屑男ダビデを連れ一行は旅を続けていた。
道中、マスターであるオルガマリーに折角、初期使用時に魔力量が十分であれば大量の生命を犠牲にするだけで、
自身の魔力回路を綺麗に循環できるうえに魔力も回復できて総量も上昇する素敵な壊滅型虐殺魔術を教授したにも拘らず、
それ以後使用していない事を不思議に思った女神は、どの方角に港町があるかをオルガマリーに教えていた。
単に、人里が射程圏内にないと膨大な魔力の無駄内だとオルガマリーは考えたのだろう。
普通に、人を傷つけたくないオルガマリーの弱さは女神には理解が難しかった。
仕方がないので、女神は眷属を放ち自分で命を収穫する事にした。
女神が何かを抱きしめるような姿勢を取ると、
そこに光が集まって、一人の少女が生まれた。
その少女は解かりやすく言えば凄く可愛かった。
理性的で賢そうな瞳、美しい黄金の髪、白一色の柔らかなドレスと、
同じ色の純白の髪留め。大人びた少女と大人になる寸前の女性が同居した様な絶妙なバランス。
その容姿は端的に言えば、どう見ても女神の娘だった。
そして実際、似たような存在である。
オルガマリーとマシュは見た目は似ているのに、どこか人間のような
抱きしめたいと思った。基本的に女の子は可愛いものが好きである。
可愛いものを抱きしめて可愛いと主張する自分が可愛いという女性も少なくないが、
オルガマリーもマシュも変なアピールをしなくても十分に可愛いのでその類では無かった。
女神はその少女の身体が構築できたのを確認すると、その腕を少女から離した。
「
自身の背に回された女神の腕が少女は少しだけ残念そうにするが、
「はい。お母様の第一の娘、そのお役目承ります。」
そう答えると以前オルガマリーの背に生えたような翼に質感が若干良く似た、
氷の結晶の様な翼を生やすと何処かの海へと去って行った。
この場にもう少し母親らしくしてあげれば、と場の者達皆が思ったが、
一人は愛情や称賛に飢えて育ってきた少女。
一人はそもそも人工的に造られた故に肉親を持たない少女。
一人は妻も子供もいるが、向き合う事をしてこなかった男。
女神に主張すれば自分もダメージを負う故に、誰も何も言わなかった。
というよりも言えなかった。
だが、オルガマリーには気になる所があった。
僅かな時間しか一緒に居なかったが、何処か女神の娘は女神より感情的そうであった。
もしかしたら女神の感情が豊かになる、若しくは表現しやすくなる鍵もそこに在るのかも知れないと思った。
「先程の少女は、あなたの娘…よね?」
「厳密には私の娘は全て役目を終えた時に消滅しています。必要のない所に供給は効率的ではありませんから。
アレは第一の娘『王国・権利』のコピーです。」
余りにドライな女神の対応にオルガマリーは心を抉られた。
あくまで目的用途の為に作られる魔術師の子孫のような扱いに、
あくまで人類のために愛する神に使い捨てられた栄光の天使のような扱いに、
かつて夢の中で僅かに見た女神が大地母神の娘が冥府の神に娶られた時に自分にはその感情は理解できないのだと感じていた女神が、
コピーは所詮コピーでしかない。とコピーであるが故に娘だとしても使い捨ての道具だと言い張っている様に見えて何故かオルガマリーには哀しく感じられた。
子供は無条件で愛されるべきである。
そんな不文律さえも合理主義者の前ではその事に理由が求められた。
そんなしんみりした空気の中、ダビデがいきなり喜色だった。
「僕の美女センサーが強く反応している。」
一体お前は本当に人類なのか、そんな目でマシュはダビデを見る。
マシュの中にいる英霊もまた、世の中にはどうしようもない下半身に何よりも忠実な男性がいるのだと嘆いていた。
今だけはソロモンが道を外れた理由に同情してもいいとは思ったが、
よくよく思い返してみると、ソロモンも結構な女好きだった。
マシュと盾の英霊のソロモンへの好感度は再び急下落した。
ダビデの美女センサー――彼の持つ投石器に彼の魔力を流した物、はますますその反応を強めていった。
「おっ、これは二人? しかもどちらも特上だ。
ふむふむ、片方はささやかで片方は豊満だと見た。どちらも素晴らしい。
豊満の方に僅かに男の影が…?
