凍れる女神   作:蕎麦饂飩

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第二十四話 『ちちおや』

黒髭と呼ばれた男がいた。名はエドワード・ティーチ。

彼は海賊だった。世界で一番有名で、言い換えれば典型的な海賊だった。

彼は海賊らしく彼らによる被害者たちに心を痛めた事は無かった。

寧ろ、被害者たちが「くっ、殺せ!!」と言う様にある種の芸術美を感じていた外道な悪党だった。

 

だが、彼にも仲間はいたし、財産目当てだろうが抱いて孕ませた女達はいたし、

子供だっていた。

一般人が持つ愛情と全く同じだったわけではないし、養育の責任感があった訳でもない。

だが、それらが一瞬で奪われるとなるとどうだろう。

 

 

この時代よりも少しだけ先の時代に本来生まれるはずの彼は、サーヴァントとして召喚されると、

そのカリスマを以って、少しだけ早い大海賊時代を創り上げる起因となった。

 

その大海賊時代の旗揚げの町、彼のこの世界におけるある意味においての海賊旗が凍結によって焼き払われた。

海賊の面子としてそれは赦されざる暴挙だった。

彼はその下手人が例え神々であろうと追い詰めて清算させてやると心の中で誓い、

身よりの無い娼婦の母親の策略であろうが、自分を父親だと呼んだ幼子を、

この世界で次の船長にでも指名してやろうと思っていた後継者の姿を思い浮かべながら、

溢れ出そうな何かを封じるために目を閉じ、無理矢理下卑た笑い声を海賊歌を謡った。

 

譲り渡すはずのその船の名に相応しい復讐の歌を彼につき従い、

共に家族を喪った仲間達と共に。

 

 

 

 

 

 

 

一方、実行犯であるオルガマリーと、黒幕?である女神はキモメン達の都合なんて知る訳も無く、

女神に至っては知ったとしてもどうだってよく、

今現在、近くの陸地を歩いていると、イケメンだけれどもドクズな男に対応を迫られていた。

いや対応という言葉は仰々しすぎる。要するに面倒くさいナンパである。

 

「ねえ、まだ夫がいないなら結婚しない?

別に夫がいても奪うのは大得意だから問題ないけど。」

 

 

Fate Grand Orderを知るものならこのセリフだけで大体の人が解ってしまう稀代のドクズである。

名前をダビデ、ある意味とても自分に良く似た、女性と自分の浮気が大好きな子供達を作って、

彼らに内紛を起こされたり、妻(子供にとっては義母)を寝取られたりした自業自得系の王様であった。

遠い子孫が、『汝、隣人の妻と姦淫するなかれ。』と言っているのはその反発作用もあるのかも知れない。

 

無論、彼もこの時代に本来は居ない筈の存在。つまりはサーヴァントである。

 

 

「えっ、ちょっと、いきなりなんなのっ!?」

 

 

そんなダビデの人柄に赤面して驚くオルガマリー、

白い目で見るマシュの胸元を護る様にダビデの視線を塞ぐようにその上に乗り、

逆に小動物を乗せられる事で胸を強調させているフォウ、

そもそも潔癖な処女神(ガチ)な女神。

 

女しかいない故に男避けが難しいメンバーである。

とはいえ、近寄りがた過ぎる完成された美である女神に声を掛けられる自信と言う意味においてはダビデは評価されても良いのかも知れない。

 

ダビデの様な軽薄な男は好みではないが、それでもイケメンにいきなりプロポーズされて赤面して思考停止しているオルガマリーに、

 

「マスター、この男は紀元前の王ダビデ。例の神の神託を受けし人間です。

また、隙あらば脱ごうとする露出狂であり、

ソニックフォームと真ソニックフォーム、そしてその先の全裸を組み合わせ、

脱げば脱ぐだけ速くなるその速度と、相手の虚を突くことを極めんとする自称セクシーな格闘術を使ってきますが、

所詮は無駄に洗練された無駄の無い無駄な動き。大凡にして男性に行われると気持ち悪い行動です。

ですが安心しても構いません。まともに相手にしなければ只の無意味な行動です。

王としての歴史的価値や意義や遺伝子的な肉袋としての存在理由については置いてしまえば、

マスターには彼の行動に限らず彼そのものを相手にしない事を推奨します。」

 

 

その言葉でオルガマリーの頭は一瞬で冷却された。

流石は氷の女神である。伊達では無い。

 

 

「ちょっと、それは言い過ぎではないのかい?」

 

ダビデは心に弓矢で射抜かれたようなダメージを負いながらも、これは、恋の矢かい?

