凍れる女神   作:蕎麦饂飩

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第二十九話 『はいしゃ』

迷宮の中を進む一行、

中は迷宮(ダンジョン)と呼ぶに正しく相応しい造りであった。

それが迷宮(笑)(ラビリンス)だったら只管長くて面倒なだけの一本道だった。

神代には入った時はすぐ奥まで行き着く代わりに、出る時は何処までも長くなる一本道(死の婉曲表現でもある)もあるので、

一本道だから楽勝という事は無いが。

 

 

 

「もうっ、しつこいって言ってるでしょっ!!」

 

 

奥から幼い少女の良く響く甲高い声が聞こえてくる。

入り組んだ迷宮により声の主の場所が解からなかった故に進行速度が低下しつつあったものの、

その進む先を示されたオルガマリーの足は再び加速した。

 

そこには、血を流しながら倒れている複数の質の良くない衣服を着た男達と紫の髪の美しい幼女。

そして巨体を持つ怪物だった。

 

女神と月の女神は紫髪の美少女の正体を一目で看過した。

 

≪アレは引きこもり姉妹の長女でしょうか?≫

 

≪う~ん、次女の方じゃない?≫

 

 

≪…どちらでも似たようなものですから問題はありません。≫

 

≪『翼』ちゃんって結構失礼よね☆≫

 

結構どころかかなり失礼な事をテレパシー染みた交信術で会話する月と上書きの女神達。

 

そうしている間にも怪物―――――――――――――――――『ミノタウロス』がオルガマリーに殴りかかっていた。

 

「UUAAAAAAAAAGAAAAAAA!!!!!!!!!」

 

 

「ッ!?」

「『(ガード)降臨(アドヴェント)

 

咄嗟に反応したオルガマリーがカードを一枚ステッキの先でひっかく様に押し付け、

無機質だが力ある言葉がステッキから紡がれると、双剣は消えて代わりに彼女の目の前にレフ・ライノールそのものが現れた。

 

そしてオルガマリーの代わりに怪物に殴られて鼻血を出しながら吹っ飛んで消えた。

 

マシュはこれは良いモノだと見ていて思った。

使う度に、相手はスッキリしてこちらもスッキリする良い魔術だと。

見れば、フォウ君もご満悦の様子だった。

 

 

 

一瞬、アホみたいな展開で場の空気が止まったが、戦闘は終わらない。

マシュやダビデたちも武器を構えて戦闘に加わろうとしたが、

 

それを女神が拒絶するように右腕を伸ばし、制した。

 

「何故ッ!? 所長は貴女のマスターでしょう。

所長にだけは人間らしいところもあるのではと思っていましたが、私の勘違いだったようですね。」

 

「…それが君の子育て論かい? まるで獅子の様だね。」

 

止められた二人はそれぞれの想いを口にした。

 

 

「この好機を邪魔しないで頂きたいものです。

折角彼女が進化(せいちょう)できる機会があるというのに。

おあつらえ向きの化け物(・・・)までいるなんてそうそうありません。

この経験値を見逃す手は無いのです。」

 

それは何処までも『化け物』の事情を無視した冷たい物言いだった。

 

 

「あ、あなた、見た事あるわ。選別とか闘争とか進化とか言っていた女神よね。

今すぐ、止めなさい。戦う必要はないわ。」

 

紫髪の美少女、女神エウリュアレはそう言おうとしたが――――――――――――、

 

 

 

「ううう、ボクはちがuuUUUUU…aaAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

『化け物』のキーワードに怒声を上げたミノタウロスによって丁度掻き消されてしまった。

 

位置の関係で、人間達には丁度掻き消されて聞こえていなかったが、

神々にはその声は届いていた。

けれども『目的』の為に怪物の犠牲は仕方ないとする女神と、

ニヤニヤと愉快で可愛らしい生真面目な女神の様子を眺める事の方が、弱小の女神と怪物よりも優先される月の女神にとっては、

その言葉は無かったも当然だった。

 

即ち、激闘は再開される。

 

「怪aa…bつ…ざけe…なaaああAAAA!!!!」

 

「『(シュート)降臨(アドヴェント)

 

真正面から突っ込んでくる怪物(怪物とされた男)に対し、

オルガマリーは研ぎ澄まされた神経の中で3枚のカードを選択。

 

その内の1枚のカードにより、ボロボロになったレフ・ライノールの右足が顕れ、

そして百合と蔦の意匠が全面に施された白銀の長砲が顕現した。

 

