バカと乙女と戦車道! 作:日立インスパイアザネクス人@妄想厨
37回目のうまぴょい伝説を聞く作者「…………一日一文字ペースで書いてたって言ったら許してくれる?」
今日最後の授業が終わった時点で力尽きた。
今朝の追走劇の末の報酬は結局脳へのダメージのみ。その所為で今日一日中頭が回らず授業は上の空だった。
「いつもと何が違うんだよ」
逆立った赤い髪がトレードマークのゴリラの名前は坂本雄二。今朝の出来事のせいで今日一日先生に目をつけられている様子を眺めては爆笑してやがった外道である。
そうだ。そんな雄二の友情へ報いるように消しゴムやら不幸の手紙飛行機やらを投げ合っていたら
「……ワシだけ標的にされなかったのは何故じゃ……」
そううなだれている超絶怒涛の美少女は木下秀吉。このクラストップレベルのかわいさを誇る彼女だが、かわいそうに。このクラスに染まってしまったばかりに自分のことを男だと思い込んでしまっている。そんな彼女だから今日の騒動で男子の輪に入れないことに落ち込んでしまっている。かわいい。
そして誰が言ったか、僕が時々生徒会の人たちと遊んでるという噂を
でも『女子生徒会長と遊んでる』という言葉に惑わされたクラスメイトは僕の言い分に聞く耳を持たず、FFF団が授業中にも関わらず異端審問会を開廷しようとし、何故かテンションの上がったクラスの女子が裁判長を務めて、雄二に右腕、須川君に左腕を持たせて綱引きをさせようとか言いだした所為でFFF団の全員が僕の手足で綱引きだとか殺気立ったりして、僕は他の生贄……注意をそらせるものを探そうと必死になったりと……1時間は意外と短いはずなのにすごく濃密な時間を過ごす羽目になった。あと担当の先生が涙目になってしまったのは申し訳ないと思う。
「………最近、撮影場所が少なくなってしまった……」
そうカメラをいじりながら学園の地図とにらめっこしている小柄な男は土屋康太ことムッツリーニ。趣味は女子生徒のふとした最高の瞬間を盗撮すること。女子たちの撮影に熱意を傾けていて、その成果を布教して回るその姿はまさに性職者といえる。ただ、最近は女子研究が捗ってないみたいでムッツリーニ商会は閉店状態。残念。
そんなこんなでクラスが騒がしくなった時、生徒指導の鉄人がロッカーから出現。その直後にクラスは静まり返った。僕も当然黙ったんだけど、鉄人は僕が原因で大騒ぎになったと決めつけられて生徒指導室送りにしようとしてきたから、教育者としてそんな理不尽な体罰を行なっていいのかと猛抗議してみたんだけど、体罰の許可を得ているから構わんと一蹴されたのだった。『……誰から?』って聞くと僕の保護者からだって。理不尽だ。
で、鉄人からの体罰ぐらいなら僕は慣れっこだからこうやって文句は言わない。せいぜいどう指導室から脱出するかを考えるぐらいだ。
じゃあなんで僕はぶーたれてるかというと……。
「クラス全員から裏切られるなんて思わなかったよ……」
「「「このクラスの人間を信じた明久が悪い」」」
鉄拳制裁を加えようとする鉄人に僕は現代の教育に優しさが必要であることを説いたのだけど、あろうことか早く鉄人に退散して欲しがったクラスメイトは、先ほどFFF団が用意していた法壇や手錠やよくわからない鉄の棒などを僕の席の周りに寄せ集めて鉄人に見せつけた。後のことは……僕の頭にできた二つ目のたんこぶを見ればわかるよね。
きっと学園側は素行の悪い人物をこのクラスに集めさせたに違いない。どこかのおまじないと一緒だ。
☆
とはいえだ。
今日は一段とせわしない一日を送ったけど、僕は乗り切ることができた。あとは
そのためにも――
「ねえ雄二。須川君達は?」
「廊下で磔台を組み立ててるよ。みんなHRが終わらないかと目を血走らせてやがる。人気者だな明久」
見てみろよ、と顎で廊下を指す先を見れば、黒服面と黒マントを着込んだ怪しい集団が各々武器を手に待ち構えている。
