カルデアに帰還した一同に以前ほどの待機組による歓迎は無かった。
最初の一回目で無いからだというわけでない。明らかにカルデアの空気が悪化していた。
何処か後ろめたそうに乾いた笑顔を張り付けるロマニ。
そんな彼を冷たい眼差しで眺めるダ・ヴィンチ。
そして帰還組、厳密には女神から視界にすら入らない様に避けるその他のメンバー達。
オルガマリーは何があったのか全く見当がつかないほど愚鈍ではないが、
世界救済の大事業であるが故に少しだけ周りには大人になって欲しかった。
…勿論、女神を恐れ、畏れる気持ちには十分に理解は持てるのだが。
何時もより少しだけ微笑に陰りがある女神はオルガマリーを右腕で抱きしめると左腕を真っ直ぐ横に伸ばした。
その左手の先には何かを摘まんでいる様であった。
「有象無象の魂×1000 恐怖の断末魔×500 後悔の恨言×100 絶望の懇願×100 家族殺しの記憶×11
そして、暴君の心臓×1。 材料は最低限揃いました。魂の数がギリギリと言うのが残念ですが仕方ありません。
…闇の力を秘めし鍵よ、汝の姿を我が前に示せ。契約の元、オルガマリー・アニムスフィアの名を以って命じる―――
勝手に自分のマスターの名前を用いて召喚術式を起動した。
女神の背後から切り開かれた空間と勝手に使用されたカルデアの電力を使って一人、いや一柱の男が召喚された。
「フラウロス・ウヴァル・グシオン融合体だ。
…まあ、レフ・ライノールとでも呼んでくれたまえ。見た目も同じだから呼びやすいだろう。」
罪悪感は無いのだが、主に女神のせいで少々居心地が悪そうなレフ・ライノールと、
様々な――しかし揃って負の感情を向けるカルデアのメンバー達。
…無論、その中に女神は含まれてはいない。
その後、最初に女神からオルガマリーのサーヴァントである事。
気に食わないならカードの中に封印できること。
術式設定により、その身体を分解してオルガマリーの武器にできる事の説明があった。
正直、この中で誰もレフには良い感情を持った者はいない。
オルガマリーは藤丸立香を、厳密には立香を殺したのは女神とオルガマリーなので、自分を殺した対象だと認識している。
そしてマシュやその他にとっては裏切り者であった。
正直話したくはないのだが、事情聴取、つまり尋問をしなくてはならない。
今なら三角の支配魔方陣と同化しているような状況なので何でも話す故に。
だからマスターの責任としてオルガマリーが訪ねた。
「…色々言いたいことはあるけれど、それは今は置いておくわ。
今回の異変の全体的なあらましと犯人をわたしの意に添うように解かりやすく答えなさい。」
その問いに悪魔は答えた。
「ほう、最初に言うのが恨み言で無いというのが意外であった。
まあいい。目的を説明してあげよう。
簡潔に言えば歴史を焼却し、その熱量で
「要するに、『上書き』…いえ、完全破棄からの再制作というわけですね。」
女神は何時にない鋭い眼差しで悪魔を見た。
悪魔だけでなくその場にいた全ての生命は魂を握られたような感触を受けたが、それも一瞬の事だった。
『所詮一周分の歴史』ではあるがそれを焼却して行う事が歴史の造り直しであると聞き、
女神の中で何かが琴線に引っ掛かったのだ。
女神に完全に気圧されたことを誤魔化す様に少し早口になって続きの質問にレフは答え始めた。
「…引き続き答えよう。そして犯人は『ソロモン王』―――――」
そう言った時、周囲の反応は様々だった。
女神は何時も通り無反応、オルガマリーとダ・ヴィンチはその名前に驚愕した。
そしてマシュは、
「ソロモン王って最低のクズですね。」
と嫌悪感を丸出しにしていた。
その言葉で無表情で冷や汗を垂らしていたロマニは何故だか凄く落ち込んだ様になっていた。
「――厳密には、ソロモン王の貌で為る七十二の悪魔たちの群体だ。
我等が切り離された後に三体分が再生したかどうかは判らないが。
まあ、ソロモン王だろうが、その悪魔だろうがお前達にはそう関係ないだろう。」
そう何故か偉そうに話すレフに、
「いや、それは凄く大事な事だからはっきりさせておくべきだと思うよっ!?」
凄く必死なDr.ロマンだったが、この状況では彼以外の者にとっては脅威として計算するにおいて確かにどちらでも同じだった。
そんな必死なロマニ博士を放ってマシュはレフに尋ねた。
「何故、そんなことを?」
