凍れる女神   作:蕎麦饂飩

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マスターが主人公であるとは限らない。


第二話 『いのち』

無理矢理『座』よりの召喚に介入して女神は現世へと降臨した。

目の前には取り敢えず(・・・・・)のマスターである未だあどけなさの残る少年である藤丸立香、

そして彼のロリフェイス&アダルトボディなデミ・サーヴァントたるマシュ・キリエライト、

そして名門出身の所長オルガマリー・アニムスフィア がいた。

 

召喚を行う心算も、その準備も無かったにもかかわらず、

呼び出す事無く、勝手に呼び出されてきた美しい女神に3人は呆然としていた。

 

その女神は完全に完成された美であった。

余りにも美しすぎて、生きているように見えない。

そして、極めつけの自惚れ屋か先天的に神掛かった全能の存在でなければ、彼女に異性として接しようという気にはなれない。

親しみやすいような崩れなど一片も無く、ただその容姿だけで隔絶したなにかであることを証明していた。

そんな、誰がどう見ても口であるのに、

何故か高次生命体の音声を発する器官としか見えない場所が清らかな音色で言語と同じ音の配列を紡ぐ。

 

 

 

「私の為の私による私の人類種の守護に協力させてあげましょう。

讃えて、感謝して、平伏する権利をあげますからありがたく思いなさい。」

 

 

 

 

(うわ、勝手に出てきたのにどうしてそんなに偉そうなんだろう…。)

(…英霊は一時代の覇者であった方も多いので、総じて自信家の傾向はあるのですがこれは…。)

(品定めするような視線は不快だけれど、纏う気配も魔力も圧倒的…っ。下手をすれば神霊級じゃない。)

 

 

 

 

勝手にやって来たサーヴァントの余りの図々しさと自惚れにポカーンとする一同とは対極に女神は不快感を募らせていた。

現代人である彼らの対応は女神が今までに受けてきた対応の仕方とはあまりにもかけ離れていたのだ。

スパルタ王だって、中世ヨーロッパ皇帝だって、ヒトラーだって彼女には敬意と称賛と畏れの眼差しを向けていた。

 

感動の余りヒトラーが下手の横好きで女神の絵を描いた時にはその不出来さにビリビリと破り捨てたが、

確かに女神は人間味の無いほど、敬虔で誠実でも無能な者を嫌悪し、不信心で狡猾でも有能な者を優遇する。

無能であるが故に排斥されない為に自分を護る手段としての真面目さや誠実さで切り捨てられない様に媚びる人間こそを唾棄する。

だが、権力や能力のある者が彼女に傅く事が気持ちよくないかと言われればそのような事は無い。

だから逆説的にそのどちらでも無い者が、自身を上に置かない態度を取ると機嫌を悪くしてしまうのだ。

 

 

「まずは頭を垂れて跪き、私への忠誠と、私の美しさを讃えるべきでは無いのかしら?」

 

 

どうしてそんな事も解からないのかと不出来なものを見るような目で3人を見る女神の怒りで、

周囲の地盤が割れて発生した石礫が凍りつきながら暴風に舞う。無論彼女のドレスが捲れ上がる事は無い。

女神は基本的に不出来な者への温情は持たない性質だ。

ミニマリストの断捨離の様に無用な物に何時かの活躍の機会を期待せず、要らない者は容赦なく破棄する。

駄目なものは切り捨てる。人間なんて70億もある資源だから希少価値は無い。

精々数百万だけでも生き残れば遺伝子の保存には問題ない。人類の種には愛着を持つが、個々の命や意思に興味などないのだ。

 

だが、現在マスターは貴重であり、残り一人しか存在しない。

だから彼女には非常に珍しく、女神は恩赦を与える事にした。

 

 

「ですが、この無礼もあなたの希少価値に免じて赦しましょう。

ところで、そろそろ真紅の絨毯を曳いてくれないのですか?

そろそろ地に降りたいのですが、地面に直接佇むのでは私の靴が汚れるではありませんか。」

 

 

何を当然のように言っているのか?

