ある海域、多くの船の残骸が行き着くところ――――――通称船の墓場と呼ばれるそこに男はいた。
普段の気持ち悪いほどの悪ふざけも鳴りを潜め、部下たちの前に立ち、帽子をとり海賊の礼をとっていた。
彼の前に鎮座されているのは幾つもの宝物。そして本来そこには不釣り合いな子供のものと思われる衣服や玩具。
――――此処に追悼する海賊たちの子供たちの遺品があった。
男――エドワード・ティーチは本来この時代に存在する海賊では無い。
所謂未来から来た海賊の英霊、海賊風にいうなれば魔術的側面とは意味が異なるが亡霊の様なものであり、
この時代における子孫など居る筈も無い。
しかし、例え時代に根付く事の無い魂であろうとそこに在るだけで縁と因果を結ぶことがある。
遺品のひとつ、小さな海賊帽の持ち主は彼にとって正しくそれだった。
港町の娼婦の子供であり、少女ながらも少年の如き活発さを誇る、いや誇った少女アンは真昼に突如港町を襲った、
神の裁きが如く通り過ぎた何かによってその存在の炎を消火された。
エドワードは当初子供に興味は無かった。最近になって圧倒的カリスマを以って荒くれ者たちを纏め上げ、
知名度を上げて、
すり寄ってきた子持ちの娼婦がいた。
エドワードはやる事だけ済ました後は不用意に子供をダシに依られても面倒なので、
その娼婦の子供に向けて、海賊の恐ろしさと自身の気持ち悪さを存分に知らしめたつもりだった。
そう、本人はそのつもりだったが、何を血迷ったか少女はあなたに憧れた。自分も海賊になる、と。
どうせすぐに現実を見て音を上げるだろうと、駄目だと思ったら鮫のエサだと脅しまでかけて少女を乗船させることにした。
船の上では素なのかネタなのか気持ち悪いロリコンで通していたが、少女はそれでもエドワードに付いてきた。
少女はエドワードの海賊帽を真似て自分に合うサイズの海賊帽を作って被り、
常に彼のそばにいる様になった。そこまでは少女を彼も彼の部下も認める様になっていた。
そのころから暫くして、少女の母親が客の男と暴力沙汰になり死んだ。
その葬儀に顔だけ出しに来たエドワードは少女に此処で船から降りて真っ当に生きろと言ったが、
あろうことか少女は彼の妻になりたいとまで言い出した。
正直エドワードは困った。彼の部下も一同に驚いた。
完全にその反応は想定していなかった。
彼の部下達も確かに船長としては優秀だが男性としては余りにもアレな黒髭の船長に幼な妻とか、
驚きと嫉妬とほんの少しの祝福を感じながら船長と一緒に少女にどうか道を踏み外さずまともに生きるように説得した。
そして、彼女から逃げる様にエドワードは港から出発した。
そして部下達にからかわれながらも、やっぱり怖気づいて少女に考える時間を設けるように説得しに行こうと港町に帰った日、
町には活気と言うか人の気配がまるでなかった。
道に人は倒れ、家の中も外も関係なく住まう人々は揃って息をしていなかった。
勿論そこには彼等、彼女らの家族や恋人、親友もいた。
海賊たちは呪った。どこの誰だろうがケジメをつけさせてやる。
必ずつけさせてやる。例え海の悪魔だろうが、一国の王だろうが、それこそ神であろうが関係ない。
必ず、必ず奪われたものは奪い返す、と。
だが、その前に弔いが必要だった。
黒ひげ達は無茶なほどの遠出をして、海賊船団はある商船を襲った。
その船の持ち主である商人を殺し、船員を奴隷とし、商人の妻と娘達に凌辱の限りを日夜問わず尽くし続けた。
そして正気を失った女達を血祭りに上げて捧げものとして、
海賊たちは自分達の家族の冥福を祈った。
彼らにとって身内と獲物の命は等価値では無い。
理不尽なようだが、彼らの流儀では喪に服すに相応しい行動だった。
