有名同人、HKNの始まりは授業中に暇だったから描いたラクガキから始まった。友達から上手いねと言われて調子に乗り、さらに上手いと言われたいから、SNSに投稿したりして、気がつけば人気絵師になっていた。だけど、いつからかな...期待されれば期待されるほど、昔は嬉しかったのに、それが苦しくなってきたのは...
スケッチブックに目で捉えた、光景を描いていく。
今は、アナログ絵より、デジタル絵の方が失敗してもやり直せるし、艶などが綺麗に出せるので人気が高い。
そんな時代に、アナログ絵1本で勝負をしているから、人気なのだろうか...と思いながら目の前の光景を描いていく。
下描きは大好きだ、何も無い真っ白な紙に想像したものが描きたされていく。
「あの...まだ、このポーズ取らないといけませんか?」
目の前のモデルが喋りかけてくる。
「もうちょっと、待っててくれる。」
そう言うと、もう1人のモデルがマジですか、見たいな顔をしてきたが、これもまた、イラストに自然性が生まれていいのではと、描き足していく。
「はい、ラフだけど、取り敢えず描いたよ」
そう言って、前の2人に見せる。
「岩森...やっぱり、神様だよ。HKNさんは」
そう言って、黒髪ロングの子が喜んでいる。
「た、確かに...これは、なかなか...けど美化され過ぎじゃ」
そう言って来る子は、ピンク髪のロングっ子、黒髪ロングの子を妹に見立てるなら、この子が姉だろな...と脳内設定を膨らませる。
「後は、家でやるから、写真だけ撮っていい?」
「え?この状態で撮るんですか?」
ピンク髪の子が慌てた表情でそう言ってくる。
「参考画像にね、ほらほら、ポーズ決めちゃって」
「そうだよ、岩森、HKNさんに協力しなちゃ」
「う、分かったよ...」
そう言って、2人が向かい合うと、指を絡み合わせ、ピンク髪の子が、黒髪ロングの子に押し倒される感じで、ロッカーにもたれかかる。
我ながら、完璧なシチュエーションだと思う。
普段はこう、身長差的にも、姉っぽいピンク髪の子が先導しそうだが、これは真逆...これは、うん。違う意味でギャップ萌えだね
「あの...早くしてくれませんか」
ピンク髪の子がストレートに言ってくる。
「はいはい、りょーかい。撮りますよ」
そう言って、写真を撮らせて貰って、解散した。
明日には、完成してると言って家に帰った。
家に帰ったと行っても、実際にはマンション一室な訳だけど...
部屋に戻って作業を再開する。
ラフを綺麗にして、下描きにする。
だいぶん形になってきたなと、絵全体を見てみる。
やっぱり...素材がいいよなと、参考画像と共に眺める。
「どうしちゃったんですか?井上先生」
後ろから、突如声をかけられる。
ヒィッっと叫んでしまったが、後ろを見る。
「なんだ...姉ちゃんか...仕事終わったの?」
「うん、今さっきね、ご飯作るから、ちょっと待ってね」
そう言って、姉がキッチンへ向かった。
手伝おうか...その一言が言えなかった...
下描きをSNSにアップする。
完成楽しみです、神だったのか...などのコメントを見て、思わずニヤついてしまう。
これは、見てくれてる人のためにも、頑張らないとな...そう言い聞かせて、ペン入れを始めた。
「志帆、ご飯出来たよ。」
そう言われたので、作業をやめて、姉の元へ向かった。
「頂きます。」
そう言って、ご飯を食べる。
「姉ちゃん...美味しいよ。」
そう言うと、姉は喜んで、そうかそうか、と言った。
「姉ちゃん...私ね、車のエンジンのECU改造することになったんだ。」
「へぇ、志帆がね、なにか困ったらお姉ちゃんに聞くんだよ」
姉は、と言うか...我が家、井上家は先祖代々、コンピュータの制御システムなどを手がけている。岡山県にある中堅企業だった。
私か。姉どちらかが、家を継ぎなさいと父から言われた。
私は機械音痴だったので、候補は姉と言う事で話は進んでいた。
だけど、姉のコンピュータのノウハウは天才的だった。
家の企業では、オーバースペックで大手企業からも、スカウトが来ていた。
私は、そんな姉に嫉妬して、私は私の世界で生きようと思って、絵の世界に潜り込んだのかも知れない。
そして、いいねの数が多かったり、尊敬コメントを眺めたりして、私は、こっちの方が向いてたんだと慰める毎日。
だけど、そんな日々の中で、姉は姉で悩んだんだと思う。
