうなら纏めて〝ペルセウス〟に来いってマジで。道楽には好きなだけ金をかけるのが性分だからね。生涯面倒見るよ?勿論、ウサギさんの美脚は僕のベッドで毎夜毎晩好きなだけ開かせてもらうけど」

 

「お断りでございます。黒ウサギは礼節も知らぬ殿方に肌を見せるつもりはありません」

 

「既に見せてるけど?」

 

「え?」

 

「ええ、見せてるわね」

 

「………見せてますね」

 

「だな。つか俺はてっきり見せるために着てるのかと思ったが?」

 

 耀達に言われて、黒ウサギは慌てて否定した。

 

「ち、違いますよ!これは白夜叉様が開催するゲームの審判をさせてもらう時、この格好を常備すれば賃金を三割増しすると言われて嫌々………ってジン坊っちゃんには以前話してますから知ってますよね!?」

 

「さ、さあ………?」

 

「ジン坊っちゃん!?」

 

 黒ウサギは愕然として声を上げる。ジンがこういうのは、恐らく問題児三人に吹き込まれたのだろう。駄目だ、早急に手を打たないと彼が問題児色に染まってしまう。

 十六夜は笑いを噛み殺したあと、

 

「ふぅん?嫌々そんな服を着せられてたのかよ。………おい白夜叉」

 

「なんだ小僧」

 

 キッと白夜叉を睨む十六夜。両者は凄んで睨み合うと、同時に右手を掲げ、

 

「超グッジョブ」

 

「うむ」

 

 ビシッ!と親指を立てて意思疏通する二人。一向に話が進まず、ガクリと項垂れてしまった黒ウサギの元に、家屋の外から店員の助け船が出される。

 

「あの………御来客の方も増えましたので、よろしければ店内の客間に移りましょうか?見れば割れた食器の破片も散らかっていますし」

 

「そ、そうですね」

 

 一度仕切り直すことになった一同は、〝サウザンドアイズ〟の客室に向かうのだった。

 

 

 座敷に招かれた五人(耀の腕の中の布巻き十字架(ライム)を合わせて六人)は〝サウザンドアイズ〟の幹部二人と向かい合う形で座る。長机の対岸座るルイオスは舐め回すような視線で黒ウサギを見続けていた。

 黒ウサギは悪寒を感じるも、ルイオスを無視して白夜叉に事情を説明する。

 

「―――〝ペルセウス〟が私達に対する無礼を振るったのは以上の内容です。ご理解いただけたでしょうか?」

 

「う、うむ。〝ペルセウス〟の所有物・ヴァンパイアが身勝手に〝ノーネーム〟の敷地に踏み込んで荒らしたこと。それらを捕獲する際における数々の暴挙と暴言。確かに受け取った。謝罪を望むのであれば後日」

 

「結構です。あれだけの暴挙と無礼の数々、我々の怒りはそれだけでは済みません。〝ペルセウス〟に受けた屈辱は両コミュニティの決闘をもって決着をつけるべきかと」

 

 両コミュニティの直接対決。それが黒ウサギの狙いだった。

 レティシアが敷地内で暴れ回ったというのは勿論捏造だ。しかし彼女を取り戻すためには形振り構っていられる状況にはない。使える手段は全て使う必要があった。

 

「〝サウザンドアイズ〟にはその仲介をお願いしたくて参りました。もし〝ペルセウス〟が拒むようであれば〝主催者権限(ホストマスター)〟の名の下に」

 

「いやだ」

 

 唐突にルイオスは言った。

 

「………はい?」

 

「いやだ。決闘なんて冗談じゃない。それにあの吸血鬼が暴れ回ったって証拠があるの?」

 

「それなら彼女の石化を解いてもらえば」

 

「駄目だね。アイツは一度逃げ出したんだ。出荷するまで石化は解けない。それに口裏を合わせないとも限らないじゃないか。そうだろ?元お仲間さん?」

 

 嫌味ったらしく笑うルイオス。筋が通っているだけに言い返せない。が、一つだけはっきりした。彼は、レティシアが石化されないで回収されていることを知らないようだ。

 

「そもそも、あの吸血鬼が逃げ出した原因はお前達だろ?実は盗んだんじゃないの?」

 

