俺の幼馴染はコミュ力お化け 作:有象無象
我がカルデアには冥界の女神さまは来てくれないみたいです。
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リア充爆発しろ!
むしろ、熔けろ!蒸発しろ!
なんて、時候の挨拶が似合う季節となったこのカルデアの一室で、一人の男が思い悩んでいた。
「どうすればいい?」
「どうすれば、調達できる?」
かなり思い悩み、眠れていないのか隈のできた男は暗いその部屋で頭を抱えてベッドに腰かけていた。
まるで、がっちり警備された軍の機密を盗み出せと無茶な命令を下されたスパイのようにうなだれている。
「やはり、あれしかないか…………」
十分、あるいはもっと長かったかも知れない思案の後に男は決心したように立ち上がった。
その顔には約束された死の戦場に旅立つかのようなそんな悲壮な覚悟の色が濃く浮かんでいる。
「……できれば、避けたかったが、やるしかないか……」
それでもやはり恐れがあるのかしばらく立ちすくんだ男だが、やがてそう掠れた声で呟くと部屋を出た。
暗く、静かになったその部屋に、その日男が帰ることはなかった。
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12月22日
─立香─
クリスマス。イエスキリストの誕生日であり、家族や恋人、友人達と騒ぎ、語らい、祝う。そんな日である。
ちなみに私はクリスマスを友人と過ごしたことはほとんどないし、いた覚えもない恋人と過ごしたことも、もちろんなかった。
友人曰く、知り合いがかなり多いらしい私にもそういう誘いは多くあったのだが、クリスマスは家族とあいつ、それからあいつの家族と過ごすことが主だった。
さて、現在勤めているここカルデアでもとうとう明後日に迫ったクリスマスに向けて慌ただしく動いていた。主にあいつとマシュとエミヤと頼光さんが。
人理焼却まであとわずかだと言うのにそんな暇があるのか?とかまだ本編4章すら終わってなくね?とか、そういう些事は放っておくよーに。
さて、そんなこんなで、クリスマスまであと二日というところで事件は起こった。
あいつが消えたのだ。
紅秋人失踪事件となんとなく名付けたこれが発覚したのは今朝のことだ。プレゼント集めに奔走するサンタオルタがトナカイを求めてあいつの部屋に入ったところ、既にもぬけの殻だったらしい。
非常にアルトリアズは慌てていた。特にえっちゃんはあいつのお菓子が食べれなくなるかも、と珍しく目がマジだった。
いやいや、お前らどんだけあいつに依存してるの。あいつはドラッグなの?
え?私?私は別になんともないよ。
「先輩。マンガが上下逆さまです」
「っ!はわわ!」
さて、結末から話すと、すぐにあいつの居場所はわかった。レイシフト用のコフィンの中だった。ダヴィンチちゃん曰く、ちょっと足りない素材を調達しに行ってもらってるから、気にしないでクリスマスの準備しといて、ということらしい。クーフーリンがついていったから戦力面での問題はないらしい。
この話を聞いてアルトリアズは不服そうだった。なぜマスターは私を呼ばなかったのか。私はマスターの剣なのに。
と、ぶつくさ言いつつも用意された仕事を進めているあたり、色物でもアーサー王なんだと思った。
私はどうしようかな?あいつ宛に、ケーキ作ってみようかな?エミヤに聞けば教えてくれそうだし。
─秋人─
明後日はクリスマスだ。となれば、用意すべきものがある。ケーキとプレゼントだ。
ケーキは問題ない。だがしかし、プレゼントの問題が立ちはだかった。
俺は毎年アイツにクリスマスプレゼントを贈っているが、それらは作ってはいない、買っているのだ。
そう、買っているのだ。
焼却された世界で物は買えない。
アマゾネスで買おうかと思ったが、外が焼却されているので届くはずもない。というか、そんな状況でえっちゃんはどこからネクロカリバーを調達しているのだろうか?
