SF   作:黒神 真夜

7 / 9
覚醒の転

有名同人、HKNの始まりは授業中に暇だったから描いたラクガキから始まった。友達から上手いねと言われて調子に乗り、さらに上手いと言われたいから、SNSに投稿したりして、気がつけば人気絵師になっていた。だけど、いつからかな...期待されれば期待されるほど、昔は嬉しかったのに、それが苦しくなってきたのは...

 

スケッチブックに目で捉えた、光景を描いていく。

今は、アナログ絵より、デジタル絵の方が失敗してもやり直せるし、艶などが綺麗に出せるので人気が高い。

そんな時代に、アナログ絵1本で勝負をしているから、人気なのだろうか...と思いながら目の前の光景を描いていく。

下描きは大好きだ、何も無い真っ白な紙に想像したものが描きたされていく。

 

「あの...まだ、このポーズ取らないといけませんか?」

目の前のモデルが喋りかけてくる。

 

「もうちょっと、待っててくれる。」

そう言うと、もう1人のモデルがマジですか、見たいな顔をしてきたが、これもまた、イラストに自然性が生まれていいのではと、描き足していく。

 

「はい、ラフだけど、取り敢えず描いたよ」

そう言って、前の2人に見せる。

 

「岩森...やっぱり、神様だよ。HKNさんは」

そう言って、黒髪ロングの子が喜んでいる。

 

「た、確かに...これは、なかなか...けど美化され過ぎじゃ」

そう言って来る子は、ピンク髪のロングっ子、黒髪ロングの子を妹に見立てるなら、この子が姉だろな...と脳内設定を膨らませる。

 

「後は、家でやるから、写真だけ撮っていい?」

 

「え?この状態で撮るんですか?」

ピンク髪の子が慌てた表情でそう言ってくる。

 

「参考画像にね、ほらほら、ポーズ決めちゃって」

 

「そうだよ、岩森、HKNさんに協力しなちゃ」

 

「う、分かったよ...」

そう言って、2人が向かい合うと、指を絡み合わせ、ピンク髪の子が、黒髪ロングの子に押し倒される感じで、ロッカーにもたれかかる。

我ながら、完璧なシチュエーションだと思う。

普段はこう、身長差的にも、姉っぽいピンク髪の子が先導しそうだが、これは真逆...これは、うん。違う意味でギャップ萌えだね

 

「あの...早くしてくれませんか」

ピンク髪の子がストレートに言ってくる。

 

「はいはい、りょーかい。撮りますよ」

そう言って、写真を撮らせて貰って、解散した。

明日には、完成してると言って家に帰った。

家に帰ったと行っても、実際にはマンション一室な訳だけど...

部屋に戻って作業を再開する。

ラフを綺麗にして、下描きにする。

だいぶん形になってきたなと、絵全体を見てみる。

やっぱり...素材がいいよなと、参考画像と共に眺める。

 

「どうしちゃったんですか?井上先生」

後ろから、突如声をかけられる。

ヒィッっと叫んでしまったが、後ろを見る。

 

「なんだ...姉ちゃんか...仕事終わったの?」

 

「うん、今さっきね、ご飯作るから、ちょっと待ってね」

そう言って、姉がキッチンへ向かった。

手伝おうか...その一言が言えなかった...

 

下描きをSNSにアップする。

完成楽しみです、神だったのか...などのコメントを見て、思わずニヤついてしまう。

これは、見てくれてる人のためにも、頑張らないとな...そう言い聞かせて、ペン入れを始めた。

 

「志帆、ご飯出来たよ。」

そう言われたので、作業をやめて、姉の元へ向かった。

 

「頂きます。」

そう言って、ご飯を食べる。

 

「姉ちゃん...美味しいよ。」

そう言うと、姉は喜んで、そうかそうか、と言った。

 

「姉ちゃん...私ね、車のエンジンのECU改造することになったんだ。」

 

「へぇ、志帆がね、なにか困ったらお姉ちゃんに聞くんだよ」

姉は、と言うか...我が家、井上家は先祖代々、コンピュータの制御システムなどを手がけている。岡山県にある中堅企業だった。

私か。姉どちらかが、家を継ぎなさいと父から言われた。

私は機械音痴だったので、候補は姉と言う事で話は進んでいた。

 

だけど、姉のコンピュータのノウハウは天才的だった。

家の企業では、オーバースペックで大手企業からも、スカウトが来ていた。

 

私は、そんな姉に嫉妬して、私は私の世界で生きようと思って、絵の世界に潜り込んだのかも知れない。

そして、いいねの数が多かったり、尊敬コメントを眺めたりして、私は、こっちの方が向いてたんだと慰める毎日。

 

