問題児たちと最後の吸血鬼が異世界から来るそうですよ?   作:問題児愛

23 / 25
遅くなってすみません。
ガラフォを卒業してスマホに替えて、ガラフォではできなかったゲームに入り浸ってました。
あと、文字打ちに時間がかかるため、平日投稿は厳しくなりますので悪しからず。


二十話 ペルセウス戦【中】

 白亜の宮殿は五階建ての作りとなっている。最奥が宮殿の最上階に当たり、進むには絶対に階段を通らねばならない。〝主催者(ホスト)〟側の人間がどれだけ配置されているか分からないが、最低でも一つの階段を確保せねば先には進めない。

 門を蹴り破られた音でゲーム開始を悟った〝ペルセウス〟の騎士達は、一斉に行動に移る。

 

「東西の階段を封鎖しろ!」

 

「正面の階段を監視できる位置につけ!」

 

「相手は五人、捨て駒の数は限られている!冷静に対処すれば抜かれることはない!」

 

「我らの旗印がかかった戦いだ!絶対に負けられんぞ!」

 

 号令と共に一糸乱れぬ動きを見せる〝ペルセウス〟の騎士達。

 本拠を舞台にしたゲームは伊達ではない。地の利は圧倒的に彼らにあるのだ。

 ましてや勝利条件は至って簡単。戦うまでもなく、敵を見つけるだけでいい。

 最奥の大広間で玉座に腰かけていたルイオスは既に勝ったつもりでいる。何せ〝真祖の姫君〟アイリス=ペルセーイスの眷属となった側近がいるのだから。

 真祖対策は万全だ。他の部下達では対処できずとも、彼ならば確実に見つけて打ち倒せる。そう信じて疑わない………わけではないが、多少なりとも期待はしているつもりだった。

 

「(ま、あいつも使えない無能共と同じなら、纏めて粛清すればいいか)」

 

 そう、どんなに従順でも、無能は自分のコミュニティには必要ない。まあ、万が一あの海魔(クラーケン)を打ち倒したあの金髪のクソガキが来た場合はその時は―――僕と()()()でぶっ殺せばいいか。

 物騒なことを呟きながら、ルイオスは首にぶら下がっている付属している装飾を触る。コイツさえいれば、海魔を倒したあの十六夜()も楽に殺せるだろう。

 しかしルイオスは知らなかった。その十六夜のデタラメ加減の実力と、ライムの封印開放後の悍ましさを。

 

 

 正面の階段前広場は、飛鳥の奮戦による大混戦となっていた。真正面から挑んだ十六夜達を捕らえに来た騎士達は、飛鳥が持ち出したギフト―――水樹によって阻まれていたのだ。

 

「ええい、小娘一人に何を手間取っている!」

 

「簡単に捕らえられる相手と抜かっていたが………そうでもなかったか!いっそ諦めて残りのメンバーを捜すのに優先するか?」

 

「やむを得ん!あの小娘は我らに見つかって既に失格!ルイオス様には挑めぬから無駄な交戦は避けるべきだ!」

 

「本当は捕らえて他のメンバーを炙り出したかったが、作戦変更だ!あの小娘は後回しにして他を全力で捜せ!」

 

 飛鳥を捕らえるつもりで彼女と交戦していた騎士達だったが、それを諦めて十六夜達を捜しに行こうとする。

 予めギフトゲームが一週間後に行われることを知っていた彼らは、本拠の私財は全て宝物庫に保管済みだし、本拠を保護する恩恵(ギフト)も完璧だ。水樹の放つ水流は凄まじいが、宮殿を破壊できるだけの力はない。

 それ故に、後回しにするという選択肢が残っており、〝名無し〟相手で屈辱ではあるが、確実な勝利を掴むために冷静に優先すべき行動に移る。

 一方の飛鳥は、騎士達に言われている通り、発見された彼女はゲームマスターへの挑戦権を失っている。だが彼女の役割はあくまで囮と露払い。だが逃げ回ることなど彼女の性分ではない。彼女のギフトで同士討ちをさせるのも考えたが、それでは些かゲームの華に欠ける。だから飛鳥は騎士達が自分を無視できないようにと白亜の宮殿の破壊を試みたが………結果は無理だった。

