女神が
正確には船上での女子トーク(+獣付き)に興じていた。
『女神』という種族全体に理不尽を
アルテミスもマシュにはそこまで大きく執着を持つわけでは無い故に会話に参加しない事に不満を持っていなかった。
「ふぅ~ん、旧き血脈のエリート。カラーイメージは白寄り。本当に『翼』ちゃん好みの女の子よねぇ。」
そして撃たれ弱く女神に依存し易そうで、そして尚且つ能力は高い。
アルテミスはそんな表層的なデータ染みた分析とは別に、
乙女テイストな、所謂スイーツな思考でビビッとくる『
女神にとって存在したのだろうとも考えていた。
こういうものばかりは分析からは絞り込めない所謂恋愛と同じ類のものだとアルテミスは理解しているが、
同時に女神にはその部分は良く自覚が無いであろうことも理解していた。
「好み?」
そんな感情的な選別とは無縁そうな女神の姿をオルガマリーは思い浮かべてしまう。
「単純に必要性の問題です。」そんな言葉を使う女神の方が容易に想像できた。
女神の圧倒的な神気と力と微笑のせいで人間には到底そうは認識できないが、
同じ神々目線で見ると只のツンデレ型委員長タイプである。
故に可愛らしい。真っ直ぐで歪んでいて滑稽で無様で現実的で夢想家で勝利を目指す敗北者である女神が、
アルテミスには愛おしい。
「ええ、何ていうのかしら? 所謂『運命の赤い糸』? キャー、素敵よね~。」
オルガマリーもアルテミスも互いのビジョンが重ならないが、それは立場による視点の違いと言っていいものだった。
「……マシュ、これって所謂すいぃつ? ってものなのかしら?」
「…判断しかねます。」
すっかり、女神側として信頼は薄れつつあるオルガマリーへのマシュの反応はそっけないものだった。
そこに頭の悪い会話に巻き込まれたくないという意志が無かったと言えば嘘になるだろうが。
すっかり
アルテミスは表情は先程からのそのままに、去れど確かな女神として、
無知な人間に諭すようにオルガマリーに話しかけた。その在り方はどこか女神と重なる所があった。
「人間にしたらそうかもしれないけれど、神がヒトの仔に祝福を与えて特別な存在にすることは、
恋愛みたいなものなの。人間には理解できないでしょうけれどね。
あっ、勿論ダーリンは特別なんだからね。」
後半は何時ものスイーツ脳に戻ったアルテミスの二面性にオルガマリーもマシュも戸惑った。
余りにも相反する理知と盲目。
それがとても同一人物には思えない。特に一貫して冷酷な女神と言う神族しか知らなかったマシュにしてみれば尚の事。
満ちた月も欠けた月もどちらも同じ月だという当然の事を人格に当てはめて理解するには、
余りにも少女たちは新しい時代に生まれ過ぎた。
ただ、オルガマリーにはそれが女神にも適用できる話だと思える気がした。
それは女神を絶対敵性存在と認識するマシュとの視点の違いだったかもしれない。
愛だけでなく憎しみも人を盲目にさせる。いや、人に限らず神さえも視野狭窄にさせるのだろう。
だが、アルテミスの言葉を借りれば女神がオルガマリーに恋しているという事になるのだろうが、
自分に向けたそういう事には鈍感なオルガマリーにはその発想には至る事は無かった。
だが、そういう自分への感情に鈍感系女子(天然)故に他者の其れには興味が引かれるものだ。
「そう言えば、貴女とつば…わたしの所の女神様はどういう関係なの?」
オルガマリーは気になった事を聞く際に、月の女神が修正の女神に使う『翼ちゃん』のワードを一瞬使いかけたが、
所詮人間の身である自分が、神と人間と言う隔絶した距離を持つ身が、その呼称を使う事に気が引けた故に言い直した。
「―――おも…お友達? かしら。
それにしても、『私の女神』なんてやるのね。私でも『私の翼ちゃん』なんて中々言えないのに~。」
「えっ、そんな心算じゃっっ!?」
指摘されて真っ赤になるオルガマリーをからかうアルテミス。
一見その通りであったがオリオンには判った。その言葉の裏には僅かに見え隠れする独占欲に基づく憎悪――嫉妬があった事を。
しかし彼は巻き込まれたく無い故か、敢えてそれを指摘する事は無かった。
「そっ、それよりもその出会いとか、そういう事を教えてくれるかしら?」
「…いいわよ。私と『翼』ちゃんが如何に仲が良いのかたっぷり教えてあげる。」
その月の処女神の返しを小姑や当て馬のライバルヒロインの様だと思った事もオリオンは黙っておくことにした。
狩人は危険に敏感なのだ。
