ある少女がいた。少女は純粋でそれにして魔術の深みを識る王女だった。
少女の名はメディア。神代の都市コルキスに産まれ落ちた女王である。
彼女は本来の歴史において『都合の良い女』として、
エウリュアレの言葉を借りるなら『英雄の為す事象のみを愛する神々』によって翻弄された小道具。
直接的に彼女を利用したイアソンが只のクズならば、
それを仕向けて綺麗な手をした様に嘯く神々はどれだけの悪なのかは解らない。
ただ彼女は歴史を作る使い捨ての材料として消費されていく定めであった。
神々にとって望む
その点においては他の神々も女神とそう変わりは無い。
そこにはアルテミスもかつてのエウリュアレさえも例外ではない。
アルテミスの兄アポロンなどは自軍基準に基づく必要正義目的の為なら自身の乳母さえ射殺せる程、
人間の感覚で言えば、アルテミスもアポロンも情が無い。
そのアルテミス・アポロンと従姉妹にあたる神がヘカテ―。メディアの魔術の師であった。
アルテミスとは方向が違う物の、共に『夜を司る処女神』であり『豊穣神』の特性を持ち、
親戚である以上、やはりある種似た所がある癖の強い女神であったと修善の女神は記憶していた。
特に真面目になった時には少々似た所がある、と。
ヘカテーは弟子の行く末を、その未来を知っていたがそれでもメディアを助けはしなかった。
そこには彼女の放任主義と神々の制約が存在したからだ。
ヘカテーはその他の神々が制約、即ち
即ちその他の神々との面倒くさい関係を振り切って自分の望む運命を存在する本来の歴史を材料に、
造り替えようとする女神の在り方を何処までも自由な女神だとある種の関心を払っていた。
勿論、様々な意味で面倒な
ヘカテーから女神にちょっかいを出す事は無かった。
面倒な従姉妹を振り払ってまで接触しようとしなかったのはヘカテーが希薄な性質だったからか、
それとも従姉妹が面倒すぎただけなのかは解らない。
ヘカテーはある種の試金石として、メディアと女神の接触を試みた。
メディアは優秀な個体であり、その子孫がメディオスを除いて確かには遺らない女性。
女神が食いつくには良いエサだった。
神々の視点から見れば宝物をイアソンに譲り渡した後追放されて、行く先々で生き残ろうとする術が裏目に出て追われ続けたが、
結果的にそうなるならそれで神々にもメディアにも良いではないか。
実際ヘカテーもそう考え込む事でメディアの悲劇を見過ごす事にした。
神々として重要な事は2点。
1つはイアソンに関わる王国に離島の文明に生まれた利益を拡散する事。
1つはエリュシオンの野を管理する者を用意する事。
そこにメディアと言う女性の幸せや一生は微塵も含まれていなかった。
ヘカテーも女神の話を伝え聞く限り、その在り方については女神も同じだろうと思った。
何せ結果的には師匠でありメディアに近しいヘカテーでさえも一度は他の神々に同調したのだから。
実際、女神は普通の人間の100倍の価値がある人間がいたとしても、
その人間の悲劇的な死によって1000倍の効果が得られるならそれを選ぶこともあった。
だが、彼女のイアソンとの間に生まれ都合の良い事だけが大好きなコリントス人に殺される事になる子供たちは13人。
その13人が全て母ほどの素質を持つなら10倍程度の損失は補填できる、と。
女神はそう考えるだろうとヘカテーは想定した。
遺伝子を尊ぶ女神にこそ有効な作戦だった。
ヘカテーはそこに賭けた。
見過ごすしかないのならそうするが、見過ごさない事が許される手段が目の前に然りとあるのなら、
それに乗らない手は無かった。
ヘカテーは
女神はヘカテーからその依頼を受けるにあたって報酬とは別に条件を出した。
それは先程神々が望むと提示された2つの条件をヘカテーが責任を以つこと。
それはつまり、どう転ぼうと後始末を付ける実行者はヘカテーであり、
女神は好きに掻き回して、神々に睨まれる責任だけを受ける、と。そういう事だった。
その条件で女神は依頼を受けたが、
もしかすれば単純にメディアが神に連なる故に家畜では無く、その個体としての価値に尊重があった可能性も捨てきれない。
