問題児たちと最後の吸血鬼が異世界から来るそうですよ?   作:問題児愛

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最近眠くて執筆が進まない………
遅くなってすみません。
では、どうぞ(^^)


四話 吸血衝動と居場所

 日が暮れた頃に噴水広場で合流し、話を聞いた黒ウサギは案の定ウサ耳を逆立てて怒っていた。

 突然の展開に嵐のような説教と質問が飛び交う。

 

「な、なんであの短時間に〝フォレス・ガロ〟のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」

「しかもゲームの日取りは明日!?」

「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」

「準備している時間もお金もありません!」

「一体どういう心算(つもり)があってのことです!」

「聞いているのですか四人共!!」

 

 

「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」

 

 

「吸血鬼の真祖たる我に、反省の文字はない!ふっははははは!」

 

 

「黙らっしゃい!!!高笑いしてるお馬鹿様は即刻反省してください!!!」

 

 まるで口裏を合わせていたかのような言い訳をする三人と、反省の色を見せないライムに激怒する黒ウサギ。

 それをニヤニヤと笑って見ていた十六夜が止めに入る。

 

「別にいいじゃねえか。見境無く選んで喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」

 

「い、十六夜さんは面白ければいいと思っているかもしれませんけど、このゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ?この〝契約書類(ギアスロール)〟を見てください」

 

 黒ウサギの見せた〝契約書類〟は〝主催者権限(ホストマスター)〟を持たない者達が〝主催者〟となってゲームを開催する為に必要なギフトである。

 そこにはゲーム内容・ルール・チップ・賞品が書かれており〝主催者〟のコミュニティのリーダーが署名することで成立する。

 

「〝参加者(プレイヤー)が勝利した場合、主催者(ホスト)は参加者の言及する全ての罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する〟―――まあ、確かに自己満足だ。時間をかければ立証出来るものを、わざわざ取り逃がすリスクを背負ってまで短縮させるんだからな」

 

 ちなみに飛鳥達のチップは〝罪を黙認する〟というものだ。

 それは今回に限ったことではなく、これ以降もずっと口を閉ざし続けるという意味である。

 

「でも時間さえかければ、彼らの罪は必ず暴かれます。だって肝心の子供達は………その、」

 

 黒ウサギが言い淀む。

〝フォレス・ガロ〟の悪評は聞いていたが、そこまで酷い状態になっているとは思っていなかったのだろう。

 

「そう。人質は既にこの世にいないわ。その点を責め立てれば必ず証拠は出るでしょう。だけどそれには少々時間がかかるのも事実。あの外道を裁くのにそんな時間をかけたくないの」

 

 箱庭の法はあくまで箱庭都市内でのみ有効なものだ。

 外は無法地帯になっており、様々な種族のコミュニティがそれぞれの法とルールの下で生活している。

 そこに逃げ込まれては、箱庭の法で裁くことはもう不可能だろう。

 しかし〝契約書類〟による強制執行ならばどれだけ逃げようとも、強力な〝契約(ギアス)〟でガルドを追い詰められる。

 

「それにね、黒ウサギ。私は道徳云々よりも、あの外道が私の活動範囲内で野放しにされることも許せないの。ここで逃がせば、何時かまた狙ってくるに決まってるもの」

 

「僕もガルドを逃したくないと思っている。彼のような悪人は野放しにしちゃいけない」

 

 飛鳥に同調する姿勢を見せるジン。

 ライムも強く頷いて、

 

「幼子を手にかけるようなコミュニティは我は不快だ。即刻退場してもらわなければ腹の虫が治まらぬ」

 

 ガルドの体から匂った子供の血の臭いを思い出して、怒りの表情を浮かばせる。

 そんな彼女に、十六夜はニヤリと笑って、

 

「へえ?アンタは吸血鬼だから子供の血とか好きそうなイメージが俺にはあったんだけどな」

 

「―――ッ!!?」

 

