外に出ると、もうすっかり暗くなっていた。ツクモはのび太の背中で気持ちよさそうに寝息を立てていた。気温も随分下がってきたため、自分の着ていた上着をツクモの上から羽織る。
「あんまり、遅くなるようだと、交番に頼るしかなくなるな・・・・・・・」
「そうだね・・・・。でも、本当にツクモの両親はどこにいるのかな。」
のび太達は少しの間、とぼとぼと公園の中を歩いた。
「ツクモ、・・・・・・・かわいいね。」
「そうだな。」
「なんだか、ツクモとずっと一緒にいて、本当の母親になった気がしたの。」
「僕も、父親になるってのはこういうことかって思った。」
二人の間にしばらく沈黙が訪れた。そして、クロメが口を開いた。
「あのね、のび太。昨日のことなんだけど・・・・・・」
「うん。」
「ほら、私・・・・・・・両親に捨てられたでしょう?だから、子供と親の関係っていうのに、少し敏感になってただけ。いつもみたいに、簡単に考えられなかっただけ。」
クロメは、淡々とまるで自分でも噛みしめるように言葉を紡いだ。
「でも、もういいんだ。」
「もういい?」
「ツクモの話を聞いてて思ったの。大切なのは自分たちが、いかに子供のことを考えてるかってこと。どのみち、どうするのがいいのかは、結果が出てみないとわからないもん。」
「ただ、その結果が子供のために、できるだけよくなるように、頑張らなきゃいけないってことだよね。」
「あのとき、のび太と私が本当に子供の事を考えていたのなら、どっちが悪いとか、どっちが正しいなんて、ないよね。」
「だよね。」
そんなことを話し合うのは、まだまだ気が早い気がするが、それでものび太とクロメの絆をまた少し強くした気がした。
「それで仲直りって事でいい?」
「うん、いいよ。」
のび太はそう言って、ツクモを片方に寄せ、手を差し出した。
「じゃあ、仲直りの握手!」
少し冷たくなったクロメの手。のび太は細くて綺麗なその手をぎゅっと握った。
「握手だけじゃ・・・・・・もの足りないな。」
クロメはそう言って、のび太の頬に、ちゅっと軽いキスをした。
「あ、パパとママ、キスしてる〜」
「わ、」
「あわわっ。」
いつの間にか、ツクモが目を覚ましていて、のび太とクロメのことを見ていた。流石に、さっと距離を取るのび太とクロメ。互いに視線をそらして、黙り込む。
「パパ、降ろして。」
「えっ?」
背中から飛び降りようとするツクモを制し、ゆっくりとしゃがんでそうって降りさせる。
「どうしたの、ツクモ?」
ツクモはたたたっと走り出し、のび太とクロメの前に、ちょん、とすました立ちポーズを取る。辺りを見回すと、時々だが雪が降り始めているのが見えた。はらり、はらり・・・・・・。地面に落ちてもすぐに溶けて消えてしまうような雪だ。
「ほら、雪が降ってきたよ。風邪を引くからこっちにおいで。」
「ツクモね、約束したんだ。雪が積もったらね、一緒に雪だるまを作って遊ぼうねって。パパとママとね、約束したんだ。」
雪が降る。はらはらと、次から次と降ってくる。そして、消えていく。積もることなく、消えていく。はらはらと、髪の先や、鼻の頭をかすめながら、はらはらと降ってくる。いつの間にか、雪が足下に積もっていた。積もるはずのない降雪量なのに、いつの間にか、公園にはうっすらと雪が積もっていた。世界が白く変わっていく。
「小さな雪だるまなら、作れそうだぞ。」
のび太は、足下の雪をすくい、小さく丸める。
「小さいのじゃないの。大きいの。すごく大きい雪だるまなの。」
ツクモがくすくすと笑う。
「ツクモ、こっちへおいで。一緒に雪だるまを作ろう。」
のび太は、丸めた雪の玉に、それより少し小さな雪の玉をくっつける。
「カワイイ雪だるま。でもーーー」
ツクモが、足で積もった雪を蹴る。
「でも、ツクモね、そろそろ帰らなきゃ。」
「帰る?帰るって、どこへ?」
「決まってるでしょ?ツクモのだ〜い好きな、パパとママのところ。」
ツクモが嬉しそうな笑みを浮かべる。
「ねえ、パパ。」
「ツクモちゃん。」
「ママ。」
「ツクモ。」
「ーーーー二人ともツクモのこと好き?」
ツクモが、頭をちょこんと右に傾げる。のび太とクロメは顔を見合わせる。
「僕は・・・・・・パパは、ツクモのことがだ〜い好きだ。」
「私も・・・・・・ママも、ツクモのことがだ〜い好きだよ。」
そう言うと、ツクモはにこーと、まるで天使のような笑みを浮かべて、
「ツクモも、二人のこと、だ〜い好き、だよ。」
と言った。
「じゃあね、パパ、ママ。ツクモは帰るね。」
ツクモはそう言うと、くるりと長い髪を翻しながらこちらに背を向けた。そして、最後にもう一度、のび太とクロメの方を向き、ぱたぱたと手を振り、駆け出した。のび太は、ふいにその姿がもう二度と見られないような気がした。
「ツクモちゃん!」
「ツクモ!」
のび太は、声を張り、ツクモの後を追いかける。白い雪がはらはらと降る公園の中を追いかける。
「ツクモ、持って!」
ツクモがぱたりと足を止める。のび太は、ツクモに追いつき、腰を落とす。そして、両手で持てるほどの小さな雪だるまをツクモに差し出す。
「ツクモちゃん、どこへ行くの。ほら、雪だるまだよ、小さいけど・・・・」
「パパ、約束したのは、もっと大きな雪だるまだよ。」
「もっと積もれば、大きいのが作れるよ。」
のび太はツクモの手を取り、雪だるまを手渡そうとする。ツクモがにこーと笑う。だが、雪だるまはツクモの手をすり抜け、べしゃりと、地面に落ちた。
「・・・・・ツクモちゃん?」
ツクモの姿はーーまるで雪が消えてしまうのと同じように、のび太の目の前から消えてしまった。思わず、クロメと顔を合わせ、目をごしごしとこすり、もう一度ツクモのいた場所を凝視したが、やはりツクモの姿はなかった。彼女が立っていた足跡は、降り続ける雪でかき消えてしまった。ツクモのいた痕跡は、跡形もなくなっていた。彼女は・・・・、ほんの数時間だけ、のび太とクロメの子供だったツクモは、どこかへ消えてしまった。
のび太の結婚相手は?
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