立香も初めて見るような人種に驚きを隠せなかったが、

そもそも女神は人類の思考パターンでは理解できる範疇に無いので彼に非は全くない。

 

 

 

そして此処にもう一人あんぐりと口を開けている人物がいた。

そう、此度の事件の下手人レフ・ライノールである。

 

その理由として勿論女神の発言自体が少々どころでなく『アレ』な所もあるが、

それだけでは無かった。

 

(バカな…。アレほどの存在がどうしてここに…。

いや、考えてみれば当然か――――――――――――。)

 

 

オルガマリーとは違い、人の身ではないレフだからこそはっきり解ってしまう。

アレは本物の神霊。

それもサーヴァントなどと言う紛い物では無く、

神としての力こそ摩耗しているものの、サーヴァントの形で召喚されただけの現世に留まる『本物の神』だと。

 

そして完全な意味でそれに該当するものはそうはいない。

何故なら現代は神を見捨て、神に見捨てられた時代なのだから。

黄金や白銀にはそのままでも拾う価値があり、青銅や鋼鉄には利用により生まれる価値がある。

だが、石ころにはそのどちらの価値も無い。

最早、神々と人類の扱いは互いに石ころである以上、『本物の神』が存在するとしたら特定ができないわけがない。

 

 

(忌々しき女神め。だが衰弱しきった今では我らが王に叶う筈も無い。

それに既に滅亡の始まりは告げられた。最早神霊であろうと止めるには至らない。

だが、実に忌々しい。)

 

元々この女神の存在意義を知る者がいれば、

『歴史の改変』&『人類種の危機』という彼女が此処にあるに、何ら可笑しい事は無いのだが、

一般的には、片方(主に権力者)に肩入れして戦争へと煽り立てる女神としての側面で知られている。

 

だからこそ、人類最後の決戦舞台に嬉々として現れた戦狂いの女神の存在に納得してしまった。

 

(ただ殺したい、滅ぼしたい、滅したい。

何時もの様に、何時かの様に、神が悪魔を滅するべきである。

それだけの為に我々の願いを破壊するのか。

神というものは何時の日もも傲慢だ。だが――――――――――――)

 

主人公たちとは対極の意味で呆然とするレフ教授はある意味この場で一番真面目なのかも知れなかった。

 

「闘争の女神よ、やはり止めに来るのには遅すぎたようだな。

最早、意義である勝利すら掴めないだろう。『敗北の女神』として滅ぶために顕れるとは大した変わり者だ。」

 

 

 

そのレフの言葉に今まで一度もそちらに視線を向ける事が無かった女神が今初めて気が付いた様に振り向くと、

その表情を美しく微笑ませ、その鈴の鳴る様な可憐な声で、

 

 

 

 

 

 

 

「うふふ、うふふふふ、ふふふふふふふふふふふhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh――――――――――――――――――――――――――――――――――」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――悍ましく狂嘲した。

 

 

 

 

 

「何がおかしい。最早勝利の可能性などない。如何に神であろうと最早どうにもならない。

それすらもわからないか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直感的に

その言葉に女神は一層その笑みを深くした。

 

「      」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…当初、レフ・ライノールは女神の言葉が理解できなかった。

それは言語の次元が違うという話では無かった。

何故ならその言葉は人間である立香達にさえ聞こえていたからだ。

 

その言葉とは―――――――――――――――――

 

 

 

 

「何故だ、よりにもよって感謝の念を述べるとはどういう積りだ女神ィィ!!」

 

 

単純に言えば、『あ り が と う』だった。

 

 

 

 

 

 

 

「人として、人外として有能な貴方が、私の存在を、価値を肯定する機会を設けてくれました。

敵対者として存在する以上、生存する価値も権利も意義も認めてあげられませんが、

引き立て役として私の神話に記録してあげても良い異業です。」

 

 

 

それは人類に優しさを向けることはないも、肯定する女神の価値観であり、

俗な言い方をすれば一種の英雄願望であり、

神々が他者に求める生贄欲求であった。

この女神においてはそれは役割を果たす手段であるという酷く無機質なものであったが。

 

 

 

NBKM(ナチュラルボーンクズ女神)らしい発言である。

 

 

 

 

 

 

「昔々から様々な地域で悪の代名詞が登場して、神々や英雄に屠られてきましたよね。

結局マッチポンプだったり、存在自体が後付けだったりする場合もあるからなのですが、

その時の神々や英雄(かれら)の顔を見た事がありますか?