 それでも、飛鳥を人質に取ろうと一斉攻撃してきた騎士達と交戦することができていたが、それもいよいよ向こうが諦めをつけて十六夜達を捜しに行こうとしているとなると、時間稼ぎも厳しくなってきた。

 彼らの足止めをするのは、私一人じゃもう限界みたい。だから―――

 

 

「出番よ!ライムさん!」

 

 

「了解したぞ飛鳥!」

 

 

 飛鳥は背後に隠れていたライムの名を呼ぶと、彼女は頷き飛び出した。そして黄金の翼を背に広げ音速で騎士達に急接近した。

 

『は?』

 

「悪いが、お主達は行かせぬぞ?」

 

 そう言って、ライムは騎士の一人の顔面を蹴り抜き、彼を音速で宮殿の柱に叩きつけた。

 驚愕する騎士達。それもそうだ、〝ノーネーム〟の主力に違いない吸血鬼の真祖が、こんなところで失格覚悟の奇襲をしてくるなど、一体誰が思うというのか。

 勝負を捨てたのかと思ったが、ルイオスの側近達から聞いた話を思い返す。

 

 

『〝ノーネーム〟の金髪の少年は要注意人物だ!油断は禁物だぞ!』

 

『何せ奴は海魔とグライアイを打倒できるだけの恩恵を持っているからな!十分用心しろ!』

 

 

 そう、ルイオスの相手になるやもしれぬ〝ノーネーム〟の主力は、目の前の真祖だけではない。いまだ発見できていない金髪の少年もまた、そうなのだ。下手をすれば真祖以上の実力を持つかもしれない強敵の可能性だって考えられるのだから。

 騎士達は一時的に真祖の出現に驚いたが、すぐに冷静さを取り戻して交戦に当たった。流石に真祖相手に背を向けるのは下策と取ったのだろう。

 

「チッ、真祖も囮で現れるとは予想外だ!」

 

「仕方ない!不可視のギフトを持つ者は残りのメンバーを捜しに行け!小娘と真祖は我々が押さえるぞ!」

 

「真祖の能力には気をつけろ!できるだけ奴の眼を見るな!」

 

 騎士達は空駆ける靴で飛び回りライムを包囲する。魔眼を警戒しているのか、なるべくライムの眼を見ないようにしながら彼女に接近してくる。

 そんな騎士達の判断にライムは、ほう、と感心した。

 

「我が魔眼の対策法を知っているのだなお主達」

 

「そうだ!更に吸血鬼の弱点である純銀製の武具で身を固めている。貴様では我々に触れまい。大人しく投降しろ!」

 

「そうか―――だが、断る!」

 

「何?」

 

「そんなもの―――こうすればいいのだからな!」

 

 ライムは音速で騎士達の包囲網を抜け出すと、視界に彼らの姿を捉えて、

 

「魔眼発動―――」

 

 魔眼を発動した。騎士達は慌ててライムの眼から視線を逸らす。が、ライムの狙いは彼らに〝催眠術〟をかけることではなく、

 

「―――〝念動力(サイコキネシス)〟」

 

 彼らの武具を奪うことなのだから。

 

『は?―――何!?』

 

 ライムの紅い瞳が輝きを増すと同時に、ポルターガイストよろしく、騎士達の手から純銀製の剣やら槍、盾が放れて空中に浮遊していった。

 その光景に驚愕する騎士達。それに追い打ちをかけるようにライムは叫ぶ。

 

「今だ飛鳥!」

 

「ええ!―――水樹よ、纏めて薙ぎ払いなさい!」

 

「「「「………!?しまっ―――ぎゃあ!?」」」」

 

 飛鳥はギフトで支配した水樹に命令する。水樹は刃物のように高圧縮された水を高速発射し、武具を失い焦っていた騎士達を撃墜していった。

 ライムはその様子を一瞥したのち、飛鳥に振り向き親指をビシッ!と立てる。飛鳥も親指を立ててそれに応じる。

 騎士達は、その隙に状況を整理する。真祖の魔眼が、者だけでなく物にすら干渉できることを知り焦る。これでは視界に入らないように接近しなければ真祖を捕らえることはできないではないか。

 だが、真祖が〝念動力〟を自分達には使わずに、武具に使ったところをみると、もしかして自分達には使えないことを意味しているのではないか?と考察してみる。

 それに奪われた武具は〝ロザリオ〟が万が一にということで用意してくれた対吸血鬼用のものだけ。自分達の履いているヘルメスの靴のレプリカは奪われていない。霊格はこちらが勝っているのだろうか?

