バカと乙女と戦車道! 作:日立インスパイアザネクス人@妄想厨
姫路瑞稀って実はーー
高嶺の花系ぼっちなんじゃないかって
『おーいっ、そっちは居たか?』
『こっちの屋上も居なかったぞーっ!』
『校舎の隅々まで探したよな? 後は屋上、それも生徒会室の真上に居ると思ったんだが……』
『まさか貯水槽の陰にっ、――居ねえなぁ』
『しかたない、グラウンドの方を見回ってみようか』
『『『応っ!!』』』
FFF団のアホっぽい会話が止み、扉が閉まる音を聞いて僕は屋上の安全が確保されたことを察した。
「ぬぎぎぎぎっ。腕が~っ」
まさか貯水槽の中でふちに掴まっていたなんて思いもしないだろう。あ~腕がパンパンだよ。
でもおかげで奴らに見つからずに済んだし、もう昼休み前だ。もう少ししたら杏ちゃんたちが生徒会室に来てる頃だろう。
やっと一息落ち着けるようになって貯水槽の横で大の字に寝転がる。
今日も青空に浮かぶ雲が速く過ぎ去っていき、街の上を
遠くに聞こえるヘリは貨物用だろうか? 今週は今話題になってる本格的戦略ゲームが入荷されるハズだ。あれには確か戦車を操縦するモードもあったし、買ってみて戦車道に役立てそうなことを勉強してみようかな。
「のどかだなぁ」
大洗学園の街はのんびりしていて、人によっては退屈な街なんだろうけど、僕はこういった空気は好きだ。流石に何もなさすぎると飽きてしまうけど、時々杏ちゃんたち生徒会のイベントは本当にいい刺激になるんだよね。
と、
「(ぐ~)……お腹すいたなぁ」
僕とて健全な高校生。昼前になるとお腹が空くし、ここ毎日走ってばっかりだから体力を限界まで使い切っちゃって疲れ気味だ。……中年の悩みみたいで嫌だなぁ。
ともかく空腹を満たしたい。学食でパンでも買って体力を回復しなきゃだけど、あの授業をバックレて僕を追い回す無法者どもは今現在校舎をたむろしているはずだから、迂闊に屋上から出られないよね……。
でも今すぐロープで下の生徒会室に降りて杏ちゃんからご飯を恵んでもらうのはさすがにみじめすぎるし、やっぱり危険を承知で買いに行くしかないかな。
そう考えていたらちょうど4時間目の終礼のチャイムが鳴った。
……このまま考え続けるよりも体力の回復を優先しよう。
奴らも午前中はずっと僕を探し回っていたから休憩を挟んでくるころだろうし、購買や食堂に集まってくるだろう。その隙に僕は学校を抜け出して近くのコンビニまで買いに行けば奴らに見つからず安全にお昼ご飯を食べれるって寸法だ。……問題は手持ちの40円で何が買えるかだけど、この際駄菓子でもいいや。何も買えなかったら桃ちゃんの実家であるわしぶんぐに寄って盛り塩を分けてもらえばいいし。
パッと行ってパッと戻ってくるには今から動かないと。
頭の中に最短ルートを思い浮かべて僕は立ち上がる。
――ここでちょっとした事件が起こる。
貯水槽は大抵屋上の扉の上に設置されるものだ。扉の横に梯子がついていて、そこから上り下りできるけど、この時の僕は疲労と空腹で頭が回らないかったようだ。
これは梯子を使うのを面倒くさがって、このぐらいの高さなら飛び降り慣れてるし問題ないという僕の油断が招いた語るほどでもない小さな悲劇。
「よっと」
華麗に貯水槽から飛び降りる僕。
「(ガチャ)失礼します」
行儀良く無人の屋上で挨拶して来た女子生徒。
偶然だったけど、僕の不幸は扉の横辺りに着地するつもりで飛び降りたことだ。
女子生徒が開けた扉がタイミングよくそこにあることに気づかずに。
つまり、
「「えっ?」」
☆
『あら? 何処かから首を絞めた鶏の声が』
『いや、これって何か悲痛な叫びのような……』
『あ~あれじゃない? FFF団の連中にひもなしバンジーをさせられた誰かの悲鳴でしょ』
『……あ、冗談なんだよね沙織さん? ごく普通の高校に平気で人を処刑するような反社会的な秘密結社とかあるわけないよね?』
『それはまた不憫な……ところでお昼は
『今の話題でよくそんなもの食べれるね!?』
☆
「本当にすみませんでした!」
「だ、だ……ひ、コヒュっ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
床にうずくまる僕は息が出来ないほどえずいてしまい、心配する女子生徒に大丈夫って言うことも出来なくって、その様子を見た女子生徒がひたすら謝る、という悪循環が屋上で繰り広げられていた。
なんてタイミングの悪い……! 当然わざとじゃないにしてもこんなピンポイントなことある?