とてもいい笑顔をしていましたよ。きっと多くの悪役たちはその表情を見たでしょう。

そうですね、こんな風な表情です。」

 

 

そう笑う女神の形だけの表情は言葉に乗せた皮肉さえも見受けられない何処までも清々としたもので、

思わず場にいる誰もが見惚れてしまっていた。

 

そうやって場を笑顔一つで支配した女神から、各々に自我を取り戻させたのは、

他でも無い女神自身であった。

 

 

 

「美しければそれだけで説得力が生まれるでしょう?

強ければそれだけで強制力が生まれるでしょう?

賢ければそれだけで選択肢が生まれるでしょう?

能力が高い者が優越できる世界を目指すのである以上、

その象徴である私がそうある事は当然なのですよ。それを体感できたでしょう。」

 

 

その言葉と共に女神の美しさに囚われていた者達は思考の再起動を始めた。

そして思考を取り戻した立香は文字通り神をも畏れぬ蛮行を働いた。

 

 

「では、能力の低い者は?」

 

 

 

 

「能力を上げる様努力して、尚至らぬものは、

―――――――――――――――種も残さず朽ち果てるか他者の養分となるべきでしょう?」

 

 

 

 

この辺りで元一般人である立香は決定的に感性が違う物なのだと理解した。

他者との間に思考の違いがある場合、その差異を相手側の間違いとして嫌悪しないのは立香の天賦の才なのだが、

此処に来てその原点が共感よりも理解に近い性質であるがゆえに、

まるでゲームシステムの一つとしてあらゆるデータを掌握して計算するゲームプレイヤーのアバターであるような、

そのあらゆるものに対する制限や禁止を減免される性質に順応される心理がそのまま作られた精神であるが故に、

女神の性質を記号的に理解する事に留める事にした。

 

 

立香の次にマシュが発言しようとしたが彼女は発言を言葉に乗せる事が出来なかった。

彼女の中の何かが女神を明確な『悪』と認識しているにも拘らず、それを実行に移すには心が見えない威圧感に制御されていた。

 

 

女神に対して恐怖を持つ人間には言葉を発する事さえできない。

出来るとすれば、女神をそのまま記号と認識できる者か、信奉者、自制を失ったもの。

若しくは――――――――――――――人間以外であった。

そう、例えば悪魔(レフ・ライノール・フラウロス)などだ。

 

「女神よ、どれだけ貴様が希望を掛けようと、人類と言う種自体に限界の到達点がある。

いや、生命自体に限界が存在するのだ。」

 

 

「ええ、それは理解しているわ。だからこその私や貴方。

違うかしら?」

 

 

 

 

 

 

「そうか、理解している…か。

本当に理解しているのか?」

 

 

少なくともレフには自分達だけは理解している自信があった。

だからこそ、3000年も前に大事業の準備を始めていたのだ。

それ故に、他者がそこまですることが必要な本質を理解しているとは信じられない。

少なくとも自分達と違って何の準備もしてこなかった存在には。

 

 

 

「ええ、だからこそ私は此処にいる。

神としての力をそのために(・・・・・)使い果たして此処にいる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レフとしては心当たりが無い。

だが、実際の遭遇は初めてだが、

言葉こそは丁寧でも圧倒的に高慢な女神がブラフを仕掛けてくるような相手とは到底思えない。

 

 

 

 

互いに無言が続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女神に発言ができる者は、女神をそのまま記号と認識できる者か、信奉者、自制を失った者か人外。

記号と認識できる者(りっか)人外(レフ)は言葉を述べた。

その次に女神に問いかけたのは緊張のあまり自制を失った者――――――――オルガマリーだった。

 

 

「結局のところ、わたし達を助けてくれるってことで良いのっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

何処か、希望を滲ませながら言葉を発露する自身の弱さをひた隠しにする繊細な少女はそう言葉を発した。

 

彼女は名門の出ではあるが、貴重なマスターではない。

きっと女神の顰蹙を買うだろう。そうレフは口元を歪ませた。

 

女神は無言でオルガマリーを暫く見つめた後、立香に視線を向けた。

少なくともその行為はレフとオルガマリーにはオルガマリーなんて眼中にはいないと言っているように感じられた。

 

「助けて…なんてくれないわよね。そうよ、解かっていた。そんなこと。」

 

 

 

解っていたという割には裏切られたような少女には女神もレフも慰めの言葉を掛ける事はしない。

だが、少女の部下の二人は、

 

「大丈夫ですよ。僕達やカルデアの皆がいますから。」

 