『あの野郎……あれだけ我々を裏切るとどうなるかを思い知らしめたのに、まだ罪を重ね続けるのか……!』
『いい度胸だ。船舶科の先輩とティータイムとはな!』
『ちくしょう! 不良たちの邪魔がなければ……!』
どうしよう。誤解が大きくなってる。
船舶科の件だって鉄人から罰として昼休みの間に艦底の落書きやゴミの掃除をすることになっただけだし。
まぁ、掃除があらかた片付いた後『どん底』で休憩したけどさ。カトラスの新作ノンアルコールカクテル(辛い)の試飲も大変だったんだから。
「……むしろなんであんなに殺気立ってるのに律儀に廊下で待ってるんだか」
「ああ、少しばかり女子たちに叱られたんだよ。『焚火後の汚れとか落ちにくいから廊下でやれ』ってな」
「相変わらずこのクラスは命が軽いのう……」
呆れる秀吉に全くだと思う。
けど彼らFFF団の気持ちも理解できないこともないんだよね。
仮に雄二にすごく美人の幼馴染みの婚約者が居たら、僕は真っ先に奴を潰す。もしムッツリーニがエロかわいい女の子と一緒に話してたりしたら、奴は血の池に沈むことになる。まぁ、そういうこと。
それに言い訳じみたことを言うけど、それぐらいしか楽しみが無いんだよね、この学校。
「あいつらもさ、僕に構ってる暇があったら部活なりなんなりすれば役に立つだろうに」
「……どうした明久? お前にしちゃかなりまともなこと言ってるじゃねぇか」
「僕にしちゃってなんだよ」
「そうじゃな。明久の口からそのような殊勝な意見が出るのは珍しいからのう」
「…………日頃の行ない」
ぐうの音も出ないことを……!
「昼休みの時に桃ちゃん先輩が愚痴ってたんだよ。年々新入生がへりつつあるのは大洗学園には注目されるものがすくないからだー。予算が減らされる前にこそ部活で日本一になったりこの学園ならではの行事をして、世間のちゅうもくどのこうじょうを目指さないといけないんだー、って僕の頭掴んで揺らしてくるからすっかり覚えちゃってさ」
「…………随分と切羽詰まってる」
「こやつに当たった所で何ともならんぞ河島先輩」
「それはそうなんだけどね。だから僕なりに考えたんだけど、FFF団のみんなを部活に入れておけばなんかの大会で優勝出来るんじゃないかな、って。あいつら無駄に身体能力高いし、元手がタダだから使い放題じゃん」
それに溢れてるリビドーを発散させておけば僕を襲うこともなくなるんじゃないかっていう魂胆もある。
「明久の妄想にしちゃ悪くない案だ。あいつらが素面でリア充を襲うほど狂暴じゃなきゃな。特に団体競技の部活とかは自分がモテようとして周りを蹴落としにかかるだろ」
「…………やらないという可能性がほぼ無い」
「逆に個人競技では部活外の者が妨害しにかねんのでは?」
「つっても文系は論外だしな。なんにせよ、この学園でやってる部活じゃあいつらの暴走は抑えきれねぇし、あいつらが学園に貢献するような部活は無いだろ」
「FFF団が学園に貢献……学園艦の底でスクリューを回す部活とか?」
「そんな部活があったらどれだけ治安が良くなんだろうなこの学園」
良い案が浮かんだと思ったんだけどなぁ。きっと人権費が浮くだろうし、その分食堂のレパートリーも増えたら嬉しい。
「
空腹時の刺激物コンボで胃にダメージを負ったから位にやさしいものが好ましいな。僕がそう聞くと秀吉とムッツリーニが申し訳なさそうに口を開く。
「すまんのう。ワシはパスじゃ」
「…………同じく」
ありゃ? これは想定外だ。
「二人とも用事?」
「ワシは部活じゃ。今日は体育館を使う部活が早く終わるそうでの。部活生が全員帰るまで図書室で台本を作るかグラウンドで走り込みでもしようと思っておる」
「相変わらず演劇に関してはマジメだよなお前」
「それがワシのやりがいじゃからの」
「そうは言ったって、演劇部お前ひとりだろ?」
秀吉は演劇部に所属してる……というか所属していたでいいのかな?
