「お待たせしました。こちらストローベリーチョコ生クリームになります。いらっしゃいませーっ。クリームチーズにブルーベリーヨーグルトですね?合計で850円になります。」
「おー、やってるやってる。」
やはり休日&ゲームセンターの近くにあってか、店は大層な混雑ぶりだった。部活帰りの学生、買い物帰りの奥様方、自分と同じくプー太郎風味の連中と、客層も特に偏りがあるわけでもなくバラエティー富んでいる。
「チェルシーさん、ごめんメイプルナッツもお願い。」
「わかりました。」
(すごいな、これだけの客を1人で捌いてるのか・・・・・)
店先にはチラチラとチェルシーの姿。レジ、接客、クレープ作りと、客の流れを見てはそのすべてを完璧にこなすマルチプレイヤーと化している元殺し屋。
「春の新作クレープ・・・・・・・。抹茶アイスと黒蜜入り生クリームに、苺とサワークリームのフレッシュクレープ・・・・・・・」
やばい。昼食を食べたばかりだというのに、妙に食欲が湧いてきた。
「抹茶アイスと黒蜜クレープ・・・・・・」
食べたいけど男一人であの列に並ぶのは恥ずかしい。部活帰りの女子グループに、カップルや子供連れ・・・・
「本当に男一人で並んでる人とかいないのかな・・・・・。」
残念だがここは一旦一人で突入するのは諦めることにする。
「あれ?珍しいな、お前こんなところでなにしてんの?」
「じゃ、ジャイアン・・・・!!」
「な、なんだよ。なんて顔してんだよ。」
今まさに、偶然のび太の元に天の助けが舞い降りる。
「で。だから何でお前がこんなところに並んでんだよ?」
「そんなのクレープ食べるために決まってるでしょう。」
二人して場違いな列に並ぶのび太たち。ジャイアンの無粋な顔の効果もあってか、最前列の方からは女性陣の密かな笑い声が・・・・
「お、おい、なんか俺たち笑われてんだけど・・・・・」
「クスクスクス・・・・・」
「なんでお前まで一緒になって笑ってんだよ!そもそもお前が無理やり俺様を列に引き込んだんだろうが!!」
ジャイアンは顔を真っ赤にし、のび太の頭を殴る。
「いたたた・・・・・・まあまあ落ち着いて、僕だって強引に付き合わせて悪いと思ってんだ。ちゃんと好きなモノ奢ってあげるから。」
「本当だろうな。」
レアチーズにストロベリー、デザート系のクレープならなんでも来いだ。ハンバークやらチキンが入った総菜系は値段が割高なので除外する。
「でも俺、ここは良く通るけど実際クレープ食うのは初めてだな。」
「大丈夫、僕も同じさ。そもそも男だけでクレープ食べに来る用事ってあまり無いし、むしろそれが自然だ。」
列がどんどん前に進んでいき、ついにのび太たちの順番が回ってくる。
「いらっしゃいませー!」
「いらっしゃいました。」
「っ!?な、なんでのび太がこんなところにいるのよ!」
「そんなこと言われてもな、僕、今は客で来たんだが・・・・」
「えっ・・・・・・・うん・・・・」
その場で慌てふためくかとおもいきゃ、その場で赤くなり縮こまってしまうチェルシー。
「のび太って自分からわざわざクレープ買いに来るような人じゃなかったよね?」
「そうなんだよ。でも通りすがりに偶然ジャイアンに会ってさ。クレープ食べたいけどどうしても一人で並ぶのが恥ずかしいとかゴネてきて・・・・・」
「俺何も言ってねぇよ!!のび太が無理矢理クレープ食おうぜとか言って来たんだろうが!!」
「あ、抹茶アイスのやつ二つね。」
「俺様、生チョコとアーモンドが良かったんですけど!!」
馬鹿、二人して別々の物頼んだらチェルシーに余計な手間をかけさせることになるじゃないか。
「しょ、少々お待ちください・・・・・・」
ぺこりと一度頭を下げ、奥のクレープ台の前に歩いて行くチェルシー。レジで小銭を補充している店員に代金を渡し、後はチェルシーがクレープを焼いてくれるのを大人しく待つ。手慣れた手つきで生地を薄く伸ばし、さっそくのび太とジャイアンの分、抹茶アイスが包まれることになる生地を焼き始めるチェルシー。時折こっちを嬉しそうに見てくるチェルシーが、なんとなく可愛くて笑ってしまった。
「すげぇ手慣れてるなぁ。俺なんかホットケーキすら満足に焼ける自信ないぞ。」
「うん、僕もさ。僕たち同類だねっ!」
「何そのすげぇ嬉しそうな顔・・・・・。それよりお前、チェルシーちゃんがいるからここに顔出したのか?」
「ま、まあそうだけどさ・・・・・」
ジャイアンの顔色からして何を言いたいのかがすぐ分かる。いくら彼女のことが好きだとはいえ、これじゃ仕事中のチェルシーの邪魔になるだけだと言いたいだろう。
「これ食べたらすぐに帰るさ。別に僕、チェルシーに迷惑かけたくてここに居るわけじゃないしね。」
「お前、ちょっと大人になったな。」
「お、お待たせしました・・・・・。抹茶アイスと黒蜜クレープになります・・・・・」
「あ、ど、どうも・・・・・ありがとう、チェルシー。」
「う、うん・・・・。ごめんなさい、大したお構いも出来なくて。」
「いや、チェルシーはただ普通に仕事してるだけなんだから気にしなくていいって。」
「ただちょっと、一目様子を見にというか、なんか考え始めたら妙に落ち着かなくてさ。」
「そ、そうなんだ・・・・・」
何やら照れ以外にもそわそわとしているチェルシーの様子。良く見ると店内にいる残りのスタッフから、妙に生暖かい目で見られているのび太たち。
「あ、えっと・・・・やっぱごめんね。迷惑だったよね。」
「め、迷惑なんかじゃ・・・・・・ないから・・・・・・」
「え?」
「そ、その・・・・・ヘンな気を遣わなくていいから。またクレープが食べたくなったら気軽に顔出して?私も、その方が不思議と頑張れる気がするから。」
「う、うん、わかった・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
あ、あれ?チェルシーって照れるにしてもここまでしおらしいキャラだったっけ?
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
「あ、あの。俺邪魔みたいなんでもう行っていい?」
今まで黙っていたジャイアンが声を上げる。
「『あれ?ジャイアン(武)居たの?』」
のび太とチェルシーの言葉がハモった。
「居ないこと前提か!そんなに俺の存在って邪魔なのか!?」
ギャーギャーと騒ぎ出すジャイアン。煩い奴だ。
「ごめん。それじゃ僕もう行くから。チェルシーは仕事終わったらそのまま帰るんでしょう?」
「うん、そのつもり。のび太も寄り道しないで早く帰ってね?あまりフラフラと外出歩くと、余計な出費がかさんじゃうから。」
「うん、そうだね。それじゃ。」
「うん、また明日。」
なんでだろう、夕食の時間になれば僕たちは顔を合わせる。時間にして何十時間もあるわけじゃないのに、それでも今ここで自分と別れるのをホントに寂しそうに見送るチェルシー。
「・・・・・・・・。」
何かどこか心に引っかかりつつも・・・・・・
「おい、行こうぜ。」
とりあえず今はこれ以上チェルシーの邪魔はしないようにしょう。そう素直に頭に言い聞かせ、そのままクレープ屋の前を後にした。
のび太の結婚相手は?
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アカメ
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クロメ
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チェルシー
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シェーレ
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レオーネ