しばらくしてやっと痛みと息が整ったところで、僕はその女子生徒が誰なのかを知った。
「ひ、姫路さん? どうしてこんなところに?」
「あ、気づいてなかったんですね。本当にごめんなさい……」
「いやもう大丈夫だから! さっきのことは気にしないでね!」
あぁっ、せっかく小学校以来久しぶりに姫路さんと喋れたのに!
何にも悪くない姫路さんが謝り倒す場面がループされてしまう!
「と、ところで何で姫路さんはこんなところに居るのっ? 今昼休みだし学食に行くんじゃないの!?」
「え?」
そう僕が誤魔化すように聞くと、頭を下げ続けていた姫路さんは顔を上げてきょとんとした顔で、
「その、私、いつもお弁当なので食堂には行きませんよ?」
「そうなんだね。……あ、じゃあ天気が良いから友達と屋上で食べようって思ったとか?」
「いえ、いつもここでお弁当を食べてますよ。一人で」
「一人で」
一人で。
え、姫路さんって学年でトップクラスの成績を誇っていて男子間で行なわれる大洗学園美少女ランキングでも上位に入りムッツリ商会での女子生徒ブロマイドは四角のフレームを窓に見立てて深窓の令嬢なんて言われるぐらい人気を集めている女子生徒のはずなのに、そんな子が昼休みの屋上で一人ご飯を食べていたの? クラスの風紀委員の子から姫路さんのことを聞いたことがあったけど、それでもイジメを受けてるなんて話は出てこなかったハズ。
「……あの、姫路さん? 余計なことかもだけど、クラスで仲のいい人って居る?」
「仲のいい人ですか? ……クラスだと声を掛けてくれる人は居ますけど、仲が良いかと言われたら何とも言えませんし……他のクラスの人と会うこともありませんから親しくしてる人が居ませんし……体調が悪くなったときとかは大体先生が対応してくれるのでクラスメイトじゃないですし……そう考えると私って結構人と関わることってありませんね」
そんな風に衝撃の事実をおっとりと告げる姫路さん。
……もしかして姫路さんはぼっちなのだろうか?
「……その……大変じゃない? 仲がいい人が居ないのって」
「う~ん、特に困ることはありませんね。勉強に集中できますし、帰り道でこっそり焼きに――喫茶店に行っても怒られませんから」
すごい。本気で困ってないことがわかる。姫路さん全力で孤独を満喫してる……!
まさか姫路さんが深窓の(友達)
「そういう吉井君もどうして屋上に……上から落ちてきて……」
「実は悪い奴らから追われててね。そいつらから隠れてたんだ」
「そうだったんですね」
よし。うまく誤魔化せた。……もうこれ以上彼女の仄暗い背景を暴くのを防がなければ……!
「……お昼休みの最初から屋上に居たってことは、ずっとここに居たんですか? それじゃあお昼ご飯もまだなんじゃあ……」
「そうなんだよね。だから今からこっそり売店にでも行こうかと思って」
本当は学校を抜け出してコンビニか桃ちゃんの家に行こうと思ったんだけどね。
僕がそう言うと姫路さんがパッと表情を明るくした。
「あ、あの! もしよければ私のお弁当はいかがですか?」
え? 姫路さんの? 僕にくれるって!?