元々人数が少ない部活だったらしいんだけど、去年までは3年生の先輩が活動していた。そんな時期に秀吉ひとりが入部して、3年生が卒業した今年は新入生も入部することもなく廃部が決定してしまった。
同好会という形で演劇部の活動をしているけど、もう部活じゃないから体育館は借りれないし、学園から何らかのサポートも受けられないし、文化祭でステージをすることもできないんだ。
そうなった状況でも秀吉はたったひとりで演劇の練習をしている。
どうして演劇を続けているかを聞くと、秀吉は決まって同じことを言う。
「ワシが卒業するまでまだ時間があるからのう。もしかしたらワシの演劇をどこかで観た者が演劇に興味を持ち、ワシと演劇をしたいと言うかもしれぬ。……とは言っておるが、そうならんでもワシは良いのじゃ。単にワシが好きでしてることじゃからな」
そんな風に雄二にかわいい笑顔を向ける秀吉。
演劇に夢中になった所為で成績が悪くなったりしても気にせず前向きに行動する彼女は、間違いなくこのクラスに来るべき生粋の演劇バカだ。
秀吉が演じるシンデレラとか白雪姫とか観てみたいな。きっとすごくきれいだろう。
それはそうとして後で雄二をボコろう。美少女の笑顔を独り占めした罪は血によって洗われるものなのだ。
「っていうかムッツリーニも用事?」
「どうせあれだ。一年に見つかった隠しカメラを奪い返すつもりだろ。あれな、鉄人と
「…………場所は把握済み」
「おお……情報が早いねムッツリーニ。さすがは学校中に盗聴器を仕掛けてることはある」
「…………そんなことしない(フルフル)」
そうムッツリーニは首を横に振るけど少し前に生徒会室にいた杏ちゃんと電話で話していた時、僕をからかってるつもりなのか杏ちゃんは小山先輩の下着の色クイズをするぞーって言ってきたんだよね。Fクラスにいた僕が必死に頭を回転させていたら少し離れた席でムッツリーニが鼻血を噴き出して倒れていたから生徒会室に盗聴器が仕掛けられていたことが発覚したんだ。ここまでネタが上がってるんだから認めなよムッツリーニ。あと雄二はどこから仕入れた情報なんだろう?
それはともかく、ムッツリーニの用事って?
「…………生徒会の調査」
「生徒会の?」
「またイベントを始める気か? 明久、角谷会長からなんか話聞いてないか?」
「ううん」
昼に会った時にそういった話を聞いてないから首を横に振る。
そういえば桃ちゃん先輩がHRは全校集会するって言ってたけど、それは生徒会のイベントとは関係ないよね。
「全然心当たり無いんだけど、何かあったのムッツリーニ?」
そう聞くと相変わらず表情の乏しい彼は確信めいた口調で答えた。
「…………外部から美人コーチが来る」
「――ほう? そのことについてもっと詳しく」
「何故急に
新しくこの学園の一員になる人についての話は襟を正して聞かないと不作法というものだよ秀吉。
「…………会長の電話を盗ちょ――何でもない」
「その辺りは理解してるから話を進めて」
「…………電話の相手は声質が20代前半の女性、強気で英語交じりの口調から国際的な体育会系、背後から機械の駆動音が聞こえた」
「お主は電話一本でそこまでの情報を引き出せるのか……!?」
「割と高い頻度でコイツが恐ろしく思えるんだよなぁ……」
「つまりモータースポーツ担当……!?」
「こういう場面にしか使われないコイツの脳が本当に哀れだよなぁ……」
「なんだとー?」
それだけ情報をもらってたらそのくらいの推理はできるんだぞ、失礼な奴め。
けどこの学園にそんな部活なんてあったかな? たしか自動車部なんてのがあった気がするけど、あの部活がやってることってほとんど機械修理とかそういうことだったような……? そんな部活にコーチがつくなんてことはないよね?