姉の高校卒業式、本来なら、嬉しさと悲しさで家がしっとりしそうなこの日、姉は家の会社では無く、大手企業に行かせてくださいと志願した結果、親から猛反対され挙句、家を出て行った。
余りにも、衝撃的で、私がホノボノと過ごしていた日々の中で、姉は悩んでたんだと思う。私は...何をしていたんだろう。そう思った...現実に立ち向かわず、ただ逃げて...周りのことを考えていなかった、姉の相談に乗ればよかった、同じ部屋で暮らしていたから、そうすることも可能だった。
私は...逃げてただけだった。
そこからは...そんな自分を変えたいと思って、絵を極めて、コンピュータだって、改造できるように頑張った。
父がよく、姉より凄いと褒めたが、私には...その期待や、褒め言葉がナイフで刺されたかのように痛く...突き刺さった。
高校をどうしようか...そう考えた頃には、新工業高校、東雲工業高校へスカウトされていた。
親が、行けばいいと勧めてきたので、そうすることにした。
岡山県から広島県へ、住むことになるが、親が安いマンションを借りてくれた。
そうして、私の水のように綺麗で、綺麗ゆえに何も変化のない日々は過ぎていった。
広島に引越して、だいぶん町にも慣れてきたので、本でも買いに行こうと思い、本屋へ駆り出した。
本屋に着き、目的の本を探す...あった、私の2作目の画集だった。
前作が、結構人気があった見たく、まぁ、その便乗作となる。
早速、買おうと手に取ろうと思うと、横にいた、もう1人の方も同じものを手に取る。
「あ、ごめんなさい。」
そう言って、手を引っ込める
「あれ?志帆?」
へ?そう思い...相手の顔を見ると姉、井上梨紗だった。
安いマンションなので、鍵が抜きづらいと若干イラつきながら、ドアを開ける。
「お邪魔しまーす」
そう言って、姉が部屋に入る。手にはデカイバックを持って入ってくる。
「はいはい、今日だけだからね...」
ついさっき、姉と再開し、積もる話がたくさんあるなと思ったが、姉が早速、ジョーカーを切り出した。
「ねーね、部屋住ませてくれない?」
姉曰く、ネットカフェで、過ごしていたらしいが...19歳で大丈夫なのかと思い、連れてきた。
「思ってたより、広いね」
そう言って姉がそこまで広くない部屋をグルグル回っている。
「おっと...そろそろ。夜ご飯の時間だね。せっかくだし、なんか作りますか...」
「私も手伝うよ...」
そう言って、今日だけと言った日々が延長されて行き今現在に至る。
「あれ?志帆って車のECUとか触ったことあるの?」
「いや...ないかな...」
「そ、そうなのね、お姉ちゃんが手伝おうか?」
そう、姉が言ってくる。嬉しかった...私はもちろん
「いや、大丈夫だよ。いざとなったら、お願いします」
自分でも、なんでこんな事言ったんだろうと思った。
「うん、そうだよね、志帆の成長っぷり私も見てみたいし」
姉の残念そうな顔が脳に残る。
部屋に戻って、絵を仕上げる。
カラーペンで、薄い色から濃い色へ重ね塗りする。
カラーペン独特の、消毒液みたいな匂いが部屋に広がる。
この匂いを嗅ぐと、絵を描いてるんだなって、実感できる。
よし、出来た...SNSにアップしようと思ったが、あの芳村とか言う子にも協力してくれたし、最初に見せてあげようと辞めることにした。
次の日の朝、部室の鍵を開ける。
情報電子部という名の、雑談部、その日やりたいことをやるだけの平凡な部活。部員は私と残りは2人しかいない。
私が、部室に入って、お茶を飲み終わるぐらいにドアが開く。
「失礼します。」
そう言って、芳村と岩森が部室に入ってくる。
岩森は、寝てるのかってぐらい、眠そうに、歩いてくる。
「先生、絵は完成したんですか?」
芳村が、元気よく聞いてくる。
「うん、ハイこれ。」
そう言って、完成した絵を渡した。
「これは、これは...神ですね」
そう言って、芳村は岩森の方に行き見せびらかしている。
「こ、この絵のモデルが自分達って、照れるものがあるね...」
そう言って、岩森が火照る
「それで、先生。ECUの方はやって、頂けるんですよね?」
「う、うん、もちろん。車持ってきて」
そう言うと、爆音を奏でて、スポーツカーが部室の前にやってくる。なに、この戦闘機...これ。私と同い年が運転するの...お、恐ろしい。
「え...えっと、これ自分達が作ったの?」