「ええ、先輩と一緒に私も頑張ります。」

 

 

 

 

「っ!! 二人とも…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今まで独りで走ってきた少女が疲れ果て倒れる中、支えて励ましてくれる仲間の存在に気が付いた。

そんな何とも涙ぐましい場面である。

 

 

 

そして―――――――――そんな感動の場面をぶち壊したくなるのがレフ・ライノールと言う悪魔である。

 

「助けて…、助けて、か。

ははははは、これはおかしなことを言う。その二人はおろか女神すら君を助ける事は出来ないだろう。

何故なら――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――君は既に死んでいるのだから。」

 

 

 

 

 

厳密には君の肉体は、だがね。

そう付け加えるレフは最高に生き生きとした顔をしていた。

 

 

 

「どういうこと…?」

 

反対に先程のようやく自分を助けてくれる仲間を手に入れて生気に満ちてきた少女はその表情に不安の影を落とした。

そして聞いたことは律儀に答えてくれるのも悪魔の性質である。

 

「どうして精神が生きているのかは解からないが、肉体は爆発四散しているはずだ。

何せ、この事件の実行者たる私こそが君の足元に爆弾を設置したのだから。

トリスメギストスが意識だけを拾い上げたのは予想外だったが、ね。」

 

 

「つまり、わたしは―――――――」

 

その結論の先を自分の口で紡げない弱き少女に悪魔は嬉々として現実を告げる。

 

「既に死んでいるのだよ。先程も言っただろう。霊子演算から現実世界に解放されたとき、

君の受け皿である肉体は無い。君が切望したレイシフト適性を手に入れたのがその証拠だ。」

 

 

そんな淡々と絶望を告げる悪魔の言葉に補足的な説明を加えたのは女神だった。

 

 

 

 

 

「あなたは今、失った機能を機構で補っているわ。

その動力はトリスメギストスから供給されてるの。つまりあなたはトリスメギストスを降りたら死ぬのよ。

…そういうことでよいのかしら悪魔。」

 

 

「ああ、あはは。素晴らしい。

本人よりも、今ここに顕現したばかりの(あかのたにん)の方が物わかりが良いなんて。」

 

「ええ、これは悲劇と言うよりもいっそ喜劇と言うべきものかもしれませんね。」

 

 

 

 

 

 

「ああ、貴様が敵性存在であることを惜しく思う。」

女神の性格が冷徹冷酷なだけでなく、悪魔とタメを張れる悪辣なものであった事に悪魔は悔やむ。

その言葉は告白にも似ていた。

女神自身は悪辣と言うより無機質なだけなのだが、

自分が親近感を感じたいというレフの感情は、恋に似ていたのかも知れない。

 

 

だが、男には全く興味が無いどころか、どちらかと言えば嫌いな女神はそれをさらりと袖にする。

「あら、私は貴方は敵役で適任だと思いますよ。

そこそこ優秀で、味方につけたいほど容姿が整っているわけでもなくて、

友達が多そうでも無い。

個人の敵にするには勿体無いけれど、全体の敵にするには丁度良い捨て駒ではないかしら?」

 

 

農民を纏める為に必要なのは農民ですら見下せる穢多非人で十分だったけれど、

尊王攘夷の敵には江戸幕府が必要だったのでしょう?

ああ、アレは江戸幕府を滅ぼすために尊王攘夷のお題目を持ってきた、だったかしら?

 

 

 

 

ナチュラルに差別用語を並べて女神が附け加える補足も十分にゲスで、

彼女にこそ友達などいないのではないかと皆が確信した。

 

…そして時として、神と言うものは悪魔よりも自分勝手で冷酷で残酷なのだ。

 

 

「ねえ、そこの少女、あなたが生きながらえれるとしたらどうする?」

 

 

 

 

 

 

 

「助けて…、 助けて、くれるの?」

女神が瞳の奥に隠す愉悦に気が付かぬまま、垂らされた蜘蛛の糸に少女は縋る。

 

 

「ええ、でもそれはあなただけの意見では決定すべきではない。

私は善良な女神なので各々の遺志を確認するの。

…そこの少年、あなたは犠牲を払ってでもこの少女を助けてあげたい?」

 

 

 

女神の透き通るような微笑みにマシュは嫌な予感がした。

だが、それを行動に映せないまま優しい少年は決断を告げる。

 