 そう考えてみると、真祖の攻略も無理なものではないような気がしてきた。まあ、別にそういうわけではないのだが。

 ライムが騎士達本人に〝念動力〟をかけないのは、単純に面白くないからだ。魔眼の対策法を知っているからというのもあるが、相手を操るのは追い詰められた時で十分。

 それに、囮役には飛鳥もいる。協力プレイは自分の子達や眷属達とやったことは多々あったが、人間にして友人の飛鳥とは今日で初。どれだけ連携が取れるか、試すいい機会だった。ならば試さない手はない。

 

「(―――とはいえ、ここで呑気に遊ぶつもりはないがな。我が愛しの耀が心配なのだ。飛鳥には悪いが、早急にこやつらを片付けるとしよう!)」

 

 そう決めたライムは、周囲にいる騎士達に目を向ける。それに気付いた騎士達は武具を取られまいと、ライムの視界から抜けた。

 

「ぬ?」

 

「そう同じ手が通じると思うな!」

 

 低空飛行して一気にライムに接近する騎士達。だがそれはライムの想定内だったらしく、別段慌てることもなく、両手を振り下ろした。

 その行為を不可解に思った騎士達は、武具を構え直して警戒―――ゴッ!

 

「ガッ!?」

 

 一人の騎士が呻き声をあげて落下する。音速で襲ってきた剣の柄を後頭部に受けて。

 

「な、何だ!?―――ギッ!?」

 

 次に音速で襲ってきた盾が別の騎士の顔面を打ちのめして、彼はその盾と揃って柱に叩きつけられた。

 流石に異変に気付いた騎士達はライムへの進行をやめて見上げる。すると頭上には、無数の武具が宙を舞っていた。これらは確か………自分達の武具だ。さっき水樹のウォーターカッターのような一撃にやられた同士が持っていたものだ。

 見落としていたことを悔いる騎士達を、ライムは愉しげに笑って眺めた。

 

「残念だったなお主達。我が魔眼に気を取られ過ぎたようだのぅ。生憎だが〝念動力〟の異能はまだ解いておらぬぞ?」

 

「―――っ!」

 

 ライムの言葉に、チッと舌打ちして騎士達は一旦彼女から距離を取る。そして彼らは自分達が不利だということを悟った。

 地上戦は飛鳥の操る水樹の水流が。

 空中戦はライムの魔眼が脅威だ。

 数で押さえに行こうにも、二人の攻撃を回避して接近することさえままならない。不可視のギフトを持つものに協力してもらわなければ時間稼ぎくらいしかできないのだ。

 しかし優先すべきは彼女達の確保ではない。見つかっていない他のメンバーを捜し出すことだ。ならば精々、この二人が他のメンバーの助太刀に行けないように、逃がさないよう妨害するとしよう。

 距離を取ってから一向に仕掛けてくる気配がない騎士達に、ライムがムッと眉を寄せた。

 

「どうしたのだお主達。かかってこぬのか?」

 

「フン。我々の目的は貴様らを押さえることだが、下手に突っ込んでやられては元も子もないからな。挑発してもそれに乗るつもりはない」

 

 冷静な騎士達に、チッと舌打ちするライム。もっと慌ててくれるかと思ったが、どうやらそうもいかないらしい。

 ライムは、飛鳥の方に飛んでいき、

 

「飛鳥。済まぬが水を出してくれぬか?」

 

「え?いいけれど………ライムさん、泳ぐのかしら?」

 

「泳がぬわっ!我が流水が苦手なのを知っておるだろう!?」

 