「いやいや! そんなの悪いよ! だってそれ姫路さんの昼ごはんでしょ!?」
「構いません! ……さっきのことの謝罪の意味も込めての提案ですけど、吉井君は今良くない人たちから隠れているんですよね? でしたら屋上から出ない方が良いでしょうし、私もダイエット中なのであまり食べないようにしていたところなんです。……その、吉井君が良ければ、なのですが」
しおらしく、僕の反応を窺うような素振りの姫路さんに言葉が詰まる。そんなことを言われては断りようがないじゃないか。
押し切られて首を縦に振った僕は姫路さんと屋上の段差に腰掛けて、
「その……どうぞ」
「おおっ!」
おずおずと差し出された重箱を開けると、から揚げやエビフライ、卵焼きやおにぎりなど定番なメニューがたっぷり詰まったボリュームのある弁当だった。……女の子のお弁当ってこう、小さくてかわいらしいものだと思ってたけど、案外男子とそう変わりないんだなぁ。
「ホントにもらっちゃっても良いんだよね!? すごく嬉しいよ!」
「そ、そうなんですか? ふふっ、ご遠慮なくどうぞ」
五月だけど満開の桜が咲いたかと思った。
そんな満面の笑みを浮かべる姫路さんから箸を受け取って、さっそくジューシーなから揚げから一口。
「……………」
「……吉井君? どうかしま――」
「美味しい!!」
思わず大声で叫んでしまった!
から揚げは想像通り肉汁が溢れるのにザクザクしてて、下味が染みてご飯が欲しくなるほど。
次におにぎりに食い付いてみる。中身は入ってない塩むすびだけど、これもいい塩加減で他の塩味が効いたおかずと合わさるように計算されている。ということは……、そう思って他のおかずに手を出してみるとやっぱり良い感じに濃い味付けで、男子高校生に必要なカロリーが十分に摂れるスタミナ満点な食材が詰まったとても素晴らしいお弁当だ!
「すごく美味しいよ姫路さん! こんなお弁当を作れるなんて本当にすごいっ!」
「……そのお弁当はお母さんが作ってくれたものですから」
「……? 何か言った姫路さん?」
「いえっ、何もっ!」
つい語彙力が無くなってしまったけど果たして僕の気持は十分に伝わっただろうか?
僕が夢中でお弁当に食いついていた時、ふと姫路さんが、
「その、吉井君が悪い人たちに追われてるって、何かあったんですか? 良ければ私から先生たちにどうにかするように言えば何とかなるんじゃ……」
こちらを気遣うようにそう言ってくれるけど、正直僕とFFF団の抗争はいつものことだから先生たちってそう簡単に動いてくれないんだよね。それに今回は事情が複雑というか、僕自身混乱することばかりだし。
「いやぁ姫路さんにそこまでしてもらう必要はないよ。こればかりは自分で解決しなきゃだし」
「……吉井君って意外と責任感が強い人なんですね。……それに優しいです。けど、朝からずっと下の教室から大声が聞こえてましたからずっとどうしたのかなぁって」
「あ、ごめんねあいつらがうるさくって。姫路さんにまで迷惑をかけるなんてさ。まったく、履修届一つでこんな大事になるなんて思っても無かったよ」
まさか杏ちゃんこうなることをわかって僕に履修届を渡したのかな? ……無いかな。杏ちゃん優しいし。FFF団を利用して僕を襲わせるなんてマネをしても何の意味も無いだろうし。
そんな僕の呟きに姫路さんが意外な反応を示した。
「……履修届って何ですか?」
「え? 履修届って選択必修科目のだよ? ほら、忍道とか仙道とかのアレ。姫路さんは何選んだの?」
「忍道や仙道ってまさに男の子の興味をくすぐる科目ですよね。というか休んでる間に提出があったんですか」
「姫路さん休んでたの?」
「はい。ちょっと季節外れのインフルエンザで……。私まだ提出してないんですけど」
「ん~どうだろ? 3日前ぐらいに提出期限終わってたからね」
「そうですか……私、香道をしてみたかったんですけど。じゃあ提出してない人は人数割れした他の科目に振られるんでしょうか?」
「いや確か、提出してない人って自動的に戦車道を履修するんだったような……」
「………………え?」
姫路さんが固まった。