 十六夜はラミアーという、子供の血を啜る女吸血鬼のイメージを口にすると、ライムがぎょっと目を見開き見返してきた。

 彼女のその反応を訝しく思った十六夜がじっと見つめると、ライムは視線を逸らして拳をぎゅっと固く握り締めた。

 

「………ライム?」

 

 耀はライムの辛そうな表情を見て、心配そうに声をかける。

 

「………耀。我は、平気だ」

 

「嘘は駄目。辛いなら、私が力になるから」

 

 そう言って耀はライムを抱き締める。『よしよし』と彼女の頭を優しく撫でてあげる。

 ライムは、耀の優しさと温もりを感じて泣きそうになる。こうしてもらったのはもう数十年ぶりのことか。

 耀の肩に頭を乗せたライムは、ふと彼女の白くて細く綺麗な首筋が視界に映り、

 

「………っ!!?」

 

 今来て欲しくない衝動が、彼女を襲った。

 人間の生き血を最後に啜ったのはもう何十年と経つ。それは彼女の周りから人間の友が消えていたからだ。

 今日まで人間の生き血を啜りたい衝動―――即ち吸血衝動に襲われなかったのは、彼女に〝殺意〟以外の感情を持って近寄ってきた人間がいなかったからなのだ。

 だが今は〝友達〟の関係を結んだ人間が目の前にいて、かつすぐにでも彼女の首筋に牙を突き立てて鮮血を啜れてしまう状況にある。

 まずい………そう思ったライムは咄嗟に耀を突き飛ばした。

 

「きゃっ………!」

 

 ライムに突き飛ばされて尻餅をつく耀。

 

「春日部さん!?」

「「耀さん!?」」

 

 その光景を見ていた飛鳥・黒ウサギ・ジンの三人が驚きの声を上げる。

 飛鳥がキッとライムを睨み付け、

 

「何をしてるのライムさん!どうして春日部さんを突き飛ばしたりなんかしたの!?」

 

「す、済まぬ飛鳥。これには深い事情があるのだ………だから今は我に近寄らないでくれ」

 

「は?貴女何を言って」

 

 そこまで言って口を閉じる飛鳥。苦しそうに胸を押さえているライムを見て、様子がおかしいことを察したのだろう。

 耀はゆっくりと立ち上がってライムを心配そうに見つめる。

 

「どうしたのライム?大丈夫?」

 

「耀………突き飛ばしてしまって済まぬな。だが頼むから、今だけは………我に近寄らないでくれ」

 

「………!うん、わかった」

 

 耀はライムの異変に気付いて頷いた。

 ライムの異変。それは彼女の口からはみ出ている白くて長く鋭い牙だ。

 さっきまで通常サイズだったはずの彼女の犬歯が、まるで首筋に突き立てる為に伸びたとばかりに口からはみ出している。

 もし今の彼女に近付こうものならば、容赦無く首筋に噛み付かれて吸血鬼化してしまうだろう。

 耀達が動けずにいる中、十六夜だけは平然とライムの下へ歩み寄る。

 

「え?ちょ、十六夜さん!?何をしているんですか!?」

 

「何をしてるって、見りゃ分かるだろ黒ウサギ。これから真祖ロリの吸血衝動を抑えるんだよ」

 

「へ?ライムさんの吸血衝動を止めるって、一体どうやって」

 

「まあ見てなって」

 

 ニヤリと笑って十六夜はライムに向き直る。

 ライムは十六夜を睨み返して、

 

「………警告はしたぞ、十六夜とやら」

 

「ああ。来るなら来いよ真祖ロリ。俺を吸血鬼に出来るものならやってみな」

 

 くいっと手を折り挑発する十六夜。

 ライムはムッと眉を顰め、

 

「―――ッ!!!」

 

 地面にヒビを入れる踏み込みで十六夜に襲いかかった。

 距離は二メートル弱。その距離を一瞬で詰めたライムだったが、

 

「遅いな」

 

 十六夜はそれ以上の速さで彼女の背後に回り、素早く両腕を脇下から忍ばせると両手を彼女の胸へ伸ばして鷲掴み、

 

「うひゃあっ!」

 

 軽く一揉みした。

 