「…………新しく選択科目を作るらしい」
「あーなるほどね」
選択科目を創るにしても顧問の先生が必要になるけど、学園の先生にも限りがあるからね。外部の人を呼び寄せて新しい選択科目の指導をするのが学園にとって一番なんだろう。
「……外部から顧問呼び寄せるにしても予算が無いんじゃねぇのか? 明久も言ってたことだ」
「?」
そう僕が納得してる横で雄二が何か言っていたけど聞き取れなかった。
「…………そういったわけで行けない」
「すまんのう明久」
「そっか。残念」
2人とも無理ってなると雄二と2人で行くワケで。
うーん、雄二と2人だけだと、コイツをボコっても盛り上がりに欠ける……。
そう考えてると今度は雄二が口を開いた。
「なら俺も遠慮しとく」
「遠慮するって何さ?」
「用事だよ用事。俺はお前と違ってヒマじゃねぇからな」
相変わらず人をムッとさせる言い方をする。しょうがないじゃないか鉄人に呼び出される時以外は基本的に帰宅部なんだから。
けど雄二まで用事かー……。1人でゲーセンに行くのもためらってしまうし、いよいよもってやることが無くなったぞ。雄二の言う通り暇人になってしまった。
まぁこういう日もあるか。今日は大人しく家に帰ってこの前買ったゲームでもしようか。なんてタイトルだったっけ……『みんなでスゴルフ』? スゴルフってなんだろう? ス……素……酢……? ゴルフで酢? 酸味を求めるスポーツって何? あ、罰ゲーム的なものなのかな。ミスショットしたら酢を飲まなきゃいけないとか。けど現実にいるプレイヤーは何の影響も受けないのにどうやって酢を飲ませるんだろう……?
ぼくが現在の科学技術に疑問を持っていた時に、ムッツリーニが一言。
「…………女の気配」
ムッツリーニの呟いた直後に雄二は教室から出ようとした。
廊下の外に待機していた須川君達に捕まった。
「チクショウ窓から逃げるべきだった!」
「キサマどこへ行くつもりだ?」
「詳しく聞こうじゃないか」
嫉妬に駆られた集団を前に、中学時代は喧嘩に明け暮れていたという雄二もなすすべもなく、あっという間に十字架に磔にされてしまった。……あの十字架、教壇の所から出てきたけど何処に隠されていたんだ……?
「坂本ォ! キサマは我らの定めた協定を破り、そして女子とのデートという許されざる大罪を犯し! 羨ましい光景を見せつけることで我々を愚弄する気なのだろう!!」
『おお……何という悪逆』
『許すまじ坂本雄二……!』
「キサマの罪は浄化の炎によって
「罪も何も全部ムッツリーニと須川の想像だろうが!! 俺は一言もデートなんて言ってねぇ!」
「言い訳無用! 皆の者、薪をくべよ!」
須川君の号令に従ってFFF団員が十字架に括りつけられた雄二に殺到する。
そんな光景を見つめてると雄二の目がこちらに向いた。
「(脱出するの手伝え明久! 後ろで音を立てて注目を集めるだけでいい!)」
「(えーヤダよ。FFF団の奴らに仲間だって思われるじゃないか)」
「(数分前に遊びに行こうとか言った相手を見捨てるつもりかテメェ!?)」
「(だって雄二僕を差し置いて女の子と遊びに行くしさー、ちょっと羨ましいなーって気持ちもあるけど……雄二の不幸って見ていて飽きないんだよね)」
「(何面倒くさいメンヘラ化してんだこのクズ野郎が!!)」
裏切りには鉄槌を。それが男子高校生の掟であり、雄二は処罰されてしかるべき行ないをしたんだ。
そんなわけで携帯端末に雄二の晴れ姿を収めていると、
「明久テメェ『どん底』連中から卒業旅行に誘われてんじゃねえか!!」
「キサマこのタイミングでなんてことをッ!!」
いったい何処からそんな情報が漏れた!?
