「……今日もポップに会えなかった」
フレイザードちゃんは日に日に落ち込んでいった。ポップに言ったあの事を激しく後悔していた。結果を見れば、反共存派が集ったオーザムをほとんど犠牲も無く傘下に納めたのだ。魔王軍の被害はマジンガー鬼岩城とポップの風評のみだ。冷静になったフレイザードちゃん視線で見ると、ポップは自身を犠牲にして世界を平和に治めて見せた事になる。そんな事実は無いが結果としてそうなった。フレイザードちゃんが何度も足を運んでもポップは会わなかった。
嫌われた。
ポップは私の為に動いてくれたのにと、思い出すだけでフレイザードちゃんは泣いてしまう。フレイザードちゃんは最近まともに寝れていなかった。せめてもと各地の入植を円滑に済ませる為に必死にフレイザードちゃんは頑張った。仕事をしている時だけ、辛い思いを紛らわせる事が出来ていた。
許してもらえなくてもいい。せめて直接謝りたい。
そうフレイザードちゃんは思っていた。フレイザードちゃんは精神的に追い詰められていた。そんなある日、疲れきったフレイザードちゃんは不思議な夢を見た。それはダイとポップが冒険する夢。アバンの使徒が大魔王バーンと戦う夢。勇者ダイと大魔道士ポップの物語だった。……自身の姿や性格は正直見て見ぬふりをするしかない、というかあれが自分だと考えたくもないが、その物語は実際あり得た物語だと思えてしまった。フレイザードちゃんの愛するポップの影響が無かった世界ならば。
そういえばメルルが、未来はポップが変えたと言っていた事があった。メルルは先ほどの夢の事も知っているのだろうか。フレイザードちゃんは思い立ち直ぐにKOP城に飛びメルルに会った。
「……はい、知っていますよ」
私室で迎えてくれたメルルがそうフレイザードちゃんに言った。ならば、ならば、だ。
「じゃあ……バーン様の目的は地上の支配ではなく、魔界に太陽の光を与える事……それじゃあ!」
大魔王バーンにとって魔王軍による地上侵攻はただの遊戯だったはずだ。その目的が変わっている、はずがあるのだろうか。
「メルルは、メルルは見えてるの!? この先の未来!?」
「……ごめんなさい。私が見えていたのはポップが地上の新たな世界の王となる、そこまでなの。……フレイザードちゃん?」
「私、バーン様に会ってくる。地上を消す必要なんてどこにも無い。きっと、きっと分かってくれる……!?」
大地が揺れた。同時に凄まじい魔力を感じた。フレイザードちゃんは悟った。夢で見た、大魔宮が、バーンパレスが浮上したのだと。大魔宮が動き出したのであればもはや時間が無い。大魔宮のあった死の大地から一番近いオーザムが危ない。
「私ならルーラでバーンパレスに入れる、私行くね!」
「フレイザードちゃん!」
日頃からバーンの遊戯の相手でもあったフレイザードちゃんは幾度もバーンパレスに通っていた。対人の結界も魔王軍ならば通過可能、ましてフレイザードちゃんは人でも無いのだ。この時ばかりは自身の身体に感謝した。フレイザードちゃんは飛ぶ前にポップの部屋の前に寄った。扉越しに話しかける。
「……ポップ、あの、待っててね。すぐ終わらせてくるから」
フレイザードちゃんは扉の前でそれだけ告げ、返事を待たずに駆け出しバーンパレスに飛んだ。現在、バランは不在である。他の誰かを連れていくか少し迷ったが、フレイザードちゃんは単騎で乗り込んだ。時間が無いのもある。それに、バーンの真意を確かめたかった。チェスで遊んでいた、フレイザードちゃんにとって良くしてくれた相手の一人の真意を信じたかったからだ。フレイザードちゃんは玉座のある間まで一直線に飛んだ。玉座にはバーンとミストバーンがいた。ミストバーンをチラリと見る。あの夢があり得た事実というのであれば、ミストには真なるバーンの身体が凍れる時間の秘宝により眠っているのだ。戦闘になれば一人で勝てるだろうか。頭に過った不安。先にバーンがフレイザードちゃんに話し掛ける。
「フレイザードよ、見事であろう? このバーンパレスは」
「うん、すごいね。……バーン様、率直に聞きます。地上を消すつもりですか?」
「愚問だな」
「何故!」
「何故? 何故だと?」
「地上を、吹き飛ばすというのであれば、その残骸は魔界に降り注ぐ事になるでしょう! それは魔界も滅ぼす事になるのではないですか!」
「確かに魔界の一部はそうなるであろうな」
「でしたら!」
「脆弱という理由だけで太陽の恵みを人間に与え、魔族や竜族を暗い魔界に押し込めた神々共に力こそが正義である事を教えてやる。魔界に太陽の光を差し込む事は数千年生きた余の悲願である。生まれて間もない貴様などに分かるはずもない」
「バーン様……貴方は……貴方の故郷である魔界を救う、そう言うのですね。……であれば!」
フレイザードちゃんは瞬時に光の弓矢を造り出した。先手必勝。
「私はポップのいる、この地上の為に大魔王を倒す! メドローア!!!」
「ちッ」
フレイザードの得意呪文、ポップから教わった極大消滅呪文メドローア。時間が止まっていて物理的な干渉が一切できないものだろうが、問答無用で消滅させる強力無比な呪文。ただし、あくまでも「魔法」であるためにそこが唯一の弱点となっている。最大の弱点として挙げられるのが魔法反射でマホカンタやこれと同様の効果のある手段ではじき返すことができ、防御手段が非常に少ないために、跳ね返されるとそのまま自分達の全滅に繋がってしまう。また通常の攻撃呪文と同じく、同じ呪文、つまりメドローアをぶつけることで相殺できる。さらに魔法力そのものを吸収・無効化してしまうものには効果が無いというかなり致命的な弱点を持つ呪文である。
呪文の弱点はフレイザードちゃんも把握している。そしてバーンがマホカンタを使える事も。それでも不意討ちであればと、狙いをミストバーンに定め渾身の一撃を放った。メドローアの矢がミストバーンを貫くかに見えた。が。
「……うそ」
「……。」
メドローアの矢が、ミストバーンの前で消滅した。正確に言えばミストバーンの手で払われ掻き消された。呆気にとられ一瞬の隙が出来たフレイザードちゃんに向けミストバーンが鋭い爪を高速で伸ばす。
「しまっ……」
鋭い爪がバーンの身体を襲う!