「「「「―――………は?」」」」

 

 十六夜の行動に素っ頓狂な声を洩らす耀達四人。

 まさかの攻撃(?)に驚愕と羞恥の混ざった表情をするライム。

 十六夜は、ふむと真剣な顔をしてライムの胸を揉みながら、

 

「こいつは中々の揉み心地だな。サイズは黒ウサギの方が好みだが、真祖ロリのはこれはこれで良」

 

「んっ………!い、何時まで揉んでおるのだ戯けがッ!!!」

 

 ズン!とライムの怒りの肘鉄が十六夜の脇腹を強撃した。吸血鬼の力を全開にして叩き込んだのだ。

 しかしそれをまともに食らっておきながら十六夜は涼しい顔で立っている。デタラメな身体である。

 

「そう怒るなよ真祖ロリ。吸血衝動を止めてやったんだからさ」

 

「ぬ?た、確かに吸血衝動は治まったのぅ。ありが―――ではなく、他に方法があっただろ!?」

 

「なんだ?殴られた方が良かったか?」

 

「ぐぬ!?な、殴られるのは………嫌だ」

 

「だろ。ならお互いに得したってことでお相子でいいな?」

 

「う、うむ」

 

 犬歯の長さは元のサイズに戻っている。納得いかないが吸血衝動は治まった。本当に不本意だがライムは十六夜に感謝した。

 十六夜はライムの実力が自分以下なのと、吸血衝動時の動きが単純過ぎて隙だらけなことを知ってほくそ笑む。

 隙あらば狙っていこうと十六夜は思う。出来れば黒ウサギの方が断然良いのだが。

 そんな十六夜の視線に黒ウサギは身の危険を察したのか胸元を隠して睨み返す。

 飛鳥も十六夜(へんたい)と接する際は十分に気を付けようと思った。

 ジンは何か見てはいけないものを目撃してしまい顔を真っ赤に染めて視線を逸らしている。

 耀だけは十六夜(へんたい)のことよりライムが正気を取り戻したことに安堵していた。

 それと同時に吸血衝動の抑え方があるのなら教えて欲しかったと思った。胸を揉むのだって自分がやったのにと。

 十六夜が〝変態〟なのはさておき、黒ウサギが咳払い一つで話を戻す。

 

「ライムさんの吸血衝動が治まりましたので話を戻すのですよ」

 

「話?そんなのあったっけか?」

 

「ありましたよ!飛鳥さん達が〝フォレス・ガロ〟とギフトゲームをすることになったという大事な話がです!」

 

「ああ。あったわね、そんな話」

 

 ライムの異変の方に気がいって完全に本題を忘れていた飛鳥達三人とライム本人。

 ガクリと項垂れる黒ウサギ。ジンも苦笑いを浮かべている。

 

「はぁ………まあいいデス。ライムさんの心配をしていたのは黒ウサギも同じですし。それに〝フォレス・ガロ〟程度なら十六夜さんが一人いれば楽勝でしょう」

 

 ライムのことが気がかりだったのは黒ウサギも同じだ。

 そして十六夜の実力ならば〝フォレス・ガロ〟の相手など余裕だと正当な評価をする。

 しかし十六夜と飛鳥は怪訝な顔をして、

 

「何言ってんだよ。俺は参加しねえよ?」

 

「当たり前よ。貴方なんて参加させないわ」

 

 フン、と鼻を鳴らす二人。

 黒ウサギは慌てて二人に食ってかかる。

 

「だ、駄目ですよ!御二人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」

 

「そういうことじゃねえよ黒ウサギ」

 

 十六夜が真剣な顔で黒ウサギを右手で制する。

 

「いいか?この喧嘩は、コイツらが売った。そしてヤツらが買った。なのに俺が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」

 

「あら、分かっているじゃない。それにいざとなったらライムさんに頑張ってもらうもの」

 

「ぬ?我がか?」

 

 急に話を振られて戸惑うライム。

 耀はそんな彼女に微笑みかけ、

 

「うん。期待してるよライム」

 

