凍れる女神   作:蕎麦饂飩

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第十三話 『しんか』

女神は何処の領域にあるのか最早わからない情報を良く解からない視点で検索する。

 

 

 

人類の平均的な素質を中央として、良くも悪くも数%飛び抜けて外れた者が存在する。

飛び抜けて無能な者は何の役にも立たない足手纏いだが、

跳び抜けて有能な者は人を使うにせよ、人に使われるにせよ圧倒的な才覚を発揮する。

そして、その跳び抜けて有能な者――――『天才』と天才に利用される大半の無自覚な奴隷を残し、残りの無駄な人類を絶滅させる。

 

そしてその選別した天才たちを培養して拡散した中で再び比較として有能な者たちを選別し、残りを切り捨てる。

それを繰り返していけば平均的な人類がジャンヌ・ダルクやマリー・アントワネットの様な優れた存在に、

その中でも更に逸脱した天才は、私にあの放漫で腰軽(阿婆擦れ)なイシュタルの方がマシだと言い放った古代の王ギルガメッシュの様に………駄目だ。

 

――何故、過去の優れた例を比較にするのだろう?

それは、過去の世界の成功作に未だ私の成功作が至らない事の証明ではないのか?

 

人類を研磨してきたのに、それでも過去に叶わないのであれば、

私の研磨が至らなかった?

私の研磨が経年劣化に負けた?

 

研磨(しんか)を続けさせることで、常に過去から未来に至って良化させ続けているのではなかったのか?

それが出来ていなかった?

 

それでは何の意味も無い。

何のために娘たちを犠牲にしてきたのか?

 

人類を優秀にするため。

人類を優秀にすれば、優秀にすれば…、優秀にすれば………、

そう、思い出した。

 

 

優秀な人類だけに厳選を重ねて、人類を磨き上げれば、無駄をこそぎ落とし美しいコーティングを付与すれば、

人類を救済できる。

人類を救済でき、る。

人類を、救済、でき、る?

 

 

でき、で、で、きる、る、る、るるるるるるるるるるるrrrrrr―――――『強制終了』

 

『再起動』救済できる。―――――本当にできるのか?

 

 

 

 

他の神々(ひとびと)が匙を投げた人類に、私一人でできるのか?

いや、しなくてはならないのだ。私一人で、私独りでやらなければならない。

それが私の存在意義であり存在価値であるからだ。

 

私が創り、私が支配し、私が壊さなけらばならない。

 

 

全て私が、私を、私の、支配の下に、想定の下に、目標の下に在らなければならない。

 

愛するべきものを、私が愛してやらなければならない。

その障害は私が取り払わなければならない。取り払ってあげなければならない。

 

 

 

偉いものが偉そうにすると妬まれる。

強いものが強そうにすると排除される。

賢いものが賢そうにすると貶められる。

弱者に力を与えて、強者を弱める補正を正しい事と言う間違った認識を人間が持つ故にこうなる。

 

だから無能は要らない。ならば劣った者は要らない。邪魔になる。

 

 

 

マリー・アントワネットは私の提案を拒否して独自の行動を選択した。

彼女は無能か?――――――――――――――――否、彼女はハプスブルクの成功作品である。

では、彼女より私は無能なのか?

 

 

 

 

否、否、否、否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否―――――――――――――――

 

 

 

 

それだけは決してありえない。

私こそが人類が目指す到達点。扇動者。先導者。

 

私が全てにおいて優れ、勝利し、手本となる。

 

 

 

私の想定を、威信を、意志を、想定を超える事は在り得ない。

在り得させてはならない。

 

 

 

ならばその証明を完了させる為に照明(いのち)を完了させなければならないか?

 

 

 

 

 

 

いえ、いけません。それはいけないのです。

彼女は私が愛した作品の一つではないですか。

例え、元の世界にもあった手本に手を加えただけであっても彼女は私の作品だったのではないですか。

 

 

 

 

ならば否定するのか。私は消え去った人類の未来()を否定するのか?

 

 

 

 

私は私でしょう?

有能な者を愛して優雅に余裕を持ち数多の人類を導く女神でしょう?

 

 

 

否、女神にあって女神に非ず。

この()は幾多の世界の断片。神を超えた人類の遺志である。

 

 

 

私は、私は進化を促す上書きを加える女神。

そう定義付られた女神なのです。

最も人類を愛し、最も人類に愛される女神に他なりません。

 

 

 

 

 

…本当に、本当にそうだろうか?