なんてふざけようかなと思考しながら、更にその深層では、

自身の事を此処まで看過できる存在とは何者かと、

心理を読み取る存在であるかもしれない存在である可能性がある金糸の髪を持つ美女に対する警戒半分、本音を半分で、

意識表層にふざけた嗜好を取りまとめた。

 

やってる事は凄いが、そのカバー用の思考は知られたらイケメンなら何してもOKというわけでない女性なら、

嫌悪しかねない思考の塊であり、カバーとしては優秀だが、同時に思考を読まれたら色々失いかねないものであった。

 

 

 

 

冷静になったオルガマリーはその持前の正常に起動すれば高速に働く頭脳で、

ダビデというキーワードから幾つかの事象を導き出した。

 

「ねえ――、ソロモン王って、確かダビデ王の息子じゃなかったかしら…?」

 

因みに、『ねえ』の後には、今更ながら女神を何と呼べばいいのか2人称に困ったオルガマリーの葛藤があったのだが、

今回の事態の優先度として要件の方が重要とみてそれは押しとどめた。

 

「ええ、そうです。父親に似て女性を囲うだけでは飽き足らず、

悪魔も囲ったという今回の容疑者『ソロモン』の父親ですね。」

 

女神からの妥当過ぎる評価に、

此処で、オルガマリーとマシュはソロモン王の身内であるダビデが敵陣営の存在であるという、

普通に考えれば在り得る可能性に気が付いて、警戒心を高めた。

厳密には異性に対する警戒心を敵対者に対する警戒心に切り替えた。

オルガマリーに至っては既に悪魔の封印されたカードを魔法少女のステッキにスライドさせる準備をしていた。

 

「…愚息が何をやらかしたかはわからないけど、僕は何もしてないよ? というかちょっと辛辣過ぎない?」

 

 

歩くアクシデント(意味深)が何を言うのだろうと歴史を知る者達は思う。

犯罪者の身内が、自分は共犯者では無いと言って、はいそうですか信頼できるわけはないだろう。

身内のしでかしたことで信頼をなくすことは何時の時代でも良くある事である。

 

「ダビデ王と言えば『箱』はどうしたのかしら?」

 

オルガマリーが質問したのは単純な疑問では無く、有名な触れる者の魂を奪う『契約の箱』を使って、

世界を壊すつもりなのでは? と詰問しているのである。

 

「ああ、アレは置いてきた。必要でないときには困るものだからね。」

 

これはナンパの邪魔になる『箱』の襲撃者を追わせない為、そして万が一集合した敵性戦力に敗北して『箱』を奪われないようにするためである。

だが、マシュもそれを信用しない。

 

「……。」

 

無言ではあるが、私疑っていますという視線でダビデを見る。

 

 

人間の女性陣は完全な臨戦態勢だが、この中でカードに封ぜられたものを除けば唯一の男性陣であるダビデは、

女性側に一切の害意は無かった。その身体を貪りたいという感情が害意で無ければ全く害意が無い、

流石神の神託を受けし者といえる精神性であったと言っても良い。

 

「…いったい何したんだよ愚息は。僕は無関係な善良なサーヴァントだというのに。

ちょっと、評価酷過ぎない?」

 

故に、フォローのつもりは全くないが、必要とあればいつでも人類を抹殺できるが故に特に警戒心も無い女神はダビデに告げた。

 

「まさか、貴方には一定の評価を置いているのです。

例え少々素行が悪かろうと能力と実績があるのなら構いません。

貴方に使い潰された善良なだけの貴方の妻の夫達よりは高評価ですよ。

妻は揃って敢えて貴方の遊歩コースで薄着になる計算高い阿婆擦れ。息子も貴方に似た節操無し。

ですがあの神にも一定の評価と信頼を受け、多くの優秀な子孫をばら蒔いたことは評価しています。

勿論、今回のソロモン関連の事件を鑑みるにバド・シェバとの子供は第2子(ソロモン)も死なせておくべきでしたので、

その点も考慮しなければいけませんでしたね。貴方と、ソロモンを生かしたあの神を含めて。」

 

そのつもりはないが皮肉が利き過ぎていた。

ソロモンは彼の遊歩道で敢えて水浴びをしていた人妻バド・シェバを見初めて、

元の夫から奪い、その為に彼女の夫を彼女公認の元戦場の最前線へと送って、

その場の指揮官に敢えてその夫ウリヤを見殺しにせよと告げた事で、神の怒りを買い、

バド・シェバとの第一子を神に殺された。

 

 

女神の認識では事実であるダビデの咎を正直に告げただけの事で、怒りを買う要素は無い。

しかし、ダビデは神託を受けただけの只の人間だった。只の人間の王だった。只のソロモンの父親だった。

故に、湧き出る怒りを押さえる事が出来なかった。

 

「…その口を閉じるが良い。

僕は女性は優しいつもりだし、優しくしたいと考えているが限度と言うものがある。」

 

「まさか、反旗を翻すつもりですか?