「ええ。ちょっとからかってみたくなったのよ、ごめんなさいね」

 

「ぬぅっ!」

 

 怒るライムを、ニヤニヤしながら見つめる飛鳥。それからすぐに表情を戻して、

 

「水で何をするつもりなの?」

 

「む?ふっふっふっ、それは見てからのお楽しみなのだ」

 

「そう。じゃあ早速見せてもらおうじゃない」

 

「う、うむ。よかろう。見せてやるぞ」

 

 ライムが了承すると、飛鳥は水樹に早速命令した。

 

「水樹よ―――水を生み出しなさい!」

 

 飛鳥の命令を受けた水樹は、早速大気中の水分を葉から吸収して増量させ、大量の水を生み出す。その放出された水流は、床を濡らさずにライムの右掌の上に引き寄せられていき―――それはやがて巨大な水球を形作った。

 

「え!?」

 

『なっ!?』

 

 驚愕する飛鳥と騎士達。ライムは、クックッと笑って騎士達に忠告した。

 

「ほれお主達。驚いている暇はないぞ?」

 

 そう言って、音速で巨大な水球を騎士達目掛けて投げつけるライム。

 

「ま、まずい!た、退避ッ!!」

 

 慌てて散開する騎士達。だが号令が遅かったため、逃げ遅れた十数人の騎士達が水球に直撃して飲み込まれ、音速で吹き飛ばされた。

 運よく逃れた騎士達が唖然と吹き飛ばされていった同士達の方を見た。宮殿は無事だったが、吸血鬼にあんな能力があるとは思いもしなかった。

 そう思ったのは彼らだけではない。飛鳥もまた、唖然とライムを見つめて、

 

「………今のは、魔女のギフトなの?」

 

「違うぞ飛鳥。自然元素の操作は真祖の異能だ」

 

「自然元素?」

 

「うむ。主に火・水・風・土の四大元素を操れるのぅ。他にも雷や霧とかも可能だな。水樹の生み出す水を操れるのは、我が真祖だからなのだよ飛鳥」

 

 ガルドが自然元素の【火】を扱えていたのは、ライムの、真祖の姫君アイリスの眷属となったことで彼女の能力の一部を手に入れていたからなのだ。まあ、真祖ではないから宿す程度だが。

 

「そ、そう。………操れるってことは、生み出すことはできないのね」

 

「ぬ?………そ、そうだな。生み出せる、というか生物を同類に変えるくらいかのぅ」

 

「それって、吸血鬼にするってことかしら?」

 

「う、うむ。………もう二度と人を吸血鬼に変えたくないがな」

 

「………あら、何か言った?」

 

「い、いや!なんでもないぞ!?うむ!なんでもない………っ!」

 

 慌てて両手を振るライム。飛鳥は怪しく思ったが、今はそんな時ではないと割り切って、騎士達の様子を見る。最初の時より半分以下にまで動ける騎士達は減っていた。

 

「このまま全員気絶させられたら春日部さん達の援護に行けそうね」

 

「そうだな。あとの連中を倒して我が愛しの耀を守りに行きたいところだが―――ッ!!?」

 

 不意に言葉が途切れるライム。飛鳥は不思議に思い首を傾げる。

 

「………どうしたのライムさん?」

 

「―――れた」

 

「え?」

 

「―――耀がやられた」

 

「えっ!?春日部さんが!?―――ってどうしてそんなことが分かるの!?」

 

「済まぬが飛鳥………説明はしてやれぬ!残りの連中の相手を任せてもよいか!?」

 

 これ以上にないライムの焦りように、飛鳥は聞きたい気持ちを押さえて頷いた。ライムは、済まぬと申し訳なさそうに頭を下げると、体を黄金の霧へ変えて耀の元へ向かっていった。

 

 

 時を少し遡り、飛鳥とライムの二人と分かれた十六夜達は、二人と対照的に息を殺して状況を窺っていた。

 宮殿の柱の陰に隠れ、耳を澄まして周囲の気配を探る耀。ライムのギフトはまだ使用せず温存している。

 やや間があってピクリと反応を示した耀は全員に目配せし、

 