「な、何を言い出すのですかッ!そんな証拠が一体何処に」

 

「事実、あの吸血鬼はあんたのところにいたじゃないか」

 

 ぐっと黙り込む。それを衝かれては言い返せない。黒ウサギの主張も、ルイオスの主張も、第三者がいないという点では同じなのだ。

 すると、耀がビシッと挙手してルイオスを睨み、

 

「お前のデタラメな証言は正直どうでもいい。証拠ならちゃんとある」

 

「は?何言ってんのお前?証拠なんて―――ッ!?まさか!?」

 

 耀の妙に自信のある表情に、ルイオスは嫌な予感を覚える。その布に巻かれているモノはまさか―――

 耀は布を取り払う。するとそこには、石化のギフトを受けて石像となってしまったライムの姿が出現した。

 

「これが動かぬ証拠。あのヴァンパイアは、お前らが貸し与えていた石化のギフトを使って、ライムをこんな姿にした………ッ!!」

 

「な、お前こそデタラメ言うなよ!?僕があの吸血鬼に石化のギフトを渡した覚えはないね!」

 

「論より証拠。そう言ったのはお前だよね?だから私達はその証拠を出した。私達はお前の提示した条件をクリアしているから、この証拠の真偽を問われる謂われわない。もしこれに異議を唱えるなら―――お前も証拠を見せてみろ!!」

 

「………ッ!!」

 

 耀の怒号にルイオスが一瞬たじろぐ。だって悔しいが自分にはこの証拠を引っくり返せる証拠を持ち合わせてないのだ。

 しかしすぐにルイオスはヘラッと笑って、

 

「僕にお前達の提示した証拠を否定できる証拠は、生憎持ち合わせてないよ」

 

「なら」

 

「でもそいつがあの吸血鬼に石化された証拠はないよね?」

 

「なっ!?」

 

 そうきたか、と唇を噛む。たしかに石化しているライムを連れてきたところで、レティシアの犯行だと断言できる証拠にはなり得ない。

 なんとも汚い手だが、黒ウサギが提示した証言は、レティシアの犯行。なので、レティシアがライムを石化させた、ということを実証させるには不十分だった。

 

「まあ、どうしても決闘に持ち込みたいというならちゃんと調査しないとね。………もっとも、ちゃんと調査されて一番困るのは全く別の人だろうけど」

 

「そ、それは………!」

 

 視線を白夜叉に移す。彼女の名前を出されては黒ウサギとしては手が出せない。この三年間、〝ノーネーム〟を存続出来たのは彼女の支援があったからだ。今回の一件で更なる苦労をかけるのは避けたかった。

 

「じゃ、さっさと帰ってあの吸血鬼を外に売り払うか。愛想ない女って嫌いなんだよね、僕。特にアイツは体も殆んどガキだしねえ―――だけどほら、あれも見た目は可愛いから。その手の愛好家には堪らないだろ?気の強い女を裸体のまま鎖で繋いで組み伏せ啼かす、ってのが好きな奴もいるし?太陽の光っていう天然の牢獄の下、永遠に玩具にされる美女ってのもエロくない?」

 

 ルイオスは挑発半分で商談相手の人物像を口にする。

 案の定、黒ウサギはウサ耳を逆立てて叫んだ。

 

「あ、貴方という人は………!」

 

「しっかし可哀想な奴だよねーアイツも。箱庭から売り払われるだけじゃなく、恥知らずな仲間の所為(せい)でギフトまでも魔王に譲り渡すことになっちゃったんだもの」

 

「………なんですって?」

 

 飛鳥が声を上げる。耀とジンも声には出さなかったものの、表情は驚きに染まった。

 黒ウサギも声を上げなかったものの、その表情にはハッキリと動揺が浮かんでいる。

 ルイオスはそれを見逃さなかった。

 

「報われない奴だよ。〝恩恵(ギフト)〟はこの世界で生きていくのに必要不可欠な生命線。魂の一部だ。それを馬鹿で無能な仲間の無茶を止めるために捨てて、ようやく手に入れた自由も仮初めのもの。他人の所有物っていう極めつけの屈辱に耐えてまで駆け付けたってのに、その仲間はあっさり自分を見捨てやがる!目を覚ましたこの女は一体どんな気分になるだろうね?」