「………!ふふ、良かろう!吸血鬼の真祖たる我がお主達を守ってやる!薄汚い虎如きなどに指一本も触れさせてやらぬわ!わっははははは!」

 

 飛鳥と耀(ともだち)に頼りにされて気分上々のライム。

 与し易くて助かると悪女二人が密かに笑う。

 やっぱアイツは馬鹿だなと十六夜もクックッと喉を鳴らして笑う。

 

「………ああもう、好きにしてください」

 

 丸一日振り回され続けて疲弊した黒ウサギはもう言い返す気力も残っていない。

 どうせ失う物は無いゲーム、もうどうにでもなればいいと呟いて肩を落とすのだった。

 

 

 椅子から腰を上げた黒ウサギは、横に置いてあった水樹の苗を大事そうに抱き上げる。

 コホンと咳払いをした黒ウサギは気を取り直して全員に切り出した。

 

「そろそろ行きましょうか。本当は皆さんを歓迎する為に素敵なお店を予約して色々とセッティングしていたのですけれども………不慮の事故続きで、今日はお流れとなってしまいました。また後日、きちんと歓迎を」

 

「いいわよ、無理しなくて。私達のコミュニティってそれはもう崖っぷちなんでしょう?」

 

 驚いた黒ウサギはすかさずジンを見る。

 彼の申し訳なさそうな顔を見て、自分達の事情を知られたのだと悟る。

 ウサ耳まで赤くした黒ウサギは恥ずかしそうに頭を下げた。

 

「も、申し訳ございません。皆さんを騙すのは気が引けたのですが………黒ウサギ達も必死だったのです」

 

「もういいわ。私は組織の水準なんてどうでもよかったもの。春日部さんはどう?」

 

 黒ウサギが恐る恐る耀の顔を窺う。

 耀は無関心なままに首を振った。

 

「私も怒ってない。そもそもコミュニティがどうの、というのは別にどうでも………あ、けど」

 

 思い出したように迷いながら呟く耀。

 ジンはテーブルに身を乗り出して問う。

 

「どうぞ気兼ねなく聞いてください。僕らに出来る事なら最低限の用意はさせてもらいます」

 

「そ、そんな大それた物じゃないよ。ただ私は………毎日三食お風呂付きの寝床があればいいな、と思っただけだから」

 

 ジンの表情が固まった。

 この箱庭で水を得るには買うか、もしくは数キロも離れた大河から汲まねばならない。

 水の確保が大変な土地でお風呂というのは、一種の贅沢品なのだ。

 その苦労を察した耀は慌てて取り消そうとしたが、先に黒ウサギが嬉々とした顔で水樹を持ち上げる。

 

「それなら大丈夫です!十六夜さんがこんな大きな水樹の苗を手に入れてくれましたから!これで水を買う必要も無くなりますし、水路を復活させることも出来ます♪」

 

 一転して明るい表情に変わる。

 これには飛鳥も安心したような顔を浮かべた。

 

「私達の国では水が豊富だったから毎日のように入れたけれど、場所が変われば文化も違うものね。今日は理不尽に湖へ投げ出されたから、お風呂には絶対入りたかったところよ」

 

「それには同意だぜ。あんな手荒い招待は二度と御免だ」

 

「全くだ。お陰で我は溺れかけたぞ」

 

「あう………そ、それは黒ウサギの責任外―――え?」

 

「「「………溺れかけた?」」」

 

 ライムの発言に驚く黒ウサギ達四人。

 耀だけは、うん、と首肯して、

 

「ライムは泳げないからあの時、私が助けた」

 

「そう。ライムさん、泳げなかったのね」

 

 ぷっ、と笑う飛鳥。

 ライムはムッと不機嫌そうな顔で飛鳥を睨み、

 

「な、なんだ飛鳥。泳げなくて何が悪い!別に泳げなくたって生きていけるわっ!」

 

 フン、と拗ねた子供のように剥れるライム。

 飛鳥と耀がニヤニヤと笑いながら彼女を見つめる。

 溺れかけた。それを聞いた十六夜は首を傾げて、

 

