バカと乙女と戦車道!   作:日立インスパイアザネクス人@妄想厨

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問 調理の為に火にかける鍋を制作する際、重量が軽いのでマグネシウムを材料に選んだのだが、調理を始めると問題が発生した。

この時の問題点とマグネシウムの代わりに用いられるべき金属合金の例を一つ上げなさい。


姫路瑞希の答え
『問題点:マグネシウムは火にかけると激しく反応する為危険であるという点。
合金の例:ジュラルミン 』
教師のコメント
正解です。合金なので『鉄』では駄目というひっかけ問題なのですが、姫路さんは引っ掛かりませんでしたね。

武部沙織の答え
『問題点:マグネシウムの鍋では煮込むときにマグネシウムが溶け出して料理がおいしく作れないという点。
合金の例:なんか火に強そうな金属』
教師のコメント
答えが全体的にふわっとしていますね。料理が得意な武部さんらしいとも言えます。ちなみに普通の鉄鍋でも鉄鍋から鉄分が溶け出しているそうです。

秋山優花里の答え
『問題点:鍋が火によって光ってしまい偵察任務に支障をきたす点』
教師のコメント
答えとして合ってますが、あなたは普段誰と戦っているのですか?

五十鈴華の答え
『合金の例:リチウム』
教師のコメント
水に反応すると有毒なガスが発生するため危険ですので絶対に料理に使わないでください。


1時間目 僕と学校と履修届! その1

 僕の1日は朝食から始まり夜ふかしで終わる。

 そんな何気無い日常が続いてくはずなのに。

 

「何でこうなってんだぁぁぁ―――――――――――――っ!?」

 

 いつもの教室はそこに無い。

 部屋の中なのにキャンプファイヤー。

 それを取り囲む覆面集団。

 ―――磔にされる僕。

 

「静粛に!」

 

 カァン! と、法壇に居座る三角の頭巾をかぶった男が木槌を叩いた。

 

「これより――異端者審問会を始める」

 

 そして理由を聞く間もなく始まる異端者審問(こうかいしょけい)

 僕の疑問に答える奴なんてこの場には居ない。ここに居るのは嫉妬を原動力とする最低最悪の暴力集団であり、相手を労わるなんて思考は存在しないのだ。

 そんな奴らに囚われ、断罪の刃が刻一刻と迫る中で――きっとこれは走馬灯というやつだろう――僕は今朝の出来事を思い返していた。

 

 

     ☆

 

 今日も今日とて遅刻した。

 

「ヤバい、今日こそそど子に殺される……!」

 

 春も終盤に差し掛かったこの頃、雨期前のカラッとした天気に心地よさを感じていたいところだけど、今はそんな余裕は無い。

 入学して1年間、ほぼ毎日遅刻した僕に対して風紀委員長である園みどり子さんは鉄拳制裁を辞さない構えになってしまってる。しかも生活指導の先生公認だ。教育委員会は仕事してるんだろうか?

 ともかく超法規的措置が許されたこの学園で遅刻なんて真似はマズい。最悪留年なんてこともありえなくも無いし、遅刻が理由で留年したと家族に知られたら全身の関節が2倍に増えるほど叱られそうだ。

 

 遅刻回避のため、普段は使わない近道を抜けて見慣れた通りに出た。歩行者に注意しながら前を見ると、見覚えのある後ろ姿が見えた。よくよく考えると、僕が遅刻しているってことは彼女がここにいるのは当然だよね。

 いつものようにふらふらとした足取りのせいで揺れる黒いロングヘアを髪留めで止めた少女に声をかける。

 

「おはようれーせんさん! 走らないと遅しちゃうよ?」

「れいせんじゃない冷泉(れいぜい)だ。何度訂正したら覚えるんだお前は? あと私は今頭痛と目眩で辛いんだ走れるかでかい声で話しかけるなバカ」

 

 そう言って振り向く彼女。スネ蹴るぞと言わんばかりに非難する低音ボイスとジロリと睨む伏せ目がちな視線、いつものれえせんさんだ。

 れえせんさんは僕と同じ学校に通う女子だ。クラスは違うけど遅刻常連者同士でこうやって一緒に登校することが多い。まぁれえせんさんはいつも低血圧で頭がぼーっとしてるらしくって、学校までの道のりを僕がする世間話をれえせんさんが投げやりに返す程度の関係かな?