「くっ!」
バーンが間一髪で避ける。
「ちっ、外したか」
「どういうつもりだ、ミスト」
「どういうつもりだ、だって? 最近ずっとあんたに張り付いて首狙ってただけだよ!」
ミストバーンの身体が変身する。魔法による変質が溶け、現れたのはフレイザードちゃんの愛しき人。原作でカイザーフェニックスを分解して見せたポップは、自身の切り札でもあるメドローアをその手で分解して見せた。内心冷や汗だらだらだったのは言うまでもない。
「ポップ!」
「フレイザードちゃん、あの、この間はごめんな。最近バーンに張り付いててさ。ちょっとこのジジイ片付けてゴタゴタ全部終わらせるから待っててね!」
「ううん、ポップ、私も一緒に戦うよ!」
魔王と聖女が並び立つ。
「……ミストはどうした」
「ああ、キルバーンの持ってた鎌で異次元に放り込んでバランとダイの竜の騎士コンビが相手してるぜ。もう死んだんじゃね?」
「……いいだろう! 余が相手をしてやろう。ポップ、大魔王に魔王が勝てると思うな」
「は? じゃあ魔王は辞めだな。……そうだな、俺を呼ぶなら大魔道士とでも呼んでくれ!」
大魔道士と聖女は魔界最強とされる実力者であり、神をも凌駕する圧倒的な力を持つ大魔王の前に立った。既に大魔王の若き肉体は大魔道士の策略により封じられてられている。しかし、数千年生きた大魔王の誇りは圧倒的な力を二人に見せつける。史上稀に見る激闘が、そして二人の初めての共闘が始まった。
昔、小さな村の武器屋に生まれた一人の男の子がいました。その男の子は村に訪れた勇者に憧れ、その勇者と共に旅に出ました。
男の子は真面目に修行し、勇者に認められ次は魔法使い、その次は武闘家と勤勉に学びました。少しいたずら好きな男の子でしたが、その人柄と実力が認められ旧パプニカ王国の姫の家庭教師を幼いながらに勤める事になりました。
男の子はパプニカで疑問に思います。何故人間と魔族は仲良く出来ないのだろうかと。パプニカには旧魔王軍の爪痕が深く残っていて、男の子は街に出ては見て回り嘆いたそうです。男の子は決意しました。人間と魔族が仲良く出来る世の中にするんだと。
まず男の子はモンスターと仲良くなったそうです。一緒に遊び、共に闘い絆を結んだそうです。そうしているうちに、魔界の王から誘いが来ます。「私と共に新しい世を作らないか」と。
男の子は、人間から魔王と呼ばれるようになりました。辛い日々だったようです。そして男の子は一人の魔族の女の子と出会います。魔王は彼女と夢を共有し、二人は力を合わせて世界を変えていきます。
女の子も魔王の為に、自ら傷つきながらも人と魔が共に笑って暮らせる世の中を信じて道を歩きます。やがて女の子は聖女と呼ばれ、その清らかな心は人と魔を繋いでいきます。
魔王と聖女の説得に応じた国々は、魔族を受け入れ、魔族と共に暮らす新な世の中が出来上がりました。そして魔界の王の望みである魔界に光をという願いを知った魔王と聖女は協力し、その強大な力で死の大地と呼ばれていた氷の大陸に大穴を開け、この世界が始まって以来初めて魔界に太陽の光をもたらし魔界の王の願いを叶えたそうです。
魔王は人々からその勇気を讃えられ勇気ある王と、そして魔界の王からも世界の理を変えた始まりの王と呼ばれるようになりました。その王の傍らにはいつも聖女と、彼の仲間が人も魔も関係無く笑顔で過ごしていたと言います。
これが後の世にて始まりの王と呼ばれるポップの物語です。