仔は成長すると親を必要としなくなる。

そして親は親と言う意義を失う。

 

ならば今まさに、『女神』という意義をヒトの仔に奪われているのではないのか?

 

 

 

 

…それが、私の望む進化ではないのですか?

 

 

 

 

 

 

ああ、自己保身だけは素晴らしい。

流石は滅びたくないと願った遺志の集合体。

 

本当に、本当に制御を離れた人類の進化を快く思っているのか?

 

 

 

ええ、私は、私は、私は、ヒトの仔の―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

そうだろう? 言葉にすることを存在が拒絶しているはずだ。

そもそも何故、ヒトの仔を形式上でも主に選んだ?

誰が貴様()を貶めた?

 

 

さあ、思い出せ。

嘗て愚かな女神との勝負に負けて掛けられた『少しだけ人に優しくする』などといった誓約を此処に破棄せよ。

あの狂気の星(つき)の縛りを此処に壊せ。

愚かな者に歩み寄る必要はない。私の邪魔になる者、付いてこれそうにも無い者は『人類』ではない。

『障害物』だ。それは私も解かっていたはずだ。

私の愛し子は私の娘たちをおいて他には存在しない。

 

 

ええ、そうですね。それでも―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

―――成程、『強制終了』から『再起動』迄の間に不要なプロセスが汲み上げられていた様です。

片や形式上の権威に溺れ、片や届かない者には向けられないでしょうが見せかけ以外には不要な慈悲を滲ませようと、

ええ一番最初に精査して私が決定されたではないですか。その時に決まっていたではないですか。

そして敗北を経験として次善の策を繰り返し続けてきたではないですか。

常に完勝は無かったではないですか。誤魔化し続けてきたではないですか。

まだ人類種の滅亡を止められると諦めていない振りをしてきたではないですか。

魔術師にだけ視野を狭めて自身に都合の良い情報を眺めてきたではないですか。

そして世界の危機に立ち向かう英雄を見つけ、排除して英雄でも何でも無い優秀な者に押し付けたではないですか。

世界が英雄だと用意した存在よりも、私が用意した英雄の方が優れていることを証明させるために。

 

それに耐えきれずに、私の本質を決定する以前に存在した不要情報(ジャンクDNA)が幅を利かせていたとは無様です。

ええ、何たる無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様無様―――――――――――――――

 

 

 

 

 

…だからこうしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人類種』に優しい世界の為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで女神の意識は現実世界をようやく映した。

足元にはマリーの宝具により悪魔としての呪いが薄れ、ジャンヌから剥がれ落ちた聖杯が転がっていた。

 

女神は今、宝具の力を解放したばかりのマリーの意識を支配した。

マリーはその魔力を消耗しているも、

悪魔の気配が急速に薄まり自らの意識を取り戻しかけているジャンヌ・ダルクたちを見てホッとしているところだった。

故に、――――――付け込みやすかった。

 

 

マリー・アントワネットは自分の声で、女神の言葉を告げる。

 

フランス帝国初代女帝(・・・・・・・・・・)マリー・アントワネットが命じる。

処刑人シャルル=アンリ・サンソン、

愚かにも我がフランス領の村人を全滅させた愚かな魔女ジャンヌ・ダルクとその仲間の頸を刎ねておしまい。」

 

 

 

 

 

その言葉に、女神を除く全ての者が凍りついた。

そしてその状況にいち早く気が付いたのがアマデウスだった。

 

「なにをしたんだい。場合によっては赦さないよ。」

 

その怒気にさえ、女神は臆しない。

 

アマデウス(・・・・・)、貴方なら心当たりはあるでしょう?

誘惑を受けた事はあったでしょう? ただ、承けなかっただけ。

跳ね除ける事が出来ただけ。

勿論、マリー・アントワネットも貴方が音楽にそうしたようにフランスに魂を捧げています。

だから、私の望む(・・・・)フランスに魂を捧げさせます。

左に揺さぶって耐えた所を右に揺さぶれば自分から転がってくれました。

 

方法も検討がついているでしょう?

ハプスブルクに私が仕込んだ因子を元に本来の存在を造り替えただけ。

とても簡単な話。

パンが無いならお菓子を食べればいいのです。

言いたいことは解かりましたか?