僕が弁明する前にFFF団のみんなの目がぎょろりと向いて、逃げる暇もなく僕はロープに縛られた。
大鎌を持った須川君の前に引きずり出された僕は雄二と同じようにどこからか出してきた十字架に磔にされている!?
「何でこうなってんだぁぁぁ―――――――――――――っ!?」
ちょって待って、1秒も経ってないのに処刑の準備が終わってるの!? いつの間にか僕はSF超能力の世界に来てしまったのか!?
……って僕と雄二を取り囲んでる連中の中にムッツリーニっぽい奴もいるんだけど、まさか目に止まらぬ速さで僕を縛ったのってムッツリーニ?
ってそんなことはどうでもいいや! ここから抜け出さないと悲惨な目に遭う!
「――俺は悲しいぞ吉井」
大鎌を持った須川君の声は格好に反して静かに教室を響かせる。
普段の生活では自己主張が少なく、行事などで何かと助けになってくれるいぶし銀な須川君だけど、嫉妬に燃えたときの彼ほど恐ろしい者はいない。
「生徒会の件はキサマの立場を考えて仕方ないと思った。昼間に『どん底』に通ったと聞いたときは自分の耳を疑い、それでも吉井なら、と思った。ここまでは吉井の罪は軽いものだったんだ……だがッ!」
僕の罪も何も事実無根だ。
そう声高に主張しても須川君を納得させられる自信はない。
「あまつさえ『どん底』メンバーと卒業旅行だと……っ! 俺はいや! 我々はッ! キサマに裏切られた悲しみを決して許しはしない!! さぁ言え! いつ何処で『どん底』の女子たちとキャッキャウフフの旅行をすると約束した!?」
「ま、待ってすがわ」
「黙れ殺すぞ!! 薪に火をつけろ!!」
ゴウッ! と、須川君の背後に炎が上がった。
支離滅裂な言動を聞いた僕は、いつもの物静かな須川君はいなくなったと悟った。こうなったヤツは僕たちの言い分なんか一切聞いちゃくれないんだ!
「だ、誰か! 須川君を止めてくれ!」
「頼む! 鉄人かそど子を呼んできてくれ!」
僕も雄二も教室にいる生徒に必死になって懇願した。
……今教室にいるのは僕たちとFFF団の連中だけじゃない。このクラスにはまじめに勉強している女子生徒やFFF団の奇行にうんざりしている女子生徒もいるんだ! そんな心優しい人たちがきっと何とかしてくれるはず!
『こ、こら~! 教室の中での火の取り扱いは禁止されてます! 床に燃え移ったらどうするんですか!』
『そうだぞFFF団! 毎回残った灰とかの掃除が面倒なんだ!』
『むっ、あの娘は風紀委員の……。床には焚き火シートを敷いたから大丈夫だ』
『炭は自然に帰らないから完全に灰して指定された場所に捨てる。そうだろうカエサルさん』
『あ、そうなんだ……ならいいかな?』
『何かそうじゃないような気もするが……まあFFF団にしては上出来だし良しとしよう』
『おっ、いよいよ火がつけられるな。
『か、カエサル! エルヴィンが役にのめり込み過ぎてありもしない記憶をっ!!』
『さて懐から取り出したるは薩摩の採れたてのサツマイモぜよ。これを新聞に
『幕末の薩摩は人を焼いた後で焼き芋をする修羅の国じゃないだろ?! 誤解する言い方をやめろ!!』
『……教室中央最前列。目の前には教壇アンドトチ狂ったキャンプファイヤー……。クラス替えまで残り310日ほど……自分、卒業まで生き延びられるのですか……?』
ざっと見渡して確認できたのは、FFF団の口車に乗せられたヤツに見世物感覚で集まる野次馬になんだか人生に苦労してそうなクラスメイト。
……誰も助けてくれそうにないぞちくしょう!
マズい! このままだと雄二の巻き添えで僕も灰になってしまう! 他に逃げ道は……!
