バカと乙女と戦車道! 作:日立インスパイアザネクス人@妄想厨
弍尉マルコ氏の同人時代の食虫華さんも好き。
「必修選択科目なんだけどさぁ~、戦車道取ってね」
私より背の低いその人は、軽く歌うような声で私に一切の有無も言わさない圧力を伴いながらそう告げた。
◆
武部さんと五十鈴さんと友達になったそのすぐ後のことだった。その3人がやってきたのは。
2人と他愛のない話をしていてもうそろそろ先生が来る頃かなと思っていた時、
「失れっ」
ガッ!と扉に何かがぶつかる音がした。
直後、休み時間特有の騒がしさが途絶えて、シンと静まり返る。その扉の外からは『桃ちゃん桃ちゃんそれ引き戸』やら『桃ちゃん言うなッ!』やらなんやらと会話が聞こえてきた。
「失礼する」
改めて、引き戸が開くと同時に聞こえた固い印象の声。
初めはそういう先生なのかな? と思ってたけど、入ってきたのは私たちと同じ制服に身を包んだ3人組の女生徒。
先生の代わりに教壇の前に出た3人のうち、一番背の低い干し芋を齧るその人は誰かを探すように教室を見渡した。
武部さん五十鈴さんを含む教室に居る他の人達は『なになに?』『生徒会長?』『ぶつかったな』みたいな雰囲気だけど、私は事態に着いてこれなくって周りの空気を窮屈に感じてしまう。
目のやり場に困って視線を彷徨わせていると、不意に、視線がかち合った。……教壇の前に立つ背の低いその人に。
観察するような目をしたのは一瞬だけ。瞬きした時には女の子の顔はニッと悪戯っ子の笑みを浮かべた。
「やぁ! 西住ちゃんっ」
彼女の口から自分の名前が飛び出してびっくりした。フレンドリーに手を振る彼女に見覚えは無いのだけれど……。
「(……生徒会長。それに副会長と広報の人)」
「(……えっ? えっ? なんでそんな人たちが……?)」
武部さんが耳打ちをして教えてくれた。
私が戸惑っているうちに生徒会の3人は私を囲むように近づいてきた。クラス中の視線が私に集まる。どうしようもない不安に駆られて逃げ出したい気持ちがむくむくと膨れていくのを感じたけど、囲まれているのを思い出して力が抜けていった。3人に見下ろされる格好になった私はすっかり委縮してしまう。
片眼鏡の目つきが鋭い人が口を開いた。
「少々話がある」
口調も表情も硬くって、言われるがままに廊下へ連れ出された。
廊下に連れ出されて生徒会長に開口一番で言われたのがそれだった。
◆
「あの!」
喉から絞り出した声は上ずっていた。
それでもこれだけは確認しておかないといけない。だってこの学校は――
「この学校には戦車道の授業が無かったはずじゃ……」
「今年から復活することになった」
片眼鏡の人が鋭く答えた。
「私っ、この学校は戦車道が無いと思ってわざわざ転校してきたんですけど……」
言葉尻が小さくなっていくのが自分でもわかった。
そんな私を気にしないように、生徒会長は私の肩を組んで快活に笑う。
「いや~運命だねぇ! この学校戦車道の経験者あと1人居っからさ、その子と協力してうまくやってってくんない?」
「……もう1人?」
私はここぞとばかりに口を開く。
「他にも戦車道をしてる人が居るんですか? だったら、転校生の私が居なくても大丈夫なんじゃ……」
「居るには居るんだけどね……」
と生徒会のもう1人、すごくおおきい優しそうな人が困ったように呟いた。
「ま~性格に難がありっていうか、言葉の壁を痛感させられたっていうかさ。戦車取ってくれるよう頼みに行ったら『黙りなさい、ブタ』だもんなぁ~。そんなわけでその子の他に経験者が居ないか探してたんだ。で、丁度いい感じに西住ちゃんが転校してきたワケ」
どうしよう、どんどん退路を塞がれちゃってる……っ!
「そんな、必修選択科目は自由に選べるんじゃ」
「とにかくよろしく~」
最後は私の抵抗を遮るように背中に平手を打って、何事も無かったように傍に控えていた二人を伴って去っていった。
教室前の廊下で一人取り残された私は茫然とその場で立ち尽くすしかなかった。
何でこうなっちゃったんだろう? 私はただ、戦車道に関わりたくないだけなのに。関わりたくないから熊本から遠い大洗まで転校してきたのに……どうして……?