この私に、―――この()に。」

 

 

ダビデは薄々気が付いていた。目の前の女性の人間味の感じられない物言い。

生命体ではありえない美貌。一神教の信者である故に信じたくはないが圧倒的な神気。

 

 

「神だと…。名は?」

 

 

敢えて気が付かなかったふりをしてダビデは聞き出そうとした。女神の正体を。

 

「『女神様』でも『高潔なる導き手』でも何でも構いません。」

 

何でも構いませんと言う割には偉そうな名前の列挙だが、実際に神と言うものはヒトより偉い。

その偉そうな態度と『高潔なる導き手』というワードにダビデは生前どこかで聞いた記憶を思い出した。

 

 

「あいにく、信仰は唯一神に奉げていてね、

まあ、僕の所の神は人間の恣意的な品種改良なんて許さないだろうけど。」

 

特上の上流階級や闇に住まう魔術の徒には有名であった女神の神話を知るダビデはその正体に当たりを付けた。

 

 

対する女神は自分が相手の機嫌を損ねたとも気が付かず、突如敵意を僅かながら滲ませたダビデに言葉を贈った。

 

「養殖された高性能だけでなく、時折天然の天才が出現します。

それは構いません。素晴らしい事です。

ですが、過ぎたる力に驕り神に並ぶ、剰え超えるなどと傲慢になるのは見過ごせません。

神の管理を超える人間はシステムに重大な影響を及ぼしかねない。

他の神々が警戒したのも理解できます。

故に、天才は遺伝子の詰め物として機能していればよいのです。貴方はその点についてだけは良くやってくれました。

他者から妻を奪おうがそれも許しましょう。ウリヤの遺伝子は残させたかったですが、

有象無象の元夫たちはどうでも構いませんから。

そうですねこの特異点内における契約内容として、

対象として私とマスターとその血族は除きますが、

今後此方の陣営に着くか、敵対者となった女性を孕ませる権利を与えても良いでしょう。

受肉させて遺伝子を着床できるようにもさせましょう。

貴方はそれを条件に此方に従いますか?」

 

 

言ってる事は死後複数の美女をお前にくれてやるから私という神に服従しろと言う、

ダビデの信仰する神の他宗教から見た側面と大差ないものだが、

ダビデは女神の在り方に嫌悪感しか感じなかった。最後にさらっと一番重要な所を契約に含めてくるのも悪質なやり方だと思えた。

 

 

女神は美しい女性である。だが、それでも存在を赦すわけには行かないとダビデは深く感じた。

投石をする想定を行いながらダビデは同時に思考する。

 

ああ、この時が来るのなら『箱』を置いて来れば良かった、と。

だが、彼もどうしようもないクズではあるが善人であり、物事の損得換算はしっかりと出来る。

 

故に、あくまでクズらしさを表面に出して、

 

「うーん、もう一声勉強してくれないかな。それができないなら現状では契約は出来ないかな~。」

 

「七大罪を禁ずる宗教に身を置いて尚、強欲なのですね。

仕方ありません。御破算としましょう。」

 

更なる報酬を要求して身の程を弁えず、掴める契約を手放す愚かな男を演じて話を流す事にした。

余計な柵は、特に神々との契約や贈り物と言うのが例え善意や信頼であっても恐ろしいものだという事は、

『契約の箱』の保持者であるダビデは良く知っていた。

人間相手なら、相手の契約を利用する事も考えられるが神霊相手ならそれは悪手の極みだとダビデは認識した。

 

そして契約を蹴った事で敵対するのだと思われる前に彼は行動に映った。

 

「どうやら愚息が各所で迷惑をかけているようだから、親として諌めに行くぐらいはさせてもらうよ。

そういうわけで、同行しても?」

 

どう考えても良かった条件を蹴り、あくまで無償で善意に基づき行動すると、

そう言うダビデだったが、いかんせん信用が無い。

オルガマリー一行とは初対面のはずだったのだが、その初対面に、

しかも女神と言う、比較をすれば大体誰でも善人な比較対象がいて、

そして尚、疑いの目を向けられるのは彼が悪いのか、息子が悪いのか。

 

 

そんな彼に、この場にい無い者から救いの声が聞こえてきた。

 

「ダビデ王は確かにソロモン王の父親ではあるけれど、

基本ネグレクトだったらしいから、敵のスパイという事は無いんじゃないかな?」

 

色々とぶっちゃけてしまうと実はソロモン王本人で、ソロモン王を騙る者が自分ではないと誰より知る故に、

今すぐ免罪を主張し続けたいロマニ・アーキマンだった。

 

「…へぇ、まあ僕は子供を作っちゃうまでが大好きだから、その後はどうでもいいしね。」

 

一瞬何かに気が付いたように目を細めるダビデは確かにシリアスなイケメンでカッコ良かったが、

そのセリフが色々台無しである。

女性陣からの好感度が絶賛底値更新中なのは仕方がない。

 

 

 

かくして色々なグダグダとその後のロマニの弁解のお蔭でダビデは一行に加わったが、

本来此処にいる何でも受け入れる藤丸立香とは違い、

此処にいるのは感情的にはなるものの人を疑う冷酷さも兼ね備えたオルガマリーとその仲間。

 

そして何よりも先程の無給労働宣言を首に縄を付けられるのを拒絶したのだと真意を見抜いた女神。

 

 

今までになかった、同行者を疑いながらの冒険が始まった。

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