凍れる女神   作:蕎麦饂飩

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第三十三話 『りかい』

救世の旅をするカルデアのメンバーはあまり良好な関係とは言えない。

それが主に女神のせいである事は言うまでもない。

 

当初からかい上手のエウリュアレさんを自称する美少女がアルテミスの言葉に乗っかり、

女神の様子を見ながらけなしていたが、アステリオスを完全な怪物に変化させてその後にあった戦闘に活用する女神を見て、

からかうにも値しない、そして本音を言えばからかったりしたら神でもヤバいレベルと女神を認識し直した。

普通に同類の神を目的の為の生贄にしそうなところさえ感じられるからだ。

ぶっちゃけエウリュアレも又聞きでしか聞いたことが無いが神クラスの竜を女神が手駒として保有していることを知っている。

その強大な力を持つ竜のエネルギーを維持するのに一体何が必要なのかを想像する事すら恐ろしい。

 

嘗てギリシャをぶち壊した猪と竜の決闘は余波だけでエウリュアレたちが住んでいた島を津波で呑み込みかけた。

その際に竜の強化型召喚の為には国1つが生贄に奉げられることになったという。

結局その勝敗は搦め手により猪が、というよりアルテミスが勝利したという事も十分に恐ろしいが。

 

 

怪物を経験値ボーナス扱いする辺りはアルテミスも一緒だが、アルテミスにはアルテミスのヤバさが、

女神には女神のヤバさがある事をエウリュアレは理解した。

元々ギリシャ神話世界では接点が無く、女神って生真面目で冷酷な理想家なのだと大まかに聞いていた程度であったエウリュアレは、

アステリオスの力の大元であるゼウスにさえ、無理と言わせしめる女神のアレさを知った。

ヘカテーやメディア同様動かない人形なら激モテ系(つまりそのルックスでモテていない事はお察し系)女子な女神は伊達では無い。

 

海を渡った先でナチュラルに町に白い雪を降らし、

魂喰らいを小国規模で行う女神に流石にエウリュアレは咎めたが、

 

「大丈夫です。英雄になり得る魂は犠牲にしていません。

有象無象の下級の魂を質を補うための工夫としてミンチにして捏ね回して固めて加熱殺菌の様な処置をして、

そしてソースで美味しく頂くわけで、

私にも健康に問題は起きませんし、歴史への影響も大きくない様に潰す魂は選んでいます。

その命全てが力を合わせても為せぬ偉業を代わって為してあげようというのです。

寧ろ称賛されてしかるべきでは?」

 

ハンバーグを作る様な言い方で他者の命や尊厳を上品に食い漁る女神に、

エウリュアレは言ってることは神族理論的に間違っていないと思った。

けれど納得するには、彼女の感情は怪物(じゃくしゃ)に親しみ過ぎていた。

だが、何かしらケチを付けてやりたかった。

 

「…やりすぎると世界が崩壊する可能性は考えないのかしら?」

 

「問題はありません。どのみち消えゆく世界…。

いえ、この世界も残しておいても別に構わないでしょう。私の『力』で世界に張り付けられる程度に書き換えて――――、

そしてそれこそが最大の妨害になります。薪が無ければ暖炉は温まりませんから。」

 

エウリュアレは言っていることがわからない。

厳密には女神以外には誰もその意図が理解できなかった。

 

「言ってる事が解からないわ。

それよりも、一国が壊滅した事で隣国達がそれを奪い合う事で戦乱が起こる事への反省は――――貴女には当然ないわよね。」

 

「…? ゴルゴーンの姉、貴女はまるで人間のような事を言うのですね。」

 

エウリュアレは女神の顔を見た。その微笑の中には蔑みは無くあきれも無く、ただ無理解があった。

 

「この国は、周辺国との和平交渉で繋ぎ、周囲の戦争を起こさせない事で利益を得ていたそうです。

実際何もしなくても起こっていなかったところを少々手を加える事で自分の手柄と見える様にして。

王はそれなりには善良だと民衆には湛えられていました。故に滅ぼす事を選んだのです。

滅ぼした国が悪者扱いされるほどの善良の象徴が、自分から滅びたなら誰もに都合が良いでしょう?」

 

エウリュアレに丁寧に説明する女神。エウリュアレも神としての部分でそれは理解できた。

 

「――和平よりも戦争を、ということかしら?」

 