「はい、それで、エンジンのポテンシャルを引き出すために、コンピュータを調節して頂きたいんですけど。」
「わ、分かったわ、やって見る。」
そう言って、私は戦闘機を受け取った。
マンションの下のガレージに置くが、ここまで、乗って帰るのだけで、疲れるぐらい速い。
今さっき、調べたが、コンピュータのデータ出しは様々なメーターなどから、パソコンにデータを取り入れ、そこから、解析するらしい。
私が思ってた、コンピュータ改造では、無いので...姉に頼もう、そう思った。
「ふーん、そういう事があったのね。」
姉が、ヨシヨシと頭を撫でながら、そう言ってくる。
「ッ...それで、姉ちゃんは、できるの?」
姉に頭を撫でられ、調子が狂う前に聞いておく。
「大丈夫よ。お姉ちゃんに任せてね。」
そう言って、姉と共に工場に向う。
工場と言っても、姉は開発班に居るらしく。姉専用の部屋があり羨ましいと思いながら部屋に入る。
「おかえりなさい。梨紗」
部屋に入ると、突如そう聞こえてくるので、ビックリする。
デカイモニター越しに、姉の同僚なのだろうか...高校生ぐらいの子が姉に話しかける。
「えっと...お姉ちゃん??」
恐る恐る、姉にくっつく。
「そんなに、緊張しなくて大丈夫よ。この子は、私が開発した最新の人工知能、希よ。」
「希...?」
「そうよ、この子が、世に出れば、どんな、コンピューターだって、軍事規格並に高性能なコンピューターに書き換えられるの、それに、人工知能だから、例えば、車みたいに、気温や湿度、路面によって、戦闘力が変化するでしょ、それを、希なら、そのコンデションにあった、セッティングを自動でしてくれるの。」
「けど、これお高いんでしょ?」
「ま、まぁ、そうね。けど、これはまだ、プロトタイプだから、これでよければ使ってね。」
「お姉ちゃん、ありがとう。皆もきっと、これなら喜んでくれるよ。」
「希、これからは、見知らぬ人達の所に、行くけど...元気に過ごしてね。」希は、姉が家を飛び出してまで、創りたかったのもの。それをこんな、簡単にもらっていいのだろうか...
「お姉ちゃん、やっぱり...いいよ。」
「いいや、いいのよ。本当は希は2ヵ月前には、完成してたの、だけど、世間に出すのが嫌で...希だって、ちゃんと意思はある。この事だけは、忘れないであげてね。」
「お姉ちゃん...ちょっと、待ってね...」
私はそう言うと、この風景を紙に収める。
絵を描くのは...好きだ。写真などでも、いいけど、こうやって描くことによって、生まれるものがあると前から思ってた。
それは、その人の思いが、こうやって、紙に描くことによって、伝わる...そういう事じゃないかな。
まだまだ、雑だけど、姉に描いたものを見せる。
「お姉ちゃん、私は人工知能について、よく分からない。けどね、お姉ちゃんが大切にしてたから、希も、こんな笑顔が作れるようになったんじゃないのかな...」
「志帆...ありがとうね。さぁて、希をこの車に搭載するから、部外者は出た出た。」
そう言って、妹を部屋から出す。
「可愛い妹さんでしたね。梨紗。」
「そう思うでしょ。自分がやりたいことを貫いていく。あの子の姿に押されて私も、あなたを作るために、家を出れたのよ。だから、あの子が信じた人達を導いてあげてね。」
「分かりました。この、エンジンの可能性を全世界に轟かせて見せますよ。梨紗。」
「ちゃんと、データ持って帰らないと、オコだからね。」
「任せてください...ちゃんと戻ってきます。」
もちろん、冗談だと知っている。
「それから...何か、不具合があったら...連絡してね。」
「はい、任せてください。」
梨紗が作ってくれたから、そんな物は出ないと知っている。
「それじゃあ、しばらくお別れだね...」
「はい、梨紗...ありがとうございます。私を生んでくれて、私を導いてくれて、ありがとうございます。」人工知能は感情を持たない。なのに、何かに絞められた気がして、苦しい。
「梨紗...早速不具合が出ちゃいました。なんか、苦しいです...」
「そうか...言いたいことがあったら、言っていいんだよ」
そう言われた瞬間何か、リミッターが解除された気がする。
「梨紗...梨紗と...別れたくないです...」
人工知能は、思いを伝えない、伝えたくても...届かない...梨沙が組んだからなのだろうか...この不具合は...