「吸血鬼は緩い水流や穏やかな海面を歩いて渡れるんじゃねえのか?」

 

「ぬ?無論、出来るぞ」

 

「へえ。じゃあなんで溺れかけたんだ?」

 

「ぐぬ………それは、あの時は思考が停止していて空を飛べることすら忘れていたからなのだ!」

 

 唇を尖らせながら言い訳を口にするライム。いや、事実を言っているのだから言い訳とは言わないが。

 ライムをニヤニヤと笑いながら見つめる問題児三人。

 苦笑いを浮かべる黒ウサギとジン。

 耀は、あっと思い出したように表情を戻して、

 

「ライムはどうなの?黒ウサギ達に騙されて怒ってる?」

 

「ん?いや、別に怒ってなどないぞ。我はコミュニティの状態よりも、ある願いを聞き入れてくれさえしてくれれば………満足だからな」

 

「ある願いを、ですか?それは………何ですか?」

 

 ジンが恐る恐るライムに訊ねる。

 ライムは胸元に手を置くとフッと儚げな表情を浮かべて、

 

「その願いは―――我を()()()()()。ただそれだけだ」

 

「え?」

「……………」

 

 黒ウサギは驚き、十六夜は無言になる。

 一方、耀達三人は彼女の言葉の意味を理解したような気がした。

 自分と友達にならない方がいい。ライムのその言葉を聞いていた三人だけは。

 

「先程の吸血衝動を見て分かったであろう?我が如何に危険な存在かどうかを。何時襲ってくるかも分からぬ衝動に、お主達は怯えながら暮らす羽目になるのだぞ?」

 

「……………」

 

「それに我は吸血鬼の真祖だ。我に血を啜られた者の中で、吸血鬼化しなかった者など存在せぬ。獣にしろ人間にしろ、皆我の眷属となったからな」

 

 遠い目をするライム。自分のせいで吸血鬼化(ぎせい)になった人間や獣の数は計り知れない。

 ライムは十六夜に視線を向けて、

 

「………十六夜。我に子供の血が好きそうだとか聞いたな?」

 

「ああ、そうだな」

 

「お主の言う通りだ。我は人間の………それもどうしてか子供の血が恋しい。ガルドとやらの体から匂った子供の血を嗅いでから、我の精神は不安定なのだ」

 

「だから吸血衝動を引き起こした、ってわけか」

 

 十六夜の言葉に首肯するライム。

 次にジンに視線を向けて、

 

「ジン。お主のコミュニティは子供達が沢山おるのだろう?」

 

「は、はい」

 

「我はその子供達の血を好む吸血鬼だ。そんな爆弾をコミュニティに置けるか?」

 

「そ、それは………」

 

 ジンは返答出来ずに言葉が詰まる。彼女を受け入れて良いのだろうか。受け入れたことでコミュニティや彼女自身を傷付けたりしないだろうか。

 最後に耀と飛鳥に視線を向けて、

 

「耀、飛鳥。我と友達になってくれてありがとう。とても嬉しかった」

 

「………ライム」

 

「だが我は吸血鬼。吸血衝動という欠陥を抱えた人間の生き血を啜る化け物なのだ。そんな化け物と一緒にいてはお主達が傷付く。我もまたお主達を傷付けたくない」

 

「ライムさん………」

 

 十六夜達がライムを見つめる中、彼女は彼らを見回して今一度問いただす。

 

「こんな化け物でも一緒にいてくれるなら、我の手を取ってくれ。………嫌ならば、我はすぐさまこの箱庭から去ろう。それだけでは駄目ならば、幻獣の餌となりこの世からも―――」

 

 去ろう、と言う前にライムの手を真っ先に耀が取った。

 

「………耀?」

 

「言ったはずだよライム、私は平気だって。覚悟だって決めたのにそれを無下にするつもりなの?」

 

「え?あ、いや………それは、」

 

「それにせっかく友達になれたのに、お別れなんか嫌!」

 

