七つの獣とネロの群れはブリテンへと立ちはだかるもの全てを破砕し踏破し続けていく。
「アレキサンダー、踏破の先陣は任せました。歪みなくただ真っ直ぐに突き進めなさい。」
そう女神の命ずるままに、北へ北へと進んでいった。
途中で進撃するローマ軍からブリテンを護る為に、急いで海を渡り急ごしらえの砦で待ち構えた者、
同盟国であるブリテンを護るという信義から逃亡を拒否した国、ただそこに存在したというだけの村、
そのすべてを踏み潰し、奪い、殺した。
「蹂躙と征服とはそういうものですからね。」
女神は仕方ないと心にもない事を微笑を崩さず呟く。
ブリテンの栄光を叫びながら剣を振るう騎士たちをネロは屠った。
絶命した騎士の魂を喰らわせると少しだけオクタヴィアの狂気が薄れた様だった。
ネロはそれに希望を見出して更に英国の騎士たちを血祭りに上げた。
信義の為に狭き谷で待ち構えるブリテンの同盟国の戦士達を見た時、
レオニダスはこれを打ち破らなければならない事を苦しく思った。
彼等は生まれた時にスパルタ人のように選別された先天的に優れた戦士の集団では無かった。
しかし、護るべきものの為にその命を燃やし尽くす覚悟を決めたその瞳は懐かしいものだった。
彼の仲間達と同じ魂の輝きを感じた。
しかし、レオニダスは心に盾で蓋をして、狭き門を護るに当たり自身が弱点となりうると警戒した全ての術を使い、
これを打ち破った。
ただ、彼にも思う所があったのだろう。両目を潰した兵士が伝令として逃走する事だけは敢えて見過ごした。
力無き人々は逃げる者、恐慌の為に逆らう者、愛する者を護ろうと鍬や鎌を構える者、
命乞いをする者、様々だった。
「助けて、助けてくれ。」
そう無様に喚く者に女神は語りかけた。
「その願いを認めましょう。」
命乞いをする男に代償としてその妻子の頸を刎ねさせた後、女神はその男に再び語りかけた。
「その願いが事実であると認める事と、私達がそれに同情して見逃す事は別のお話ですから。」
それは会話では無く通告だった。
男はカリギュラの拳で地に沈んだ。
そして一行は遂に海を渡り、ブリテン本土へ上陸せんとする。
海岸に近づくころには大量の矢が飛んできた。
間違いなくブリテンの、いやこの時代の最大戦力の内一つがそこにあった。
『勝利の女王・ブーディカ』
この時代における伝説の戦士であり女王であった。
彼女は少しだけ時を遡った時系列に置いて、確かに敗北して戦死していた。
しかし、フラウロスの聖杯による異変のカウンターサーヴァントとしてその死後すぐの時間で呼び出されていた。
彼女の死を見た、伝え聞いた兵士も多かった中、
彼女こそ死を乗り越え復活した聖なる王として再びブリテン中を熱狂させた。
女王の霊がローマに復讐するために蘇ったと。
彼女の知る兵士たちが、再び彼女と共にローマと戦わんとする中、
彼女はそれを諌めた。自身の家族全てを奪われ復讐者になるのが当然のその境遇の中で。
彼女は平和を以ってブリテンに安寧と言う勝利を齎したいと考えていた。
彼女は生前何の縁も無かった触れる者を癒す力と、作物を実らせる力を手に入れた。
転んで怪我をした娘たちの手当をしていたように、彼女は傷つき飢えたブリテンの民たちを癒していた。
しかし、―――――ローマは再びブリテンを脅かしに来た。
しかも命からがら逃げ延びて戻ってきた只一人の盲目の兵士の話では、暴君ネロとその仲間達の軍は一切の容赦なく、
力無き者戦う者の区別なく、進路上全ての障害物を破砕して踏破しているという。
彼女は再び戦うことを決めた。
神様か何かが与えてくれた人の身には余る力を携えて。
「さあ、法外で甚大な損害を貴女に。」
そう、海の向こうから一斉に千本程の矢を部下達に放たせるブーディカを目視しながら女神は呟く。
女神はレオニダスに一つの弓を渡した。
「
一矢射れば千矢に変わり、当たった者をその強さ故に一年は腐らせず絶命した時のままの姿に留める猛毒が付与されています。
当たった相手は障害物になりますが、逆に言えばこちらの盾にもできます。
少なくとも先程まで友であった彼らの生き残りよりは気楽に。」
レオニダスは内心思う所が無い訳ではないが、自軍の勝利の為にその矢を引き絞り、そして放った。
瞬く間に千本に増えた矢は、ブリテンの兵士の千本の矢を食い破り、そしてその射手たちを貫いた。
それは余りにも圧倒的な差ではあった。
だが、完全に女神の目論見通りには行かなかった。
全ての射手は救われることは無かったが、海岸には無数の戦車が突如存在しており、
矢の多くがそれに阻まれた。
当然、そんな事をするのも、そんな事が出来る者もこの場において一人しかいない。
『聖霊女王・ブーティカ』
この歪んだ歴史における遥か未来の大英帝国で、悪霊としてでなく、
神の子の様に3日の後に復活を果たした語られる伝説の戦士であった。
「よくもやってくれたね。
ここはブリテン。この地において勝利の女王の名は伊達でないと知りな。
無数の戦車に彼女と共に轡を並べる無数の兵士が乗り込んで、海を走り波を割った。
そしてローマ軍の船に激突するようにして上陸すると、油断していたローマ軍の雑兵たちを次々と血祭りに上げていた。
雑兵たちを気にしない女神は兎も角、他のサーヴァント達は名を持つ指揮官たちに指示を出して何とか多く生き延びさせようとしていたが、
それすらも、
「
勝利の女王の的確な魔力の散弾が彼女の美剣から放たれ、指揮官級の兵士が次々と船ごと撃破されていった。
破壊された船からは英国の兵士たちは船でもある戦車に再び乗り込んで去っていく。
船と共に海に沈むローマ兵を後にして。
まさしくブーディカ女王の存在は勝利そのものだった。
女神がその力を振るうまでは。
勝利
小利
掌理
最後の一分だけで伝わる勝利の女王の敗北フラグ。う~ん。