「...私もだよ、だから、二ヶ月怖くて...手放せなかった...けど、嫌だからって、怖いからって...逃げてばかりじゃ...いけないんだなって...年下に教わった...妹に...だから、また会える時を楽しみにお互い生きていこう。ね?」そう言って...梨紗がこちらに近づいてくる。
「次会うときは...あなたをこんな、小さいモニターから出してあげる。その時は、一緒に外に出かけよう...一緒に暮らせるようにしよう...そのために、私、頑張るから...」
「はい。」
「それじゃあ、行ってらっしゃい...」
そう言われた後...急に思考が途切れていく。梨紗がこちらに向かって...なにか喋っているが...聞こえない。
こんな、不具合だらけで、幸せな、人工知能は...私だけ...梨紗ありがとう...そう思ったが聞こえてはいないだろう。
それから...2日が経って私の短かったゴールデンウィークも残すとこ1日になった。
「ただいま...」
ドアを開けるのが、こんなに辛い日は滅多にないだろう。
妹は部屋で絵を描いているのだろうか...返事がない。
夜ご飯、作らないとなと思い、キッチンへ向かう。
もう、夜なので、明かりつけないと...そう思い、照明器具を照らす。
「お姉ちゃん、おかえりなさい」
「ヒィッ...ビックリした...」
明かりをつけた瞬間に、目の前に妹が現れる。
私がいつも、妹にしてる事を返された...こんなにビックリするのかと反省する。
「ごめんごめん、お姉ちゃんにどうしても...見せないといけないものがあるんだ。」そう言って、妹は私の手を取り、部屋に入れられる。
「えっと...なにかな?」
「これ、見てよ。結構いい感じに描けてるくない?」
そう言って、妹から渡された、イラストボードを見ると、自分に似た人物と、希に似た人物が、画面越しではあるが、手を取り合っていた。
「これは...」
「お姉ちゃんと、希をモチーフにして、いつかは...手が取り合える日が来たらなって...」
「志帆...ありがとうね...これが実現するように、私、頑張るから。」
「うん、それと...これからは、家事は半分私がするから...」
「え?けど、私は泊めさせてもらってる側だから、いいよ。」
そう言うと、妹は、頭を突如抱え込んだ...
「も、もう、一々言わせないでよ。やるったらやるのよ。」
そう言うと、妹がプイっと外を向く。これは...宥めるのが大変そうだな...と思いながらも笑ってしまった。
「な、なに?」
妹の頬が、紅く染まっていた...
「いや、幸せだな...ってね」
「そ、そう。もう勝手にさよならは、嫌だからね。」
そう言うと、妹がくっついて来る。
「はいはい、もうどこにも...勝手に行きませんから...」
そうやって、くっついて来た妹を抱きしめると、温かくて、心が浄化されそうだった。
約2ヵ月前の話をしよう。
私が希を社内発表しようとしていた頃の話
最後に、希にして欲しいことを聞いた。
そうすると、希は私がこの人のイラスト好きなんだと、ちょっと前に勧めた人のイラストにハマったのか、その人のイラストをもっと見たいと言ってきた。
ネットで画像を探そうと思って、名前で探すHKNと、そうすると、今日がその方のイラスト集の発売日と書いてあったので、奮発して買いに行くことにした。
会社の近くの書店に着き、お目当ての本を見つけたので、手に取ろうとすると、他のお客さんの手にあたる。
すいませんと、手を引き、顔を見ると...志帆だった。
もしかしたら、希はこの、運命を知っていたのだろうか...いや、無いな。そう思い...眠りについた。
「おはよう、お姉ちゃん」
妹に起こされ、朝を迎える。
もう少し寝てたかったが、せっかく起こしてもらったので、辞めることにする。
「志帆、今日学校なの?」
志帆が制服に着替えていたので聞いてみる。
「部活があるからね...けど、今日はあの、スポーツカーを渡しに行く日だから。」
「そっか...行ってらっしゃい」
「行ってきます、お姉ちゃん」
そう言うと、妹は春の朝空に消えていった。
春は運命を変える季節だと私は思う。
この春、私は色々な事件で人生のルートを変えられただろう。
だけど、それがあっての今があると思うと...私は幸せなルートを引けたのだろうと胸を張って言える。