 

「………え、な」

 

「な………っ!」

 

 黒ウサギは絶句する。そしてみるみるうちに蒼白に変わっていった。

 同時に幾つもの謎が解けた。魔王に奪われていたはずのレティシアがこの東側にいるのも、ギフトカードに記されたネームのランクが暴落していたのも、それが理由だった。

 魂を砕いてまで―――レティシアは、黒ウサギ達の下に駆け付けようとしてくれたのだ。

 ルイオスはにこやかに笑うと、蒼白な黒ウサギにスッと右手を差し出す。

 

「ねえ、黒ウサギさん。このまま彼女を見捨てて帰ったら、コミュニティの同士として義が立たないんじゃないか?」

 

「………?どういうことです?」

 

「取引をしよう。吸血鬼を〝ノーネーム〟に戻してやる。代わりに、僕は君が欲しい。君は生涯、僕に隷属するんだ」

 

「なっ、」

 

「一種の一目惚れって奴?それに〝箱庭の貴族〟という箔も惜しいし」

 

 再度絶句する黒ウサギ。これには飛鳥とジンも堪らず長机を叩いて怒鳴り声を上げた。

 

「外道とは思っていたけど、ここまでとは思わなかったわ!もう行きましょう黒ウサギ!こんな奴の話を聞く義理はないわ!」

 

「飛鳥さんの言う通りです!悔しいですがレティシアさんは諦めましょう………っ!彼女も、黒ウサギが犠牲になることをきっと―――いえ、絶対に望んでいませんっ!」

 

「ま、待ってください御二人さん!」

 

 黒ウサギの手を握って出ようとする飛鳥と、それに続こうとするジン。だが黒ウサギは座敷を出ない。

 黒ウサギの瞳は困惑している。この申し出に彼女が悩んでいることは明白だ。

 それに気付いたルイオスは厭らしい笑みで捲し立てた。

 

「ほらほら、君は〝月の兎〟だろ?仲間のため、煉獄の炎に焼かれるのが本望だろ?君達にとって自己犠牲って奴は本能だもんなあ?」

 

「………っ」

 

「ねえ、どうしたの?ウサギは義理とか人情とかそういうのが好きなんだろ?安っぽい命を安っぽい自己犠牲ヨロシクで帝釈天に売り込んだんだろ!?箱庭に招かれた理由が献身なら、種の本能に従って安い喧嘩を安く買っちまうのが筋だよな!?ホラどうなんだよ黒ウサギ」

 

()()()()()!」

 

 ガチン!とルイオスの下顎が閉じ、困惑する。見かねた飛鳥の〝威光(ギフト)〟が原因だ。

 

「っ………!?……………!!?」

 

「貴方は不快だわ。そのまま()()()()()()()()()()!」

 

 混乱するように口を押さえたルイオスは体を前のめりに歪める。だがしかし、命令に逆らって強引に体を起こす。何が起こったのかを理解したルイオスは強引に言葉を紡いだ。

 

「おい、おんな。そんなのが、つうじるのは―――格下だけだ、馬鹿が!!」

 

 激怒したルイオスが取り出したギフトカードから、光と共に現れる鎌。

 飛鳥の左隣にいた耀が彼女を助けようと行動を起こそうとするが、それよりも速く動いた飛鳥の右隣にいた十六夜が、振り下ろされた刃を庇うように受け止めた。

 

「な、なんだお前………!」

 

「十六夜様だよ色男。喧嘩なら利子つけても買うぜ?勿論トイチだけどな」

 

 十六夜が軽薄そうに笑うと、握った柄を蹴って押し返す。ルイオスは堪らず跳び退いた。

 追撃のために距離を取ろうとするルイオス。しかし白夜叉の扇が鎌を押さえつける。

 

「ええい、やめんか戯け共!話し合いで解決出来ぬなら門前に放り出すぞ!」

 

「………ちっ。けどその女が先に手を出したんだけどね?」

 

 尚も殺気立つルイオス。黒ウサギが間に入って仲裁をした。

 

「ええ、分かってます。これで今日の一件は互いに不問ということにしましょう。………あと、先ほどの話ですが………少しだけお時間をください」

 