セイバーユニバースからだろうか?だが聞くわけにはいかない。なぜなら、アルトリアズにもプレゼントを用意するからだ。どうせなら、サプライズがいい。
買えないなら作るしかない。
幸いここには天才がいるので、ダヴィンチちゃんに教えてもらおう。
頼みに、行くぞ。覚悟はいいか?
ダヴィンチちゃん曰く、いくらか足りない素材があるから、レイシフトしてとってこいとのこと。たまたま近くにいたクーフーリンをお供にとりあえずオルレアンに飛んだ。
それにしても、あれだけ電力消費するレイシフトをこんなことに使っていいんだろうか?
いや、突っ込んじゃダメか。
さて、素材集めだな。まずは、ワイバーンオリジンを……。
─立香─
あいつを待つ間、総出でクリスマスの準備をしていた。
サンタになって飾り付けて、ケーキを作った。
後は、あいつがくれば終わりだ。
12月24日、ようやくあいつが出てきた。
あ、アルトリアズに囲まれてる。あ、連れてかれた…………御愁傷様です。
─秋人─
レイシフトとプレゼントの用意が終わってダヴィンチちゃんの部屋からでたら、サンタの集団、もとい、サンタコスのアルトリアズに囲まれた。
なんだこれ素晴らしい。
えっちゃんはスタンダードな赤のサンタ服を身に付けている。モコモコな長袖で肩もしっかりと被われている。そこだけなら可愛らしい少女サンタだが、彼女の足はミニのスカートに黒のガーターベルトが組み合わされ、アダルティーな雰囲気を醸し出す。
図書室で出会った物静かな彼女。ふとしたきっかけで惹かれあう、そして初めてのクリスマス、家についたら普段と違う彼女が出迎え、どぎまぎする。そんな妄想が捗る姿だ。
Xのサンタ服は奇抜なものだった。サンタ服風のロングコートを羽織り、同じくサンタ服風のショートパンツを穿いている。その上で膝上まである赤のブーツを身につけたその姿はまるでライトノベルの暗殺者のようなロマンのある姿である。ただしサンタだが。
しがない高校生がある日同級生の秘密を知り、裏の世界に浸る。フリーでなおかつ束縛を嫌う彼女に振り回されつつもうまく付き合っていた。クリスマスの朝、自分が目を覚ますとサンタの彼女の姿があった。束縛を嫌う彼女がこの時だけは自分だけのサンタになってくれる。そんな妄想が捗る姿だ。
サンタオルタはいつものサンタ服ではあるのだが新しい魅力を見つけた。普段はクールな暴君サンタな彼女の顔が本当に心配した表情だったからだ。
普段は自分をトナカイと呼び、パシりに使う暴君生徒会長の彼女。しかし、ある日彼女の命令で大怪我を負った自分。クリスマスに病室のベッドに寂しく寝ている自分の元に彼女が見舞いにやって来た。ひどく心配し、自分の命令を悔やむ彼女は普段からはあり得ないほどのしおらしさで……。
そんな妄想が捗る姿だ。
弓トリアはやはりというべきか水着サンタだった。季節感を完全に無視しているものの普段のシンプルな水着とうってかわって派手なふわふわがついたゴージャスな水着だ。以前、美しいボディに小細工は不要と言ったが、彼女のそれは小細工などではない。それはプレゼントのラッピングに等しい。デザインは引き算というが、あえて足すことにより彼女の体はサンタの聖なるオーラによって神々しく輝くのだ。
見慣れた姉、いつの間にか自分の方が高くなった身長。しかし、一年に一度二人のクリスマスだけは着飾り、その小さな体の中で、魅力はよく育っているのだと義弟ながらに察してしまう。
そんな妄想が捗る姿だ。
さて、このままだとお説教に突入しそうなので渡してしまおう。
一人一人に小箱を渡す。
中身はネックレスだ。シンプルに剣をイメージしたデザインである。
レイシフト先から入手した素材から、ダヴィンチちゃんに教わりながら作ったネックレスにカルデアの職員に頼んでつけてもらった緊急回避と魔力放出。
しかも、着用者の任意のタイミングで緊急回避か魔力放出を発動できるらしい。俺の礼装コレクションのカレイドスコープと虚数魔術とゼルレッチ。それどころか発掘した宝石ととってきた素材のほぼ全部を使って作られている。らしい。
そう説明しつつ渡すとアルトリアズの動きが止まった。
そして両腕をえっちゃんズにかかえられて引きずられる。
え?嬉しくて心配かけたのを怒ればいいのか、喜べばいいのかわからない?だけどとりあえず今日はとことん付き合ってもらう?わかった。お詫びとして付き合います。
だからシャンパンはやめて。ちょっまアァァァァァァーーーーー!!!!!
