その夜、オルガマリーは夢を見た。
オルガマリーは大河であり、大樹である何かと共にあった。
何故だか解からないが彼女にはそれが女神であると理解できた。
何処までも澄み切ったそれに大きな楔が突き刺さっていた。
オルガマリーの見える中にはその楔は3つあった。いずれもその楔が刺さっている所から澄んだ血の様なものが流れ出していた。
一つは、マリー・アントワネット。
其れはオルガマリーが触れる事で理解できた。
無償の慈愛はそれを許容できない数式に甚大なエラーを引き起こしていた。
大河が、大樹が、女神がそれに苦しんでいると判断したオルガマリーは
楔はオルガマリーの手を傷つけながら抜けた。
次の一つはブーティカ。
其れはオルガマリーが触れる事で理解できた。
家族への愛はそれを許容できない数式に膨大なエラーを引き起こしていた。
大河が、大樹が、女神がそれに苦しんでいると判断したオルガマリーは
楔はオルガマリーの手を傷つけながら抜けた。
最後の一つは、
オルガマリー・アニムスフィア。
其れはオルガマリーが触れる事で理解できた。
「わたし…? どうして…?」
オルガマリーへの■はそれを許容できない数式に膨大なエラーを引き起こしていた。
大河が、大樹が、女神がそれに苦しんでいると判断したオルガマリーは
引き抜く姿勢のまま逡巡した。
そこで――――――――――――目が覚めた。
何か夢を見ていたのだろう。だがそれは『オルガマリーの記憶』には残らなかった。
オルガマリーが目を覚ますと、珍しく女神がまだ目を閉じていた。
こうしてみると何処までも美しい造形美であった。冷たさすら感じさせる一切の隙の無い美貌。
癖一つない黄金の髪に、何処までも透き通るような白い肌。
そして瞳が見えるのなら何も映し返さない突き抜ける程透明な目があるのだろう。
人間などとは隔絶した絶対存在。人間と触れ合うことなどあり得ないであろう設計美。
そのことを何故だか少しだけ哀しく感じたオルガマリーは未だ眠りの淵にいる女神を抱きしめてもう一眠りする事にした。
抱きしめられた女神はその事で覚醒しかけたが、良く知る者の体温と感触に再び微睡む事にした。
取り敢えず、マスターが体力を回復しなければどのみち自分が動くことも無いだろうからと理由付けて。
一人の少女と一柱の女神は再び夢の世界へ旅立った。
今度の夢には大河も大樹も楔も出てこない、何処までも透き通る雲一つない空の下、何処までも広がる緑の丘の上。
そんな寂しくも優しい、誰もいない世界の夢だった。
再び二度寝から目を覚ましたオルガマリーの視界には何時もの通りの微笑を浮かべる女神がそこにいた。
その微笑は、今までの微笑と少しだけ違うような気がしたが、よく見ればよく見る程違いが分からなくなり、
オルガマリーはそこで寝ぼけた頭でこれ以上検討することを止めた。
時計を見ればもういい時間だ。一応彼女は此処の責任者なのだ。何時までも惰眠をむさぼっていては示しが付かない。
オルガマリーはシャワーを初めとして身だしなみを整えると、
女神を連れて他の者が待つ所に集合した。
途中で女神にタイの曲がりを直された時は近付いた顔に赤くなってしまったが、
それは皆の前に出るときには戻していた。
着いた時、集まった中では一番遅かったにせよ、所長出勤にしては十分早いのでこれくらいは許される範囲だった。
「先ずは、あの後の歴史の変化を説明させてほしい。」
軽い挨拶の後、全員に用意された紅茶(ロマニにはコーヒー)と共に先日の纏めと今後を決める会議が始まった。
そして、その会議における最初の議題提出者はロマニ・アーキマンだった。
彼の説明によれば、あの後変化した特異点はそのまま歴史に定着した。
多少その後の歴史の勝者によって史実は書き換えられることとなったが、
大きくは、
『復活の後、半ば神に近い信仰を得た古代の女王ブーティカとそれに伴うヴィクトリアという名の増加』
『ローマ帝国の一時的な弱体化と周辺国の更なる弱体化』
『ローマ帝国とブリテンの確執』
『戦争に勝利した島国の早すぎる強国宣言』
『ローマと共に現れた“悪魔”の軍勢の伝説』
『ギリシャ神話などに伝わる闘争と支配を愛する氷の女神の知名度の上昇』
そして、
『変質した暴君ネロにより引き起こされた多くの相違点』
特に最後の事象は危険だった。
必要故と周辺の国々から略奪の限りを許す残酷さと、自国では鳴りを潜めた程の静粛さ。
だが、他国の抵抗が下火になるとともに他国における残虐さが収まった。
これは一説には賢美妃アクタヴィアによるものだと言われた。