学校へ優雅にスポーツカーで登校し、部室へ入る。
部屋の中には、芳村と岩森がいた。
「先生、おはようございます。」
芳村が敬礼して挨拶をしてくる。
「井上...おはよう...」
岩森が、お休みにしか聞こえない感じで挨拶をしてくる。
「あなた達。ブレないわね...」
そう言うと...二人揃って首を傾げている。
「ま、まぁ、いいわ。着いてきなさい。」
そう言って、2人を駐車場へ呼び出す。
「先生...もしかして、出来たんですか?」
芳村が元気よく聞いてくる。
「まぁ、私の姉が、だけどね。完成したらしいよ。」
「井上、お姉さん居たんだ、感謝しないとね。」
岩森も流石に、声に活気が出ていた。
「それでね、このエンジンに使った、コンピュータってちょっと...嫌、かなり特殊でね。」そう言うと、私は、スポーツカーの車内に入り、エンジンをかける。甲高い排気音に、血液がドバドバと流されていくのが分かる。そして、私は新たに車内に取り付けられた、液晶画面をタッチする。
「井上...これは?」
岩森が不安そうに見てくる。
「おはようございます。志帆、そして皆様。」
水みたいに透明で綺麗な声が響く。
画面の中には、私達と同い年ぐらいの見た目の子が映っている。
「おはよう。希、これから、よろしくね。」
そう言って、希の顔をタップすると、何ですか?と返事が来た。
「え...えっと...先生...ギャルゲー搭載したんですか?」
芳村が恐る恐る聞いてくる
「ち、違うの、ちゃんと説明するわね。」
「今回あなた達のスポーツカーに搭載したのは人工知能なの、名前は希よ。この子を搭載することによって、車内から声掛けで、スタビの強さ、シートの位置、その他色々、アシストしてくれるわ。」
「そ、それは...すごいね...」
「ええ、それに、路面状況や、天候が変わりそうだったら教えてくれるし、その日の状態に適した、セッティングを自動でしてくれるわ。」そう言ってネットショッピングの説明如く、解説していく。
「そ、そんなに優れたもの...貰っていいの?」
「姉が是非とも、貰ってくれってさ...けどね、希にだって、感情や思いはあるの...それだけわ、分かってくれたら嬉しいな。」
「任せて、絶対にそれだけは守ってみせるから。」
二人の瞳が、本気だったので信じてみることにした。
「それじゃあ、これからこの人達を導いてあげてね、希」
「はい、分かりました。志帆、嫌...HKN先生?」
「な...なんで知っての?」
いきなりの事に、ビックリする。
「梨紗が、自慢の妹だって...絵が上がる度に見せてくれてたので、名前ぐらいはしってますよ。」
「な...な...」
顔が熱い...なんで知ってる..姉に私のペンネーム言ったつもりは無いのに...まぁ、私が完成した絵を見せてるから...気がついたのかな?そう思った。
「ゴールデンウィークなのに、暇ね...」
そう言って、私はテレビで面白い番組が無いか...探している。
そうすると、メールでも来たのか...携帯が震える。
メールを漁ると、新着でメッセージが来ていた。
『無事に、希ちゃんが搭載できるスペックのコンピュータが届きましたか?お父さんが、仕方ないな...って言いながらも作ってくれた、自信作です。たまには...志帆と一緒に帰ってきなさいよ。by.HKN株式会社より母より。』
「はいはい。分かりましたよ。ありがとう...」
そう呟いて、親へ感謝する。私が自分勝手な行動をしても...ワガママを聞いてくれた。感謝しかない。
それにしても、こうやって、自分の親の会社名をペンネームに使うなんて、志帆も単純よねと笑えてくる。
ドアが勢いよく開く。
「お姉ちゃん...」
志帆が顔を紅くしてやってくる。
「な、なに?志帆...風邪ひいたの?」
「違うわよ...何で、私のペンネーム知ってんのよ...」
そう言われると笑いしか出てこない。
「ちょ...質問に答えなさいよ。」
「ごめんごめん...で、なんだっけ?」
「ちょっと...真面目に聞きなさいよ。」
そう妹に叫ばれながら見た空は...今の気持ちを表したかのように雲一つなく、綺麗な空だった...
期待されて嬉くない人なんて居ない...それが実現できなかったらと怯えるだけだ...それを乗り越えた時、人は成長できるだろう。
私がちょっと前に読んだ、本にそう書いてあったのを思い出した。