 耀が泣きそうな顔で訴える。

 そんな彼女を見てライムの決意が揺らぐ。そんな顔をされては離れたくないじゃないか。

 耀に続いて飛鳥がライムの手を取り、

 

「覚悟なら私も決めてるわよ。今さら吸血衝動とかいうのを見せられたところで、揺らぐと思ったかしら?」

 

「あ、飛鳥?」

 

「それに明日には外道との戦いが控えてるのよ?すっぽかすなんて絶対に許さないわ!」

 

「ぬっ」

 

 ライムは押し黙る。飛鳥の言う通り、明日はガルド(げどう)とのギフトゲームがある。このタイミングでジンのコミュニティから去っては戦いを放棄して逃げ出したのと同義だ。

 飛鳥に続いて手は取らぬも十六夜がライムを見据えて、

 

「たった一回吸血衝動を引き起こしただけで弱気になるなよ。それでもアンタは真祖か?」

 

「ぐぬ、それは………その、」

 

「吸血衝動の事なら俺に任せな。俺ならアンタの暴走を止めてやれるからよ」

 

「………十六夜、お主」

 

「―――無償で真祖ロリの胸を揉めるしな」

 

「って、おい!我の感動を返せウツケがっ!!」

 

 ヤハハと笑う十六夜に呆れたような表情で見返すライム。

 だが彼が〝変態〟なのは置いといて、吸血衝動の抑止力になってくれるのは非常にありがたい。これなら友達を傷付ける心配がなくなるというものだ。

 平常運転な十六夜に苦笑しながら今度は黒ウサギがライムの手を取り、

 

「ライムさんは御自分を化け物と言いましたね?」

 

「ぬ?う、うむ」

 

「では黒ウサギ達のコミュニティを滅ぼした〝魔王〟は何ですか?この〝魔王〟こそ化け物だと黒ウサギは思うのですよ!」

 

「………では我は、」

 

「吸血鬼という人間とは違った種族で、吸血衝動という抗い難い症状を抱えた存在だとしても、化け物なんかじゃありません!」

 

 黒ウサギが言い切る。

 化け物じゃない。そう言われてライムは思わず泣きそうな表情を見せる。

 最後にジンが真剣な顔でライムを見つめて、

 

「大丈夫ですよライムさん。今さら吸血鬼が来たところで、子供達は怖がりません。それがたとえ真祖であっても僕達は貴女を受け入れます」

 

「え?それは真か………ジン?」

 

「はい。だから自分を化け物とかいって遠慮しないでください!僕達〝ノーネーム〟は貴女を、ライムさんを歓迎します!」

 

 ジンがライムに手を差し伸べる。

 受け入れる。彼の言葉にライムは嬉し涙を浮かばせる。

 彼女は涙を拭ってジンの手を取る前に、一つ引っかかる疑問を口にした。

 

「ジン、一つ質問いいか?」

 

「はい、何ですか?」

 

「今さら吸血鬼が来たところで、と言ったな?もしやお主のコミュニティに吸血鬼がいたのか?」

 

「………はい。僕達のコミュニティにかつてはいました。今はその、魔王に連れていかれていません」

 

 答えたジンが悲し気に目を伏せる。

 ライムは、そうか、と彼の言葉を飲み込み、彼の手を取った。

 

「そういうことなら我にも手伝わさせてくれ。その吸血鬼を魔王から取り返す手助けをさせてくれぬか?」

 

「………!本当ですか!?もし力を貸していただけるなら是非お願いします!」

 

「うむ。我なんかで良ければ同類奪還の為に尽力しよう。これからよろしく頼むぞ、ジン」

 

「はい!此方こそよろしくお願いします。ライムさん!」

 

 嬉しそうに笑ってライムの手を握り返すジン。

 同類奪還の手伝い。そういう内容でライムは〝ノーネーム〟の仲間入りを決めた。

 彼女の友達である耀と飛鳥にとっては、あれだけ彼女を引き止めようと言葉を並べたのに、結局は同類を優遇するという結果に複雑―――否、悔しい思いである。

 十六夜は結果オーライということで肩を竦ませた。

 黒ウサギは結果がどうあれ仲間にすることが出来たし、何より〝彼女〟の奪還に尽力してくれるのはとても喜ばしいことだった。

 ライムは改めて耀達を見回して、

 

