オルガマリー達は帰還を果たした。
一人犠牲となった藤丸立香を残して。
少々サイズが大きい男性用の衣服を身に着けたオルガマリー・アニムスフィア。
その衣服は問うまでも無く彼女の為に犠牲になった故人のものである。
その横で大量のカルデアの電力を食らい続けながらうっすらとながら徐々に実体化していく女神。
それはマシュ・キリエライトの神経を逆なでするには十分だった。
不遜にも女神に向かって盾を叩きつけようとするマシュ。
「そこまでだ。」
「その女神を滅したところで立香君は還ってこない。」
カルデアのメンバーであるアラサーのいい年してゆるふわ系イケメンを気取るロマニ・アーキマンと、
絶世の美女風変態男のヴィンチ村のレオナルドさん(♀)がマシュを羽交い絞めにして制止した。
「先輩をっ!! 先輩をっ!!」
そう感情的になったマシュに涼しい微笑を崩さないまま、女神は自覚無く言葉のハイオクを水槽単位でぶちまけた。
「復讐は生産的ではないわ。そのエネルギーは私の栄光を築く為に使ってください。それに――――」
マシュの憤怒は怒髪天を突いた。この邪知暴虐を赦してなどおける者か、と。
マシュの力が一段と強まった事と、この状況においてあまりにも冷徹な事を言う女神に唖然としてしまったために、
制止をしていた二人はその力を緩めてしまった。
だが、
「ああ、可哀想なマスター。誰も彼もが貴方が死んで、彼が生き延びれば良かったというのですよ。
ああ、なんて可哀想なマスター。…大丈夫ですよ。私だけは貴方を救済して差し上げられる。
私だけは貴方を愛してあげられるのですよ。
それに彼だって私にもマスターにも恨み言を言わなかったでしょう?
私の考えに賛同したのですよ。
より優秀な者を繋ぎとして、神を味方につけるという偉業を彼も成し遂げる事が出来て満足しているはずですよ。」
「わたし…たすけ……あいして…?」
部下を犠牲にして生き延びる事になり、自責の念に押し潰されそうになっているツンデレ類ガラスハート目所長系生物、
オルガマリー・アニムスフィアは責任感が強く、自分勝手な事を一見言いながらも他者への思いやりを忘れない優しい少女だったが、
拠り所を自分の中にさえ持たず、故に打ち崩れた少女には、自分に浸透する甘い庇護の声に逆らう事は出来なかった。
何の脅威も無いように笑う女神に抱きしめられるオルガマリーは、
マシュからすれば丁度人質の様になっていた。
マシュにとっては最早オルガマリーに対しても若干の憎悪が無いと言えば嘘になる。
この女のせいで先輩が…。
そんな思いが無いと言えば嘘になる。
だが、女神とは違い人を逸脱した力で攻撃を加える対象にはできなかった。
彼女もまた優しい少女であったからだ。
だが、それ故にオルガマリーへの憎悪の種が、日の光を浴びる時まで残る事になる。
基本的にファーストコンタクトを以って、トップを除くカルデアメンバーの好感度を著しく下げた女神であったが、
彼女はそのような事を気にする性質ではない。
彼女にとっては自身が愛する事こそ大切で、自身が愛されることなどは大切ではない。
彼女は100の事を与えられるから彼女からの恩寵には価値があるが、
他者の1しかない恩寵を受け取ったところで10000もある彼女には何の影響もないからだ。
故に、彼女は憎悪すら気にしないのである。
傍目には容姿こそヒトと神の隔絶した差があるが、
優しい姉と、甘えたがりの妹にすら見える美しい抱擁。
割とアレな所があるアラサーと美女風男性(♀)は、
ああ、この風景自体は存外に悪くない。美しさ自体には罪は無い。
時折女神が敢えて少女の耳元に息を吹きかけて、その度に少女が顔を真っ赤にしているが、それもまた良いモノだ。
とゲスな発想をしていた。
流石に生前モテまくった人達は違う。童貞で死んだ、歪んで捻くれて拗れた作家の様な男とはまた違う意味でゲスい。
だが、流石にそろそろ用件を伝えなければならない。
「あー、そのままで良いから聞いてくれるかな。」
「必要な情報はマスターから抜き取っているから、それ以外だけでいいですよ。」
「何だかつれないな。まあいいや。今回レフのお蔭で大半のマスターが行動不能になった事は解かっていると思うけれど、
その任務を現在唯一正式なマスターである所長とそのサーヴァントさんにやって貰う事になるんだ。」
「…だそうですよ。マスターはそれで良いですか?」
「ええ。」
「良かった。」
この女神の良かったの後には『良かった。この後脳をいじくるはめにならなくて。』と続くのだが、
繊細なマスターの手前それは口にしなかった。
「その任務とは、複数の世界において歪んだ歴史を―――――」
「『修善』する事でしょう?」
「あ、ああ。『修繕』する事だよ。」
女神の深まる笑みに何か途轍もない契約の捕らえ違いが行われていないか?
先程の藤丸立香の様に
一応は悪魔との契約には造詣が深いと自負があるロマニ・アーキマンは、背筋が凍るような何かを感じていた。
その視線が見咎められたのだろうか?
女神は自分の胸に抱きしめた美少女から、アラサー系男子の方へ視線を向けて離さない。
「…ねぇ、あなた、何処かで有名になった事は無いかしら?」
「……う~ん、良くレオナルド・○○プリオや木村■也に似てるとは言われるけどね。
そういう貴女は―――――」
一気に心拍数が上がった自分を上手く制御してこの場だけでは完全に取り繕ったロマニは、
逆に女神に話をずらしてその追求を封じた。
「そうですね、互いにその追求は止めておきましょうか。」
「それが良いと思うよ。」
話を打ち切った女神に追随したロマニ。その二人をダ・ヴィンチだけは訝しげに見ていた。
「必要な事があれば脳を覗かせてもらいます。それが嫌なら言葉で伝えるようにしなさい。
私は霊子の収束が未だ不完全なので暫く休みます。」
そういうと、女神は少女を抱えて少女の寝室へと向かっていった。
道中で遭遇した威嚇する大きめのリスを脚で追い払いながら。
食材
贖罪