「あれは古い旧い時代の事。ギリシャ神話よりもはるか昔、
私がアルテミスでさえないときの話だったの――――――――――――」
嘗てとある地方の最高神の1柱として太陽の神と共に治めていた。
そのころには『アルテミス』という人格化された名前すらなく、『月』そのものが信仰の対象だった。
太陽と月の下、人々は天上に敬意を畏怖を奉げた。
言葉も拙く、職業も分割されていない時代。それでも人々が生きていた大らかで冷酷な時代。
そこに『月』は見た。
触れれば折れそうな儚い少女が必死に人々を導こうとしているのを。
人々が耳を傾け無い故にヒトにとって恐怖となり得る力を振るい圧政を以ってヒトに意見を押し付けようとする、
必死で無様で自身の領域で無礼で邪魔な神格を。
『月』は見た。
少女には強大な力があった。しかしその在り方は余りにも弱弱しかった。
そして善良さに基づく明確な邪悪があった。
人々を苦しめて殺して増やして残してそのステージを無理矢理引き上げていた。
それは邪悪染みた善意だった。
『少女』は人々を導く『翼』であると主張したが、人々にとっては悪意の翼そのものでしかなかった。
『少女』に人々は付いて来なかった。故に『少女』は厄災に人々を追わせて導く先へと追い込む事にした。
厄災に追いつかれる者など、『少女』の目指す未来には必要なかった。
『月』は聞いた。
少女が必死で人々を導こう語りかける様を。
人々が邪悪な存在を遠ざけてくれと『月』と『太陽』に嘆願し懇願し請願する様を。
『月』は触れた。
まだアルテミスになっていない『月』は『少女』を追い出した。
そこに強弱の方法は無かった。只、理解の差があった。
『月』は嗅いだ。
『少女』の苦悩を、絶望を、信念を。
それが無ければ『月』は月になっていた。
『月』は味わいたいと思った。
しかし『少女』はその時には『月』から離れていた。
他でもない『月』が『少女』を追い払っていた。
時が経ち、
『月』は
そこには『月』の知る『狩りの概念の擬人化』の姿もあった。彼は自身の以前の在り方を記憶していないようだったが、
『月』は『少女』はそのままであると理解していた。そのままであってほしいと願っていた。
そこに至るまでに再び神々の概念からすれば小規模な、それでも人々に対しては特効的に影響の大きい『女神』の話を聞いていた。
そんな中、『少女』の姿は変わらず『女神』はアルテミスの主に治めている地方に顕れた。
『月』から姿を大きく変えた『アルテミス』に『
けれど『アルテミス』に『女神』は自身のやり方を邪魔しないように告げた。
「ギリシャ神話体系『月の処女神アルテミス』、私の邪魔をしないのならそれで構いません。
私は――――――――――――――――」
「『導きの翼』だったかしら~?」
「……何処でそれを。」
「ええっ、結構有名なのよ、貴女。
私の所の主神も大分警戒してるみたいだし~。」
ある意味において最も
その感情は恋に似ていた。
「だからねっ、『翼』ちゃん☆って呼んでいいかしら~?」
「何を勝手に決めているのですか。
私にはちゃんと■■■……? 名前が…、」
「どうかしたのかしら~?」
「……別に関係ありません。貴女に名前を呼ばれる必要性も無いのですから。」
アルテミスには理解できていた。だが、それを『女神』に伝えはしない。
人々に名前を与えられる事無く風化してきた幾多の神格を見続けてきた為だ。
『目的』と『力』と『事象』によってその存在だけは固着されているが、
明確な信仰を広く長く敬意を以って受けてこなかった『少女』の末路がその様だった。
後に幾つかの信仰を受けた後でさえ、『名も無き神』である事は変わらなかった。
故にアルテミスは自分がその唯一の新しい名付け親になる事で、『少女』を手に入れたかった。
「じゃあ勝手に呼ばせてもらうわね。よろしくね『翼』ちゃん☆」
「……好きにすればいいでしょう。」
それが『アルテミス』と『女神』のなれ初めだった。
とはいえ、それを全てオルガマリーに伝える必要はない。
適当に『アルテミス』の部分だけを暈して伝えた。
『月』は考える。
素直で無い生真面目で無力な少女たちが定められた宿命に必死で走り抜ける姿は、
神もヒトも似ている、と。
『アルテミス』は考える。
とてもではないが、自分の『翼』が脆弱なヒト如きと重ねられて堪るものか、と。
ねえ、貴方ならどう見るかしらこの状況を。
『
その名前を呼ばれた本人は、聞いたことの無いどこか懐かしい名前に首を傾げるだけだったが。
月
憑
尽
吐