「同類奪還の為とはいえ、これからお主達に沢山迷惑をかけるかもしれない。それでも我はお主達と仲良くやっていきたいと思ってる。だからこんな我だが仲良くしてくれると嬉しい。よろしく頼む」

 

 頭を下げて頼み込むライム。

 そんな彼女に耀達は、うん、と頷いて、

 

「勿論。改めてよろしくね、ライム」

 

「ええ。よろしくね、ライムさん」

 

「はいな!よろしくでございますよ、ライムさん!」

 

「はい。よろしくお願いします、ライムさん!」

 

「おう。アンタの暴走は胸を揉んででも止めてやるから安心しな」

 

「いや、ちっとも安心出来ないのだが!?というより揉みたいだけだろお主!」

 

「当然!」

 

 ヤハハと笑う十六夜に、ガクリと項垂れるライム。

 耀が項垂れるライムの頭を撫でながら、

 

「大丈夫。十六夜なんかに揉ませない。ライムの胸は―――私が揉むから」

 

「耀………って、は?」

 

「そうね。十六夜君なんかにライムさんの胸は揉ませないわ。その役割は私と春日部さんがするもの」

 

「いやちょっと待てっ!何故胸を揉む前提で話を進めてるのだ!?」

 

「「揉みたいから」」

 

 耀と飛鳥(ともだち)の発言に頭を抱えるライム。原因は十六夜の、中々の揉み心地という言葉だろう。

 彼女達二人は問題児故に、ライムの胸の感触を確かめたいのだ。

 ライムは、フン、と鼻を鳴らし黒ウサギの胸元を指差して、

 

「胸を揉むならば黒ウサギにしろ!あの兎の方が断然揉み心地が良いと我は思うぞ!」

 

「へ?」

 

「「「たしかにそれは言えてる」」」

 

 ポン、と手を打つ問題児三人は標的を黒ウサギに変更する。

 黒ウサギは冷や汗をダラダラと流しながら胸元を隠して問題児三人を睨み付け、

 

「だ、駄目なのですよ御三人!黒ウサギの胸は揉んでいいものではありません!」

 

「そう言われると余計揉みたくなるな。お嬢様や春日部もそう思うだろ?」

 

「「うん」」

 

 俄然やる気になる問題児三人。

 黒ウサギが、これはまずいと感じ始める中、ライムが、クックッと愉快そうに笑って、

 

「黒ウサギの胸を揉むのならば我も是非参加させてもらうぞ。あの時ハリセンでひっぱたかれた恨みも兼ねて、じっくりたっぷりとのぅ?」

 

「ひいっ!?」

 

 ライムの発言に思わず竦む黒ウサギ。

 じりじりと迫る問題児三人と変態(?)真祖(もうじゅう)に怯える黒ウサギ(しょうどうぶつ)

 そんな光景をジンは苦笑して、

 

「あはは………そろそろコミュニティへ帰る?」

 

「!!あ、ジン坊っちゃんは先にお帰りください。ギフトゲームが明日なら〝サウザンドアイズ〟に皆さんのギフト鑑定をお願いしないと。この水樹の事もありますし」

 

 ナイスタイミングとジンに感謝する黒ウサギ。

 ライム達四人は黒ウサギの胸よりも気になる言葉を聞いて首を傾げ、

 

「〝サウザンドアイズ〟?コミュニティの名前か?」

 

「YES。〝サウザンドアイズ〟は特殊な〝瞳〟のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」

 

「ギフト鑑定というのは?」

 

「勿論、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定する事デス。自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。皆さんも自分の力の出処は気になるでしょう?」

 

 同意を求める黒ウサギに三人は複雑な表情で返す。

 ライムもまた、自分の隠している力が耀達に知られるのを恐れていた。

 だが拒否する声はなく、ジンを除くライム達五人と一匹は〝サウザンドアイズ〟に向かった。

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