 黒ウサギの返事に驚く飛鳥とジンは、堪らず叫んだ。

 

「ま、待ちなさい黒ウサギ!貴女、この男の物になってもいいというの!?」

 

「だ、駄目です!考え直してください!」

 

「………仲間に相談するためにも、どうかお時間を」

 

「オッケーオッケー。こっちの取引ギリギリ日程………一週間だけ待ってあげる」

 

 にこやかに笑うルイオス。黒ウサギはそれだけ口にして足早に座敷を出た。

 飛鳥とジンはその後ろを追いかける。残った二人のうち十六夜は呆れたように肩を竦ませた。

 

「白夜叉は恵まれてるな。気難しい友人とゲスい部下に挟まれるなんてそう経験できないぞ」

 

「全くだの。羨ましいなら代わってやるぞ」

 

「今はいいや。………ところで、〝ペルセウス〟のリーダーってお前か?」

 

「あぁ?そうだけど、今更何聞いてんの?」

 

 先ほどのこともあり、不機嫌な声を上げるルイオス。

 十六夜は暫しルイオスを見つめたあと、落胆したように溜め息をついて踵を返す。

 

「―――ちょっと待てよ。今の溜め息は何?」

 

「名前負けしすぎ。期待した俺が馬鹿だった。………そういう意味さ」

 

「はっ。今なら安い喧嘩でも安く買うぜ?」

 

 鎌を構える。彼とて〝ペルセウス〟を率いている男。数多の修羅神仏を押し退けて五桁の外門に本拠を構えているのだ。その実力は並の人間とは一線を画す実力がある。先ほどは力負けしたかもしれないが、いざ戦えば自分が勝つと疑っていない。

 十六夜は片眉を上げて見つめ直す。だがやはり興味なさそうに座敷に背を向け―――ようとして、未だその場から動かない耀に声をかけた。

 

「何してんだ春日部。用は済んだんだし帰るぞ」

 

「まだ済んでない。ライムの石化を解いてもらうまでは私は帰らない」

 

 耀のその言葉に、ルイオスは、あっ、と思い出したように頭を掻き、

 

「いや悪いね。黒ウサギに夢中ですっかり忘れてたよ」

 

 鎌をギフトカードの中に仕舞うと、耀に近づき、石化しているライムにギフトカードを翳す。するとライムの全身が発光して瞬く間に元の状態に戻っていった。

 

「これで今回の件はチャラでいいね」

 

「………納得いかないけど、石化解いてくれたから今日のところは許してあげる」

 

「あ?」

 

 上から目線の態度で返す耀を、ルイオスがイラッとして顔を歪める。

 石化から解放されたライムに、耀は頬擦りして嬉しそうな表情を見せる。それを十六夜はニヤニヤと眺めた。

 一方、ルイオスはライムを見て、ハッと笑い、

 

「なんだよ。お前達のところに〝箱庭の騎士〟がもう一人いるじゃん。なんで黒ウサギはあの吸血鬼に執着してるんだ?」

 

「「「は?」」」

 

「え?何その反応?………そいつ、〝箱庭の騎士〟じゃないの?」

 

 三人の反応を見て首を傾げるルイオス。すると白夜叉が、はぁ、と溜め息を吐き、

 

「たしかにこやつも吸血鬼ではあるが、〝箱庭の騎士〟ではない。外界から来た吸血鬼の真祖だ」

 

「ふうん?真祖ねえ………って、は?真祖!?」

 

 真祖と聞いて驚愕の声を上げるルイオス。その声が五月蝿かったのか、眠っていたライムが耀の腕の中で目を覚ました。

 

「―――ん………ぬ?」

 

「あ、ライム!目が覚めたんだね!よかった」

 

 目を覚ましたライムを見て、耀は再び頬擦りを開始した。ライムはいきなりのことで、ぬおっ、と驚くが、ふとルイオスと目が合い、

 

「………ぬ?なんだお主は?我の顔に何かついているのか?」

 

「いや別に。白夜叉様がお前のことを真祖って言ってたけど………マジ?」

 

「う、うむ。我は吸血鬼の真祖で合っているが………それがどうしたのだ?」

 

「……………ふうん、そうなんだ」

 