 

「……だるい……なんで朝が来る……なんで私と同じく夜更かししてるお前は朝から騒げる……?」

「? 学校で寝ればよくない?」

「……………その手があった、か……? む?」

 

 んー? と難しい表情をして首をひねるれえせんさん。そんな難しいことじゃないと思うけどな。授業中は机を前にしただけで眠くなってくるのは仕方のないことだし、僕の周りの連中は先生に寝てるのを悟らせないために目を開けたまま居眠りする術を編み出してるしね。

 そんな他愛のない話をしていた時、遠くからチャイムのが響いた。

 ………………そういえば僕たちって遅刻してたんだ!?

 

「やっば、急ごうよれえせんさん! そど子のおまけに鉄人の鉄拳が飛んでくる!」

「授業中の居眠りによる学力低下はすなわち私の睡眠時間の持続につながるということ問題は教師による保護者面談(チクり)だが要はバレなければいいバレなければ坂本は不良だったからなこの手のサボりスキルは熟知してるだろそういうわけで吉井いつも通り私を背負ってくれ」

「ちょっと何言ってるかわかんない」

 

 まだ寝ぼけてない?

 それに朝っぱらかられえせんさんをおんぶして全力疾走とか普通にイヤなんだけど。そりゃまあれえせんさん軽いからおんぶして走っても体力的には問題ないし、今からなら校門は閉まっても授業前に教室に入れるだろう。でも全力疾走してメリットがあるのはれえせんさんだけで僕は単純に疲れ損じゃないか。

 でもここで文句を言ってもれえせんさんのことだ。得意の口八丁で僕を言いくるめてしまうだろう。今日はそうはさせないぞ。

 

「僕日直だから先に行くね!」

 

 僕はそう言い残して走り出した。

 れえせんさんが何か言う前にこの場から離脱する! それが僕の導き出したモストな判断!

 

「……数の最上級(most)形容詞の最上級(best)を間違えてそうな顔をしやがって……。まあいい。どの道この私を見捨てたのだからそれ相応の報いを受けてもらおうか」

「何をわけのわからないことを。れえせんさんがどうなったって僕に関係ないじゃないか!」

 

 するとれえせんさんはポケットからケータイを取り出して、声を張り上げた。

 ケータイの画面には2人の人物が映った写真が。

 それがなんだ。そう思っていたけどその人物に何処か見覚えがある……。

 

「春休みの宿題を写させてた時の写真を土屋が撮ってたらしい。何かの時に使えないかと思ってデータをもらった。――これをFFF団の奴らに見せる」

「チクショウ!」

 

 ずしゃぁっ! と急ブレーキをかけて走ってきた道を急いで戻る。

 女子と二人きりの時の写真をFFF団に告発する!? こっちの事情なんてゴミ箱に捨てる連中なんだぞ!? そんなことしたら処刑(ひもなしバンジー)されて僕は放課後まで茨城港をさまようことになるじゃないか!!

 ――ところでどうして僕はれえせんさんの元に引き返しているのか?

 れえせんさんからケータイをひったくってデータを処分するため? いやそんな暴挙をするつもりはない。去年のテスト前にれえせんさんにノートを写させてもらうように交渉したけどこっぴどく拒否されて、情けなくも縋り付いた結果どういう風に勘違いされたのかれえせんさんの友達の武部沙織さんに『男子に追いかけられて嬉しいなんて幻想! ストーカー滅ぶべし!!』ってワンパンされたんだよね。

 そんな経験を踏まえて僕は力づくでひったくったりはしない。僕は同じ失敗をしない男だからね。

 だから僕がすることは決まってる。

 れえせんさんの前まで走った僕は息を弾ませて地面に膝をつく。その姿勢のままれえせんさんへ自分の感情をぶちまけた!

 

「なんでもするからそのデータ消してくださいお願いします!!」

「なんでもすると言ったな? 要求は一つだ学校まで背負っていけ」

 

 FFF団を刺激するような爆弾を手にしたれえせんさんに逆らえるわけがない。ここはれえせんさんの言うことを素直に聞いて、その手に持った爆弾自体を手放させることが重要。プライド? そんなものより自分の命が大切なんだ!

