凍れる女神   作:蕎麦饂飩

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第二十八話 『めいきゅう』

翌朝、オルガマリー一行はこの世界の聖杯特異点化した聖杯を探すために出発する事になった。

体温がひんやりと冷たい女神に抱かれて眠りについたオルガマリーや、

クマ(?)のぬいぐるみとハンモックで寝いていたアルテミスは快調だったが、

一晩中起きて真面目に警戒していたマシュや、凍死寸前になっていたダビデのコンディションは察する必要も無かった。

 

そして次の行先として現在の位置から見て大量の生命反応がありそうな大陸へ移動するために、

海を渡って、数個の島を中継として進む事にした。

 

 

「マスター、以前貴女が展開した翼を顕出させて下さい。」

 

「えっ、いいけど。」

女神が言うとおりにオルガマリーは女神がオルガマリーを人間以上の存在として構成させた際に造り出した翼を発生させた。

 

「以前の様に貴女の身体を操作しますが問題ありません。全て委ねて下さい。」

 

その言葉にオルガマリーが承諾する間もなく彼女の視界は歪んだ。

蜃気楼の様な視界の中にある孤島が見えた。

 

「これが空間圧縮と屈折の応用その1です。見掛け上の距離を視界的には近づける事が出来ます。

では、その更なる応用を今から実行します。身体の感覚を覚えて下さい。」

 

既に凄まじく魔力が消耗されていくのが解かるが、この後更に凄まじい消費が一括して

その視界の先に羽根の様なアンカーの役割を果たす事だけは理解できる何かが存在したのが理解できた。

 

「空間圧縮擬法による射出段階は準備が完了しました。続いて追加用の搬送段階です。」

 

その羽根が空間の先に現れた時点でその羽根と自分の翼が繋がっていることと、

翼がこの空間に固着されている事が理解できたが、

その時点で凄まじい魔力が一気にオルガマリーから消費された。

 

その消費よりかは遥かに控えめだが、翼が延長され周囲の人物に触れる事で更に魔力が消費された。

 

「後は固着を解放するだけです。」

 

その女神の言葉と同時に、

一瞬だけ向こう側に見える島が小さくなったように見えた一行は直後弾き飛ぶように刹那の速度でその島に辿り着いた。

 

 

 

大量の魔力を短時間で勝手に消費されてキツそうなオルガマリー。

ちょっとした大魔術(・・・・・・・・・)に唖然とするその他の人間勢。

オルガマリーの翼に触れる時から警戒モードになって未だに興奮から醒めていないフォウ。

そして「便利よね~」といっている神様勢。

 

月の女神と選別の女神の会話ではどうやら空間に対する耐性があれば更なる効率的な移動法さえあるらしい。

以前、戦闘用に創った魔獣同士をアルテミスと女神が闘わせたときには、

空間を弾きながら転移しつつ、対象敵の空間ごと爆破するような白竜を、

月の女神の保有する鋼の様な皮膚を持つ魔猪とぶつけた昔話をアルテミスが懐かしそうに女神に語っていた。

その後、まさかの『落とし穴(意訳:穴では無い)』で白竜が葬られるという話になったところで、

島に着いてから無言だった女神が話を打ち切る様に話し始めた。

 

「この辺りにあの酒臭いセクハラに関係のある縁者の気配がします。」

 

「…う~ん、ギリシャ神話的にセクハラ程度では終わらない男神(オトコ)なんてウロウロしてるから、

『翼』ちゃんが誰のこと言ってるか私わかんないかも。

特に、『翼』ちゃん相手には見た目だけなら好みで一発したいって男神(オトコ)多かったしぃ。」

 

 

「…そうでした。そういえば、ギリシャ基準ではそこのクズ人間の王なんて霞む、

力と実績だけは持つ男神なんて少なくは無かったですね。」

 

若干だけ、微笑が崩れる女神に、オルガマリーは思った。

周りには優秀な者は子孫を遺せとか、優秀であれば何をしても許されると言ってる割りには、

自分がそうされるのは普通に嫌なんだ、と。

 

ただ、女神が何処かの誰かに汚されてないという事はオルガマリーは少し嬉しかった。

 

 

「因みに候補は見当ついてるけど、誰なの?」

 

「…ポセイドンです。あの兄弟の2柱は極めて面倒です。

女性の方はまともなのにどうして…ああ、あの時代は男性原理の復刻が象徴だったからでしょうか。」

 

因みにゼウスとポセイドンに関する女神の評価は仕事面では悪くないが関係面では最悪である。

何かの折に「お前性格最悪だけど見た目良いからヤろうぜ(婉曲表現)」と迫ってくる男なんて処女神からしたら最悪で当たり前である。

その事にはその2柱以外の兄妹もそれを認めている。

 

まともな性格をしているヘスティアやデメテルからは女神の性質・性格故に逆に避けられているが、

女神は別に邪魔にならない分には気にしない。

彼女は自分が嫌う好むは大事にするが、他者からの好嫌は意に介さないのだ。

 

デメテルからは女神は悪辣な手法を多用する故に娘に悪い影響を与えたくない。

ヘスティアからは、悪い神なんだけど嫌いではないかな。だけどキビキビし過ぎていて関わるのはちょっと…と思われていた。

 

ヘラからはあからさまにゼウスの誘いを断り続けながらその仕事ぶりについては否定しない点において女神の印象は悪くない。

浮気相手の対象にならず、けれど夫のスペックまでにはケチを付けない辺りヘラの求める基準は満たされていた。

だが、ヘラは女神への接し方が解からなかった故に交友は無かった。

実は女神は自分に向けられるのでさえなければ、

最高神の因子がばら蒔かれることは女性と世界への恩恵だと思っている事が知られていないのは僥倖であった。

何せ、インドでクンティーが様々な神の子を産む機械と向けられる運命に嬉々として善意で加担して加速させた辺り、

女神の性格はお察しするまでも無い。

 

