凍れる女神   作:蕎麦饂飩

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第四話 『せんきょう』

オルガマリーと同じベッドで眠った女神はふと夜中に目を覚ました。

彼女が起きた原因であるプルプルと震えながら、

「ごめんなさい。ごめんなさい。」

そう震えて魘される少女を抱きしめた。

 

その震えが徐々に収まるのを感じながら、女神は嘗て創り出した進化の使徒(むすめ)達をふと思い出した。

思えば彼女達には母親らしい事は何一つしてやれなかった、と。

豊穣の母(デメテル)花の乙女(コレ―)を手放した時の様に嘆いてあげられなかった、と。

だが、女神には何故それを今思い出したのかが解からなかった。

元人間如きが女神自ら生み出した高尚な存在と対等であるわけがない。関連性の欠片も無い。

所詮は自身を此処に縫いとめるたびの楔であり憑代でしかない。

 

ああ、きっとその程度でしかないのです。

そう結論付けながら笑った。

何時もと何一つ変わらない清廉とした微笑で。

 

 

翌朝、少女は起床すると何時の間にか自分を抱きしめている女神に驚いて赤面していた。

 

 

 

 

その日の朝になっても女神は未だ不完全。未だ多くの魔力を吸い続ける必要があるが、

それなら、聖杯を探すためのレイシフト先で敵性存在の魂を喰らい続けて回復していけばいいと思いつき、

 

 

「早く歪んだ歴史の世界へ私達を飛ばしてください。」

 

そうロマニに告げた。

勝手に自分のサーヴァントが相談も無しに方針を決めていくのだが、

結局何だかんだで押しが強い相手には弱いオルガマリーはそれに小さく文句を言うくらいで、

大きな反対はしなかった。

 

どちらかと言えば、問題はマシュ・キリエライトであった。

 

 

先輩を殺した相手の言に従いたくありません。

無言だがそんな態度が透けて見える。

 

女神は、

だったら仕方ないですね。洗脳しますか。

最悪彼女が死んでも、適正100%を受け継いだマスターなら新しいサーヴァントも呼べますし。

そんな人外の倫理観を何時も通りの微笑の裏で考えていた。

家畜が逃げない様に躾をしよう。葡萄の樹を収穫しやすいように上に伸びる枝を剪定しよう。

その感覚を人間にさえ当て嵌めるのがこの女神なのである。

一応この女神はオルタでもバーサークでもなく、至ってまともであり、

属性も秩序・善である。

 

「日本には物事の合理性では無くて、常に相手の反論だけに徹する文化が政治を中心にあるみたいですね。

あの首相を引きずりおろせるなら、あの党の反対の意見であるなら――

其ればかりで感情論以外の中身が無い。

私は衆愚よりも有能な独裁者の方が好きなのでおいおいその感情も矯正してくださいね。」

 

 

性質が秩序・善だけあって自身の発言が絶対的に正しいという確信を以っており、

他者の感情など意に介さない。

 

「…っ!!」

 

怒りに歯を噛み締めるマシュだったが女神にはそれはどうでも良い事だった。

だが、女神的にはマシュの評価は悪くない。

能力は高いから仕事さえしてくれれば構いません。

ですが、それ故に寿命が短そうなのが残念です。優秀な遺伝子の保持者は優秀な子宮だというのに。

今度折りを見て改造してあげましょう。ええ、それが良いですね。

 

NBKM(ナチュラルボーンクズ女神)に相応しい独善であった。

 

 

 

 

 

その後、女神を除くカルデアメンバーのお願いや勇気付けによりマシュも同行してレイシフトをすることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして女神は戦乱のフランスに降り立つ。

 

 

 

第一特異点 邪竜百年戦争  『聖処女の悲劇』

 

女神は何時もの様に神々しく降臨した。

後は天使の様に振る舞うだけで人々は勝手に情報を齎してくれた。

女神は当初片っ端から脳を弄って精神を改竄していけばよいと思っていたが、

何もしなくても良いのならそれが楽であった。

因みに彼女も王宮(ロイヤル)風ならフランス語も余裕であるが面倒なので念話で人々の精神に直接語りかけた。

それがより天使からの啓示のように人々には思われたのだろう。

つくづくサイコパスと言う人(神)種は外面だけは良い。

女神は都合良くいく状況に満足していた。

 

女神でありながら『天使』や『聖母』如きと間違えられたのは甚だ不快であったのだが。

 

 

聞けば『魔女』ジャンヌ・ダルクがフランスを襲い、国王や異端審問の司祭等が復讐の為に殺されたのだという。

女神が見てきた歴史の中では、ジャンヌ・ダルクは過激派で農民であるが故に使い捨てられ、

ジャンヌ・ダルクを旗頭に強大な権力を持っていた大貴族ジル・ド・レェは、

封ぜられた国王一派と同等の権力さえあった故に、用意された様々な悪行を押し付けられて処刑され、

その財産を国有のものとすることでシャルル7世は盤石な世を作った。

 

フランス革命の基盤を作り、自由と平等を世界に広める様になった憎むべき事件だが、

大きく見ればそれは必要な事だった。そう女神は認識している。

だから、

 

 

 

「今回もまた、ジャンヌ・ダルクには割を見て貰いましょう。」

 

 

 

 

 

所詮は彼女も替えの利く平民です。

そう笑う女神にマシュは未だ見ぬジャンヌ・ダルクに同情した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、人々が騒ぎ出した。

「竜達が来た。」

「魔女が俺達を滅ぼしに来たんだ。」

 

 

 

その声を聞いて、希少価値的にも竜>ヒトであると判断する女神は、

飛んでくるワイバーンの内、個体値が低そうなものの体内を凍らせて絶命させた。

凍結したワイバーンは地に墜ちて凍った体が地面に叩き付けられて粉々となっていく。

 