「人が来る。皆は隠れて」

 

 緊張した声で警告する。如何に姿が見えないと言っても、物音や匂いまで消せるものではない。耀の高性能の五感は、不可視のギフトに対抗する唯一の手段………いや、ライムの五感も異常だが中身が〝お馬鹿〟だから冷静な耀の方が適任であるといっておこう。

 獣のように腰を落とした耀は、見えない敵に奇襲を仕掛けた。

 

「な、なんだ!?」

 

 驚愕の声をあげる不可視の騎士。耀はすかさず後頭部を激しく強打する。

 騎士は何故居場所がばれたのか分からずに一撃で失神した。前のめりに倒れ込んだ騎士から兜が落ちる。すると虚空から騎士の姿が現れた。その様子を見て耀が察する。

 

「この兜が不可視のギフトで間違いなさそう」

 

「ホレ、御チビ。お前が被っとけ」

 

「わっ」

 

 十六夜が兜を拾い上げてジンの頭に乗せる。ジンの姿は瞬く間に色をなくして姿を隠す。〝ノーネーム〟側のゲームマスターであるジンが見つかれば、その場で敗北が決定する。まずは彼の安全を確保するのが最優先だ。

 耀は姿の消えたジンを確認して二度三度と頷く。

 

「やっぱり不可視のギフトがゲーム攻略の鍵になってる。どんなに気を付けたところで姿を見られる可能性は排除できないもの。最奥に続く階段に数人も護衛をつければ、どうやってもクリアはできない」

 

「連中が不可視のギフトを使っているのを限定しているのは、安易に奪われないためだろうな。………なら最低でもあと一つ、贅沢言えば二つ欲しいところだが………」

 

 珍しく言い淀む十六夜。確実に最奥に進む必要があるのはジン・十六夜の二人だけ。

 耀も入れて三つあれば文句ないのだが、欲をかいては仕損じることもある。

 

「おい、御チビ。作戦変更だ。俺と春日部で透明になってる奴を叩く。ギフトを渡せ」

 

「は、はい」

 

 ジンが十六夜に兜を手渡す。それを受け取った十六夜は、兜をつける前に、耀を確認する。

 

「前哨戦をちまちまやっていても埒が明かない。本命はルイオスだ。春日部には悪いけど」

 

「気にしなくていい。寧ろ私まで最奥に行っちゃったら、ライムが拗ねる。〝我を置いて十六夜達に付いていくとは何事か!〟―――って」

 

「あー、それは言えてるな。浮気したら春日部の真祖()を怒らせちまうもんなあ」

 

「ぶふぅ―――っ!?」

 

 十六夜の不意打ちの言葉に思わず噴き出す耀。それからすぐにニヤニヤ顔の十六夜を睨んで、

 

「か、からかわないで!今はそんな時じゃないんだよ!?」

 

「ヤハハハ、悪いな。ついからかっちまったぜ」

 

 つか、真祖ロリを嫁扱いしたのに否定しなかったってことは、春日部が狙ってるのは【夫】の立場かと内心で呟く十六夜。まあ、真祖ロリはどちらかというと嫁の方が向いてるし、俺は賛成だけどな。

 もう!と不貞腐れる耀の顔を見たあと、十六夜はジンに視線を向けて、

 

「御チビは隠れとけ。死んでも見つかるな」

 

「はい」

 

 ジンが身を潜めるのを確認した十六夜は、兜を被り姿を隠す。そして耀とともに物陰から飛び出して白亜の宮殿を駆け回り始めた。

 

「いたぞ!名無しの娘だ!」

 

「真祖はすでに見つかっているから敵の残りは三人だ!あとは例の少年を捜し出せ!奴は危険だからな!」

 

「ならその娘を捕らえろ!人質にして少年を炙り出せ!」

 

 耀に襲いかかる騎士達。それを姿の見えない十六夜が、ヤハハハと笑い、

 

「お前らのお捜しの少年様は、ここにいるぜ?」

 

「「「はっ!?―――ぐわっ!?」」」

 