だけど、そんな日々の中で、姉は姉で悩んだんだと思う。

 

姉の高校卒業式、本来なら、嬉しさと悲しさで家がしっとりしそうなこの日、姉は家の会社では無く、大手企業に行かせてくださいと志願した結果、親から猛反対され挙句、家を出て行った。

 

余りにも、衝撃的で、私がホノボノと過ごしていた日々の中で、姉は悩んでたんだと思う。私は...何をしていたんだろう。そう思った...現実に立ち向かわず、ただ逃げて...周りのことを考えていなかった、姉の相談に乗ればよかった、同じ部屋で暮らしていたから、そうすることも可能だった。

私は...逃げてただけだった。

 

そこからは...そんな自分を変えたいと思って、絵を極めて、コンピュータだって、改造できるように頑張った。

父がよく、姉より凄いと褒めたが、私には...その期待や、褒め言葉がナイフで刺されたかのように痛く...突き刺さった。

 

高校をどうしようか...そう考えた頃には、新工業高校、東雲工業高校へスカウトされていた。

 

親が、行けばいいと勧めてきたので、そうすることにした。

岡山県から広島県へ、住むことになるが、親が安いマンションを借りてくれた。

 

そうして、私の水のように綺麗で、綺麗ゆえに何も変化のない日々は過ぎていった。

 

広島に引越して、だいぶん町にも慣れてきたので、本でも買いに行こうと思い、本屋へ駆り出した。

 

本屋に着き、目的の本を探す...あった、私の2作目の画集だった。

前作が、結構人気があった見たく、まぁ、その便乗作となる。

 

早速、買おうと手に取ろうと思うと、横にいた、もう1人の方も同じものを手に取る。

 

「あ、ごめんなさい。」

そう言って、手を引っ込める

 

「あれ?志帆?」

へ?そう思い...相手の顔を見ると姉、井上梨紗だった。

 

安いマンションなので、鍵が抜きづらいと若干イラつきながら、ドアを開ける。

 

「お邪魔しまーす」

そう言って、姉が部屋に入る。手にはデカイバックを持って入ってくる。

 

「はいはい、今日だけだからね...」

ついさっき、姉と再開し、積もる話がたくさんあるなと思ったが、姉が早速、ジョーカーを切り出した。

「ねーね、部屋住ませてくれない?」

 

姉曰く、ネットカフェで、過ごしていたらしいが...19歳で大丈夫なのかと思い、連れてきた。

 

「思ってたより、広いね」

そう言って姉がそこまで広くない部屋をグルグル回っている。

 

「おっと...そろそろ。夜ご飯の時間だね。せっかくだし、なんか作りますか...」

 

「私も手伝うよ...」

そう言って、今日だけと言った日々が延長されて行き今現在に至る。

 

「あれ?志帆って車のECUとか触ったことあるの?」

 

「いや...ないかな...」

 

「そ、そうなのね、お姉ちゃんが手伝おうか?」

そう、姉が言ってくる。嬉しかった...私はもちろん

 

「いや、大丈夫だよ。いざとなったら、お願いします」

自分でも、なんでこんな事言ったんだろうと思った。

 

「うん、そうだよね、志帆の成長っぷり私も見てみたいし」

姉の残念そうな顔が脳に残る。

 

部屋に戻って、絵を仕上げる。

カラーペンで、薄い色から濃い色へ重ね塗りする。

カラーペン独特の、消毒液みたいな匂いが部屋に広がる。

この匂いを嗅ぐと、絵を描いてるんだなって、実感できる。

 

よし、出来た...SNSにアップしようと思ったが、あの芳村とか言う子にも協力してくれたし、最初に見せてあげようと辞めることにした。

 

次の日の朝、部室の鍵を開ける。

情報電子部という名の、雑談部、その日やりたいことをやるだけの平凡な部活。部員は私と残りは2人しかいない。

 

私が、部室に入って、お茶を飲み終わるぐらいにドアが開く。

 

「失礼します。」

そう言って、芳村と岩森が部室に入ってくる。

岩森は、寝てるのかってぐらい、眠そうに、歩いてくる。

 

「先生、絵は完成したんですか?」

芳村が、元気よく聞いてくる。

 

「うん、ハイこれ。」

そう言って、完成した絵を渡した。

 

「これは、これは...神ですね」

そう言って、芳村は岩森の方に行き見せびらかしている。

 

「こ、この絵のモデルが自分達って、照れるものがあるね...」

そう言って、岩森が火照る

 

「それで、先生。ECUの方はやって、頂けるんですよね?」

 