そんな負の思考が頭の中でぐるぐる回る。
……あの時感じた不安が的中しちゃったかなぁ……。今日は快晴で太陽も真上にあるけど、辺りがどんどん薄暗く見えてくる。
――その後のことはよく覚えていない。
◆
『――ほ、みほっ』
「ほえ?」
遠い何処かから私を呼ぶ声が聞こえる。
教室ってそんなに広かったっけ? と呆けた頭で辺りを見回すけど、そこは見慣れ始めた教室。数学の先生が黒板に難しい数列を板書して、生徒がその内容を書き写してる。それがいつもの光景だけど、いつもと違うのは教室中の人達の視線が私に集まっていること。
「え……ぁ……」
「(……みほっ、大丈夫?)」
クラス中の目に尻込みする私に斜め後ろの武部さんが声を掛けた。けど今の私には武部さんに返事を返す余裕も無かった。
『どうしましたか? 気分でも悪いのですか? 具合が悪いのなら保健室へ行きなさい』
何処となく存在感が薄い先生の言葉に誘導されるように私は席を立ち、重い足取りのまま教室を後にした。
……私の席は武部さんと五十鈴さんの席の前にある。……だけど二人の傍を通る時、一度も二人を見ることは出来なかった……。
そういえば、2人が心配して何度も声を掛けてくれたのをおぼろげに覚えている。迷惑をかけちゃったかなぁ。後で謝っておかないと。
『先生っ! 私もちょっとお腹が!』
『わたくしもお腹が。沙織さんたら……昨日はあんなにも……』
『何!? 女子力高い女子生徒ランキングクラス一位のあの武部さんがザ・大和撫子の五十鈴さんと!?』
『昨日の夜に一体何があったんだ……っ!』
『この前隣のクラスの男子をこっぴどくフってたけど、そういうことだったのね……』
『はっ!? ちょっ、昨日は華のうちで鍋してただけ、もう華ぁぁぁあああああああああああああっ!?』
◆
相変わらず頭の中はぐるぐるしてた。
リノリウムの廊下しか目に入んなくて、授業中で静かなハズなのに頭の中から音が聞こえてくるようだった。
どうして……何度もそう考える。
黒森峰は正直言って窮屈だった。
お姉ちゃんの妹。西住流の第次席。黒森峰学園戦車道の副隊長。……十連覇の汚点。
あそこにいるだけでそれらの重圧は私を苦しめた。
……ウチの中でさえ私は逃げられなかった。
だから遠い大洗に来たのに、戦車道は私を追いかけてくる。
もう私は戦車道に関わりたくないのに……っ。
ふと、歩く人の足が視界に入った。
フラフラフラ~、と。同じ方向に向かって歩いているけど、その足は右往左往して一応真っ直ぐ歩いている私の方が追い抜いてしまいそう。
顔を上げてみた。
後姿しか映らないけど、ボリュームのあるふんわりとしたピンク色のロングヘアーが印象的な女子生徒。
その人の足取りは覚束なくって、足取りに合わせて上半身も揺れていて、今にも倒れそうなぐらい廊下をフラフラと歩き続けている。……ただ、その先は廊下の突き当りなんだけど……。
さすがに見ていられなくなった私はその人に声を掛けることにした。
「あの、大丈夫で」
でっかい。
横に並んでようやく気づいた。
私じゃ比べものにならないきょういてきなでかさ。いや、でかいだけじゃない、歩く振動が身体に伝わって揺れているから大きさに合わない柔軟性を秘めてると見た。荒くなったその人の息遣いはさらに自分の体を揺れさせていくからその柔軟さは強調させて余計に目が離せなくなるつい手が出そうになっていや手を出したら犯罪だよ?でも相手はなんかフラフラしてるし意識ももうろうとしてるんじゃここで触らなかったらもう柔らかさを味わうことは無いんじゃないかな――――っ!?
「――ぁれ? 誰でしょうか……?」
はっ!? あ、危ない、今私の中の悪魔が身体を乗っ取る所だった……。
声の主はやっぱりピンクのロングヘアーの女子生徒。
冷静に考えると私は一体何をしようとしていたんだろう? これじゃあ変態じゃない……!。
「ご、ごめんなさい! 出来心というかっ、見たことも無い迫力に圧倒されたというかっ! とにかく不仕付けな目で見てしまってごめんなさいっ!!」
慌てて頭を下げた。同性とはいえそんな目で見られるのは嫌なことだしね。
もう平手打ちされても良い、ていうか一発お願いしますなんか顔を合わせづらいです……!