勿論、マスターでもないマシュに答える義務などレフにはなかったが、
同じ質問をオルガマリーに正直に話す様にと聞かれれば答えるしかなかった。
それは失望だった。
それは絶望だった。
それは後悔だった。
それは悪意であり善意であった。
それは―――――――――――――『憐憫』だった。
だが、女神には犯人がどうやって行ったか、誰が行ったか、今後どういう影響が出るかだけが必要であって、
その内心の動機である部分にはまるで興味が無かった。
犯罪者を慰める必要も無く、犯罪をいかに早く収束させて、犯罪者を裁くかだけが大事なのだ。
第一――――――――――――――――
(七十二柱も集まって、挙句『所詮一周分の歴史』で絶望するなんて、
なんて脆過ぎるのでしょう。)
女神には悪魔の弱さが理解できなかった。
割と、自分も豆腐メンタルである事には突っ込まない方が良い。
彼女は悪魔よりも遥かに永い時で失敗し続けてきたのだから。
ここ最近顕著に弱くなった事に理由がもしあるのだとしたら、彼女が今腕に抱いている少女の仕業に他ならない。
かくして話し合いは終わり、
レフは女神が何時の間にか用意した何故か体のサイズにぴったりの礼装を身に着けたオルガマリーによって、
カードの中に封印されてこの日はお開きとなった。
その衣装の材料は『胎児の悲鳴×3』『戦士の絶叫×1』『老人の後悔×1』『乙女の恐怖×1』という至極碌でもないモノだったが、
中身がドロドロでも見た目だけは極めて美しく造り上げるのが女神の手腕であることはブリテンに顕れた天使の群れで実証済みだった。
要するに材料のリストを見なければ誰も気にせず美味しい料理として食卓に上る食材と同様である。
何故か、ロマニが封印シーンをビデオカメラで撮りたいと言い出したり、魔法少女は時代を超えて愛され続けるんだー、と叫んだり、
先日会合したネロなら何故か凄くカードの封印が様になりそうな気がするとかテンションを上げていたが、
旅から疲れて帰ってきたマシュにざっくり話を打ち切られた。
曰く、『気持ち悪いです。』と。
その後、各人はバラバラに部屋に帰っていった。
マシュは、ローマに来てから徐々に動きが鈍くなり、
何かを押さえる様に蹲り低く小さい唸り声しかあげなくなったフォウが心配だと言ってフォウを連れて自室へと向かった。
そして女神は何時もの様にオルガマリーを連れて寝室へと向かっていった。
場に残されたのは二人。
その一人であるロマニに対してもう片方であるダ・ヴィンチは問う。
「アレを何時まで許しておくつもりだい?」
「『アレ』とは?」
ダ・ヴィンチの視線は鋭くなり、対照的にロマニの視線は彷徨いだした。
しかし、ダ・ヴィンチの追及は終わらない。
「あの女神の存在そのものだよ。無いとは思うけど、まさか共感してはいないよね?」
「それはあり得ない。あの存在の在り方は無感情な数式に近い。
確認するのも嫌だが、きっと過去の歴史もまた入れ替えられている。
今まで本来の歴史に存在した人々の営みも全て否定されているだろう。
そんな事務的で無機質な在り方に命あるものに共感などできる筈も無いじゃないか。」
「そこまでいうのなら、何故…。」
「…言いたいことは解かるよ。
だが、あの女神を除いて決定的な戦力はこのカルデアにはもうない。
あの女神以外に今回の首謀者から勝利をもぎ取れそうな存在がいるのかいっ?
レフも除くとなれば所長とマシュだけだ。戦いにもならないっ!!」
そう叫んだロマニは足音が聞こえて咄嗟に振り向くと、
通路へと去っていく紫色の髪が視界から抜けていくのを目視した。
「……っ!? ――しまった、最悪だ…。どうやら聞かれていたようだ。
一番聞かれちゃいけない人に…。」
震えるフォウを寝かしつけて寝る前に何か飲み物でも飲もうと廊下を歩いていた紫色の神の少女マシュは、
偶々聞こえてきたロマニとダ・ヴィンチの会話に耳を傾けて聞かなければいいと後悔した。
(私では、力に、なれない?
私だけでは、何の役にも立た…ない?)
彼女は何時の間にか起きていた小動物を抱きしめると震えながら疲れに身を任せて無理矢理眠りに落ちようとした。
フォウにはその眼尻に流れる塩水を舐める事しかできなかった。
解放
開放
解法
介抱
開封
解包
感想欄での書き込みで私より遥かに文章力や構想力が高い方が多いので、
凄く参考になっています。
それと、誤字報告、凄く助かっています。ありがとうございます。