「和平とは平和の逆さ言葉。

故に和平から平和は生まれない。平和を生み出すのは戦争だけなのです。

国が餌場と化す事で戦争を誘発し、そしてこの国の民と王が望んだ様に勝者が併合し巨大化した勝国として平和が成り立つのです。

その平和の中にこの国の者は殆どいませんが、それでも理想の為に命を消費出来て彼らも本望でしょう。

平和と闘争のバランスは大事です。

平和は夏。木々は青々と実り虫たちが音を奏でます。

戦争は冬。木々も虫も弱きものから朽ちていきます。

繰り返す戦争と平和は血統を洗練するでしょう。

細分化すればするほど戦争が頻発な小競り合いになり管理しにくくなります。

ある程度の大きさを纏めておくことは必要です。

その為に小国が滅びる事を私は許容します。

勿論、重ね重ね言いますが優秀な存在は生かしておきましたので大丈夫ですよ。

優良は優越を産むのですから。」

 

実に神様らしい意見だった。

エウリュアレは自分が神である事も忘れてそう思った。

 

 

余りにもある部分では神様過ぎて、ある部分では人間的すぎて、

しかしその配分やそれぞれの在り方の位置が他の神々とさえ違い過ぎる故に、

ギリシャ世界の神々には蛇蝎の如く嫌われる女神の評価としては半分は正解であった。

 

女神は英雄未満の者達からも英雄を作ろうとしてコロシアムを用意して戦わせた。

 

「さあ、殺すには惜しく、けれども英雄には満たないヒトの仔よ。

殺し合いなさい。殺した者の命を自身の因果にくべる場を用意しました。

生き残り英雄になった者は私が祝福()しましょう。」

 

そう言って闘わせた。美しい女神に愛されるために、英雄になる為に、

歓喜の中英雄未満の者は闘い、そして殺し合った。

蠱毒の壺の勝者は所詮蟲であり英雄にはなり損ねた。

英雄未満の者では英雄になろうとしてもなれなかった。女神では英雄を作れなかった。

故に女神はそれらの失敗作を自身やオルガマリ―の為の食事や道具に、

及第点を満たした者は周辺国の将軍へと推挙した。

多くの蠱毒の王者が目標未満だった故に、それを喰らう女神自身やマスターであるオルガマリーを真の蠱毒の王者に押し上げたのである。

 

 

ダンジョンでの一件以来、

女神はオルガマリーが何時か何処かで自分に刺さった事がある何かの楔の様な何かに感じられた。

感じてしまった。そしてその感覚を誤魔化せなくなった。

故の加速的な破壊を行ったと言っても良いだろう。

 

オルガマリーはマスターとはいえ、女神がその選択肢を彼女に委ねない限り、

女神を制御する事も止める事も出来ない。

 

オルガマリーは必死の努力もあり、

克服できるかもしれないと思い始めてきた藤丸立香に対する一種の神格化と劣等感に再び呑まれ始めていた。

即ち、オルガマリーの代わりに立香がいたらもっと幸せな解決法を、

女神を抑える術を、女神に頼らない手法を確立できたはずだ、と。

 

 

女神は大きな国へとなりかけてある国同士の乱戦の勝利国に働きかけ、情報を集めさせた。

そしてその情報から聖杯を持つ可能性が高いのは英国なのにフランシスな大海賊のフランシス・ドレイクか、

黒ひげと呼ばれた海賊の代名詞、エドワード・ティーチの何れかだと確定させ、

その国に囮としても使える様にと船を2隻造らせて彼らを撃ち滅ぼす事にした。

 

成長していくオルガマリーに接する事が何処か苦痛に感じ始めていたことに目を付けたアルテミスは、

2隻の船の航路を別ける事を提案した。

 

片方は女神とダビデ、そしてエウリュアレとアステリオス。

もう片方にはオルガマリーとマシュ、そしてアルテミスたちが乗り込んだ。

 

アルテミスはあの女神が、自身に勝利したこの自分にさえそれ程の執着を見せなかった女神が、

嘗て無いほどに執着し、その成長、成長する仔の乖離に心を痛めているようにさえ見える、

外から見ればいとし子と呼べる少女に女神の邪魔なくじっくりと監視でき、試練を与えて観察しえる機会を得た。

 

「…後が恐くないか? 小熊を攫われた母熊は手におえない。」

 

小さな声でオリオンは彼を抱く月の女神に問う。

 

「同じ条件を持ち得る対象ならだれでも良いのか、それともあの子じゃないと駄目なのか。

もう既に分かっているようなものだけど、当の本神(ほんにん)が理解していないなんてとっても可愛いでしょう?