雄二に不利な証言をして僕だけを見逃してもらえないか考えていると、
『全校生徒に告ぐ。体育館に集合せよ』
スピーカーからそんな放送が流れた。
いったい何が……って、そういえば全校集会をするって桃ちゃん先輩が言ってたのを思い出した。僕は何をするのか聞いてないけど、毎度のごとく杏ちゃんの思い付きが始まったんだろうか?
と、
「あ~あ、こんな時に生徒集会かよ。さっさと向かわねぇとまた鉄人にどやされちまうな」
そう残念そうに言う雄二。何でここで雄二が生徒集会みたいな興味を持たなそうなものの話題を出した理由を察し、僕は雄二の話に乗った。
「そうだよ! 鉄人にこれ以上目をつけられるのはマズいって!」
「? どうした吉井も坂本も。まるで優等生みたいなことを言って?」
「そりゃ当然だろ。今まで何度鉄人が出動することになった? いい加減学園に良いとこ見せねぇと退学も視野に入れられるぞ?」
「ふむ……」
黒い頭巾を被った須川君が考えるそぶりを見せる。
雄二の言ってることは事実だし、いくら須川君がバカでも自分を自分で追い詰めるような真似はしないはずだ。
しばし事の成り行きを見守ってると、須川君が雄二を鼻で笑うように、
「かつて神童と呼ばれた坂本の口から弱気な言葉が出るとは思わなかったが……キサマの言うことも一理ある」
「……神童言うな」
そんな言葉が出たってことはつまり……!
「今回は大人しく体育館に向かうとしよう。――先に火をつけてからな!!」
須川君はごうごうと燃える松明を十字架の根元に投げ入れた!
「ちょっ!? 何で!?」
「だってせっかく処刑台設置したし……みんな見に来てるし……一回取り壊してもう一度建てるのは面倒くさいからなぁと」
「クラスメイトを処刑するのを躊躇いがないのにそういうとこぐらつくんだ」
「HRの前と後で燃やすのも同じだ。よし、火が付いたし皆行くぞ! 遅れたら大変だ」
「え、ちょっと待ってっ、僕たちこのまま放置されるの!? 火傷する前に降ろしてくれたりしないの!?」
「……吉井たちが燃え尽きる瞬間に立ち会えないのは非常に残念だ」
「やべぇな。火の管理すらしなくなったら本格的に燃やされるぞ」
冗談でしょ……!? こいつら本気で殺しに来てる……!? あ、いつものことか。
それより火が磔刑台に燃え移る前に逃げないと!
常日頃からこういうことに備えて縄抜けを練習してるし、火が僕に到達する前に脱出はできる。
でも今はFFF団の連中の目があるから脱出したとしてもまた捕まったら意味がないんだよね。奴らが出て行った後に縄抜けした時には僕と雄二は燃え尽きてしまうかもしれないし、いったいどうすれば……ッ!
教室中の目が火に焚かれる僕たちに集まっている時、
教室の扉が吹っ飛んだ。
「貴様らなにをしているかぁぁぁーーーーーーーーーーーッ!!」
教室に、ドスのきいた声を響かせながら入ってきたのはトライアスロンで鍛えられた筋肉と浅黒く日焼けした肌を持つゴリゴリのマッチョ。
言い表せない怒気を発するその男の登場に教室に居る全員が
「て、鉄人――じゃなくて西村先生……!」
「……須川、後で生徒指導室に来るように」
「横暴だ!!」
「教室に火をつけるヤツを放っておけるわけなかろう!?」
こちらの話を一切聞き入れなかった須川君。そんな彼に鉄拳制裁を持って言い聞かせることができるのはこの学園でただ一人。
その男は生徒指導の鬼、西村教諭。
大洗学園で唯一FFF団に鉄拳制裁を加えられる教師だ。
「そもそもだ、いま放送されたように全校集会が行われるため体育館に向かうよう言われていただろう? なのにクラス全員でバカなことをしおって……説教は集会の後だッ、さっさと体育館へ行け!」
「……話を聞いてください西村先生。俺達にはやらなければならないことがあるんです! 今ここで吉井を始末しなければ学園の風紀を守れない!」
「……では聞くが、肝心の吉井はどこにいる?」
『『『何ぃッッッ!!??』』』
クラス全員が
――ゴウゴウと火が焚かれた場所には折れた十字架があるだけ。
さっき鉄人が扉をぶち破った時、飛んできた扉が僕と雄二を巻き込んだおかげで脱出できたから、みんなが鉄人に注目してる間に隠れることができたんだ。
「くそっ逃げられたか! 者ども!! 裏切り者を探せ!!」
「させぬわ愚か者!!」
「ごゅゎッ」
よくわからない悲鳴と共に須川君の呼吸音が止まった。たぶん鉄人が拳骨を振り下ろしたんだろう。……拳が空段ボールを突き破る音に似た音が聞こえたんだけど……須川君大丈夫なの?