「……決まっちゃうんですか? 自動的に? 戦車道に?」
「うん。ほら、履修届にもこの通り」
「ほ、本当ですね……」
「もしかして戦車道したくなかったり? 戦車道って他の科目と違って特典がいっぱいだよ?」
「う~ん、71アイスクリーム……。いえ、特典も魅力的ですけども、戦車道ってなんだか疲れそうで大変そうですし……」
それもそうか。姫路さんみたいな華奢でか弱い女の子が戦車道なんて力仕事が要求されるようなことはあまりやりたくないか。
「この後生徒会長に会うんだけど、その時姫路さんのことを言ってみようか? 案外なんとか融通してくれるかもだよ?」
「……いえ、こうなったら仕方がありません。これ以上吉井君に迷惑をかけるわけにはいきませんから」
迷惑なんて思ってないんだけどなぁ。
こんな美味しいお弁当を食べさせてもらってるし、何より姫路さんみたいなかわいい女の子と一緒におしゃべりできただけでも十分なのに。
でもそんな不運にも姫路さんは前向きに行こうとしてるみたいだし、これ以上掘り返す必要も無いかな。
小学生以来会ってなかった女の子の意外な一面を見た昼休みだった。
「(吉井君、本当に美味しそうに食べてる……。いつもお腹空かせてるんですね……私も作ってみようかな、お弁当)」
☆
『はい、コレ印鑑ねー。つーわけで晴れて戦車道履修するわけだけど、今日の6限目にやっからね。あの赤い煉瓦の建物のとこ。遅れずに来なよ。……ん? それだけかって? まー履修届はもうこっちで作って先生に提出してるし他に必要な手順は無いしねー。ていうか提出期限とっくに過ぎてるから今日出されてもって話だし。別にアンタを騙したわけじゃないよ? 吉井なら今日までマジメに履修届をFFF団から死守するだろーなーってわかってたからこっちで面倒な手続きを終わらせてやったんだから。そんなわけだから、アンタがやることは戦車道を存分に楽しんで受けること! 変に心配しないで面白おかしく戦車に乗ってる方が吉井にはお似合いだからさ。そら、FFF団の連中が生徒会室に押し寄せる前に行った行ったっ。……え、何? まだなんかある? 隊長の件? ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ああそれ無しで! 2年で隊長になりたいって子が居たからその子に任せる予定ー。なーんか期待させちゃったみたいでゴメンね☆ まー隊長ってアタシみたいに書類仕事ばっかでかーしまや小山みたいな癖の強くてめんどっちーヤツをまとめなきゃいけないし大変なことが多いから吉井にゃ難しかったんじゃなーい? はいっこれで話は終わりっ。また後で会おーねー。――小山なんでアタシの肩掴むのめっちゃ痛いんだけど!?』
「何か関節を外されたような音が聞こえてたけど杏ちゃん大丈夫かな。まぁ優しい小山先輩だし肩関節を外す程度だろうけど」
杏ちゃんと別れた後、僕は例の体育館の壇上の下に隠れてFFF団をやり過ごすことにした。
道中、僕と同じ髪色の集団があちこちにたむろしていたけど風紀委員のそど子が率いる風紀委員軍団がやってきて一斉検挙の大騒ぎ。その合間を縫って体育館にたどり着いたのだけれど――。
「あー! 早く6限にならないかなー!」
狭い場所にひとりで居るのってやっぱり暇! ケータイゲームをやろうにも電池が切れてしまったし、マンガなんて持ってきてなかったから何もやることが無い!
今更教室に戻るのはFFF団の奴らに捕まりに行くのも同然だし、この時間まで逃げ伸びたのにのこのこ戻ってくのはなんか恥ずかしい。雄二がゲラゲラと嘲笑うのが容易にイメージ出来てしまう。
と、そこまで考えて不安がよぎってきた。
もしかしてもうFFF団の騒動が収束して、みんな僕のことを忘れて帰っちゃったんじゃないか?
いや、そもそももう選択科目の時間を過ぎてしまって一人校舎に残されてしまったんじゃないか?
……まさかそんな小学生のかくれんぼみたいなことが起きるはずが……いや、ありえそうだ。壇上の下に隠れっぱなしだったから時間間隔はわからないし、アイツらの脳みそは小学生並みだ!