「う、うん、もちろん。車持ってきて」

そう言うと、爆音を奏でて、スポーツカーが部室の前にやってくる。なに、この戦闘機...これ。私と同い年が運転するの...お、恐ろしい。

 

「え...えっと、これ自分達が作ったの?」

 

「はい、それで、エンジンのポテンシャルを引き出すために、コンピュータを調節して頂きたいんですけど。」

 

「わ、分かったわ、やって見る。」

そう言って、私は戦闘機を受け取った。

マンションの下のガレージに置くが、ここまで、乗って帰るのだけで、疲れるぐらい速い。

 

今さっき、調べたが、コンピュータのデータ出しは様々なメーターなどから、パソコンにデータを取り入れ、そこから、解析するらしい。

私が思ってた、コンピュータ改造では、無いので...姉に頼もう、そう思った。

 

「ふーん、そういう事があったのね。」

姉が、ヨシヨシと頭を撫でながら、そう言ってくる。

 

「ッ...それで、姉ちゃんは、できるの?」

姉に頭を撫でられ、調子が狂う前に聞いておく。

 

「大丈夫よ。お姉ちゃんに任せてね。」

そう言って、姉と共に工場に向う。

工場と言っても、姉は開発班に居るらしく。姉専用の部屋があり羨ましいと思いながら部屋に入る。

 

「おかえりなさい。梨紗」

部屋に入ると、突如そう聞こえてくるので、ビックリする。

デカイモニター越しに、姉の同僚なのだろうか...高校生ぐらいの子が姉に話しかける。

 

「えっと...お姉ちゃん??」

恐る恐る、姉にくっつく。

 

「そんなに、緊張しなくて大丈夫よ。この子は、私が開発した最新の人工知能、希よ。」

 

「希...?」

 

「そうよ、この子が、世に出れば、どんな、コンピューターだって、軍事規格並に高性能なコンピューターに書き換えられるの、それに、人工知能だから、例えば、車みたいに、気温や湿度、路面によって、戦闘力が変化するでしょ、それを、希なら、そのコンデションにあった、セッティングを自動でしてくれるの。」

 

「けど、これお高いんでしょ?」

 

「ま、まぁ、そうね。けど、これはまだ、プロトタイプだから、これでよければ使ってね。」

 

「お姉ちゃん、ありがとう。皆もきっと、これなら喜んでくれるよ。」

 

「希、これからは、見知らぬ人達の所に、行くけど...元気に過ごしてね。」希は、姉が家を飛び出してまで、創りたかったのもの。それをこんな、簡単にもらっていいのだろうか...

 

「お姉ちゃん、やっぱり...いいよ。」

 

「いいや、いいのよ。本当は希は2ヵ月前には、完成してたの、だけど、世間に出すのが嫌で...希だって、ちゃんと意思はある。この事だけは、忘れないであげてね。」

 

「お姉ちゃん...ちょっと、待ってね...」

私はそう言うと、この風景を紙に収める。

絵を描くのは...好きだ。写真などでも、いいけど、こうやって描くことによって、生まれるものがあると前から思ってた。

それは、その人の思いが、こうやって、紙に描くことによって、伝わる...そういう事じゃないかな。

まだまだ、雑だけど、姉に描いたものを見せる。

 

「お姉ちゃん、私は人工知能について、よく分からない。けどね、お姉ちゃんが大切にしてたから、希も、こんな笑顔が作れるようになったんじゃないのかな...」

 

「志帆...ありがとうね。さぁて、希をこの車に搭載するから、部外者は出た出た。」

そう言って、妹を部屋から出す。

 

「可愛い妹さんでしたね。梨紗。」

 

「そう思うでしょ。自分がやりたいことを貫いていく。あの子の姿に押されて私も、あなたを作るために、家を出れたのよ。だから、あの子が信じた人達を導いてあげてね。」

 

「分かりました。この、エンジンの可能性を全世界に轟かせて見せますよ。梨紗。」

 

「ちゃんと、データ持って帰らないと、オコだからね。」

 

「任せてください...ちゃんと戻ってきます。」

もちろん、冗談だと知っている。

 

「それから...何か、不具合があったら...連絡してね。」

 

「はい、任せてください。」

梨紗が作ってくれたから、そんな物は出ないと知っている。

 

「それじゃあ、しばらくお別れだね...」

 

「はい、梨紗...ありがとうございます。私を生んでくれて、私を導いてくれて、ありがとうございます。」人工知能は感情を持たない。なのに、何かに絞められた気がして、苦しい。

 

「梨紗...早速不具合が出ちゃいました。なんか、苦しいです...」

 

「そうか...言いたいことがあったら、言っていいんだよ」

そう言われた瞬間何か、リミッターが解除された気がする。

 

「梨紗...梨紗と...別れたくないです...」

人工知能は、思いを伝えない、伝えたくても...届かない...梨沙が組んだからなのだろうか...この不具合は...