 

(……まぁ元のデータは相変わらず土屋が持ってるからまた焼き増ししてもらえばいいが、こいつは気づかないだろうな)

 

 

     ☆

 

「どうした? 今日はやたらと遅いじゃないか」

「誰かさんの所為で余計な体力を消費したからね!」

 

 燦燦と晴れた通学路を女子を背負って全力疾走する僕。

 大洗において時折見かける僕らの姿を町の人たちが生暖かい目ね見てくる辺り町の風物詩になっているらしい。

 それはそうとして1限目まで本格的に教室に入るには間に合いそうにない。さっきのケータイの下りで余計な時間を食った所為だ。こんなことなら近道とかしなかったほうが良かったかも。

 と、いろいろ考えているうちに大洗学園のブロック塀の横を走り抜けていることに気づく。次のコーナーを曲がれば校門に着くんだ。ここはまでで予鈴が聞こえたのは1回だけ。まだホームルームが始まったばかりというところかな? ということは校門で風紀活動してるそど子は僕たちが遅刻してるのを見計らってギリギリまで門を開けているはずだ。

 ならば好都合だ。このまま校門を滑り込んでそど子の前でれえせんさんを下ろす。そのまま教室まで逃げ切ればそど子と鉄人に説教を受けるのはれえせんさんだけだ。

筋肉が悲鳴を上げる中、ラストスパートを切ろうと足に力を籠める――。

 

「‼ 吉井ステイ!」

「ぐえっ!?」

「マズい。今、塀を覗いてみたが校門が閉まってる上に今日はそど子が居ない、なぜか鉄人が校門に居座ってるぞ。恐らくだが、そど子は塀の低い乗り越えられる箇所を見回ってるんだろう」

「お、教えてくれてありがとう。けど首を絞めたことに一言申したい」

 

 背後から密着された状態からの締め落としとか防ぎようがない……。

 でも困った。鉄人が校門を張ってるとなると僕が建てた作戦は破綻してしまう。鉄人なられえせんさんを囮に使っても僕を捕まえることなんて朝飯前だ。

 どうするべきか……、そう考えていた所、れえせんさんから一つの提案があった。

 校門から反対を指さして、

 

「逆に塀の高い箇所にはそど子はきっと見回らない。お前の身体能力なら大丈夫だろう」

「なるほど。相手の盲点を突くんだね。でもねれえせんさん。僕も一回試したことがあるんだけど、その時は駄目だったんだ」

「れえせんじゃない冷泉だ。問題ない。私にいい考えがある」

 

 そうして目的の高い塀の前に着いた。

 目測で3mくらいかな。僕の身長より倍近く高い。

 

「よし、やるぞ」

 

 れえせんさんの号令に従ってれえせんさんを背負ったまま塀に張り付いた。れえせんさんは僕の手を足掛かりにして僕の体をよじ登る。足が肩に乗ったあたりでれえせんさんの足首を掴んで、僕の手のひらとれえせんさんの足裏を合わせて持ち上げた。チアリーディングでこんな技があったような気がする。

 

「ちょ、揺らすな! 落ちたらシャレにならんし超怖い!」

「ごめんね! ちょっとバランスを保つのがムズイ……! ちゃんと手が届いてるれえせんさん?」

「冷泉だ……ッ、もう少し――よし、届いた! 踏ん張れよ吉井……!」

 

 せーの、と掛け声に合わせてれえせんさんの全体重が僕の腕にかかる。この塀は僕とれえせんさんの背丈じゃ届かない。チアリーディングの技をして目一杯背伸びしてやっと塀の上に手がかかるんだ、とれえせんさんが冷静に分析したんだ。

 ――とは言ったものの、壁で支えてるけどつま先立ちで腕を真上に伸ばすこの体勢はツラい。雄二(ゴリラ)みたいな腕力なんて僕には無いから、上手くバランスを取らないとすぐに崩れ落ちそうだ。正直腕が()りそうで楽な姿勢に変えたい……。

 ……待てよ。このチアリーディングの大技は両者の信頼関係で成り立つものだ。僕は手の上でれえせんさんを支えてるから身動きが取れないけど、支えられてるれえせんさんもまた不安定な足場でバランスを取るために下手に動けないはずだ。加えて彼女は塀に手をかけているから、手も自由に動かせない。

 

 

 

 

 これは、僕の頭上で展開されている光景をひそかに見るチャンスなんじゃ……!?