─立香─
クリスマスのパーティーも終わり、エミヤ達は片付けを、あいつはアルトリアズに連れてかれた。
私は珍しく一人で部屋にいた。清姫達はマシュが全力で押し留めてくれてる。本当にできた後輩だ。明日の朝にでもプレゼントをあげて可愛がろう。そうしよう。
さて、そんな決意をした私の目の前には、ひどい出来のケーキがある。私のお菓子の才能はエミヤが慰めをかけるレベルらしい。
渡せないか、こんなもの。
明日こっそり食べよう。
冷蔵庫に物体Xをしまうべく立ち上がった私の耳にノックの音が響いた。
マシュかな?そう思ってドアを開けると、そこにいたのはあいつだった。アルトリアズはトイレといって撒いてきたらしい。
どうしたのか聞こうとしたが、その前にあいつの視線が机の上に注がれているのに気づいた。
「す、「ケーキ?」」
すぐに片付ける、と言おうとした私にあいつが聞く、そう、と頷くとあいつは、プレゼント?と続ける。
お前宛のつもりだったんだよ!どうだ?笑えないできだろう?
と、心のなかで叫んだ時だ。あいつは微かに微笑むとテーブルに近づきケーキを持った。そしてあろうことかその物体Xを食べ始めたのだ。
止めるまもなく平らげるとあいつは一瞬菩薩のような顔になってごちそうさま、と呟いた。そして、私に座るよう言った。
「ん」
ベッドに座わった私の隣に座るとガムでも渡すように小箱を差し出し、開けるように促す。
私はそれを受け取って開ける。中にはシンプルな盾のネックレスが入っていた。どうやら無敵付与がついているらしい。が、アルトリアズとは違いがあるらしく性能はあまりよくないそうだ。
「俺が、作った」
なぜかと問うとこれはあいつすべて自分で作ったかららしい。これに思ったより時間をとられたので、アルトリアズの付与は専門家に任せたそうな。
このプレゼントに返せるものがないというとあいつはケーキをもらったと返した。
あんなので釣り合うのだろうか?
「あれ、暖かい味がした。来年も欲しい」
「え?」
「スー、スー」
ぼそりと隣のあいつが呟いたので驚いてそちらをみたがベッドに倒れこんで寝息をたてていた。
まあ、結構飲んでたししょうがないかな?
というか、ここまで酔った言葉かよ!ドキッとして損したわ!
まったく、人のベッドで寝るな。今日ぐらいはいいけど、風邪引くよ?
しょうがないなぁと嘆息して毛布をかけたところで、急に眠気が襲ってきた。私も隣に横になる、そういえば昔はよくこうやって寝たっけ。
「来年はもっと上手く作るから、期待しててよ。あと、プレゼントありがと」
あいつの寝顔を見つつ、そっと呟いて、私の意識は途絶えた。
ちなみに、翌朝二人同時に部屋を出たところを目撃され騒動になったのはまた別の話だ。
更新ストップしていて申し訳ありません。できるだけ早めに更新したいと思っておりますのでもう少しお待ちください。