 

「...私もだよ、だから、二ヶ月怖くて...手放せなかった...けど、嫌だからって、怖いからって...逃げてばかりじゃ...いけないんだなって...年下に教わった...妹に...だから、また会える時を楽しみにお互い生きていこう。ね?」そう言って...梨紗がこちらに近づいてくる。

 

「次会うときは...あなたをこんな、小さいモニターから出してあげる。その時は、一緒に外に出かけよう...一緒に暮らせるようにしよう...そのために、私、頑張るから...」

 

「はい。」

 

「それじゃあ、行ってらっしゃい...」

そう言われた後...急に思考が途切れていく。梨紗がこちらに向かって...なにか喋っているが...聞こえない。

こんな、不具合だらけで、幸せな、人工知能は...私だけ...梨紗ありがとう...そう思ったが聞こえてはいないだろう。

 

それから...2日が経って私の短かったゴールデンウィークも残すとこ1日になった。

 

「ただいま...」

ドアを開けるのが、こんなに辛い日は滅多にないだろう。

妹は部屋で絵を描いているのだろうか...返事がない。

夜ご飯、作らないとなと思い、キッチンへ向かう。

もう、夜なので、明かりつけないと...そう思い、照明器具を照らす。

 

「お姉ちゃん、おかえりなさい」

 

「ヒィッ...ビックリした...」

明かりをつけた瞬間に、目の前に妹が現れる。

私がいつも、妹にしてる事を返された...こんなにビックリするのかと反省する。

 

「ごめんごめん、お姉ちゃんにどうしても...見せないといけないものがあるんだ。」そう言って、妹は私の手を取り、部屋に入れられる。

 

「えっと...なにかな?」

 

「これ、見てよ。結構いい感じに描けてるくない?」

そう言って、妹から渡された、イラストボードを見ると、自分に似た人物と、希に似た人物が、画面越しではあるが、手を取り合っていた。

 

「これは...」

 

「お姉ちゃんと、希をモチーフにして、いつかは...手が取り合える日が来たらなって...」

 

「志帆...ありがとうね...これが実現するように、私、頑張るから。」

 

「うん、それと...これからは、家事は半分私がするから...」

 

「え?けど、私は泊めさせてもらってる側だから、いいよ。」

そう言うと、妹は、頭を突如抱え込んだ...

 

「も、もう、一々言わせないでよ。やるったらやるのよ。」

そう言うと、妹がプイっと外を向く。これは...宥めるのが大変そうだな...と思いながらも笑ってしまった。

 

「な、なに?」

妹の頬が、紅く染まっていた...

 

「いや、幸せだな...ってね」

 

「そ、そう。もう勝手にさよならは、嫌だからね。」

そう言うと、妹がくっついて来る。

 

「はいはい、もうどこにも...勝手に行きませんから...」

そうやって、くっついて来た妹を抱きしめると、温かくて、心が浄化されそうだった。

 

約2ヵ月前の話をしよう。

私が希を社内発表しようとしていた頃の話

 

最後に、希にして欲しいことを聞いた。

そうすると、希は私がこの人のイラスト好きなんだと、ちょっと前に勧めた人のイラストにハマったのか、その人のイラストをもっと見たいと言ってきた。

ネットで画像を探そうと思って、名前で探すHKNと、そうすると、今日がその方のイラスト集の発売日と書いてあったので、奮発して買いに行くことにした。

 

会社の近くの書店に着き、お目当ての本を見つけたので、手に取ろうとすると、他のお客さんの手にあたる。

すいませんと、手を引き、顔を見ると...志帆だった。

 

もしかしたら、希はこの、運命を知っていたのだろうか...いや、無いな。そう思い...眠りについた。

 

「おはよう、お姉ちゃん」

妹に起こされ、朝を迎える。

もう少し寝てたかったが、せっかく起こしてもらったので、辞めることにする。

 

「志帆、今日学校なの?」

志帆が制服に着替えていたので聞いてみる。

 

「部活があるからね...けど、今日はあの、スポーツカーを渡しに行く日だから。」

 

「そっか...行ってらっしゃい」

 

「行ってきます、お姉ちゃん」

そう言うと、妹は春の朝空に消えていった。

 

春は運命を変える季節だと私は思う。

この春、私は色々な事件で人生のルートを変えられただろう。

だけど、それがあっての今があると思うと...私は幸せなルートを引けたのだろうと胸を張って言える。

 