 

「うお! どうした!? 今のはちょっと危なかったぞ!?」

「あ、ごめん」

 

 あ、危なかった。動揺して危うくれえせんさんを落としそうだった。

 そうだ、今はれえせんさんと協力して危険な作業をしている真っ最中。余計なことを考えればれえせんさんが怪我を負う可能性が増すんだ。

 ――雑念を振り払おうとしたその時、僕の頭の中で悪魔がささやいた。

 

『いいから見ちまえよ~。チラッと見る程度ならバレないし、もし咎められても言い訳もできるぜ? それにいつもいいように使われてるんだろう? ほら、目を限界まで見開いてみ?』

 

 やめるんだ悪魔め! 確かに見たいという欲望はあるけど、それは風でスカートがめくれるとかの偶然の出来事で見るからこそ幸せを感じるんだ。それ以外の方法じゃ僕はただのゲスじゃないか!

 悪魔の意見を正論で叩きのめすと今度は、天使が僕に助言した。

 

 

『――先ほど動揺で揺れたのがれえせんさん(かのじょ)に伝わったように、腕を固定したまま首を仰ぐのでは彼女にバレる可能性がある。したがってその姿勢のまま上を向くには最低限の動作かつ慎重にしなければならない。時間は約13秒程度だ。ぐずぐずしてる場合じゃない、一瞬で勝負をかけよう!』

 

 お前は誰だ。僕の脳内に住んでる存在ならばそんな頭のよさそうな単語を羅列できるはずがない! というかこっちも覗くのを推奨してない!?

 でもこいつの言う通りだ。れえせんさんが壁を登り切ってしまうのも時間の問題だ。こんな機会は滅多にない。逃したらもったいないって気持ちが僕の背中を押している。

 もし覗いたのがバレてしまったら僕らの友情は消えてしまうかもしれないけど、うん、悪魔の言う通りバレなければいい。れえせんさんの心配をする感じで上を向いて、一瞬だけ見て網膜に焼き付けてしまえばこっちのもんだ!

 

「おおっと急に強い風が!」

「うわっ!?」

 

 わざと揺れたフリをしてれえせんさんを塀に掴ませて下に意識を向ける余裕をなくさせる。そうして油断してる間に覗き見る算段だ。

 ぐらりと、けどれえせんさんが落ちないように気をつけながら体を傾けた。

 

「大丈夫かいれえせゴべッ!?」

 

 さも無事を確認するように顔を上に向けた瞬間、顔面全体が踏みつぶされた。バランスを崩したれえせんさんの足が僕の顔面にのしかかったようだ。

 

「吉井すまん」

「くぉっちこぞごべん。ふぁあくどいておしい(こっちこそごめん。早くどいてほしい)」

 

 首が! 首にれえせんさんの全体重がかかってメキメキ言ってる!

 そんなぼくの心の悲鳴は当然れえせんさんには聞こえておらず、れえせんさんは手に足をかけるためにぐりっとさらに踏み込む。

 

「……まぁ、ツラい体勢を維持させてるからな。少し申し訳なさを感じてる」

 

 と、れえせんさんは神妙な声色で謝る。

 珍しい。この前なんかゲームを持ってきたことを鉄人に告げ口した時は鼻で笑っていたのに。

 なんだかんだ言ってもこの一年、連日遅刻者同士の情が芽生えたようなものじゃないかな。親しき仲にも礼儀ありとはよく言ったものだ。

 ――そんな仲で僕はかなりゲスいことしようとしていたんだけど。ちょっと反省しよう。

 

「ううん。別に気にしてな――」

「それとだ。最初に伝えておくべきだった。――今上向いたら、殺す」

「れえせんさんの支えになれるよう全力尽くしていく所存です!!」

 

 雑念を振り払ってただれえせんさんを持ち上げることだけに集中する。それが今の僕に課せられた使命なんだ。

 決して女の子の口から出そうにないぐらい低い声にビビったわけじゃない。

 その後も執拗に頭をぐりぐり踏みつけられつつも、れえせんさんは塀を乗り越えることができた。

 

「……長かった。時間もないのに」

「ホントにね。さて――」

 

 次は僕の番だ。

 きっとれえせんさんはあらかじめロープを用意しているのだろう。それをこっちに降ろしてくれれば自力で登ることができる。FFF団を撒く時によく上の階に上がるために使う手だしね。

 

「ロープをこっちに降ろしてくれないかなれえせんさん」

「……ロープ?」

 

 

 僕の言葉に、何故かれえせんさんは考える仕草をし、

 

「吉井。この塀の裏には何があると思う?」

「? 何かあるの?」

「今は使われてない物置だ。ちょうどこの塀より低い高さで、ほら」

 

