「勝てば良かろうなのだー! はい復唱!」
「か、勝てば良かろうなのだー」
「よし、次だな。大魔王からは逃げられない! はい!」
「私魔王じゃないよ……?」
「細かい事を気にするなって言ってるだろう? はい!」
「う、うん……大魔王からは逃げられない……」
フレイザードちゃんの面倒を任された俺は、フレイザードちゃんの特訓をしていた。今やっているのは悪役らしい台詞を言う特訓である。何故こんな事をしているかと言えば、この娘は素直でまっすぐな性格でありフレイザード感ゼロなのである。もっと狡猾で汚い性格に育てなければいけない。でもめっちゃ可愛いから強くなって負けないで欲しいのでクロコダインやヒュンケルに修行をつけてやってくれと頼み込んで、二人と戦ったりザボエラと一緒に魔法を教えたりしている。アバン流だって武神流だってマトリフのオリジナルだってばっちり教えている。
でもそれが間違いだった。ひたむきにまっすぐ強く成長しているフレイザードちゃんは、クロコダインやヒュンケルのような武人に憧れてしまっている。このままではいけない、残忍さの欠片もないとかどうなってんだよとついため息をついてしまう。俺がため息を吐くと焦ったようにフレイザードちゃんが言う。
「お父様、ごっごめんなさい。あの、ちゃんと……ちゃんとやるから嫌わないで……見捨てないで……」
なんか勘違いをした悲しそうな、哀願するようなフレイザードちゃん。生まれてすぐハドラーに捨てられたと思っているフレイザードちゃんは泣きそうになっていた。たまにこう負のスイッチがトラウマで入っちゃうんだよなあ。
ふむ。フレイザードちゃんの頭をポンポン撫でながら少し考えて、この娘の世界観を広げる事にした。
「よし、パプニカに行こう」
「はい……?」
パプニカ王城にフレイザードちゃんを連れてきた。門番で「どなたですか?」って聞かれたから「俺の娘」と答えたらなんか変な顔をされた。「なんか片目燃えてますよね?」とか怪しまれたけど「そんな事言ったらマリンなんか暗黒闘気駄々漏れやん」って言ったらそれもそうかと納得してくれた。マリンの事を言えば納得するパプニカの人々。チョロい。そんなこんなでレオナ姫の私室までやってきた。
「娘って……。ポップと同い年くらいに見えるけど?」
レオナの言う事ももっともだと実はポップも思ってる。というかまだ生まれたてだからなフレイザードちゃん。むしろここまであの言い訳で通したパプニカ側に問題があるぜとポップは思っていたが、パプニカ側からすればまたポップがなんかやってるくらいにしか思っていない。パプニカ側からのポップには妙な信頼があった。
「レオナ姫……、見た目で人を判断しちゃ王族なんてやっていけないぞ?」
「ええ……私が悪いっていうの?」
「あ、あの……すいません……」
「ああ、いいのよ。ごめんなさいね? どうせポップに無茶言われてるんでしょう? まったく、こんな良い娘無理矢理連れ回すなんて」
「無理矢理じゃないです! お父様は私の為を思って行動なさってくれています! お父様は!」
「え……ああ、そう……そうなのポップ?」
「えっ……アアウンソウダヨ」
「ま、大体分かったわ。身寄りの無い娘を引き取ったって訳ね。それにしても片目から魔力が漏れ出てしまうなんて……。ここじゃなければ怖がられてしまうかも知れないわね」
仕方ないわねと言った感じのレオナ。ここにはマリンとかいうおかしな前例がいるからね。
「そんな事ありません。いままでだってお父様が皆様に紹介なさってくれたおかげで皆(思いっきり同情して)可愛いがってくれています」
「へえ? 良いところあるじゃないポップ」
「ダロー、オレイイヤツダロー」
「ねえ、フレイザードちゃん。私とお友達になりましょう?」
「で、でも私……お城の作法なんて知らないし……」
「大丈夫よ、ポップなんて無礼不作法この上無いけど普通に城の中を勝手に徘徊してるくらいよ? 礼儀作法とか知りたいなら教えてあげるわ。でも堅苦しいだけよ?」
「で、でも……私で良いんですか? あの……私、その……ごめんなさい。優しくして頂いてほんとに嬉しいです。でも駄目です。私、……人間じゃないんです。魔族なんです。だから……迷惑かけちゃいます」
そういうとフレイザードちゃんは下を向いて自分の服を両手でぎゅっと握りしめてしまった。人と魔族。この壁を正しくフレイザードちゃんは認識していた。まして相手は王族である。自分の存在が相手に迷惑をかける事が嫌だった。そして、優しくしてくれた相手に嘘をついて嫌われる事が嫌だったのだ。とてもポップが面倒見てるとは思えないまっすぐな娘だね。
「関係ないわ。仲良くしましょ?」
「え、でっでも……」
「うちなら大丈夫よ。(正直いまならマリンのほうがよっぽど魔族っぽいし)……まあそれにポップが連れてきたんなら大丈夫だと思うし。ね?」
「ソウダゾーダイジョウブダゾー」
「あ、あの……じゃあ……その……お願いします、レオナ姫」
「レオナでいいわ、宜しくね」
「はい! レオナ!」
「あーもうほんと可愛いね」
元気良く返事をしたフレイザードちゃんに抱きつくレオナ。わたわた慌ててるフレイザードちゃんまじ可愛い。こうして王族のレオナ姫に魔族の、フレイザードちゃんに人間の姫の友達が出来た。
フレイザードちゃんはとても嬉しそうにポップに感謝の言葉を言う。友達が出来た事がとても嬉しそうだった。
人間は魔族なんて冷たくあしらうんだぞー、だから心も身体も強くならなくちゃいけないんだぞーという実体験を積ませようと思って連れて来たポップの計算は完全に間違っていた。
パプニカにもレオナにも何故か妙な信頼をポップは得ているのです。
フレイザードちゃんはもう一人の主人公なのです。というかポップが主人公やってないので実質主人公なのです。