だから、イジワルしたくなっちゃうのよねぇ。

それにぃ、クマのぬいぐるみって可愛いじゃない。ダーリンもそう思うでしょう?」

 

それはひょっとして今のオリオンがクマのぬいぐるみの形をしている故のジョークなのか、

アルテミスには心底あの女神が可愛らしいのか。

きっとその両方なのだろうな、とオリオンは溜息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あからさまに豪華で近未来的な船に乗った女神一行と最初に遭遇したのは勝利の女神を船に掘り込んだ船団だった。

特異点の起こした改変によるブーディカ信仰、即ちイギリスの船―――フランシス・ドレイクの部下の船団だった。

 

女神が手を差し向け「撃ちなさい」と命じると船の大砲が自動的に照準を合わせ相手の船を撃ち抜いた。

この時に女神の胸がプルンと揺れたのはある種のお約束であり、エウリュアレは歯噛みし、

ダビデはそれを風情だと鼻の下を伸ばしながら感じ取った。

 

女神側の攻撃に気が付いたフランシス・ドレイクの部下の船団は、

攻撃を開始しようとするが、そもそも彼らからの射程が到底届かない事は彼ら自身が一番理解していた。

女神側の射程が圧倒的に長いうえに爆発による破壊作用と、完璧に近い命中精度。

 

敢えて人間の持つ兵器に加護を上乗せするややこしいやり方をしたのは、

此方が直接神霊の類として戦闘を仕掛けた事を看過させない為だった。

 

女神は微笑を深めると海の中に幾多の魔物を放った。

竹ノコギリの様な細い歯を持つ鮫に似た古代蟲は女神の持ちうる魔物の中でも最下位に近い存在だった。

それは大きさからも見て取れる。怪物と言うにはあまりにも小さすぎた。

例えて言うならRPGで最初の町の周辺に放ち冒険に出たばかりの勇者の経験値に変わる為の様な所謂雑魚だった。

 

しかし海に落ちたら泳ぎ続けなければ生き延びれないヒトの仔を襲うには十分だった。

何度も挟むように削る様に水面に出ていない足や胴体を咬み、

そして浮かぶ気力を失ったものを餌へと変えて行った。

 

女神は一応、海賊になった者の中にも英雄になり得る者がいるかもしれないと、

敢えて英雄ならば経験値にできる化け物を餌として与えたのだった。

それは女神からのならず者にしかなれなかった底辺層への憐れみであり慈悲であった。

それでも、結局合格者は殆どいなかった。

所詮海賊にしかなれなかった存在では海賊以上の者には成れない。

 

よく大学に行った事よりもそこで何を学んだかと言う者がいるが、

レベルの高い大学に合格できる能力の証明という事自体が学歴判断の社会に統計的な成功を齎している点は否定できない。

 

女神の本当に珍しい気まぐれ染みた慈悲にさえ乗りかかれなかった船員たちは怪物のエサとなった。

 

 

 

女神にとって人材の運用とは学歴の高い者を雇用し、使えない者は速やかに解雇。

 

何もせず自宅で待機する事が仕事で、しかも週休6日で高収入と言う仕事があれば誰しもに天職となりうるだろう。

そんな誰でも出来て誰もが望む仕事でしか転職にし得ない者は要らない。

無能でも幸せに利益が得られる状況は社会や会社にとって害悪だと考える。

他社の数倍の成果を求められて、それを完璧に為し得る事で天職と出来る人材には十数倍の報酬は支払われるべきだと女神は認識する。

ダメな奴は何処へ行ってもダメ、出来る者は大凡何処ででも成果を為し得る。その現実は浮き彫りになるべきだ、と。

何せ高ステータス高スキル高スペックであれば基本的にあらゆる状況に対応でき、

低ステータス低スキル低スペックであればご都合主義な場所でしか幸せには生きて行けない。

故に同社内他部署への移転などは滅多に認めない。何処へ行っても無能は無能だと烙印を押して放り出す。

有能な者には関心を示すが無能な者には無関心。

それは能力が情態によって+-1割の変化をするとして10000の能力の者の最大増減値は上手くいけば+100の変化を示すが、

100しか能力がない者には-の方面に最悪の値として顕出しても所詮は-1。

100が99になったに過ぎない。そこに気を使うよりは10000を10100にする方が価値がある。

それに無能は成功への道が理解できず、もし理解できたとしてもそれを実行する能力が無く、

失敗し、そしてそれを挽回する方法が解からず、解かったとしてもそれを実行する能力が無く、

失敗の挽回に失敗し、その方法が解からない―――――――――――それがその者の無能具合に応じて続いていく。

そんなお荷物は敵にとられても構わない。元々大切な役割、その者にしかできない必要性を持っていない。

敵に回して切り捨てて共通の見下して優越を図れる踏み台として精々利用できればむしろ+になる。

それが女神の人事方針だった。

 

