人の身としては、人外の身としては、それはもうヴラドの覚悟も能力もそれはもう見事なものだった。
だが、神には届かない。
意趣返しの様に氷の杭だけを使ってヴラドを阻み、傷つける女神。
女神は知っている。何せ世界をずっと見守って来たのだ。
主要な人物の最期位は把握している。
故に、効果的で悪辣な手を難なく打てる。
戦闘には全く関係ない、全く必要が無い。
氷の塔を女神のマスターであるオルガマリーのシェルターとして構築する。
地上から塔の頂上に押し上げられたオルガマリーはその高さ故に足が震えていた。
その塔とマスターを眺めながら女神は嗤う。
「見覚えがあるでしょう?」
「ポエナリ…。エリザベータ…ああ、エリザベータ。」
ヴラドは最初の妻が彼を思うがあまり身を投げた塔の再現を見て、オルガマリーに亡き妻の姿を幻視してしまった。
――それは、致命的すぎる隙だった。
吸血鬼として名を馳せたヴラド3世は氷の杭によって串刺しの刑として処され、此度の生を終えた。
その魂を女神に貪られながら。
「人間って脆いものなのですね。ええ、ヴラド・ツェペッシュ貴方はまさしく人間だった」
オルガマリーは会話が聞き取れなかった故に何が起こったかは理解できなかったが、
これだけは理解できた。
「ちょっと、終わったのなら早く下ろしてよ。」
彼女は高い所が得意では無いのである。
オルガマリーを地上に下ろすに少し遅れてマシュ達が到着した。
何か言いたそうだったが、それを聞くのが面倒だったので、女神は此処で起きたことを説明した。
そのまま押し通してしまおうという考えだった。
「…もう二人は、逃げたのですね。」
ジャンヌがそう言うと女神はうなずいた。
ある程度、情報が共有できたので、余計な事を喋られる前に近隣の町へ移動する事を女神は提案した。
ジャンヌに人通りが多い所は何処かと聞いた女神の考えを疑えばこの後の惨劇は起こらなかったのだろう。
だが、此処で誰もそれを聞かなかった。
ジャンヌが知る近隣ではフランスで大きな町に着くと、
女神はかねてから用意していた策を実行した。
まず最初に弱っていたジャンヌを吸収しつくした。
呆然とするオルガマリーと、女神を睨むマシュを無視して女神は町に呪いをかけた。
『ジャンヌ・ダルクを
という簡単なものだ。
それには自身や愛する者の命よりも優先させ、その上関わった者に感染する呪いだった。
要するに、先程呼び出されていたグールによる人海戦術の意趣返しである。
例えその者が生きていても死んでいても精神力や対魔力が強くない限りは呑み込まれてしまうという代物だった。
交通の便が良い大都市であるが故に、その呪いは拡大して確実に黒いジャンヌ・ダルク、
いや、もはやこの世に一人しかいないジャンヌ・ダルクを追い詰められる。
「再び、ジャンヌ・ダルクはフランスに殺される。」
それを得意げに話す女神。
「何でよ。どうして味方のジャンヌ・ダルクも犠牲にしたのっ!!」
オルガマリーの発言は正義を持つ者にとっては当然の疑問だった。
だが、合理性しか追求しない者にとっては当然の愚問だった。
「まず、
それに、活かして使うより、私の養分にした方が費用対効果が得られる計算が得られました。
長く使うのなら無理やりにでも受肉させて優秀な子孫量産器にしても良かったのですが、時間がかかりすぎるので。
第一、ジャンヌ・ダルクは悲劇で終わるまでが役目でしょう?」
そう告げる女神に思わず平手打ちを仕掛けたオルガマリー。
けれどもそれは成功に能わず。女神は何時もの微笑でその手を受け止めていた。
ここで感情で言っても通用しないと理解したオルガマリーは論理的に女神を責める事にした。
「歴史を崩さない為に此処に来たのに、これ以上歴史を狂わせようとするのでは無意味どころか害悪よ。」
それは、特に深く考えた訳でもなく、ただ女神を非難する言葉を探していただけだった。
――故に、反論される。
「大丈夫ですよ。
その反論のソースはオルガマリー自身の知識。
彼女の反抗は瞬く間に冷却された。
落ち込まされたオルガマリーと最初から失望しているマシュ。
故に彼女達は一瞬歓喜の色に満ちた女神の顔に気が付く事は出来なかった。
町中でジャンヌ・ダルクの首を刎ねろという歌が聞こえるようになった頃、
一同は2人のサーヴァントと出会った。
一人はスカト□系ミュージシャンアマデウス。又の名をモーツァルト。
そしてもう一人は、
「マリーよ。可愛過ぎて御免なさいね。」
マリー・アントワネット。フランス国王ルイ16世の妻にして、
「ハプスブルクの宝石…此処でまた逢えるとは…。」
何やら感慨深そうな女神に関係者かと一同は訝しむが、
当のマリーすら、
「お逢いしたことがありましたか…?」
ここまでの絶世の美女に知り合いは居ない筈だから…。
と悩み始めている。
「ええ、ええ良いのです。
貴女がハプスブルクであるというだけで私には価値があるのです。」
「それはどういう…?」
訝しがるマリーに対して、女神はマスター以外ではこれほど優しくしないであろう態度で接している。
これが、一般人相手なら心臓だけを凍らせて殺害しているところである。
「かつて、貴女達全てを見守っていたこともあったというだけです。」
この『貴女達』にはあらゆる王侯貴族が含まれているのだが、そこまでは告げる必要はない。
だが、この言葉でこの場にいる者全てがこの女性が人間の類でないことを理解した。
マリー達を見守る。
それに該当するのは祖霊かそうでなければ神霊や精霊の類であり、
マリーは肖像画ですらその姿を知らないという。ならば神霊か精霊の類だろうと。
故にフリー・メイソン等の秘密結社に所属し、彼の神霊に見当がついたモーツァルトは尋ねた。
「何と、御呼びすれば宜しいでしょうか?」
解答など決まっている。
「そうですね、
未だかつてこんな胸糞悪い解決法でヴラドさんを倒したオリ主がいただろうか?
信仰
侵攻
新興
神効