「……さっさと体育館へ行け。これ以上は言わせんでくれ(パキポキぺキッ)」
『『『サー、イエッサー!!』』』
ドタバタと騒がしい足音が響き、最後に力強く閉められた扉がサッシから外れて倒れた音がして、教室から人の気配が消えた。
……そろそろ出てきてもいいころかな。
そう思って僕は窓のへりをよじ登って教室に入った。
飛んできた扉のおかげで十字架が折れた後、僕は素早く窓から外に出た。けど窓から飛び出した時点で僕らの教室は3階にあるのを思い出して、咄嗟に窓のへりに捕まってその場に留まっていたんだ。まったく、話が長かった所為で腕がパンパンだよ。
雄二もうまく逃げられたみたいだ。一緒に窓から飛び出した瞬間までは見えてたけど、どこに隠れたのかわからない。けどあいつもFクラスの一員、野生の力を発揮して向かいの校舎までジャンプしたとしても不思議じゃない。
「とりあえず命は助かったけど……これからどうしよう?」
みんなが体育館に向かったから教室に居るのは当然僕一人。生徒集会が終わるまで教室に残ってるのはヒマだし、勝手に帰ったら明日は鉄人そど子風紀委員に包囲されることは目に見えるし……。
「……そもそもみんなが戻ってきたら僕また処刑されるんじゃ?」
FFF団会長の須川君が居なくなったところでFFF団全員の意思が僕の処刑で統一されているはずだ。ということは生徒集会が終わった瞬間に彼らは僕を捕らえに来る。HRも終わって後は帰るだけの放課後、僕はじっくりたっぷり異端者審問会のフルコースを味わうことになるだろう……。
流石に今度はあいつらに捕まるようなへまはしたくない。生徒集会が終わる前に何処かに身を隠さないと。
となるとFクラスの
☆
『『『吉井死なす!!』』』
「(……死んでやるもんかっ)」
FFF団の確固たる殺意の合唱を目の前で聴きながら、僕は小声でそう意気込んだ。
僕が隠れ場所に選んだのは生徒集会が行われてる体育館。
大洗学園の全生徒が集まっているここの、校長とかがスピーチを行なうステージの下で生徒たちの様子を伺っていた。
まぁ日々FFF団や風紀委員との地獄の鬼ごっこで鍛えられた僕にかかれば、Fクラスのみんなより先に体育館へ先回りして人ごみに紛れて誰にも気づかれずステージの下に忍び込むなんて簡単なことだ。
ここは元々イベントに使う器具とかをしまう物置みたいなとこだから人一人が入る分には広いし、電気の配線をするためにコンセントもあるし。あとはFFF団が飽きるまでケータイをいじくりながら待っとけばいいだけだ。僕って天才。
『静かに!』
お、桃ちゃん先輩の声。やっと生徒集会が始まるんだね。
そういえば今日の生徒集会のことは杏ちゃんから何も聞いてなかったなぁ。きっと生徒会主催のイベントの告知なんだろうけど、ちょっと気になる。
「会長、やっちゃいますよ」
「うん。引き返す気はないよ」
『――ではこれから、必修選択科目のオリエンテーションを行なう』
桃ちゃん先輩がそう言って始まった、新たな必修選択科目『戦車道』のオリエンテーションを聞いた僕は、その内容に大いに胸が高鳴った。