でもそうじゃない、風紀委員との抗争から逃げ延びたヤツがまだ僕を探してる可能性もある。僕の考えすぎなだけかもしれない。
それでも、だ。
人間、一度思ってしまったことはどうしても振り切れないものなんだ。
「一旦外に出て確かめるべき? いや、でももし外に出た瞬間奴らに見つかっちゃったら――!」
「……吉井、お前は何をしている?」
僕以外誰も居なかった空間にドスのきいた野太い声が響いた瞬間、狭い空間のあちこちに体をぶつけながら壇上の下から転げ出た!
たんこぶが出来るほど痛めた体でのたうち回るもすぐさま起こして壇上の下に目を向けた。
壇上のへりをゴツゴツした手でむんずと掴んで出てきたのは、
「て、鉄人!」
「西村先生と呼べバカ者。今は授業中だぞ、こんなところに隠れて何をしている?」
「授業、あ、そうだっ! 西村先生今何時間目ですか!?」
「……私の言い方が理解できなかったのか? まず最初に聞くのが何時間目かとはな。もう5時間目が終わる頃だ」
そう言った直後に終礼のチャイムが体育館に鳴り響く。よかった! どうやら選択科目の授業は終わってなかった!
けど何で鉄人がこんなところに?
「そもそもこの抜け道は私が迅速に移動するために造ったものだぞ。体育館の近くまでショートカットしようとしたら吉井が悶えてるのが見えただけだ。……しかし今回の騒動でお前の姿を見かけなかったと思っていたが、私の使う抜け道に隠れていたとはな」
「ちょ、ちょっと身の危険を感じて緊急避難しただけですよ?」
「通りで体育館まで行くときに私とは別の匂いが付いていたわけだ」
この人縄張り意識の強い野生動物か何かなの?
鉄人の予想を上回るスペックに戦慄しながら、ふと目線を下に向けた。
正確には鉄人が掴んでいるものにようやく気付いた。
「……あの、その手に持ってる茶色のは」
「む? もちろん須川だが」
鉄人が首根っこを掴んでピクリとも動かない茶髪に染めた須川君を僕に見せた。
よくよく考えれば風紀委員が動いたなら鉄人も出動するよね。
「先ほど風紀委員達の助っ人に入ってようやく全員を生徒指導室に送ったところでな、須川が最後だ。……今朝からこいつらが髪を染めて校内をウロウロしていたのを見てまた怪しい主義主張を唱えて集団行動を起こしたと思ったが、何故茶髪なのだろうな吉井? よくよく見ればお前の髪色と同じようだが?」
「いやぁ、最近は茶髪短髪のアホ顔が流行してるんじゃないですか?」
「短髪とアホ顔は言っておらんが」
流石は多くの問題児を相手取った鉄人。誘導尋問もお手の物か……!
鉄人は大きくため息を吐いて須川君に縄をかけて床に転がした。
「西村先生聞いてください! 今日のことは僕は完全に無実」
「この際
しかしだ、と言いながら拳をバキリと鳴らす。
その音を聞いた僕はすぐさま鉄人から背を向ける。
「今朝からの騒動のこと以前に授業をサボったことついて話を聞かせてもらおうか!!」
「すいません今から授業に戻ります!!」
「待たんか吉井ぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
せっかくFFF団の魔の手から逃れて6時間目まで生き延びることが出来たのに、ここに来て急なラスボス戦だなんて聞いてないよ!!
☆
体育館から杏ちゃんから教えてもらった戦車道の練習場へは校舎を挟んで学園の反対側に位置する。
FFF団の鎮圧でかなり体力を使っているハズの鉄人からさらに体力を奪うため、校舎を上り下りして振り切ろうとしたり、3階から木を伝ってグラウンドに降りたり、様々な方法で振り切ろうとした。
けど、
「ぜぇ……ぜぇ……あいつ本当に化け物なの……!?」
「いい加減待たんかああああああああああああああ!!!!」
鉄人はその名の通りトライアスロンを趣味とするガチめなスポーツマンであり、僕はもちろんFFF団が束になって掛かっても敵わない大洗学園の最終兵器。まさかFFF団の鎮圧なんてウォーミングアップに過ぎないっていうの……!? 40代のおじさんって普通はもっとくたびれているはずでしょ……っ?