 ソワソワしているルイオスに、耀とライムは揃って小首を傾げた。

 一方、ルイオスの様子がおかしいことに気づいて、十六夜はニヤリと笑った。

 

「おい色男。まさかとは思うが、うちの真祖様も欲しいなあ………とか、思ってねえよな?」

 

「―――ッ!?」

 

 ギクリ、と肩を揺らして視線を十六夜から逸らすルイオス。予感的中。十六夜はまたニヤリと笑った。

 対照的に耀はライムを強く抱き締めて威嚇するようにルイオスを睨み、

 

「駄目。ライムは私のものだから、お前なんかに絶対に渡さない!」

 

「ぬ?………うむ、そうだな。我は耀の―――って違うだろう!?逆だ!耀が、我のものだ!」

 

 両想いなんだしどっちでもいいだろそんなの、と十六夜が内心でツッコミを入れる。しかし、ライムを上手く利用すれば決闘にこじつけられるかもしれない。

 十六夜はルイオスを見て、軽薄な笑みを浮かべ言った。

 

「なあ色男。うちの真祖様も欲しいなら決闘しようぜ?互いの吸血鬼をチップに賭けてな」

 

「ぬ?」

 

「な、十六夜!?」

 

 十六夜の提案に、ライムはキョトンとし、耀は驚愕して彼を睨む。

 ルイオスは、はぁ?と不愉快そうに十六夜を睨み、

 

「だから決闘は受けないって言ってんじゃん。つか黒ウサギがチップに入ってないし―――」

 

「へえ?なら俺達〝ノーネーム〟は真祖様と黒ウサギをチップに賭ける。これなら決闘、受けてくれるのか?」

 

「………ッ!?」

 

 ルイオスは驚愕して瞳を見開かせる。とても魅力的な提案に、一瞬頭を縦に振りかける。

 冷静になって考える。いくら対戦相手が〝ノーネーム〟であったとしても、奴らには黒ウサギ―――〝箱庭の貴族〟がいる。〝箔〟がつくほどの者なのだから強力な武具の一つや二つ、持っている可能性だって考えられる。

 それを察したのか、十六夜はニヤリと笑って、

 

「ちなみに、黒ウサギは今日〝審判権限(ジャッジマスター)〟を発動させてるんだが………審判を務めた日から十五日間、ギフトゲームに参加しちゃいけない決まりがある。この意味分かるな?」

 

「!?」

 

 ルイオスはハッとして気づく。十六夜の言葉が真実なら、今のうちに決闘を受け入れれば、黒ウサギがいない〝ノーネーム〟と戦えることになる。だが、

 

「お前達には真祖がいるじゃないか」

 

「おいおい、石化のギフトに負ける吸血鬼(コウモリ)に何恐れてんだよ。それとも、真祖様はチップだし参加不可にでもするか?」

 

「な、」

 

 ルイオスは愕然とした。同時にこの男は馬鹿なのか、とも思った。

 チップに〝名無し〟は黒ウサギと真祖を賭ける。対して自分はあの吸血鬼のみ。ここで既に対等ではない。〝名無し〟が負けた時に圧倒的に損する。

 更に、黒ウサギと真祖を参加不可状態で自分と決闘を望もうとしているのだ。これを馬鹿だと、無謀だと笑わない奴がいるものか。

 だが、プライドを捨てて〝名無し〟と決闘をして勝てば、吸血鬼を外に、真祖を例の組織に売り捌いて大儲けした上に、〝箱庭の貴族〟も手に入る。取引は成功するから〝サウザンドアイズ〟から追放されることもない。万々歳じゃないか!

 一方、好き勝手話を進める十六夜を耀とライムが挟むように立って激怒していた。

 

「十六夜ッ!どういうつもりなの!?勝手に私のライムをチップにしないでよッ!!」

 

「そうだぞ十六夜!更には我の参加を不可にするだと!?それでは愛しの耀を守れぬではないかッ!!」

 

 お前ら黒ウサギの心配はしねえのかよ、と内心でツッコミを入れる十六夜。

 十六夜はまずライムに視線を向けて、

 

「真祖ロリはこのまま同類を売られてもいいのか?折角出会えたのに、この機会を逃せば永遠に会えなくなるぜ?」

 

「………ッ、それは………嫌だ」

 