エドワードの側近として同行しているヘクトールとアン・ボニー、メアリー・リードは彼を残し部下達を共に下がらせた。
このままでは黒ひげらしくない行動を彼が取れないだろうと配慮して。
特にアン・ボニーは少女アンと名前が同じこともあり、入れ込みようは強かった。
黒ひげの次に少女の死を悲しんでいたのは彼女だった。
少女アンが彼ら3人と自分を合わせて黒ひげ配下四天王を名乗ろうとした時、
それに最初に賛同したのは彼女だった。
スパイとして入り込んだヘクトールには絆を深めすぎるには疾しい事情があって、黒髭は単なる照れ隠しで反対したが、
アン・ボニーが賛同した事で、彼女に賛同したメアリー・リードも少女に賛同し、
男2人対女3人で話し合いが終始女性優位で進められ、なし崩し的に決まってしまった。
色んなことがあった。とても短い間だったが、期間など最早どうでもいいものだった。
少ない期間であれ、彼らは『家族』だった。
普段の彼とは似ても似つかぬ哀悼を奉げている中、後ろに誰かの気配がした。
「誰だ…、邪魔をするな。」
黒髭は振り向くことなく言った。
「おうおう、あの黒ひげが随分とらしくないねぇ。」
「…あんたか。俺らしいって何なんだろうな。」
後ろに現れたのは黒ひげがかつて憧れ、そして今も憧れて追いつき追い越そうとする目標、
フランシス・ドレイクだった。
「
…事情はアンタの部下に聞いたよ。全くガラじゃないが、こっちにも聖杯がある。
その聖杯と合わせれば一人の少女の復活くらい―――――」
「てめぇ、幾らアンタでも言って良い事と悪い事が――――」
「――――冗談さ、流石に死者を冒涜するような真似はしないさ。」
正直な所、黒ひげの頭にその発想が一度もよぎらなかったわけでは無かった。
それを考えたうえで悩み、それでも答えを出した。
だからこそ許せないと思った。それが憧れの先にある目標そのものだったとしても。
自身が蘇った死者の分際でいう事では無いのかも知れないが、
自分で手に入れた力で無い他者からの膨大な力による復活は、
少女の命を奪った理不尽の方向性を変えただけのようにも思われたし、
少女が実際に海賊として手を血で汚す前に憧れだけを手に掴み亡くなった事への安堵もあった。
きっとその事情は知らずとも、海に生きる者としての筋を棄てる事無く、
自分への厳しい叱責をしに先達でありライバルであるもう一人の大海賊に敬意と感謝を感じながら、
彼は『大海賊黒ひげ船長』へと舞い戻った。
「…なんと、下品な胸に栄養が詰まったBBAにもそんな気遣いができるとは拙者驚きですぞwww。」
「はーっ、いきなりそれかい。何とも失礼な奴だね。」
ふざけた黒ひげの仮面をかぶり直したエドワードと、
ふざけたフリにはあきれたフリで返すドレイク。
黒ひげにはドレイクが去っていく足音が聞こえた。
「…感謝する、ドレイク船長。
何れ雌雄を決する時が来るだろうが、今日の所は拙者の負けという事で引いてもらいたい。」
「勝った方が引くというのも変な話だが仕方ないね。今日の所は見逃してやるよ。
こっちも怪異につけられた傷も癒えて無いしねぇ。
まあ、互いの傷が癒えたら、どちらの船をこの墓場に奉げる事になるか決めようじゃないか。
まっ、結果はみえてるけどねぇ。」
大海賊は一度も振り向く事の無かったもう一人の大海賊に捨て台詞を置いて、
また自由な風の様に去って行った。
だからきっと気が付かなかったのだろう。気付かなかったという事なのだろう。
波も静かで、日差しも強く、
海水が甲板を浸す要素など無いにもかかわらず、
男の足元が塩水で濡れていたことには。
敵対者サイドのテコ入れ回
只管真面目な黒ひげでしたがオルタでも反転のギフトを貰った訳でもないです(笑)
怪人
灰塵
海人