 れえせんさんは塀の上から姿を消すとトタンの板がへこむような音が聞こえた。ひょっこりと塀の上かられえせんさんの顔が覗いた。

 

「まぁ、この通りだ。あらかじめ物置の横にブロックで階段を作ったから私の身長でも降りることはできる」

「へ~、やっぱり用意が良いね。……ん?」

 

 ふと違和感……? というか肝心なことが抜けてる? れえせんさんに疑問をぶつけてみる。

 

「ところでロープは?」

「用意してるわけないだろうバカめ。私の膂力でお前を引き上げれるわけないだろう」

「いや自力で登れるから問題ないけど……。ぼくはどうやってこの塀を乗り越えればいいの?」

 

 

「さらばだ!」

 

 そう言い残してれえせんさんの顔はあっという間に消えた!

 

「最初から僕を見捨てる気だったのか!? ひどいよ、騙したねれえせんさん!!」

「はっ! 私の遅刻記録も上限でな! お前に構ってる暇なんてない!」

「れえせんさんから絡んできたくせに……! なんで僕はこうなることを見抜けなかったんだっ!!」

というか前も似た方法で騙されてただろバカめ。それはそうともう黙っておけ。そう騒ぐとそど子に――遅かったな」

 

 

 ピリリーッ!! と、僕にとってはなじみのあるホイッスルの音が響き渡った。

 

「こらー吉井! そこで何してるの!?」

 

 ホイッスルの音が響いた方に居たのは予想通りの人物。昔ながらのおかっぱ頭と風紀委員の腕章をつけた女生徒はこの学校に一人……いやいっぱい居た。でも3年生の風紀委員といえば彼女だ。

 そんな彼女の手には漁師が使うような投げ網が掴まれてる。前になんでそんなものを持ってるのか聞いてみたら、この学校じゃ問題児が多いからまとめて捕縛するための必須アイテムなのだとか。

 

「げっそど子」

「今そど子って呼んだわね! 容赦なんか必要ないわよねぇ?」

「あだ名を言っただけなのに!? 沸点が異様に低すぎない!?」

 

 投げ網を振り回し、とてつもない勢いで迫ってくるソド子。

 れえせんさんに助けを求めようとしたけど、もう辺りにれえせんさんの気配はなかった。

 完全に見捨てられた……!

「おのれぇっ、れえせんさーん!!この借りはいつか返して――」

 

 

 背筋からぞわりとした感触を感じて前転した。

 僕が居たところにはそど子の投げ網が覆いかぶさった。……ぐずぐずしてる場合じゃなかった! 早く逃げないと!

 

「前回は正面突破。今回はこんなとこで何をしようとしてたのかしら? ……まさか塀を壊して入ろうとか考えていないわよね」

 

 そど子そどのふとした一言に少しの間硬直した

 ……しまった。その手があったか……!

 

「ねぇ、今その手があったかって思った?」

「そそそそんなことないよ!?」

「目が泳ぎまくってるわよ! ていうかあなたの場合前科があるから全く信用できない! こうなったら意地でも捕まえて西村先生の前まで引っ張り出してやるわ! さぁ、おとなしく特別授業を受けなさい!」

「イヤだよ! なんで自分から宗教勧誘会に行かなきゃならないのさ!」

 

 鉄人の補修授業といえば超過酷と呼び声名高いものだ。ただそれだけでなく、この鉄人の特別補修をうけた生徒の多くが趣味が勉強、尊敬する人物は二宮金次郎に性格を捻じ曲げられてしまうという噂が流れてるから絶対に受けたくない。

 

「何が宗教勧誘よ失礼じゃない! 西村先生の授業はとてもためになるものよ! 放課後毎週6回通ってる私が行ってるんだから間違いないわっ!」

 

 この人ダメだ。すでに鉄人に染まってる……!!

 

「そうだわ、どうせ放課後は予定スカスカでしょうし一緒に授業を受ければ――ってこら逃げるな! 待ちなさい吉井ぃぃぃーーーーーーーーーー!!!」

 

 

 

 校則違反。脅迫。裏切り。逃走劇。

 これがここ、大洗学園の日常だ。

 こういったことは、この学園艦のどこかで毎日起きているんだ。

 いつも通りだからこそ、僕は忘れていた。

 逃げたれえせんさんのこと。

 そして遅刻のこと。

 全部頭から抜け落ちていたんだ……。




最後に言っておくと、ガルパン勢の性格はバカテス寄りにキャラ崩壊させております。

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