 殴り飛ばした。彼らは揃って第三宇宙速度で吹き飛ばされて、宮殿の壁に叩きつけられクレーターを作り上げた。もし宮殿を保護する恩恵が不完全だったならば、雲海の彼方まで吹き飛ばされていただろう。

 一撃で気絶した騎士達を見下ろしたあと、十六夜は耀に確認を取った。

 

「どうだ、春日部。分かるか?」

 

「ううん………飛鳥とライムが暴れている音や、他の音が大きすぎてちょっと………きゃあっ!?」

 

 突然、前触れなく耀が吹き飛んで壁に叩きつけられた。いや、それだけじゃない。耀の全身を、雷にでも撃たれたかのように痺れて焼けるような激痛が襲った。

 

「―――春日部!?」

 

 十六夜の驚愕の声が耀の耳を掠める。だがその声が遠ざかっていくような感じがした。

 ………い、たい。ライム、のギフト………再生能力を、使ってる、のに………全然、癒えない。

 それもそのはず、耀が受けた鈍器(鉄槌)は、真祖の再生能力を麻痺させる属性【雷】を纏っているのだから。真祖のギフトを得た耀の再生能力さえ、非常に緩慢になってしまっているのだ。

 ………だ、め。意識が、遠のい、て………

 

 

「―――耀ッ!!!」

 

 

 耀の耳に、愛しい真祖の声がハッキリと届いた。

 音速を凌駕した超音速に匹敵するほどの速度で耀の下へ駆けつけたライムが、不可視の騎士が放つ追撃の一閃から守る。耀を抱き上げてその軌道から抜け出すことによって。

 ライムの腕の中で、遠のきかけた意識をなんとか呼び戻せた耀が、弱々しく呟く。

 

「ライ、ム………?どうして、ここに?」

 

「耀がやられたからに決まっておるだろう!?」

 

「そう、なんだ。飛鳥は、無事?」

 

「ああ!飛鳥なら心配いらぬ!それよりも自分の心配をせぬかっ!」

 

 怒りながらも、耀の頬に優しく触れて治癒魔法を発動させる。気休め程度にしかならないが、ないよりマシだ。

 ライムの温かい力を感じて、耀は安堵したような表情を見せる。だからなのか、全身から力が抜けていき、そのまま意識を失った。

 

「………耀!?」

 

 意識を失って動かなくなった耀に焦るライム。だが彼女の体は温かいままだったため、死んだわけではないことを悟りホッと胸を撫で下ろす。

 だがすぐにその優しげな表情は、怒りへ塗り潰された。耀を壁に凭れかけさせると、振り返って不可視の騎士に告げた。

 

「ハデスの兜を被っておる姿が見えぬ騎士よ。貴様だけは絶対に許さぬッ!耀に重傷を負わせた罪は重いぞ!故に貴様だけは生かして帰さぬッ!!我を本気で怒らせたことを後悔したまま死ぬがよいッ!!!」

 

 そしてライムは、ツインテールにしていたリボンを解き、再び殺人鬼になる覚悟をもって〝ソレ〟を解放した。

 ツインテを解いたライムの雰囲気はがらりと変わり、狂喜な嗤い声が宮殿内に響き渡る。

 

「クフフフ!ヒサしぶりのカンゼンカイホウ………カンシャするわ。じゃあエンリョなく―――クいコロしてあげる♪」

 

 ライムの姿をした〝ソレ〟は狂喜に嗤いながら、不可視の騎士に宣言した。




真祖の姫君の眷属となって手に入れた側近の男の異能は、【雷】系統でした。
能力は、雷で焼き、真祖クラスの再生能力を麻痺させる。
中二っぽい名称は次回の本編にて。


飛鳥とライムVS騎士達数十人。
耀が不可視の騎士を一名撃破。
側近の男の一撃で、耀は重傷を負う。
ライムが駆けつけ、そして怒りのまま封印完全解放。


次回は、
ライム(狂気モード)VS側近の男
○○ライムVS十六夜(一瞬で終わるけど)
十六夜VSルイルイ&アルゴール

一巻完結は残り二話の予定です(*^^*)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。