学校へ優雅にスポーツカーで登校し、部室へ入る。

部屋の中には、芳村と岩森がいた。

 

「先生、おはようございます。」

芳村が敬礼して挨拶をしてくる。

 

「井上...おはよう...」

岩森が、お休みにしか聞こえない感じで挨拶をしてくる。

 

「あなた達。ブレないわね...」

そう言うと...二人揃って首を傾げている。

 

「ま、まぁ、いいわ。着いてきなさい。」

そう言って、2人を駐車場へ呼び出す。

 

「先生...もしかして、出来たんですか?」

芳村が元気よく聞いてくる。

 

「まぁ、私の姉が、だけどね。完成したらしいよ。」

 

「井上、お姉さん居たんだ、感謝しないとね。」

岩森も流石に、声に活気が出ていた。

 

「それでね、このエンジンに使った、コンピュータってちょっと...嫌、かなり特殊でね。」そう言うと、私は、スポーツカーの車内に入り、エンジンをかける。甲高い排気音に、血液がドバドバと流されていくのが分かる。そして、私は新たに車内に取り付けられた、液晶画面をタッチする。

 

「井上...これは?」

岩森が不安そうに見てくる。

 

「おはようございます。志帆、そして皆様。」

水みたいに透明で綺麗な声が響く。

画面の中には、私達と同い年ぐらいの見た目の子が映っている。

 

「おはよう。希、これから、よろしくね。」

そう言って、希の顔をタップすると、何ですか?と返事が来た。

 

「え...えっと...先生...ギャルゲー搭載したんですか?」

芳村が恐る恐る聞いてくる

 

「ち、違うの、ちゃんと説明するわね。」

 

「今回あなた達のスポーツカーに搭載したのは人工知能なの、名前は希よ。この子を搭載することによって、車内から声掛けで、スタビの強さ、シートの位置、その他色々、アシストしてくれるわ。」

 

「そ、それは...すごいね...」

 

「ええ、それに、路面状況や、天候が変わりそうだったら教えてくれるし、その日の状態に適した、セッティングを自動でしてくれるわ。」そう言ってネットショッピングの説明如く、解説していく。

 

「そ、そんなに優れたもの...貰っていいの?」

 

「姉が是非とも、貰ってくれってさ...けどね、希にだって、感情や思いはあるの...それだけわ、分かってくれたら嬉しいな。」

 

「任せて、絶対にそれだけは守ってみせるから。」

二人の瞳が、本気だったので信じてみることにした。

 

「それじゃあ、これからこの人達を導いてあげてね、希」

 

「はい、分かりました。志帆、嫌...HKN先生?」

 

「な...なんで知っての?」

いきなりの事に、ビックリする。

 

「梨紗が、自慢の妹だって...絵が上がる度に見せてくれてたので、名前ぐらいはしってますよ。」

 

「な...な...」

顔が熱い...なんで知ってる..姉に私のペンネーム言ったつもりは無いのに...まぁ、私が完成した絵を見せてるから...気がついたのかな?そう思った。

 

「ゴールデンウィークなのに、暇ね...」

そう言って、私はテレビで面白い番組が無いか...探している。

そうすると、メールでも来たのか...携帯が震える。

 

メールを漁ると、新着でメッセージが来ていた。

 

『無事に、希ちゃんが搭載できるスペックのコンピュータが届きましたか?お父さんが、仕方ないな...って言いながらも作ってくれた、自信作です。たまには...志帆と一緒に帰ってきなさいよ。by.HKN株式会社より母より。』

 

「はいはい。分かりましたよ。ありがとう...」

そう呟いて、親へ感謝する。私が自分勝手な行動をしても...ワガママを聞いてくれた。感謝しかない。

それにしても、こうやって、自分の親の会社名をペンネームに使うなんて、志帆も単純よねと笑えてくる。

 

ドアが勢いよく開く。

「お姉ちゃん...」

志帆が顔を紅くしてやってくる。

 

「な、なに?志帆...風邪ひいたの?」

 

「違うわよ...何で、私のペンネーム知ってんのよ...」

そう言われると笑いしか出てこない。

 

「ちょ...質問に答えなさいよ。」

 

「ごめんごめん...で、なんだっけ?」

 

「ちょっと...真面目に聞きなさいよ。」

 

そう妹に叫ばれながら見た空は...今の気持ちを表したかのように雲一つなく、綺麗な空だった...

 

期待されて嬉くない人なんて居ない...それが実現できなかったらと怯えるだけだ...それを乗り越えた時、人は成長できるだろう。

私がちょっと前に読んだ、本にそう書いてあったのを思い出した。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。