次々と村人を襲う、4体の肉の柱。女神以外のサーヴァントは残された村人を少しでも護る為に、必死で戦っていた。
力無き者は養分となる。その摂理自体には何の疑問も嫌悪感も持たず、
相手の力をより強大化させるアイテムの様な村人達を見て、
「寧ろ、先に此方の贄としてそのヒト達を利用すべきでは?」
そんな外道もかくやと言う女神の発言に、最早仲間達は応えるつもりも無いようだった。
女神のマスターであるオルガマリーでさえ、
女神によって本来以上に強化、厳密にはより高次の存在に造り替えられた肉体と魔力を以って、
まだ制御におっかなびっくりしながらも、自身にできる限りの力で村人達に襲い掛かる肉の触手を迎撃していた。
足手纏いであるはずの村人達を救うために…。
未だ命ある人の身でありながら、その死力を尽くすオルガマリーにアマデウスが感嘆の声を上げる。
「サーヴァントでもないのにそこまで無理をするとは。
死ぬのが、怖くないのかい?」
それは人の醜さと弱さを知るが故の優しい許容の問いであった。
だが、彼女は護られてばかりいられるほど、決して
「…恐いわよ。恐いに決まってるじゃない。
でも実は私、一度既に死んだようなものなの。死んだけど他の人の命を奪って未だここに生きている。
その人ならきっと諦めなかった。その人ならきっと救おうとした。その人なら戦いから逃げ出さなかった。
だから…、だから恐くても戦うしかないじゃないっ!!」
そう、幾ら女神に白銀の時代に回帰した様な強化を施されていても、その本質は変わらない。
意地っ張りで、素直で無くて、優しくて弱い少女のままだった。
だからこそ、彼女は逃げない。いや、例え恐怖と涙で顔がぐしゃぐしゃになっても逃げ出す事が出来なかったのだ。
アマデウスはその余りにも不細工に歪んだ表情を見て、そこに命の美しさを見た。そこに命の価値を見た。
そして、その様を見て何かを感じたのは彼一人では無かった。
人の身で恐怖に怯え、尚前に進む姿。
英霊として存在するものが、その心意気に感銘を受けない筈が無かった。
マシュとマリーの魂の輝きが増し、その動きに拍車がかかった。
マシュは未だオルガマリーに対して思う所が無い訳ではない。
だが、それでも、それでも果たさなければならぬ信義程度は持ち合わせていなければならないと知っていた。
その勇気と臆病さに応える信義を。
そして女神は、その姿をみて、その言葉を聞いて、
彼女なりの結論を思いついた。
「…醜く老いたアンドリュー・ロイド・ウエッバー。」
「The pointof 『』 return.」
「All I ask of you.」
女神はその透き通るような声で幾つかの言葉を並べる。
すると、肉の柱のうち一つが、明確に不規則な暴れ方で女神にその攻撃を集中させた。
「ああ、やはり、ですね。」
「…何が、やはりなのですか?」
マリーはその質問をして、その回答を聞いて酷く後悔した。
「肉の塊になって尚、信念を汚されて尚、その精神には僅かに残る元の精神があるようです。
故に、その脆弱性から侵入する事で存在の根核に抵触する事が出来る。
要するに、僅かに残った人間性を痛めつければよいのですよ。
幸い悪魔のような概念存在には、その精神や伝承と肉体が密接に結びついていますから、極めて有効ですよ。
その為の手段を与えましょう。
お手柄ですよマスター。貴女の心の
私にこの方法を想定させたのですから。」
そういうと女神は自身の持っていた氷の槍を更に3つ作り、
マシュ、マリー、アマデウスにそれぞれ渡すように投げた。
「その槍を使って、それぞれの前にいる敵性存在を撃破してください。
恐らく可能でしょう。その槍には対象の生前の所謂トラウマの様なものを概念として幻影の容を凍らせたものです。
古傷を抉る様に、簡単に血が噴き出る事になるでしょう。」
ええ、実に効果的な良い手段でしょう?
とその言葉を心から言っている女神に戦士達の士気は著しく落とされた。
恐らく、その手段を取れば効率よく勝利できる。
士気も、想いも関係なく、ただ効率的に蹂躙を以って『勝ち』を掴みに行ける。
だが、それで良いのだろうか?
他者に用意された、神に指示された路を往くだけで良いのだろうか?
その問いに、
「いえ、英雄とは苦難の道を血を吐きながら進む者の事を云うのです。
貴女が教えてくれた彼女達の中に未だ人間性があるという言葉を聞いて、
私は分の悪い方に賭けたくなりました。ですから―――すみません。」
マリー・アントワネットは自身の前に置かれた槍を地面に叩き付けて砕くと、
自身の宝具を展開した。
「
その効果は、敵対者にダメージを与え、同時に
その効果により、悪魔に魅入られ、悪魔へと成り果てた4人の英霊たちの体が徐々に本来の姿を取り戻しつつあった。
そう、マリー・アントワネットの博愛は、敵対する悪魔ですら、
『味方』と認識してその魂を救うことにしたのだった。
女神の一手よりも遥かに美しい、遥かに麗しい奇跡の一手。
神の一手では為し得ない、それを超えた人間の一手。
女神の脳裏に、かつてアルテミスが言っていた言葉が蘇る。
『此方が相手の存在を認めて、愛を向けるのなら、相手だってきっとその愛に応えてくれるはずなんだから―――』
あの時、女神がアルテミスに敗北を覚えたあの時、女神は何と答えていただろうか?
「在り得ません。
限界を超えるだなんて、そんなオカルト、在り得ません。」
まあ、神霊(心霊)存在自体がオカルトなのであろうが、そんなつまらない冗談は置いておくとして、
今、まさに女神の目の前でその
「そんな、所詮はヒトの上位存在程度のはずなのに…、
ありえない、ありえない、私は認めない、そんな惨めな敗北は認めない。
だけど、
情けない、なんて情けない。
ならば、より向上しなくては、より無駄を省かなくては、より強くならなくては、
より賢くならなくては、より美しくならなくては、より絶対的にならなければ―――――――――」
私に価値は、――――――――――存在しない。
勝ち
価値
克ち
徒歩
可知