まあこの寝取りキングにとってはそんなのは関係ないね。」
マシュを初めとした同行者からはますます拒絶反応を強められていくダビデ王は今日もフリーダムだった。
因みに女神は先程から何時もの微笑が無くなって無表情だ。
そしてフリーダムダビデの言う通り、噂の美女+男(?)は現れた。
「あら、はろー。お久しぶりね『翼ちゃん』おげんきだったかしら~?」
「――――貴様は。」
女神に至極にこやかに話しかける、人形のような何かを抱きしめた月の光を集めたような銀色の髪を持つ美女。
そして、この特異点では初めての遭遇であるはずなのだが、
ぐったりとした様子で持っていた重たそうな荷物を地面に落として女神を憎悪の視線で射殺すように睨む麗しき狩人アタランテであった。
「…アルテミス。」
女神の方も銀髪の美女アルテミスには今までの相対者の誰にも見せなかったような反応。
微笑も影を隠して事務的な無表情で対応していた。
「ねえ、翼ちゃん、そう言えば宿題は出来たかしら?」
「……さあ。」
酷くそっけない女神の対応に、アルテミスと呼ばれた美女は、
相変わらずツンデレさんなんだから―。と笑っている。
「それにしても貴女がアレスに求婚されて以来ねー。元気だった?」
「あのシスコンは、自分に厳しい女神に姉を重ねて執着するマゾヒストな変態です。
ローマ建立に手を貸したからと勝手に夫婦の様な物だと押し寄せてくるのは勘弁願いたいものです。」
結婚式で再会した幼馴染の様なテンションで話すアルテミスに、
特に知りたくも無かったギリシャ・ローマ神話の裏側についていけなくなる気がしたオルガマリーだが、
横を見るとマシュも同じような顔をしていた。
「ねー、それよりも見て見て。今回一緒にダーリンと来てるの。
この姿、可愛くない?」
そういって、胸元に抱いたクマのぬいぐるみを見せつけるアルテミス。
「おっす、俺オリオン。よろしく。」
色々と残念なペアに追従するアタランテが、当初死んだような目をして登場したのがカルデア人間女性勢には良く理解できた。
「ねー、翼ちゃんは良い人いないの?」
「…それは今必要のない話です。貴女はいつも色恋の話ばかりですね。
それよりもあの時のツケを今返しても良いのですよ。競争の女神としては借りは返さなくてはいけません。
こちらの手持ちは二つ。
ダブルバトルで良いでしょう? プレイヤーの補助は直接攻撃は禁止と言うルールで宜しいですね。
私の所からはオルガマリー・アニムスフィアとマシュ・キリエライトを出しましょう。」
「こっちはダーリンとアタランテちゃんってこと?
…それって反則じゃなーい? 4対2でしょう?
だって、そこの女の子は悪魔が憑いてるし、そっちの女の子は中に誰か入ってるじゃなーい。
イカサマは駄目よ?」
ふざけたような物言いでもそこは旧き女神の一柱。発言程、間抜けな存在ではない。
遭遇して現物に出会ってから今まで遂に見る事も無かった月の女神の神たる所以に、
その闘志を煽り立てられたのか、狩人は女神に申し出た。
「我が女神よ、失礼ながら私にあの邪神との一騎打ちを願い出たい。」
その提案に、アルテミスは少しだけワザとらしく迷うようなそぶりを見せて、そして頷いた。
「止めないのか?」
月の女神の恋人たる英雄オリオンは問う。そして月の女神は答えた。
「止めるわけないでしょう?
…勿論、結末は判っているわ。神に人が敵う筈も無い。此処でアタランテちゃんは死ぬ。
そして人間として在り続けた事は『 』に記録される。信徒の邪魔はしたくないわ。
彼女が望むなら恐怖から逃れ得る狂いを与えても良いのだけれど、それはたぶん彼女が望まないでしょう?
それにそうしたとしてもしなかったとしても、どのみち私に勝ったと喜ぶ翼ちゃんが見られることになるわ。
でも―――――――――何よりも、折角アタランテちゃんが人間らしく感情的に神に挑む可愛らしいところと、
誰よりも完全な神である故に人間としては不完全の極みである『翼』ちゃんの可哀らしいところが見られるの。
アタランテちゃんは受け入れられない女神と戦えて満足。『翼』ちゃんは障害を排除できて満足。
わたしはふたりのかわいらしいところがみれてまんぞく。ねぇ、止めてはいけないでしょう。
…ダーリンも邪魔しちゃダメよ?」
ああ、そうだった。時折忘れそうになるが、コイツも『神サマ』だったか。
オリオンは今更ながら、恋人は女神様であった事を思い出す。忘れないようにしているつもりでも、少々認識が甘かったようだ。
「あー、もしかして『座』に還ったアタランテちゃんを慰めて手籠めにしようとか考えてたりしないわよねー。」
「ギクッ!?」
「ダーリン?」
(ソレとこの状況が同格なのか…。まあいいさ。取り敢えず面倒だけど
恋人への得体の知れない恐怖から逃げる為に、オリオンはふざけた色恋のギャグに逃げる事にした。
だが、彼はまた忘れてはいないだろうか?
その恋人は狩りの女神であること。彼女から逃れ得る得物はいないという事を。
オリオンは頭の片隅で思い出す。
「名前は……貴女に語る必要も無い。 …しつこいですね『導きの翼』とでも『血の牧場主』とでも呼びなさい。」
と言ったらしい女神に『翼ちゃん』と呼ぶようになったと言っていたアルテミスが、
その『導きの翼』への評価として語った内容を。
「あの子は悪辣だけど、悪意がある訳じゃないのよ?
ただ、相手の出した渾身の
兎に角強力な単品
悪意が無いなら尚の事性質が悪い。
それはアルテミスも同じことであるが、恐怖は視野を狭めるからなのか? それとも恋は盲目だからなのか?
オリオンはそれに気が付かない。気が付いていないと認識していた。
かつてローマの皇帝を狂わせた時も、ギリシャ・ローマの神話を駆逐するであろう唯一神宗教を壊滅するために、
管轄内にある人間の皇帝を操作する使命と言うものもアルテミスには存在した。
カリギュラを使ってキリスト教を確立させていく要員の段階で叩き潰すという使命があった。
だが、
ただ単純に自らの信徒が権謀術数に恐怖していく様が可哀想で可愛そうという理由
民衆を虐殺させたのは狂気の月であるアルテミスの神々の一端という所である。
彼女の力は時代が移行して人類が月を目指した時も、
月に足跡を付け旗を突き立てるという『月の処女神』としては許しがたい暴挙に、
神秘の薄れた時代で尚様々な呪いを突き立てたあたり、彼女は残酷で我儘な女神様なのだ。
誤字の報告ありがとうございます。