また、所謂『根源』を管理する神であるヘカテーは、その性質故に『事象そのもの』のような虚無的で事務的な性質もあったが、
故に万能を知るにも拘らず、何故弟子を救おうと思ったのかは理解が遂にできなかったという。
かくして、女神によるメディアの為のヘカテーの作戦が始まった。
最初に行われたのはエロスの『愛の矢』の防御の偽装だった。
万能の知識と歴史の収束を知る者のスペシャルタッグの第一関門は早くも困難を極めた。
正攻法的に、『恋愛には恋愛』を用意しようとした。
2柱は所詮自身の恋愛すら良く解かっていない母親のお使いのクピド神に『恋愛』で勝てると思っていたが、
2柱とも割と、いや、かなり男受けが悪い性格をした残念系処女神。
見た目故に実際相手は選ぼうと思えば選びたい放題だが、選ぼうと思った事の無い2柱。
故に、『恋愛』による正攻法は諦めて、『恋の魔法』に対して得意分野である魔術的アプローチにおける正攻法で攻める事にした。
即ち、世界と言うシステムに介入する為に、女神はヘカテーを拉致、監禁、心理支配という、
何とも白々しい形を取り、メディアに『良く解らないとされる変な加護』をシステムの裏側から押し付けた。
即ち、外部からの心理影響作用を阻害する術であった。
そんな方法があるなら拉致監禁の後の心理支配を受けてなどいないだろうといったツッコミは封殺である。
かくして無効化呪文による『愛の矢』の不発でメディアは強制的で盲目的なイアソンとの恋を壊された、
ハズだったが、見た目とシチュエーションだけは『白馬の王子様』なイアソンに普通に惚れたメディアのせいで、
作戦そのものが無意味になった。
その後、歴史通り、メディアが来ると狸寝入りして気付かなかったフリをしてやり過ごすのが通例の竜を通り過ぎて、
彼の守護する金色の羊毛をイアソンは奪い去った。
勿論竜は起きていたのだが、
自分の財宝<メディアの面倒くささ
である。故に仕方ない事だった。仕方が無いので、竜はそこらへんにあった花やお菓子を代わりに財宝とすることで納得する事にした。
そんな竜だったので、神秘が薄れた時にはかなり早めに世界の裏側に追いやられたのは当然だったともいえる。
次にイアソンを追っ手であるメディアの父親から逃がすための犠牲となったメディアの弟アプシュルトスの救済であった。
これについては女神はアプシュルトスに興味が無い為に全然乗り気では無かったが、
ヘカテーから報酬の上乗せを提示されて。取り敢えずアプシュルトスの身体の構成を弄り、
プラナリアやラッパムシの様な再生能力を付与する事にしたが、
これについては恋に盲目でも、自分の意志で盲目であったメディアは本来神に操られた時よりも幾分も理性的で、
追っ手を追い払う手法として実の弟をバラバラにして海に撒くという方法は取らず、
普通に自分達の船の帆に追い風を、父親の船には凪や向かい風を向ける事で乗り切った。
アプシュルトスは結果として只のびっくり人間になっただけだったが、
後のコルキスで内乱によるクーデターが起こった際に不死の王としてこれを治め、君臨したという。
次に、アルゴノーツ号の英雄大集合のごった煮の様なイベントには、
女神が直接姿を現してヘラクレスに、
「神がヒトと交じりしことにより定められし限界を超えるという事ですか。
効率上考慮に値しない事は無いですが、下々の血を入れるとは少々穢らわしいですね。」
と、純血でなくなったサイヤ人のハーフが初期成長値が高いけれど、
スーパーな第4段階には成れない事を憐れむように言った事で、
神の血を入れたくて生まれてきたわけではないヘラクレスがブチぎれたり、
何故か女神のビジュアルがキュンキュン来たのかメディアに『お姉様』とヤバい方向に慕われて、イアソンが少し嫉妬をしたり、
不死身のアプシュルトスが勝手に泳いだり溺れたり流されたりしてアルゴー号を追い続け、
道中で何度も勝手に死んで生き返った事で狂気に侵され、
「姉さん姉さん姉さん姉さん姉さんひぃぃやぁぁぁっ!!
