凍れる女神   作:蕎麦饂飩

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第五話 『きょうしん』

もう一人のジャンヌ・ダルクという言葉。それを信用するかどうかは女神には簡単な事だった。

少し中身を覗けばよい。本人の同意があるならば簡単だった。

無論、全身に氷の刃を後少し動けば刺さる様に生成されれば同意せざるを得ないだろうが…。

 

 

ジャンヌ・ダルクの精神から直接情報を得た女神一行は取り敢えず近くの町に行く事にした。

出発前に女神が、

 

「もう此処には情報源が無さそうですからね。」

 

と自らが凍死させた人々を視線で流しながら告げる様にジャンヌは唖然としていたが、

マシュに、

 

「こういう方です。…慣れるしかありません。」

 

と諭されていた。

 

 

道中、オルガマリーは女神に尋ねた。

「ところで、あの空の光の帯は何かしら?」

 

その問いに対して女神は、

「アレですか? ああ、さして気にしなくても大丈夫ですよ。」

そういいながら、彼女の主から顔を背けた。

その女神の顔は、不可思議なほど笑みに満ちていた。

 

 

 

 

 

 

次の町へ近づいたとき、オルガマリー達は町が燃えていることを知った。

女神は随分と前からそれを近くしていたようで、

 

「ええ、燃えていますね。」

 

と何時もの微笑である。ホントに彼女にとって価値がある人材以外には素敵なほどの塩対応。

燃えようが凍りつこうがどうでもいいというスタンスである。

 

「燃えていますね。じゃないわっ!!

早く行かないとっ!! まだ生きている人がいるかもしれないじゃない。」

 

立香ならきっとそうする。だからわたしもそうしないとっ!!

自身の犠牲になった立香に恥じないマスターであろうとするためにも、

オルガマリーは燃える町へと駆け出した。

 

 

マスターの知識だと(・・・・・・・・)どうせこの世界は異変を解決したら消え去るというのに、

人々を救う意味なんて何処にあるのでしょうね。」

 

そう呟く女神を背後に残したまま。

 

 

 

 

 

とはいえ女神はマスターを特攻させて死ぬつもりはない。

オルガマリーについて駆け出そうとするジャンヌから魔力や生命力の8割を奪って自身の力と変え、

町全体を冷却した。

 

燃え広がる町が一瞬にして冷却されて鎮火した状況にオルガマリーは、

もしかしてやっとわたしのサーヴァントも人命の尊さを理解してくれたと考えたが、

その直後、あれだけの炎を一瞬で鎮火する吹雪に人間が耐えられるわけがない。

と、先程の村の状況を思い浮かべて落ち込んだ。

 

 

それでも、それでも誰かは生きているかもしれない。

きっと、きっと立香ならそうする筈だから。

 

オルガマリーはそう信じて緩まった速度を再び上げて駆け抜ける。

そしてその先に人影を発見した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寒いわ。ジル、一体どうなってるのっ!?

今日の天気は晴れ時々猛吹雪だったかしら。」

 

「おおジャンヌ、浅学の身ゆえ天気には一言がありません。申し訳ありません。」

 

 

 

そんなコントの様な会話を繰り広げる二人の片方はジャンヌ・ダルクそっくりで、

オルガマリーは、解かりやすい位真犯人が見つかった事に少しだけ喜んだ。

 

コント系主従の他にも彼女らの仲間らしき者が数人いる。

カーミラとヴラド三世。共に高名な吸血鬼だ。

気配からして何れもサーヴァントだろう。そんな中に一人で駆け抜けてきた自分に、

ついて来てくれなかった仲間達にオルガマリーはイライラしていた。

 

 

「ちょっと、私のサーヴァントはどうしてついて来ていないのよっ!!」

 

 

プッツンして叫んでしまったオルガマリー。

しかもその声量と、持ち得る魔力。

そして何よりもサーヴァントと言う言葉に敵が気が付かず見逃してくれるはずは無かった。

 

 

 

「…ジャンヌ、貴女に徒名す者が来たようです。」

「なら殺すだけじゃない。他に何か選択肢が?」

 

 

 

 

そう言って黒いジャンヌは武器をオルガマリーに向けた。

黒いジャンヌの周りにはワラワラとグールやワイバーン達が集まってきていた。

彼らは揃いも揃ってオルガマリーの方を向きながら涎を垂らしている。

 

 

それは黒ジャンヌに付き添うジル・ド・レェが「やれ」と有象無象の配下に命じようとしたのと同時だった。

グールやワイバーン達は一斉にジルの制御を離れて襲い掛かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、彼の大事な大事な魔女、ジャンヌ・ダルクを。

 

 

 

完全な油断から致命傷では無い者のかなりの怪我を負ってしまったジャンヌ・ダルク。

それと同時に地面から氷の杭が一斉に伸び上がり、更にジャンヌの身体を抉った。

 

