滴れ鎮守府、梅雨轟々   作:ポン酢放置禁止区域


原作:艦隊これくしょん
タグ:艦隊これくしょん
梅雨だよ、雨が降るんだよ、雨は好きか? しとしとと降り地面を濡らす、咲いたアジサイは色鮮やか。
だけど私は靴下を濡らすそんな梅雨が嫌いである。
そんな思いを込めて書きました。
前回書いた短編「蠢け鎮守府、春爛漫」をご覧になっていると少しわかりやすいかもしれませんが大体変わりませんのでご容赦を。

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異様な艦娘達の方がなかなか書き溜められずにこんなものを書いてしまいすみません。
が、どうにも筆が止まらなかったもので、こういう事よくありますよね。
異様な艦娘達の方の更新にはまだ時間がかかりそうです、もう少しお待ちください。
待たせてしまいすみません。


滴れ鎮守府、梅雨轟々

 まったくもってまったくもって、まことに雨降る梅雨の季節。

 雨雲は鎮守府を覆い、海は荒れている。

 荒れた不良は放っておくが吉、荒れた海にむやみに出撃してあわや波にさらわれ艦娘沈没なんて笑い事では済まされない。

 さてそんな鎮守府たちの例に漏れない鎮守府の一室、具体的に言えば執務室の隣の部屋にて一人の怪しい男が床にチョークで書かれた円といくつかの記号の中心に座って舌打ちを一つ。

 

「あいつはまたデートかあ!? ったくいいご身分だこったなあ、こちとら苦労してるってのによお」

 

 愚痴を部屋の中に吐き、首をぐるりと回して伸びを一つ、骨が小気味のいい音を立てたことから長らくその姿勢のままであったらしい事がわかる。

 愚痴の相手はこの場所にはいない、詳しくは前作短編「蠢け鎮守府、春爛漫」を参照の事だがこの鎮守府の提督は艦娘の曙と北上から告白を受け、いわゆるカップルとなって、それ以来暇を見つけては、暇を作り出しては鎮守府を出ていくのだ。

 さて、提督でないならこの男は誰か。

 これも前回の「蠢け鎮守府、春爛漫」をご覧の事だが(二度に渡るマーケティング)この鎮守府は無駄な設備、例えるなら出撃の際に使う宇宙ステーション等の為に予算がなく、鎮守府の管理がままならないため、魔法に頼っている。

 そしてその要がこの男、魔法使いだ。

 執務室の横のこの部屋の床に書いた魔法陣から鎮守府全体を管理している。

 その割に鎮守府は提督さえ迷う大迷宮と化しているがそれは魔法使いの趣味だ。

 あん? 艦これ世界に魔法みたいなオカルト持ち込むなって? 艦娘自体軍艦の魂とかいうオカルトであろうに、多少は見逃してほしいです。

 

「また愚痴でありますかジョーク殿!!!!!?? ぐちぐちしてると嫌味な人間になるであります!!!」

「るせえなあきつのまるちゃん、口うるさいし普通にうっせえ!」

 

 部屋に飛び込んでくるバカでかすぎる声、それは執務室での待機を任されたあきつ丸だ。

 ここで衝撃の事実を一つ、このあきつ丸、命令されようがされまいが執務室にて大声で発声練習しているし基本的に執務室で生活している。

 そしてジョークとはこの魔法使いの名だ。

 

「元から嫌味な人間でありましたな!!!!」

「それは俺も自覚してっけど大声で言われるといらつくな」

 

 自覚のある事でもさすがに三千世界に喧伝せんばかりに叫ばれたらイラっと来る、それが人情。

 ジョークは口の下の長めの無精ひげを引っ張りながら一つため息を吐き、ぐらりと揺れながら立つ。背は互いがひょろ長く、しわだらけのマントを羽織っている。

 腕を広げればその辺の観葉植物の枝葉のように見えなくもない。

 

「何でありますか!!?? 暴力に訴えるでありますか!!!!!」

 

 対しあきつのまるちゃん臨戦態勢、腕を上げて何故か三戦立ち。

 艤装はどうしたのか? 鎮守府内でむやみに振り回すモノではあるまい。

 

「艦娘のまるちゃんに暴力で勝てるわけねえだろんがい」

「諦めたらそこで死合い終了でありますっっっ!!!!!」

「諦めるもクソも俺の命を散らすのはここじゃねえよ」

 

 さて、有名な名言を一部改造して物騒にしたところであきつ丸は構えを解く、同時にジュークボックスのスイッチをオンヌ!!