妻と共に、母アグリッピナの墓前で弔いを行っている時、とある宗教を信仰する他国の暗殺者に襲われた。
彼を庇った妻によってその命は助かったものの、命よりも大切なものを失った彼女はその魂が変質した。
彼女は史実よりも遥かに苛烈にその宗教を弾圧した。
憎しみと悪意の化身として。
そして怪しげな呪法を以ってその宗教の関係者全てを煮込んで、どうやってか解からないが強靭な兵士を作ったと言われた。
彼女がもし今後呼ばれるとしたらセイバーやライダーで呼ばれることはもうないであろう。
「これだけの事を引き起こしたんだ。これで特異点が逆に発生しててもおかしくないんだけど、
そこのところ申し開きはあるかな?」
そう責めるような、いや責める目で女神を見つめるダ・ヴィンチ。
だが、女神は微笑を崩さない。昨日とはまるで違う安定し尽くしたような今迄通りの笑みだった。
「特異点が発生すれば確かに今回の異変だけに絞ってみれば解決が遠ざかるので問題はありますね。
ですが、反面修正できる歴史が増えるとも言えます。
まあ、特異点が発生するのなら、ですが。
それに、ネロ・クラウディウスも神災を理由に弱き者を切り捨て、他国への躊躇を棄てる事が出来て喜んでいると思いますよ。
悪いのは全て神の仕業だ、と。」
その余裕に、殆どのものが理解した。
女神が特異点が発生しない様に何かしらの手を加えている、と。
「何をしたのかしら?」
その代表として質問した己のマスターに女神は答える。
「必要な歴史を上に丁寧に貼り付ける事で、既存の歴史を裏側の世界へと追い遣るのです。」
そんなことは許される筈が無い。マシュは思わず憤りを上げた。
「それがどういう意味だか解ってるんですかっ!?
今まで生きた人たちの営みも、生き様も、全て『無かった事』になるんですよっ!!」
だが、女神はどこ吹く風である。当然の様に、物わかりが悪い子供を諭すように言う、
「では、新しく存在するヒトの営みや生き様を否定するのは構わないのですね。」
それは氷の様に冷やかすぎる反論だった。
「ですが―――――――――――
別に歴史を改変しないという選択肢も無くはありません。
どうせ、放棄した歴史は消え去り修正されるのですから、
奪うだけ奪い尽くして、無かったことにするというのも有効ですね。
ある対象に借金を借りれるだけ借りさせておいて、その金を奪いその後その対象には消えて頂くやり方です。
その方が以降の特異点に置いて有利になるのなら私はそうします。
必要なら私はその方法を躊躇しません。」
「まるで海賊じゃないか。」
ダ・ヴィンチがそう言ったのと同時に自身を侮辱したのだと認識した女神の微笑が崩れる前に、
ロマニは話を崩す事にした。
「そう、今ダ・ヴィンチが言った通り次の特異点は大海原だ。
もしかしたら歴史的に有名な海賊たちとも合えるかもしれないね。」
凄まじいファインプレーであった。
オルガマリーは内心で拍手し、ダ・ヴィンチは若干感謝し、
マシュはどうせならそのまま女神を挑発すれば良かったのにと考えていた。
ローマに行く前より少しだけ大きくなったフォウも女神を睨むのを止めていない。
オルガマリーは新たな地、いや海オケアノスに向かう前に思う。
結局、自分のサーヴァントは最初から増えていない。勿論レフはカウントに入れない前提で、だ。
寧ろ、あくまで憑代や審神者の様な者だと自分と女神の関係を定義すれば自身で契約したサーヴァントはいない。
マシュだって未だに立香に仕えているようなものだ。
もし、立香だったら―――――、
今の時点で賑やかに新しい仲間達に囲まれて笑顔で次の試練に望むのだろうか?
絆を束ねて非才の身で絶望に立ち向かうのだろうか?
弱き糸を束ねて重たい断首刃を受け止めるのだろうか?
幾多の絶望を越えて希望を謡うのだろうか?
運命に愛された限界を超える法を掴むのだろうか?
不思議と、そんな気がした。
もしかしたら、そんな未来もあったかもしれない。
わたしはそこにはいないだろうが、それ以外の仲間を増やして次の試練へ進み、
きっと151人くらい仲間ができるのだろう。もしかしたら百の桁が違うのかも知れない。
わたしは――――――――――――――――――立香の代わりになれるだろうか?
少しオサレにしてみました。
畏怖
移付
委付
IF
If I got some letter, I'll try my hardest.
無責任にも感想と誤字修正をねだってみたりしてみます。
次章予告
すっごい有名な屑野郎が、ちょっとかっこいいお父さんに。
…いったい何デなんだ…。
もしかして―――デン■?(色は同じ)
もしかして―――デデ■?(王様なのは同じ)