 

「ジャンヌゥゥッッ――――――!!」

 

悲痛な声を上げるジル・ド・レェ。

苦痛と混乱で声も出せないジャンヌ・ダルク。

杭の方向の為に思い切り堕ちた聖女の血を浴びる事になって、唇を舐めているカーミラ。

自身の代名詞である杭を先んじて使われたことに地味に悔しそうなヴラド。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそんな彼等を何時もの薄い微笑で嘲笑うかのように彼女のマスターの横に降り立った女神。

 

「ちょっと、遅かったじゃない。怖かったんだから。

凄く恐かったんだから。」

 

 

泣きそうな少女を抱きしめる女神。

見る者によっては慈悲深い女性に見えるのだろう。

だが、この惨状を引き起こした者が慈愛に満ちている筈が無い。

 

 

「…そういえば、マシュとジャンヌは?」

 

落ち着いた少女は当然と言えば当然の事を尋ねた。

 

女神的には、彼女達は置いてきた、この戦いにはついてこれそうにも無い。

と言っても良かったのだが、

「ジャンヌ・ダルクは先程迄の疲れが出たのか突然倒れてしまって、

その隙を襲われないとも限らないので盾の少女を護衛に置いてきました。」

 

等と言う北欧神話のトリックスターも驚きの詭弁を述べた。

勿論この間二人だけの世界であり、敵達の事はガン無視である。

 

 

「コロスッ、絶対にコロスッ!!」

 

「いけません、聖女よ、この状況では万が一の事が――――――」

 

 

そう激昂するジャンヌを諌めるジル。

だが、彼が懸念する万が一の事が此処で起きてしまう。

 

 

 

吸血伯爵夫人(カーミラ)の爪がジャンヌの首筋を切り裂いた。

 

「裏切ったかっ!!」

もう一人の吸血鬼がその杭を以って反逆者に裁きを下した。

 

 

 

だが、カーミラは自身が行い、行われている状況がまるで理解できない様子。

倒れたジャンヌの首元に突き刺そうとしている右手を左手で押さえながら、

「離れなさい。そして弱い私を殺しなさい。」

 

その様な事を告げられたジャンヌは唖然としてしまった。

この状況を正確に理解して行動を採れたのは一人だけ。

 

ワラキア公ヴラド・ツェペシュだけであった。

「その覚悟、見事だ。」

 

 

ヴラドの呼び出した大量の杭が一斉にカーミラに突き刺さる。

そしてカーミラは消滅し、――――――その魂は女神に貪り食われた。

 

 

 

 

 

「悪くない味ですね。ええ、実に悪くありません。」

出来れば、一度味方からの裏切りに、いえ、フランスからの裏切りを含めて二度も裏切られて、

味方からの攻撃は無いというお目出度い聖女の魂もここで喰えるのなら良かったのですけれどね。

 

最早、狂ったジル以上にいい悪役をしている女神はナチュラルに煽り立てる文言を重ねて呟く。

 

 

「ああ、ジャンヌゥゥッッ!! ジャンヌゥゥッッ!!

これは、これはどういう事ですかぁっ!?」

 

もはや虫の息のジャンヌ・ダルクを抱えながらジル・ド・レェは叫ぶ。

 

「余らの特性を見抜いたあの女が、敢えて血が掛かる様に最初の攻撃をかけ、

本能的に血を浴びて歓喜に染まった一瞬を捕らえて、我等の精神に呼びかけて掌握したのだ。

余は何とか早い段階でそれに気が付けたが…」

 

「そんなことはどうでもいいのです。それよりもジャンヌがぁぁぁぁ。

…いえ、今はこの場を去らなくては。ジャンヌは戦えませんし、貴方も信用できません。

いえ、人格を非難しているわけではありません、ただ…」

 

「解かっている。余にももしもの時に精神を掌握される可能性が高いことぐらいは。」

 

この局面に来てジルの元帥としての冷静な判断に、せめてもの忠義で答えようとするヴラド。

生前裏切りに倒れた身としては、亡霊(サーヴァント)として蘇った上で自分が裏切る側に回りたくは無かった。

先程はその精神力もあって耐え抜く事が出来た。

だが、次は?

それは判らない。気位の高い伯爵夫人すら抗えなかった支配の力。誰も彼もを敵と看做す化け物なら兎も角、

意識を持つ者の敵味方の概念を狂わせるくらいの事はやってのけるだろう。

次は、自らが裏切る番かもしれない。

――ならば答えは一つにしか在らず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行け、ジル・ド・レェ。例え狂っていようとその忠義見事であった。

余もそれに答えよう。

女共よ、―――――――――――此処から先は生きて通れぬものと知れ。」




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