優しい姉さん、罪深い姉さん、愛してる、愛してるよぉぉぉぉ。
姉さんの優しさが僕を殺した。姉さんの美しさが僕を殺した。姉さんへの愛しさが僕を殺したァ。
さあ、僕の夢に抱かれて共に死ねェ。ひゃぁぁぁっっぁぁぁ!!!!!」
とイカれるも、流石にドン引きしたメディアにあっさり『治療』されて、
昔のアプシュルトスに戻されると、眠ったままコルキスに流れる様に魔術をかけられて海に流された。
眠っている内に岩にぶつかって本来の神話の様にバラバラになって流されるも、
結局コルキスの海岸では綺麗に集まって復活し、
『人魚姫』の王子様のモデルの一人になった。
まあ、そんなどうでも良い事は置いておく。
病的な愛を向けるメディアに対し、余所の女に靡く様になるイアソン。
これに対する対処は、『ワカメ』だった。
イアソンは致命的に捻くれている故に、メディアを救うならイアソンだけ改変すれば良かったと言われるレベルだった。
その性質は割と煽てられることに弱く、それを識る女神はそこを突いた。
所謂『増えるワカメ』による飢饉の解消だった。
コリントスに着いたイアソンはメディアが女神から教え込まれた『増えるワカメ』を見た。
これは世界を巻き込む商売になるとこの時彼は感じた。
海で取れたワカメをメディアの魔術で速やかに縮んだ『増えるワカメ』とし、
後に世界的な増えるワカメメーカーのイアソンメディア社の名前の由来になるほど有名な事業を夫婦で行った。
彼らが起こした商会は瞬く間に拡大し一つの国にまで成長した。
イアソンが経営を行い、増えるワカメの制作はメディアが行った。というかメディアしかできなかった。
この事業を以って飢饉を国内から絶滅させた名君として民から夫妻は称賛されることになった。
イアソンは後に大してカッコ良くも無い『ワカメで成功した者』の名を与えられるが、
彼はそのカッコ悪い二つ名を苦笑いしながら喜んだという。
結果的にイアソンを通じて小国の文化を拡散した上に、その中に『
そして7人の息子と7人の娘に囲まれたイアソンとメディアの前に、末の娘が2歳の誕生日を迎えた日に、
再び女神は姿を現した。
女神は告げる。
この歴史には上書きされた下地となる事象群があった、と。
その歴史を映像として見せられたメディアに女神は命令した。
エリュシオンへと向かい管理者となれ、と。
嘗て同じ船に乗った事のある女神に対してイアソンは怒りを向けた。
この平穏を奪うのか、と。
それに対して女神は『増えるワカメ』の制作方法は既に素質ある彼らの子供たちに受け継がれている故に問題は無いだろうと答えた。
女神には人の心が解からない。
故に、夫から、子供達からメディアを引き離そうとする事に反対する理由がわからなかった。
もし、今以上に子供達を作り続けると彼らが主張したなら優秀な遺伝子を増やすという意義を感じたのだろう。
優秀な遺伝子を集め、優越な遺伝子を固める。それこそが女神の常套手段であるが故に。
とはいえ、優秀な遺伝子を遺す目的は達成され、ヘカテーから報酬を手に入れた以上、女神にはそれ以上はどうでも良かった。
メディアは自分がかつて捨て、そして手に入れた『家族』からの愛にそこで満足してしまった。
メディアは夫と子供達への祝福を条件にエリュシオンへと去る事になり、
後年それを追ってメディオスに跡目を譲ったイアソンが一人でアルゴー号で海に向かう事になる。
その後イアソンが目的地に着けたのかどうなのかは歴史には残されていない。彼の消息はそれきりであった。
時は過ぎて、ある時代の特異点に彼女は呼び出された。
そこで召喚を通じてソロモンを名乗る者に魔術的に支配され、
彼女にとって悲劇を喜劇に変えた存在であった『
この世界ででも近くて遠くに置いて行ってしまう事になった共に召喚されていた夫イアソンに謝罪し、
その意識の根幹を悪魔に委ねることになった。
救済
旧債
久才
そういえば、全く関係ないですが、エディプスコンプレックスの元となったオイディプースは、
父親に死を前提とした追放を行われたわけで、父に恨みがあって当然だし、長男故に王位継承権があって問題が無い。
もし、オイディプースを騙った別人が王妃(この時点では女王)にすり寄ったとしても、そうすれば母子婚ではないので問題は無い?
故に、クレオーンは結局簒奪者が相手を貶めて自分の母親ごと葬っただけとも認識できてしまう。
う~ん、ギリシャ神話って凄く歪んでますね。