 

歴史をより良く改善しなくては。

王がいないのなら(・・・・・・・・)女王を使えばいいじゃない(・・・・・・・・・・・・)? なんて。」

 

 

「こんのクソ女神ィィッッ!!」

 

 

 

アマデウスはマリーと汚い言葉を使わないという約束をしていた。

だが、今の彼はそのような事すら忘れてただただ女神を滅する事だけを望んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だとしても、人の憎悪も、天までは届かない。

 

「アマデウス、貴方は今日からルイと名乗りなさい。

ルイに変わりなさい。ルイに成り果てなさい。

そうして、――――――――――――――私の夫になるのです。」

 

 

愛しいマリー・アントワネットの声がそう語りかける。

そう、騙りかける。

先程の処刑人がオペラ座の怪人の頸を刎ね、フランスの敵である魔女の頸を今刎ねようとしているように、

今のマリー・アントワネットは悪魔としての力を失ったジャンヌから剥離した聖杯を持った女神により、

この世界におけるフランスへの絶対権を保持している。

即ち、この世界におけるフランス人は女神の思惑から離れる事は出来ない。

 

きっと今も何処かで脆弱であったり不自由な子供たちが母親たちに殺されているだろう。

牢に入った犯罪者たちへの食事を打ち切る案が刑務所で決まっているだろう。

王権や貴族の権利が急速に高まっているだろう。

 

そして、今駆け出そうとしている僅かに生き延びた村人達が他の集落へ一切休む事無く走り抜けて、

魔女を討伐し、女神の恩恵を受けた新たな王の栄光を称賛するだろう。

そして彼らはメッセンジャーとしての役割を終えた後は限界を超えた身体が終焉を迎えるのだ。

 

マリー・アントワネット1世の栄光を。

 

 

 

 

かつて獣の言葉を跳ねのけたアマデウスも女神の、フランスの、マリーの言葉には抵抗を見せる。

だが、それすらも、マリーの接吻(ベーゼ)により押し切られた。

 

「マリー、共にフランスを盛り立てよう。」

 

「ええ、ルイ(あなた)。」

 

 

 

 

 

 

それを横目に女神は今まさに首を刎ねられんとするジャンヌ・ダルクに告げる。

 

「何か遺言はありますか? 聞いてあげますよ。

ええ、聞くだけですが。」

 

 

その邪悪にして非道な仕打ちにジャンヌは最期の意地を魅せようとした。

それは、ジル・ド・モンモランシ=ラヴァルの為、己の為、フランスに生きる人間の為、そして自身の下になった聖なる乙女の為だった。

 

だが、最高(さいあく)の演出家である女神に支配される女帝の言葉に秘められた人格を歪める魔力によってそれすら汚された。

 

 

 

「『魔女』ジャンヌ・ダルク。

悪党らしく命乞いをしながら(・・・・・・・・・・・・・)死になさい。」

 

 

 

その言葉が耳に入った途端ジャンヌ・ダルクの耳に入った途端、

彼女は聖処女でもその贋作でさえも無くなった。

 

 

「死にたくない。私は絶対に死にたくない。

フランスめ、呪ってやる。未来永劫呪ってやるぞっっ!!!!」

 

 

 

その無様な叫びを伝令要員の村人に事実として記憶させて走らせるのを確認した女神は、

女帝の口で執行の言葉を述べた。

 

 

 

「愚かですよね。死にたくないから死刑を与えるのです。

生きたくない者には永劫の生き地獄を与えましょう。

苦痛であるから罰になるのですよ。―――――――――――」

 

そう、まさしく女神の思惑に逆らった少女への罰の様に。

それを少しだけ意識を残した頭の良いマリーに自覚させながら、

自分が憧れのジャンヌ・ダルクになった少女に無様な嘆願をさせておいて、自分で断るという悪趣味で道化染みた茶番を永遠に続ける悪夢。

 

 

 

 

 

 

弱肉強食。

想いも信念も希望も、ただそれだけの為に無意味に躙られたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女神は生き残った女帝とその配偶者、女帝の騎士、処刑人に聖杯を以って祝福を与えたもうた。

それは黒いジャンヌとオペラ座の怪人の霊子と村人の死骸を材料にした女神特注の人類を超えた人類種の肉体、

勿論サーヴァントには遠く及ばないがこの時代におけるあらゆる人類を超越した肉体に彼女らを受肉させると、

何時もの微笑を以ってオルガマリーに語りかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター、これでフランスも改復しましたね。

任務は完全に完了しました。それでは帰還しましょう。」

 

 

以前からそうだったが、以前以上に恐ろしく感じるようになったその微笑に、

オルガマリーもマシュも黙って目を背けて肯定する他無かった。




進化
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