「まずは生還おめでとう。そしてお疲れ様。―――――」
歴史の狂ったフランスから聖杯を回収してカルデアに戻ってきた一行を迎えたのはDr.ロマンことロマニ・アーキマンと、
万能の天才ことレオナルド・ディ・セル・ピエーロ・ダ・ヴィンチとリスなのかウサギなのか上手く説明できない小動物であった。
彼らは一行が聖杯を奪取して帰ったというのに何やら浮かない顔をしていた。
小動物であるフォウくんなどは前足を畳み尻尾を真上に逆立てて低く唸っている。
その視線の先は勿論女神だった。
Dr.ロマンは浮かない顔をしたまま、先程の労いの言葉の続きを述べた。
「最初の任務を危なげなく達成してくれたことは感謝するけど、
…あそこまでやる必要はあったのかな? 少なくとも最後のアレの前には既に聖杯は確保されていたわけだし。」
Dr.ロマンの反論にその対象者である女神は少しだけ気分を悪くしたような声色で返答した。
無論、表情は変わらない微笑であったが。
「…私の為したことに不満があるのですか?」
それは、やるべきことをやったのに非難をされることに対する憤りだけでなく、
ヒト如きが女神のやる事に不満を持ったことに対する不満でもあった。
女神は人類を先導するものであって、人類に指図されるものではない。
上下の柱を傾ければ天井は崩壊する。
故の嫌悪感だった。
彼女のプライドの高さすらも、他者に影響されて揺らがない為に最初に既定された事象の一つなのである。
故に、修正は受け付けない。
故に、Dr.ロマンの言葉を受け付けなかった。
「人類には支配者が必要でしょう?
私が帰らなければならないのであれば、あの時代の私が手を拱いているのであれば、
この私が手を差し伸べてあげないといけないでしょう?
それに…、貴方たちの理論であればどのみちあの世界は消滅するハズなのでは?」
そう、Dr.ロマンが言った事はどのみち消えてしまう世界なのであれば、過剰な残酷さを見せる必要は無かったということ。
それは裏を返せば、どのみち消えてしまう世界であれば何をしても後の影響はない、そのはずなのだ。
彼らの理論に問題が、何も、無いのだとしたら。
だが、その理論に問題があるのだとしたら…?
「ドクター!? これを見てっ!!
人類史が修復されたはずなのに、狂った歴史の痕跡が正常化された歴史に組み込まれているっ!?」
ダ・ヴィンチが叫んだ通り、
狂った歴史の一部が
理論は完璧だった、そのはずだった。
なのであれば、それを実行できる存在は一人、いや、一柱しかいない。
「一体何をしたんだ…。」
それは女神以外全ての人物の疑念であり怒りであった。
あの狂った歴史では、あの狂った歴史を惨劇で洗い流した歴史では、余りにも、
余りにも救われない。
そんな仁義を元にした正しき怒りであった。
だが、高々ヒトやその派生種の怒りを身に受けたとして、ヒトの思い上がりに不服を感じる事はあれど、
決して怖気づくような存在ではない事を女神は何時も通りの微笑で証明していた。
「私は何度も貴方たちに確認したでしょう?
そして貴方たちの理論が正しい事を前提として行動を起こしただけなのです。
確認を取って契約に合意した後で、そちらに落ち度があったとして此方がそれを負担したり見過ごしてあげる必要はありませんから。」
それは、悪魔のやり方だった。
それを誰よりも知っているはずのDr.ロマンは防ぐことができなかった。
更に酷い事実を女神は告げる。
「各時代における私の管理下における時系列を無視したリンクが存在します。
そしてそのリンクは更新の順序を遡る事はありません。
無知な貴方たちに解かるように言えば、これ以後も私の改修を受けなければ歴史が更に悲惨な事になる。
そういう事ですよ。それに―――――」
「…それに、なにかな。」
「それに、改修した後の方が良い歴史になったでしょう?
完全とは程遠いですが、以前と比べると遺伝子疾患者や低能力遺伝保持者は産まれた時に、産まれる前に排除され、
生まれついて劣った者は社会的な福祉や税金を大して投入されないコストの少ない道具として存在させて、
優秀な遺伝子を持った者がその遺伝子を多く残せる環境の傾向に近づいたではありませんか。
無駄に空気と水と大地を汚染する余った人類を排除もできたのですから、感謝を態度に表わしてくれても良いのですよ。」
怒りを滲ませたロマニとは対照的に、
さぞかし素晴らしい事を成したように女神は答える。
秩序・善の属性を持つ女神であったが、人間にとっては形容しがたい吐き気を催す邪悪以外何でもなかった。
ロマニ・アーキマンへの要件は終わったと女神はそれ以外の人間の方を一周して、最後にフォウに視線を向け問うた。
「さて、質問が無いのなら今日はお休みとしましょうか。」
女神は己のマスターであるオルガマリーの腕を優しく掴むと、
呆然とする彼女の手を引いて寝室へと向かった。
「マスター、一つ問いかけをしましょう。
貴女が睨めっこをしています。相手にどんどん面白い顔になる人がいるとします。
相手に負けない為に何をしても良いという条件ならマスターはどうされますか?」
オルガマリーにはその質問の意味がさっぱり解らなかった。
だが、真面目な彼女は彼女なりに考えた結論を述べた。
「…鏡でも見せれば良いのかしら?