この1週間追いかけられっぱなしだった所為で、流石に僕の方が体力の限界が近づいてきた。
昼休みにもらった姫路さんのお弁当が無かったら僕はとっくにカロリーが尽きてぶっ倒れてたとこだよ。
と、ボヤつく視界の先に赤い煉瓦の建物と人影が見えた。
それは一人二人ではなくもっと、10人以上居るようで。
「も、もしかしてここが戦車道の……っ!」
ゴールが見えた。
よく目を凝らしてみると見知った顔、杏ちゃんたち生徒会やあの目立つコスプレ衣装は同じクラスのカエサル達! この1週間FFF団の対応に追われて喋ることが無かったけどカエサル達も戦車道をやることにしたんだ! 見知った顔が居ると心強いや!
けどもうみんな集まっているってことはもう選択科目の授業が始まっちゃった?
まだチャイムの音は聞こえてないけど、初日から遅れないようにって杏ちゃんから釘を刺されてたし、ここはなんとしても滑り込みセーフで授業を受けないとっ!
「すいません! 遅れましたぁぐぺっ!?」
――大きな声を上げたと同時に、喉から声にならない悲鳴が上がった。
誰かが僕の襟を掴んで引っ張ったから。誰がって? もちろん僕の後ろに居る人。
「ようやく捕まえたぞ、吉井ぃ!」
「遅いぞこのウジ虫野郎ぁあああ!?」
首根っこを絞められて意識が遠のく中で、そんなドスのきいた声と桃ちゃん先輩の悲鳴が僕の最後に聞いた声だった。
☆
~~~みほ side~~~
「あわわわ……っ!」
「みぽりん大丈夫!?」
「まずは深呼吸ですっ、はい、4秒吸って、4秒止めて、そして8秒吐いてー」
突然現れた筋骨隆々の男性に私は思わず腰が抜けてしまった。
見るからにただ者じゃないオーラを身にまとうこの人にこの場にいた全員が圧倒されているのがわかる。一年生は身を縮こませているし、コスプレをしてる人たちなんか何故か身構えてる。生徒会の人たちだって暴言を吐いてしまったメガネの人は白目を剥いてるし、他の2人も額に手を置いている。……バレーボールで遊んでいた人達は何故か目を輝かせているけど。
何でこんな人が……? なんて疑問はもはや必要無い。だってそうでしょ?
戦車道をする場所に現れる男子なんて吉井君だけなんだから――
「あ、あの~、どうして西村先生がここに?」
「小山か。何、いつもの生徒指導の仕事でな。このバカを追いかけていたらここまで来てしまっただけだ」
――先生だった。
ということはにしむら先生が掴んでいる男の子の方が吉井君?
すごくびっくりした~! あんなこわもてで強そうな人が戦車道に参加したらどうしようかと思った。
……というか本当に強そう。だって片手で掴んだままの吉井君、地面に足が付いてないぐらい持ち上げてるもん。あと吉井君さっきからピクリとも動いてないけど本当に大丈夫?
「しかし今日から戦車道か。開始早々邪魔をしたようだな。ではケガをしないよう注意しなさい」
そう言ってにしむら先生は吉井君を担いで踵を返す。
……吉井君が何かをしでかして怒られてたのかな。問題児って聞いてたけど早速戦車道に参加できないって、本当に何なんだろう……。
と、生徒会長がにしむら先生に声を掛けた。
「ちょーっといいっすか西村せんせ~」
「む? 何だ
「大したことじゃないんですけど、生徒指導室送り一旦待ってもらえません? そいつも一応戦車道の履修生なんで、初日から外されるのはちょっと困るっつーか」
「お前たちも今日の騒ぎも聞いてるだろうが、コイツを含めたバカ共は全員補習を受けさせねば迷惑をかけた他の生徒たちに示しがつかんだろう? 選択科目に参加できないのは仕方のないことだ」
「んー……まぁ関係ないわけじゃないんでしょうけど、今日のは吉井も被害者っぽいですからそこら辺情状酌量があるんじゃないかなーって思うんですよね」
「む……」
「でも騒ぎになったのは事実ですし、選択科目が終わったら先生に引き渡すってことで手打ちにしません?」
「ふむ……」
そう吉井君を庇う生徒会長の言い分ににしむら先生は一旦考える素振りをし、