「……今授業中……」
「あ、えっと保健室に行くところで」
「……ああそうでしたね。実は私も頭が痛くって……」
と、女子生徒が納得したように言った。女子生徒の方も保健室に向かうところだったみた――
「――音楽室で料理の本を借りに行くところです」
頭痛を抑える方法として関係性が全くないんじゃないかな。
ていうかやっぱりこの人熱に浮かされてるんじゃ!?
「あの~、もしよければ保健室まで一緒に行きませんか。私もそっち方面に用事がありますから」
「病気は気から、と言いますが体もしっかり整えないと駄目です……普段の食生活から見直さないと禁に負ける体質になっちゃいます……」
「もう菌に負けたからそんなに千鳥足になってるんですっ。手遅れです」
「……鋼の肉体を手に入れるには鉄分が必要じゃないでしょうか……? 鉄……金属……柔らかい、金属……鉛……はっ!」
「頭がボーっとしてるから正常に判断できてないだけですよね? その発想は風邪特有のものですよねっ?」
「あ、自己紹介がまだでしたね……私普通二科C組のひみゃみゃみゃ……」
「自己紹介今!? もう呂律も頭も回ってないし早く保健室に行きましょう! ほら早く、って
この人、私の知ってる病人とは一線を画している……っ!?
どういうわけかその場から動かない女子生徒。早く保健室に向かわせないと廊下で倒れてしまうかも。そしたら明日の校内新聞の一面を飾り、私はこの女子生徒を見捨てた罪な女として学校に広く知れ渡っちゃう。そうしたら私の学園生活は……!
こうなったら実家で鍛えられた西住流の技を使わざるを得ない……!
弾薬庫から砲弾を引き抜くように腰に力を込めて、滑り落ちないように手をしっかり握って――
「えいっ!」
「ふにゃん」
「ええっ!?」
気の抜ける声と一緒に女子生徒の全身の力がへにゃと抜けた。
引っ張る方向に逆らわない所為で女子生徒は私の後方へ。けど私はさらに体制を立て直させようとして腕を掴んだまま彼女を引き寄せようとした。
それでもなお、女子生徒の足元は覚束ないままだ。
こっちに引き寄せても反対に体が傾いてしまい、結果女子生徒は社交ダンスのように私の周りをぐるぐる回る。未だに意識がはっきりしていない彼女は為されるがままに振り回されていて、その勢いもあって私もまた彼女に振り回されていた。
「あーもう!」
と、
「(ガッ)あっ」
回り過ぎた所為か足が引っ掛かってしまい、私は女子生徒と一緒に倒れ込んだ。
「(いけないっ、この状態じゃこの人受け身も取れないんじゃ……!)」
私は咄嗟に体を入れ替えて、すぐに来る衝撃に備えた!
そして、
ドスッ。 ←背中から落ちた。
むにゅんっ。 ←顔に柔らかいものが押し付けられた。
(ほ、ほああああああ!?)
母性が! 母性の塊が顔に!?
視界全面が柔らかいもので覆われてそれが何なのかわからないけど状況的に考えてあの時の見ただけで衝撃を受けた柔らかそうででっかいアレなモノですよね!?
ヤバい……実際触ってわかるけどすっごい柔らかい……! 私の見立ては間違いじゃなかった……なんかもうこうしてるだけでダメになる……人をダメにする柔らかさだ……ずっと埋もれていたいな……。
……けどなんだろう……? なんか頭痛を感じるような……難しいことが考えられないというか……息苦しい、のかな? ちょっと危険を感じて這い出ようとするけど女子生徒さんは完全に気を失ったようで全体重がかかって身動き一つ取れなかった。……それ以前に私も動く気力を失ってしまってる。もうこのままでいいかなー、って。
そっか……これが人の
『――あれ? 誰か倒れてる。まぁウチじゃよく見る光景だけど……って潰れてんのみほじゃない!?』
『その上に居るのは姫路さんですね。また熱が出しても登校してしまったんでしょうか彼女』
『あらら、完全に潰れてるわ……取りあえず起こさなきゃ』
『! 待ってください沙織さん。みほさんの指が!』
『床に書いてる……そんなことより起こしてみほ助けるのが先じゃない?』
『解読しますね。ええと……『べりーびっぐあんどぐっどそふと』?』
『みほ!? 何で今その事を伝えたかったのかわからないよ!?』
なに、フミカネ作品のヒロインは全員おっぱい星人じゃないのか?