「ぶっ飛びなさいっ!!」

 

オルガマリーの叫びと共に正面からその砲撃を受け、

吹き飛ぶ怪物にオルガマリーは2枚目のカードを『魔法少女のステッキ』で起動する。

 

「『拘束(ホールド)降臨(アドヴェント)

 

1枚目のカードで呼び出された長砲は消え、オルガマリーの頭部の左後ろに顕れたのはレフ・ライノールの鼻血塗れの生首。

それはオルガマリーがそれを目視する前に白銀のボールに変わり、

オルガマリーはボールを掴むと吹き飛ぶ怪物に向かって投げた。

 

 

ボールは投げられた速度を倍加しながら加速すると怪物の背後に抜け、

そして巨大な銀の蜘蛛の巣へと変わった。

 

 

怪物は絡め取られ動けなくなった。

 

 

その時、オルガマリーは紫の少女が何か叫んでいたような気がしたが、興奮の為上手く聞き取れなかった。

 

「『最終(ファイナル)降臨(アドヴェント)

 

 

3枚目、その使い方をオルガマリーは知っていた。

蜘蛛の巣に掛かった哀れな得物に、止めを刺すべく呼び寄せられたのは先程と同じくレフ・ライノールの全身。(但し、頭部は除く)

それは瞬く間に太陽の様なブラックホールの様な、カルデアスの内部に繋がる空間のような、否、それそのものに変わる。

それを自身に触れさせる事無く、ステッキを持ちかえた右手に浮かせて乗せて跳躍した。

 

女神に造られた事で身体能力に優れた身体を持つオルガマリーの跳躍に加えて、背中の翼が呼応する事で、迷宮の天井ギリギリのところまで跳び上がると、

カルデアス内部に繋がる空間を右手を下方に向けることで右足の周囲一体に纏う様に移し、

怪物に向けて急降下し――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「やめてぇぇぇぇっっ!!!!!」

 

 

怪物の前で手を広げて躍り出た少女に触れそうになり攻撃を逸らし、壁に激突した。

技に触れた壁は完全に消え失せてその威力を物語っていた。

 

 

怪物に襲われているはずの少女が何故?

所謂ストックホルム症候群かそれとも何やら都合があるのか状況が上手く呑み込めないオルガマリー。

 

 

勿論、エウリュアレもオルガマリーが勘違いしていることは想像がついている。

視界の端で何処か惜しそうな微笑を浮かべる女神と、その様子を見てニヤニヤしている女神達とは違うと。

寧ろ、女神が連れてきた人間達が全員一緒だったらエウリュアレは泣いても良い。

きっと、ダビデがその泣き顔にゾクゾクする位の効果しかないだろうが。

 

 

 

そんな、エウリュアレに女神は諭すように言う。

 

「弱き女神よ、怪物と言うのは英雄の義務であり権利です。

即ち、闘争において選別が行われ英雄へと進化する。

正しく怪物は英雄を作る為だけに生まれ出でて死にゆく存在。

神々の用意した英雄の生贄。故に醜く悍ましく退治する事に心が痛まない姿。

美しく神に愛された英雄の供物としての本分を邪魔する事が怪物に失礼です。

家畜はちゃんと食べてあげれば殺す意義が出るでしょう。

邪魔をしないで頂けますか?」

 

 

それは怪物を牛や豚と同列に言っている様だった。

食べられるのは宿命。故に残さず食べて栄養にしましょう――と。

いや、まさにその通りの事を言っていた。

 

エウリュアレだって神々の一柱。

その感覚を理解しない訳では無かった。厳密には理解していなかった訳では無かった。

それも妹が強者の都合で『怪物』と貶められるまでの話だった。

 

愛しき『怪物』…否、一柱の妹を持つ身であれば、それを認めるなんてことは出来る筈は無い。

 

 

「違うっ!! そんなのは認めない。

強者の都合で勝手に怪物扱いして正当を気取って退治するなんて、

彼を、妹を、そんな都合で貶めるなんて、

私は赦さないっ!!」

 

 

 

「許さない事は結構です。

ですがその不許可の権利は自身の命令権にある者にしか作用されないという事はご存知ですか、弱き女神よ。

私にはそれに従う必要はないのです。」

 