根暗(意味深)担当のハデスからは見た目こそ女神は好みであったが、自分だとフられることは理解していたし、

結局愛する幼な妻が出来たので目を向ける事は妻との出会い後は無かった。

 

至高の6柱からそういう扱いを受けた女神だったが、

女神から彼らには妨害にならなければその存在が総合的には人類に有益な集団という文面で終わってしまう内容だった。

 

だが、ポセイドンに関しては本人だけでなく子孫まで欲望に忠実すぎる野性染みた性質があった故に、

合理性を愛する都会派の女神からの関係的な印象は良くない。

ポセイドン関連というだけで性格がクズな気がしてしまう程だ。勿論自分の事は棚上げである。

 

まあ女神がどうであれ、ポセイドンの好色さを解かりやすく伝えるならこの言葉だけで十分だ。

――オリオンだってポセイドンの系譜である。

 

(ああ、このオリオンの様な性質なのでしょうか、この島にいる者は。

まあ、邪魔にならなければ別に構いませんが。

ですが、邪魔になるのなら凍封してしまいましょうか。)

 

女神はそう考えながら並列的に別の事も思考する。

それは、ポセイドンに関わりのある何かしらの大物を無視して次の島へと移動すべきか、

それともそれ程の存在であれば一度遭遇しておくべきかを。

 

女神がそう思考していると、月の女神が、

 

「ねえみんな~、向こうにダンジョンがあるわよ~?」

 

何やらテンションを上げて周囲に呼びかけていた。

 

女神は内心で思う。迷宮なんてどうせどうしようもなくなった廃棄物を閉じ込める為に造られる様な物。

その中に態々飛び込む無為さも危険さも理解している筈のアルテミスがなぜそのような事を言うのだろうか、と。

アルテミスはアレで頭は悪くない上に信徒は狂わせるが自身はある意味標準的に狂いながらも高い理知を見せる。

故に何故か?

 

その思考は月の女神の視線と表情で理解できた。

その視線の先にいるオルガマリーは、

 

「えっ、ダンジョンってあのダンジョン?」

 

ダンジョンに他の何があるのだろうか?

まかり間違っても街コンの会場やダン・ジョーンなる何かしらのチェーン店ではなく、迷宮以外にはあり得ない。

 

オルガマリーの右からはダビデが、お化け・骨・怪物と脅かす為に囁いてしてビクビクするオルガマリーをニヤニヤして眺め、

左からはマシュが、宝物・冒険・不思議と呟いて、それが耳に入ったオルガマリーは中に行きたい誘惑にかられては目を輝かせる。

 

女神はそのオルガマリーの様子を見て理解できた。アルテミスは迷宮に挑むオルガマリーの反応を、

厳密にはその反応に反応する女神を観察したくて虎穴に入るのを促していたのだと。

 

 

 

女神は面倒になったのでダンジョンの入り口を一瞬で氷で塞いで、

 

「…どうやら入れなくなってしまいましたので、諦める事にしましょう。」

 

そう無理矢理締める事にした。

 

 

 

 

だが、その直後、

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」

 

か弱そうな少女らしき叫び声が迷宮から響いてきた。

 

 

 

その言葉にオルガマリーは迷宮の入り口に向かって走る。

それは藤丸立香ならきっとそうするから。そして自身がそうしたいと思うから。

彼女は自らの意志だけでは無いものの、想像に浮かべる他者の意志を支えにして行動を立脚した。

 

自身の翼の力を使い、入り口の氷を空間ごと膨張。

そして見掛け上の密度の小さくなった氷に向け、

何時の間にか知識として取得(インストール)していた手法を実行する。

 

『魔法少女のステッキ』の柄で宙に投げたレフ・ライノールのカードを叩き付ける。

同時に13枚に分かれ、1枚を残しそれ以外のカードはステッキに吸収された。

残って浮かぶ1枚のカードにやはり何時の間にか知っている手法に必要な行動として、

自分なりにノリで浮かび付いた言葉(ちから)を思考する。

するとその言葉は『魔法少女のステッキ』から無機質に発せられた。

 

「『(ソード)降臨(アドヴェント)

 

顕れるレフ・ライノールのもがれた様に千切れた両腕が見る間に変質して、

見た目だけは美しい彼女の髪に似た白銀一色の2振りの長剣となった。

その剣は羽根の様に軽く、その剣を掴むだけで自身の体まで身体が軽くなってしまったような気さえする。

心の奥底から昂揚感と幸福感が涌いてくる。それが足元を救う為の悪意の籠った魔の罠である事の自覚があって尚、

もう何も怖いものが無い気さえする感覚があった。

 

その感覚に流される事無く、逃げる事無く、乗る様に気持ちを操作し、

熱くなる心臓とは裏腹に何処かで加熱を食い止められている思考に従い、

舞うように身体を横に回転させた後、その剣を斜めにズレたX(クロス)を描く様に振るった。

 

 

氷の壁は4つの大きな罅が入った後、急速に発生した小さな罅に全体を侵食されて砕け散った。

 

 

「行くわよっ!! 助けに行かなくちゃっ!!」

 

 

そう女神達が続く事を乞うては走り去るオルガマリーに、

何処か柔らかい笑みを浮かべてはその後ろへと地面から少し浮いて軽やかに淑やかに駆けていく女神を見て、

月の女神は何かを無理矢理隠そうとしたような歪な笑みを浮かべながらその後ろを追随した。




迷宮
明窮
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