「だろ?それにお前は御チビに言ってたじゃねえか。〝同類を魔王から取り戻す手助けをさせてくれ〟とかなんとか。あの言葉は嘘だったのか?」

 

「―――――っ、」

 

 それを言われてしまったら反論できない。それにライム本人もレティシアを救いたいと思っているのだから。

 押し黙ったライムを確認した十六夜は、次に耀の耳元に顔を近づけて囁いた。

 

「馬鹿だな春日部。真祖ロリをチップにして、決闘を行い、見事勝利を収めたらどうなると思う?」

 

「ど、どうって?」

 

「上手くいけば真祖ロリを春日部の―――()()()()()にすることも可能かもしれないぜ?」

 

「せ、せせせせせ専属メイドォオオオオオオオ!!?」

 

 ズドーン!と耀の全身に衝撃が走った。専属メイド!なんて素敵な響きだろうか。専属メイドということはつまり、愛しのライムと二人っきりでいられる時間が増えるということだ。

 更に、自分はライムの眷属だから立場は下だけど―――彼女をメイド化してしまえばその立場は引っくり返る………!

 耀は十六夜に顔を向けると、親指を立ててビシッ!とさせた。

 

「超グッジョブ。分かった、十六夜の提案に乗る。その代わり―――絶対に勝とうね」

 

「ハッ、たりめえだ」

 

 十六夜も親指を立ててビシッ!と返して笑う。

 すると、ライムも覚悟を決めたようで十六夜に言った。

 

「分かった。同類のためだ、我も体を張ろう。その代わり―――我が愛しの耀を頼んだぞ十六夜!」

 

「ヤハハ、任せな」

 

 ライムも十六夜の提案に乗った。これであとは黒ウサギを説得―――する必要はないな。何せあの駄ウサギは俺達の気持ちも考えないで自己犠牲に走ろうとしたんだし、これはその〝罰〟ってことでいいな。

 十六夜はそう決めると、ルイオスに向き直り、今一度問い直した。

 

「―――さて、返事を聞こうじゃねえか色男。俺の提案に伸るか反るか、どっちだ?」

 

「……………」

 

 ルイオスは暫し考え込んだあと、にこりと笑って、

 

「いいぜ。お前達が後悔しないんなら、その条件で決闘を受けてやるよ」

 

「そうこなくちゃな。んで、決闘開始日はいつにする?」

 

「そうだね………僕は優しいから一週間後でいいよ。その期間を使って最後の一時を楽しむといいさ」

 

「ハッ、悪いがそうはならねえよ。勝つのは俺達〝ノーネーム〟だからな」

 

 不敵に笑って告げる十六夜。言ってろ、とルイオスは嗤って座敷を後にした。

 十六夜も、後ろにいる耀とライムに向き直り、

 

「俺達も帰るか」

 

「うん」

 

「うむ」

 

 その二人を連れて座敷を去ろうとして、今まで静観していた白夜叉が呵々と笑った。

 

「見事だ、小僧。頑なに決闘を拒んでおったあの下種を動かしたのだからな」

 

「そりゃどうも」

 

「だがな小僧。これだけは覚えておけ」

 

 白夜叉はそう言った刹那、凄まじい殺気を十六夜に向けて一言。

 

「もしこの決闘で負けるようなことがあったらその時は―――この私が決闘をもって貴様を肉片一つ残らず消し飛ばしてやるからな………ッ!!」

 

「「「―――ッ!!?」」」

 

 今までの比ではない白夜叉の殺意に、耀とライムだけでなく十六夜もゾクリと背筋を凍らせた。

 白夜叉も、流石に十六夜を殺すつもりはないが、半殺しには絶対にしてやると思っている。それだけ黒ウサギを自分の娘同然に思っているのだ。

 十六夜は、ハッと不敵に笑って宣言した。

 

「安心しな白夜叉。そんなことにはならねえし、させねえよ。俺が絶対に、な」

 

「………フン。では期待して待っておるぞ」

 

 白夜叉の言葉を受けた十六夜は、ああ、と頷くと踵を返して座敷を後にした。




そして一週間後、決闘が始まる。

決闘ルールは、絶対に勝ちにくるので原作通りのものになります。
ただし今回も魔改造ありです。ルイルイではありませんが。
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