「……いいわ。確かにそのとおりね、強き女神よ。

私も一緒に殺しなさい。妹の堕天を眺める事しか出来なかった敗者として。

私は、もう二度と、『怪物』として見捨てて生き延びるつもりはない。

貴女達はいつもそう。世界を変える強い英雄を作る為に弱き者を共通の嫌われ者(怪物)として当然の様に正義の元に退治する。

貴女達の愛は英雄と言う人間(・・・・・・・)で無く、

英雄が成し遂げられる事(・・・・・・・・・・・)にしか向いていない。

ましてや敗北を義務付けられたものになんて向くハズも無い。

それが強き神の在り方であるというのなら、私は弱き人として貴方達の言う怪物と共に心中するわ。

―――さあ、やりなさいよ。」

 

 

 

その言葉を前にして止めを刺せる程、オルガマリーもマシュも性格は悪くなかった。

女神は残念そうに笑うが、オルガマリーの経験値にならない以上既に自身も幾多の怪物を屠って来た身である故に、

必要でなければ動く気はない。

とはいえ、怪物は良い素材になるという理由は充分に必要に値した。

 

「弱いとはいえ、神を殺すのは気が引けます。特に貴女のような戦闘以外であれば利用価値の高そうな女神であれば尚更。」

 

女神は黒一色の巨大な剣を造り出した。

 

 

それを怪物の前で意地で崩れた笑顔で笑うエウリュアレに向けた。

 

それが何かの合図だった。

 

 

 

「きみはしんじゃだめだっ!!」

 

『怪物』―――――――アステリオスは未だ残っていた蜘蛛の糸の拘束を破壊し、エウリュアレを強引に掴んで後ろに放り投げると、

 

祖父に連なる『雷光』を呼び出し手に掴むと女神に叩き付けた。

 

 

 

 

それに対し、女神が行ったのは剣を突き立てて壁としただけだった。

酸素の極限冷却体である黒き剣はアステリオスの持つ雷光全てを奪い尽くす超伝導体である故に。

 

雷光は造られし金属光沢の前に力を失い地に流れた。

更にアステリオスの内部にあるエネルギーさえも強制的に滲み出る雷光と化し、

いや化され奪われ続けた。

 

女神は遂に倒れ伏した怪物を前に剣を引き抜くと、宙に浮かべて、柄がオルガマリーの方を向く様に回し、

オルガマリーの目の前へと移動させた。

 

「『怪物殺し』で英雄になりましょう。…さあ、マスターお手をどうぞ。」

 

 

怪物の後ろから弱き女神がその背に近づき、

 

「良くもこの私を投げてくれたわね。冥府に行ったらこき使ってやるんだから。」

 

そう言っている他、全ての音がオルガマリーから奪われたような気がした。

自身の呼吸音すら把握できない。そんな感覚だった。

 

 

オルガマリーはその剣を掴み、

 

そして地面に突き刺した。

 

 

「心配しなくても大丈夫よ。

この世界を救うという大偉業を達成する事で私はそこらの英雄を超える大英雄になるんだから。」

 

 

その言葉に女神は理解が追い付かず、

盾の少女は逸らしていた視線を戻し、

小動物は溜息を吐き、

浮気男は感心したように口笛を吹き、

怪物とされた男と弱き少女はその命が助かった事を理解した。

 

 

 

そんな中、月の女神は一柱(ひとり)笑い続けていた。

 

「あーもー、『翼』ちゃん面白すぎー。

「不許可の権利は自身の命令権にある者にしか作用されないという事はご存知ですか(フフッ)」って言っておいて、

自分がマスターちゃんに命令される側だって忘れてるしぃ☆」

 

 

「そうなの、そっちの娘が主人(マスター)

なのに、そう言ってたの? ふふふ…あははははっ。」

 

エウリュアレも命知らずにそれに同調した。

 

 

 

その様を見て正直オルガマリーは女神を怒らせてないか不安になったが、

そんな事を気にしないで言い合える神同士の関係がそれ以上に羨ましいと感じていた。

 

 

そんな彼女は寧ろもう少しで英雄の資格を失う所だった。

英雄というのは、なろうと思った瞬間に失格なのだから。




戦わなければ生き残れない系仮面ライダーとカードをキャプチャーする女の子とメタトロンの意思(一部修正)がオルガマリー改の武装の元ネタ(そんなに詰め込んで恥ずかしくないんですか?)。


敗者
廃者
拝謝
背斜


修正何時もありがとうございます。
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