それとも、ゲーム自体を受けなければ負けはしないという選択肢でもよいかしら。」
オルガマリーの意見に女神は少しだけその笑みを深めた。
「私は聡明で思慮深いマスターに出会えて幸運だったと思います。
それに方針としては先程の案は私の思考にとても近いモノでした。
ええ、貴女がマスターで本当に良かった。」
その何時もとは少しだけ違う女神の表情にあたふたするオルガマリーを伴って寝室に入った女神は、
何時かのように少女を抱きしめると眠りについた。
その夜、オルガマリーは柔らかく抱きしめられる感触を堪能しながら眠りに落ちた。
そして夢を見た。
それは悪夢だった。
それは絶望だった。
それは悲劇だった。
目まぐるしく切り替わり続ける世界。
そのどれもに共通していえる事、それは終末だった。
食糧問題に起因する戦争による終末。
宗教問題に起因する戦争による終末。
金融問題に起因する戦争による終末。
地球環境の悪化に伴う終末。
隕石による終末。
獣に齎される終末。
地球外生命体に齎される終末。
魔術的な暴走に伴う終末。
その中には彼女の父親やカルデアによる終末さえもあった。
オルガマリーはそれらの光景に耐えられずに立ちすくみそうになった時、
すぐ横に誰かがいたのに気が付いた。
薄らとした影に徐々に明確さが伴っていくその者は、
彼女の良く知る、彼女の僕だった。
女神はただただ人々の滅亡を眺めていたが、
その表情には何時もの微笑は欠片さえ存在していなかった。
あらゆる終末において、その時代において、その世界において最後に死ぬ人類は権力者たちだった。
彼らは優先的に優遇的にその生存を確保されるが、最終的に苦悩しながら死んでいった。
無表情で手を差し伸べる女神の方へ這うように近づいては、その手を掴もうとしてすり抜けて、
そして後悔に満ちた表情で息絶えていった。
そして、その度に女神は明確に明瞭に色づいていった。
これは彼女の
これは彼女の
オルガマリーにはそれが理解できた。
だが、彼女にも、そして女神にも誰を救う事も出来なかった。
世界は怨嗟と恐怖に染まり崩れていく。
「寒い、寒いわ…。」
オルガマリーは気が付くと震える身体を抱きしめていた。
体温が低下していく。
世界の滅亡の記憶に所詮はヒトの仔でしかないオルガマリーの精神が耐えられなくなり、
その魂が生存を放棄しようとしていた。
身体が冷たくなっていく。
身体が動かなくなっていく。
視界が暗くなっていく。
意志が閉じていく。
そんな中、僅かな温もりを感じた。
その温もりにより、体の自由が、意志の自由が取り戻されていく。
視界が明るくなった代わりにぼやけていく中、オルガマリーは見た。
世界を救うためにただ独りで挑み続ける女神を。
寂しさを理解できない女神を。
幾多の彼女に似た少女たちに囲まれている無表情な女神を。
そして散っていった少女たちを。
それを無表情で見送る女神を。
悲しみを理解できない女神を。
月の光を湛えたような髪をもつ女性が女神に何かの言葉を贈る所を。
女神が微笑の仮面を張り付ける所を。
そこで、意識が現実に浮上した。
オルガマリーが目を覚ますとそこには彼女を抱きしめる女神がいた。
女神の表情は夢で見たような無表情だった。
だが、オルガマリーが瞬きをした後には、何時もの、あの微笑に戻っていた。
オルガマリーは救いようのない哀しさを女神の胸元に顔を埋める事で誤魔化す事にした。
機嫌
期限
起源
基原
危言
美人でキャラクターがたっているから何でも許されているけれど、
本来、月の女神様は普通に関わってはいけない類いの存在なんだとよーくわかります。
某ローマのシスコンが筋肉狂人で、
月の女神様がふわふわ美人だからあまり酷い神様に見えないだけ。
赤い王様も逆らうものには容赦ないけれど、時代と立場とビジュアルで許されている所は大きい。
作品は違うけれどハリーポッターでもリリーは結局、顔と家柄が良い男を選んだしね。
つまりはそういうこと。
…つまり、もう少し主役の女神もビジュアルアピールと可愛らしいキャラ付けと可哀想な背景を用意すればどんな外道も許されるんだ‼(暴論)