「少々言いたいことはあるが、良いだろう。角谷、授業が終わり次第生徒指導室に連れてくるように」
「了解~っす」
そんな軽い感じに返す生徒会長にため息を吐いて、にしむら先生は吉井君を解放した。
次にメガネの人を向いて、
「それと河島ぁ!」
「は、はいぃ!!」
突然張り上げられた野太い声にメガネの人だけでなくこの場に居る全員が身をびくりと震わせた。
「私はウジ虫ではない」
「肝に命じますごめんなさい!」
「では皆もケガをしないよう励むように!」
そう言って今度こそにしむら先生は校舎へ帰っていく。
その後姿が見えなくなった途端、みんな緊張の糸が切れたようにはぁ~、と息を吐いた。
怖かったねー、という声が聞こえてくる中、私はふとピクリとも動かない人物に気づいた。結構ぞんざいに扱われてた吉井君だ。
あれだけ弁護していた生徒会長も半泣きになってるメガネの人の方に行っていて、吉井君は放置されたまま。
そんな彼がちょっとかわいそうだったから、私は吉井君に声を掛けた。
「えっと……大丈夫? 意識ある?」
恐る恐る声を掛けたり揺さぶってみると、う~んと唸って、静かに目を開いた。
ぼんやりとした表情をする彼が本当に悪名高い吉井くんなのだろうか? どう見ても人畜無害そうな男子生徒で朝から大暴れしたとは思えないんだけど……。
ふらふらと視線を彷徨わせていた吉井くんの焦点がパチっと私の目と合い、少し考える素振りを見せて、口を開いた。
~~~明久side~~~
緩やかな揺さぶりが気付けとなって、僕の意識は現実に戻された。
ぼんやりした視界が鮮明になるにつれ、僕の肩をゆすっていた人の顔がよく分かった。
その子は見覚えの無い明るい茶髪のショートボブの女子生徒で、不安混じりな表情を浮かべている。
どうやら気絶していた僕を看護してたみたいだ。見ず知らずの男子を看護してくれるなんてこの子は女神なんだろうか? それか保健委員会の人?
そういえば保健室の先生って陸の方の大洗市にあるめちゃくちゃ辛いカレー屋『辛・至高亭』の激辛カレーが大好きだから保健室にカレーの匂いが染みついてるんだよね。保健室に運ばれるたびに香ばしいスパイスの香りがするから保健室から出たら大体その日のご飯はカレーになっちゃって、昼夜でカレーの口になってしまうこともあった。
ということはこの子はカレーの妖精なのだろうか? 今日は保健室を利用してないのに、こんな校舎から離れたところにまでカレーを食べなさいとお告げをしに現れたのだろうか?
………………。
「……ごめん、今の所持金じゃカレーは食べれないんだ……」
「どうしたらそんな結論に至るの!? 何でカレーっ!? え、私今カレーの匂いがしてるの!?」
☆
これが僕、吉井明久と西住みほの出会い。
僕達はこの学園で復活した戦車道の男子の部、女子の部のそれぞれのリーダーとなり、夏に行われる全国大会を勝ち抜いていくことになるんだけど。
今でもこの時のことを考えると、僕たちの出会いってすっごく失礼なものだったよね……。
作者に物申したい姫路さん
姫路瑞樹「どうしてこの小説ではあんなキャラ付けだったんですか?」←頭を掴んで壁に押し付けてる
日立@「いやちゃうんすよ、これにはちゃんと理由があるんすよ」←壁にめり込みながら
姫路瑞樹「話してください。でないと割ります」
日立@「あの、まず最初にバカテスの原作を読み返して思ったのが、美波が名もない同級生とか後輩とかと会話する描写があったのに瑞樹にはそういうのって無かったんスよ。小学生の話は別として。なんで高校生になったら成績優秀容姿端麗でも引っ込み思案な姫路瑞樹ってキャラが盛れるとするなら高嶺の花過ぎて声を掛けられない感じの、原作の霧島翔子に対する他のキャラの想像上のイメージを君に当ててみようと思ったんです。原作の霧島さんのミステリアスな雰囲気は1巻で消え失せちゃってましたしね」
姫路瑞樹「なるほど、そうですか……一人でもいても平気っていうキャラ付けの方は?」
日立@「そういうキャラ付けになったらめっちゃ面白いと思ってやっちゃいましたごきゅっ」