個体値が高そうで鱗の艶が良いものは洗脳を仕掛けて、人々には怯えて去っていくように見える演出で逃がす事にした。

 

 

 

「凄いのね。」

 

無言のマシュとは対照的にテンションが少し高めのオルガマリーに女神は告げる。

 

「ええ、当然です。貴女のサーヴァントですから。」

 

 

厳密には違うがそういう事にしておいた方が色々と楽なので、女神はそう言う事にした。

内心はヒト如きの隷属者(サーヴァント)だなんて冗談でも言いたくなかったが仕方ない。

勿論、表情は何時もの微笑のままである。

 

 

 

 

「天使様ーっ!!」

「天使様ーっ!!」

「天使様ーっ!!」

 

 

人々は歓喜に包まれていたが、やがてその歓喜も急激に冷めた。

ジャンヌ・ダルクが現れたのだ。

 

 

 

 

 

 

「まっ魔女だ。魔女ジャンヌ・ダルクが来たぞーっ。」

「天使様、アイツを殺してください。あの魔女を。」

「そうだ。天使様なら直ぐに魔女を殺してくれる。」

「天使様ッ!!」

「天使様ッ!!」

「天使様ッ!!」

 

 

 

ああ、なんて目障りで無力で傲慢な人間達なのだろう。

女神の心は完全に冷めきっていたが、取り敢えずジャンヌ・ダルクの手足を地から生える氷の茨で繋ぎ止めた。

 

動きを封じられたジャンヌ・ダルク。

当初はその姿に怯えるばかりだった住人達も、ジャンヌ・ダルクが無力化されたことを知ると各々が棒などを手に取り、

囚われたジャンヌ・ダルクを嬲り始めた。

 

「ちょっと、止めなさいよっ!!」

 

 

余りの残酷さに制止したオルガマリーだったが、

暴走した人々の熱狂は止まらない。それどころか――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツも魔女の仲間だ。天使様、ソイツも魔女の味方です。

ソイツも殺してくださいっ!!」

 

事もあろうにオルガマリー達をも魔女の一派として葬ろうとしたのだ。

天使の強大な力が他の誰か(オルガマリー)の信用の元に振るわれるのが我慢できない。

その強大な力は自分達の、いや自分の為だけに振るわれるべきだ。

そんな意識が人々の中に存在したことは否定のしようが無かった。

 

 

 

 

「やはりフランスは滅びるべきだったのかもしれませんね。」

女神がそう呟くと人々の熱狂は氷点下に落ちた。

いや、厳密には周囲に広がる霜柱を踏みしめた人々が老若男女問わずその体の内部を凍結させられていた。

物理的に頭を冷やす事になったのだ。

 

女神は真っ直ぐ捕らえたジャンヌ・ダルクの方へ向かう。

道中の間に立つ手を繋いだ親子や少年の氷像をなぎ倒しながら。

彼らは当然、先程のワイバーンと同じ末路をたどった。

 

 

 

 

 

 

「…皆が皆悪い訳無いじゃない。」

 

オルガマリーは女神を止める事が出来なかった事に後悔するが、それは無駄で無意味な事であった。

 

 

 

 

 

 

何故なら、神には人の心が解からない。

それはごく当たり前の事なのだから。

 

 

 

 

「貴女は、貴女は一体何をしたのですか。」

 

「何故なのでしょう。貴女を助けてあげたというのに。

何故感謝の言葉を最初に述べようとしないのですか?」

 

 

余りの女神の残酷さにその理不尽が理解できないと怒りさえ構築できずに呆然とするジャンヌ・ダルク。

そしてその感情が全く理解できない女神。

 

その思考の中では、最初に氷で動きを封じた事を怒っているのだろうか?

あまり、私に従順で無いのなら改竄してしまいましょうか。

と何時もの平常運転であるが、やはり何時ものようにその表情だけは美しい微笑が乗せられている。

 

「何故、人々を殺したのですかっ!!」

 

それに耐えきれなくなったジャンヌは慟哭するが、女神にはそれこそ理解ができない。

 

「貴女の敵だったのでしょう? ジャンヌ・ダルク。

それに、今後のフランスを担うような優秀な個体は遺伝子を精査しても見つからなかったので大丈夫ですよ。」

 

ゾッとする様な発言にジャンヌは声すら失う。

だが、女神にはそんなジャンヌの感情を推し量るよりも確認すべきことがある。

 

「貴女が今回の元凶ですか?

貴女を此処で殺せば今回の事変は解決と言う認識で良いのですか?」

 

女神は指の隙間に氷の刃を生成してジャンヌの首元に近づけた。

 

 

 

血の気の色も失ったジャンヌに女神は少し痛めつかないと吐かないかと判断し、

少し押し込んで首筋をなぞる。

それだけで、刃は薄皮を切り裂いた。

 

ちょっとどちらが悪役か解からなくなる状況にマシュが制止を掛けようとするが、

恐らくそれを聞きそうにない。故にオルガマリーにそれを頼もうとしたが、

女神のマスターは既に動き出していた。

 

 

「ちょっと、やりすぎよっ!!」

 

 

それは殺された人々も含めての発言だったのだが、

女神には頸動脈を急速に冷やしては喋りにくいと言っているように聞き取れた。

 

「そうですね。やりすぎたかも知れません。」

 

 

女神がそう言うと女神が生成した氷の拘束が全て砕け散った。

地に倒れ伏しながら首元を押さえるジャンヌに女神は問う。

 

「先程の質問をもう一回だけ繰り返してあげましょう。

貴女を此処で殺せば解決するのですよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いえ…違います。

今回の事件は『もう一人のジャンヌ・ダルク』によるものです。」




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