【完結】ポップになりました   作:しらいし

1 / 34
ここにはかっこいいポップはいません。


1.ポップになりました

 星を求める蛾の願いとは英国のロマン派詩人であるシェリーの言葉である。やはり人は星に夢や願いを昔から思い重ねるものなのであろう。つまりある青年が夜になると、夢が叶った時の事を考え窓を開け練習を重ねるのもそれは必然といえるのかも知れない。ただ、それは小学生か中学生の時に普通は卒業しているもので二十代半ばにもなってまだ繰り返し練習を重ねている彼は、まあ控え目に言って馬鹿なのである。

 

 

「か~め~は~め……波!」

 

 

 青年は今日も星に向かい、かめはめ波を練習する。青年は思った。今日こそは出そうな気がすると。なんか気っぽいものが溜まってる気がすると。何か一つ足りないものさえ埋めれば出そうだとアレンジを加える事にした。助走である。

 

 

「よし……あ~~!!」

 

 

 勢い良く助走をつけた所に、彼は何故か偶然落ちていたコミックLOを踏みつけ、ずさーと滑り5階の窓からアイキャンフライした。

 

 

 

 

 

 

 

「おいーっす」

「……ん?」

 

 

 まるで今は亡きいかりや長介の声が聞こえるようだと思いながら青年は目を覚ました。誰だと声のほうへ顔を向けると、巨大な竜のような生物が立っていた。

 

 

「……おいーっす」

「うるせえこちとら頭が痛いんだ馬鹿野郎」

 

 

 何故か怒鳴られた青年は、それはさすがに理不尽じゃないですかねとドリフのようなやりとりをしてきた竜に思いながらも睡眠から目覚め、まだ回転の遅い脳みそをゆっくり働かせながら周囲を見渡す。周囲は純白で何も無い空間であった。目の前には竜。……そうか、俺は死んだのかと青年は思った。死因はコミックLOである。死にたくなった。死んでるけど。

 

 

「そうだなお前は死んだな」

「ちょっ、いやまだ俺にはやらなきゃいけない事が!」

 

 

 心を読んだ竜をよそに青年は慌てる。彼は死ぬに死にきれなかった。せめて、せめて部屋にあるコミックLOやパソコンのDドライブの中身を消去してから死にたかったのである。恥ずかしさで死ねる。死んでるけど。

 

 

「まあいいや。じゃ、とりあえずダイの大冒険の世界だな」

「は? いやいやいやいや。転生とか憑依とか嫌だし。面倒だし。しかもそんな死にそうな世界マジで嫌だし」

「で、お前はポップな」

「ファック! こいつ一切聞いてねえ! ポップとか本気で無理に決まってるだろうが!」

「じゃあいくぞ」

「ああくそ! いいか! 絶対後悔させてやるからな! 誰が原作通りに動いてやるもんか! めちゃくちゃにしてやるからなああああ……

 

 

 

 

 ……ああああ!」

「おや? 目を覚ましたかポップ?」

「……へ? ……アバン先生!?」

「高熱でうなされ、やっと目を覚ましたかと思えば何やら混乱してるようですね?」

 

 

 いやいやいやいやいや、なんで弟子入りした状態からスタートやねんと元青年であるポップが頭を抱えると、ポップの脳内に先程のドリフ竜の声が響いた。

 

 

『うるせえんだよ馬鹿野郎。お前冒険する気無かっただろうが』

『当たり前だろうがあああ! 安定した就職先あるのになんでわざわざ冒険者なんぞするかあああ!』

『魔法を尻からしか出なくしてやろうか?』

『ごめんなさい』

 

 

 まったく……とぶつぶつ言いながら少しずつ小さくなる脳内に響く声。瞬間ポップの頭に割れるようなもの痛みが走る。ポップとしての弟子入りするまでの記憶が青年の精神にインストールされた反動である。

 

 