愚者の意見は耳に入れて思考する価値すらない。ましてや施行されることなどない。その必要も理由も無い。

だが、愚者は己の意見が愚かだから、愚かな意見しか出せない人間だから聞き入れて貰えないにも拘らず、

話を聞き入れて貰えなかった事に関して感情的に不快感を表す。

 

賢者は聞き入れられる意見や、賢者として意見が聞き入れられる土壌を作り上げて意見する。

故に往々にして賢者の意見は聞き届けられる。

それが実績となり、経験となり、自信となり、

賢者は更に質の高い意見、少なくとも質が高い意見と回りが扱わなくてはならない意見を出せる様になる。

 

例えば母親が不倫をしていて離婚協議をしている夫婦がいたとする。

しかし、例え正義が父親にあったとしても、証拠においても交渉においてもあらゆる面で妻が勝利していく状況があれば、

それが昔からの延長でそうなるのなら尚の事、

子供たちは無能な正義の父親を棄てて、有能な悪の母親に着いて行く。

幼少の砌から力無き正義が力ある悪に敗北する様を見続けてきた子供達なら、

きっと付随する有能さの無い正義の側には何の価値も無いと見限るに違いない。

正義だろうが無能では生きて行けずいいように利用されて破滅するのだと。

 

女神にとっては本来の女神の介入しない滅びゆく歴史たちはその無能な父親の様なものであった。

 

 

 

例えば2匹の動物に芸を仕込むとする。

例えば水族館のイルカでも想像すればよい。

片方はとても良く人間に懐いているが物覚えが悪い上に体も弱く複雑な芸どころか簡単な芸も覚えられず、

その上身体能力の問題で行える芸にも大きく制限が掛かる。

もう片方はあまり懐いてはいないが物覚えが良く身体も頑強で、

ひとたびやる気になれば瞬く間に複雑で高難度な芸を魅せる事が出来る。

人々にとってショーのスターになり得るのは後者だ。

努力する無能よりも、悪い意味でマイペースな天才に誰もが注目する。

 

女神にとっては人類はこの水族館のイルカの様な存在なのだ。

 

 

 

女神は人々が必死に生きて愛を紡ぐことは必要だとは考えていない。

有能な人々が成功の元により優秀な遺伝子を遺す事が大切だと、

人類(弱者)を餌に人類(大切な子供達)に潤沢な栄養を与えられる親になる事が必要だと考えている。

 

生物学的には親は自分の子供が底辺でも無条件に生きて欲しいのではない。

成功して子孫を優位に残せるように生き延びて欲しい。

故に、動物の親は障害児を切り捨てる。それに似た理屈だった。

 

 

無能には居場所は無く周囲からの侮蔑と嘲笑と無関心を。

有能には引く手数多で周囲からは称賛と羨望と関心を。

女神はそうある事に疑問は無かったし、そうあるべきだと世界への善意から認識していた。

 

故に、弱者を喰らう怪物が何時か何処かで強者の贄となるべく肥え太る様子を女神は微笑みながら眺めていた。

 

 

 

しかし、中には剣を振るいながら化け物を殺して生き延びる者もいた。

他国の貿易を妨害して自国の栄華を広げんとする軍人としてフランシス・ドレイクに従った者であった。

彼らは敢えて殺すだけでその存在の階位に少しずつ底上げを負荷する特性を付けられた怪物たちを魂の食事へと変えた。

 

女神はある程度の所で怪物たちを消すと、彼らに向けて小さな小舟を流した。

彼らは選別に耐えた。故に女神の支配()の対象となり、女神に服従する事の幸福を認識させられた。

つまり、怪物を倒したその褒美として女神の船の奴隷としてフランシス・ドレイクと戦う名誉(神罰)を与えられた。

 

 

 

 

 

魂を奴隷とされて尚、フランシス・ドレイクの根城を吐かなかった彼女の腹心の部下達は、

その魂に張り付けられたラベルを張り替えられ、

ドレイクを知識として知っているだけの彼女に何の感情も持たない奴隷へと変えられた。




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