「やれる範囲であれば。」

 

 

彼女が先輩と慕う立香らしい判断だった。

 

 

 

「うふふふ。此処に制約は成立した。

歓べ少女。あなたの願いは此処に叶う。****WO■■****」

 

 

 

 

 

 

マシュの横で一瞬だけ立香の身体が消失した。

驚いて立香の方を見るとその姿が断続的にぶれ始めた。

 

「何を、何をしたのですか女神っ!!」

 

此処で初めてマシュは女神に言葉を発した。

先程の区分で言えば彼女は自身を律する事が出来なくなった者に当て嵌まるのだろう。

 

 

その憤怒の満ちた、そして既に予測が付きつつある絶望的な観測を誤魔化す為の怒りの言葉を女神にぶつけた。

しかし女神はまるでマシュに興味が無いかのように視線すら向ける事は無い。

そんな女神に変わって悪魔が現実を突きつける。

 

 

「肝心な事をぼかして契約者を破滅させる。

この私が言うのも何だとは思うがまるで悪魔の様な所業じゃないか。」

 

 

 

 

オルガマリーは申し訳無さそうに下を向き、

立香は「ああ、死にたくなかったな。」そう自嘲しながら儚く笑っていた。

当事者である二人は自分達の身に起こっていることが直感的に理解できたのだろう。

女神はその当事者の一人である立香に話しかけた。

 

「…少年、あなたはもっと死にたくないと連呼しながら消滅すると思っていました。」

 

「できるなら、そうしたいに決まってるじゃないですか。

ああ、死にたくない。死にたくない。そんなのは大前提です。

でも、もう終わってるんですよね(・・・・・・・・・・)。」

 

 

「ええ、終わってる(・・・・・)わ。

あなたから繋がっているトリスメギストスとかいうものの先にある肉体を材料に、

そこの少女の肉体を構成中よ。もうそろそろ完成ね。」

 

オルガマリーはその言葉に立香に合わせる顔が無いと更に下に俯いた。

 

 

「少女、喜んでいいのですよ。

見た目こそあなたの意識そのものだけれど、隷属する霊的接続や霊子潜入適正も含めて有益な才能は少年から移植させましたし、

旧い呪縛からも解き放ちました。

容こそ人間だけれど、遺伝子構成(なかみ)は最早別物よ。白銀時代の人間でさえ敵わないのでは無いのかしら?

心臓の位置が違うとかその他の細かい事は後を追って説明してあげましょう。

破格の待遇ですよ。これも貴方が美しく賢く強く貴い血筋だからこそ、

形式上でも現生人類で私の召喚者に相応しい貴方だからこそ、この待遇であることを理解してくださいね。

マスター(・・・・)。」

 

 

新たなマスターであるオルガマリーは喜べない。

その喜びこそが仲間になると言ってくれた立香への裏切りであるように感じられたからだ。

だが、裏切りと言うのなら既に立香が消えそうになっている時点で裏切りなど既に終わっている。

 

 

 

 

 

ところでヒーローの変身中や名乗り上げ中は基本的には敵は攻撃してこない。

それは悪魔の所業であり、真っ当な悪の構成員なら守るべきマナーであるからだ。

 

だが、悪魔であるレフにはその枠組みには入らない。

 

「魔法染みた力…流石は腐っても神ということか。

だが、この状況を易々と見逃すわけも無いだろう。」

 

 

レフが魔力を集中させて攻撃に転じようとした時だった。

 

 

「どなたかわかりませんが、肉体の世界から此方を見ているのでしょう?

早く連れ戻しなさい。マスターは今、変態したばかりの昆虫か脱皮したばかりの甲殻類、

若しくは発芽したばかりの若葉みたいなものなのです。

一番美味し…いえ、一番脆い状態なのです。さあ、早くしなさい。」

 

 

 

その言葉に反応したロマニ・アーキマンによる回収作業に対して妨害と、オルガマリー達への攻撃を同時に行ったレフだったが、

攻撃の阻害と、妨害の排除と、回収のアシストと、自身の肉体の核を応急的に現世へと創り出す4つを同時に行った女神によってそれはならなかった。

 

 

 

 

 

 

そして、女神とオルガマリー・アニムスフィアとマシュ・キリエライトは、

冬木の町から現実世界へと舞い戻った。

消え去った藤丸立香を残して。




だれかの命
異なる『ち』
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