「いったぁ……」

「まだ熱が覚めていないようです。ゆっくり休みなさい」

 

 

 ありがとうアバン先生。旅の中で毎日その変な髪型にセットするの大変じゃないですか? と心の中で感謝しつつポップは再び眠りについた。

 

 

 

 それから数日、アバンはポップの明らかな異変に気付きつつも彼を観察していた。今まで使えていた魔法を普通に使っただけで感動したり、旅の中で何度も見た事のあるモンスターを見て大騒ぎしていれば不審にも思う。だが、普段の細かな仕草に見られる癖は明らかにポップのものだった。

 

 

「……ふむ」

 

 

 そしてポップはその数日を境に変わったようだというのがアバンの認識である。今まで面倒臭がっていた修行も真剣に取り組んでいるように見えたし、何より今までより明らかに旅の仕方というものを学んでいるように見えた。

 

 そこにはポップとなった青年の思惑がある。原作を読んだ限り、レベルが低い状態でもメラゾーマを放てる才能がある肉体だが集中力不足で呪文の威力が安定していなかった節がある。マトリフの修行により魔法力の放出や魔法力を集中させる事を学んだ原作ポップは、そりゃあもう天才といっていい活躍を見せていた。

 なので魔法使いとしての呪文の契約は全部終えている事は記憶で確認しているので、アバンのもつ呪文に関する知識や、旅に関する事さえ学べればポップはさっさとアバンの元から離れるつもりでいた。集中力が呪文の威力に関わる事はアバンも承知なのである。というか元々学者の家系であるアバンに一を質問すれば、必要な知識が十になって返って来た。ありがとうアバン先生。俺、立派な魔法使いになるよ。でも卒業の証は入りません。それ何で出来てるの? ラーハルトの全力を受け止めれるネックレスとか凄い。

 

 

「ポップ」

「ふぁふひぇひょうあふぁんふぇんふぇい」

「ああ喋るのは食べ終わってからで結構です。最近の貴方はベリーグッドです。修行にも身が入っていますし、呪文を使う際もちゃんと集中して出来ています。なので貴方にこれを授けようと思いまして……」

 

 

 そろそろアバンの元を離れようかなと思っていた時に、アバンから先手を打たれた。夕飯を食べている際にアバンがアバンのしるしを渡してきた。

 

 

「それ、なんですか?」

「これは卒業の証として……」

「いりません!」

「おや? 何故でしょうか」

「……ええーっとぉー」

 

 

 不意討ちだった為に理由をまったく考えていなかったポップ。理由は原作に沿いたくないからというだけなのだ。いっそ頭おかしくなったと思われてもいいから本当の事を全部ぶっちゃけて、バーンの事まで全部話しといたらこの人ならなんとかしてくれねえかなと思ったが、脳内にまたいかりや長介みたいな声で『ただし魔法は尻から……』という恐ろしい警告が聞こえてきたのでそれは辞めた。なんでや。原作ギガブレイクはしても怒らなそうなのにバラすのは駄目とかよく分からん。やるなら自分でやれってか。

 

 

「……まだまだ俺未熟だから。しばらく一人で旅をしてみて、またアバン先生に会った時に一人前になっていたら貰えますか?」

「ふむ」

 

 

 何やら考えているアバン先生。しかしポップは思っていた。正直、別れたら会う気無いですと。

 

 

「……分かりました。貴方が成長した姿を見せてくれるのを楽しみにしていますよポップ」

「はい!」

 

 

 いやーやっぱアバン先生は良い人だなぁと思いながら、翌日アバン先生に別れを告げ一人旅を始めた。目的? そんなもんこのドラクエ世界の観光に決まっとるじゃろーがいと思いながら、特に何も考えてない頭空っぽなポップは一人旅に出るのであった。




タグ沢山付けたらカオスってなんの話だか分かんない状態になったけど、めちゃくちゃな話だからカオスってるくらいがちょうど良い。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。