 流れてくるのは聞きなれたあの人の演歌のナンバー。

 デデン!! と耳を惹くサウンドから始まり、流麗な笛だか尺八だかの音、そして徐々にイントロは静かになり、いよいよ歌い出し。

 

「この手によせるっっっっっ!!!!!!」

「お前が歌うのかよ!!!!」

 

 いつの間にあきつ丸に握られるマイクからただでさえ爆音のごとき大声が倍増されて響く、意外に美声だが大きすぎては聴き惚れる前に聴く耳がちぎれる、千切りかいちょう切りかハヤブサぎりか。

 ジョークは魔法で障壁を張って防いだが三枚中三枚にヒビが入ってカビも生えた。

 過度にJAS〇ACを恐れてあまりあきつ丸を歌わせられなかった私を許してつかあさい。

 関係ないけど美少女が棒状の物を持って振ってると卑猥である。

 

「ともかく、俺はお前にからむつもりは毛ほどもミジンコほどもファージほどもねえよ、ただちょっとまずいことになっただけだ」

「まずい事、でありますか!!!!??????」

「ボリューム落としてくれねえか?」

「ま……こと…ぁ……」

「極端んんんんんんぬ! 加減ってもんを覚えろこのアンポンタンポカン!! 脳髄地面にたたきつければちっとは加減が分かるか!?」

「ジョークでありますジョーク殿」

「俺は基本的に貧弱なんだよ、叫ばせんな、死ぬぞ、いまもRPGに例えるとHPの文字が黄色い」

「黄色いランチャーは戦場で目立ち不利であります」

「そっちのRPGじゃねえ、っつか話が進まねえからいい加減にしろ」

 

 ジョークの口からほとばしる赤い奔流、興奮のし過ぎで身体内部の色んな部分がクラッシュしているのだ。

 それをベホマズン的な魔法で無理くり治してジョークはため息を一つ。

 

「あきつのまるちゃん、今度ばかしは本当にまずい、鎮守府崩壊の危機って感じだ」

「は? ……はあああああああ!!! 鎮守府崩壊でありますか!!!……今でも十分崩壊してるでありますけど」

「それよりも崩壊、下手撃ちゃあ鎮守府周り丸ごと海の藻屑になる」

 

 ジョークの真っ黒なクマのついた不健康そうな眼が細められる、真剣な空気を感じ取ってあきつ丸も姿勢を正してジュークボックスの加賀岬を母港BGMに戻した。

 

「それは提督が鎮守府を開けている事と関係してるでありますか?」

「勘がいいな、話が早い、勘のいいガキは嫌いだし勘のいい女は苦手だが、話が早いあきつ丸は大好きだ、提督であるあいつがかなりの回数鎮守府を出て街でいちゃついてるせいで魔法が成り立たなくなってきちまっている」

 

 この鎮守府のほとんどの施設管理は魔法でまかなわれている。

 その魔法を使うために使用されているのはジョークの魔力と知識、それと鎮守府の妖精の力。

 妖精に意見を出し、実質操れるのは提督であり、その妖精を介して魔法を扱う事で鎮守府を成り立たせている。

 しかし、妖精は心ある生き物、提督が提督として働くからこそ喜んで協力するものだが女にかまけて街に出ていく姿を度々見せられれば信頼は落ちる。

 勿論提督は仕事はしているのだが妖精にとっては艦娘にでれでれして目がくらんだぼんくら、信じられたものではない。

 よって魔法がうまく成り立たなくなり、ともすれば暴走から鎮守府の機能どころか艦娘達も消え去り、深海棲艦の攻めほうだい、海に飲まれる危険性にさらされている。

 ジョークが立ち上がったのはその危険性が今最高潮に達し、いつ鎮守府がなくなるかわからないからだ。

 

「まずいでありますな、非常にまずいであります」

「肝心の提督はどこに行ったんだよ」

「三越であります」

「コラボの馬鹿野郎!! クソっ! ここから三越まで車で車で二時間ある、間に合わねえ」

「ワープ的な魔法は使えないでありますか?」

「そんなもんに割いてる魔力がねえ、少しでも供給が足りなくなれば暴走して近隣住民の魂を吸うかもしれねえ」

 

 未だかつてD〇Mかカド〇ワの戦略が鎮守府を苦しめたことがあろうか。

 いや、これはまっとうな鎮守府運営をせずに魔法に頼り、さらには無駄な設備に金をかけた提督への因果応報というモノか、自業自得というモノか。

 それに巻き込まれる艦娘とジョークと妖精はたまったものではない。他人の恋路に自分の人生を邪魔されては馬に蹴られても死にきれない。

 何かいい方法はないか、何とかして妖精の気分を沈められないモノか。

 その時、鎮守府が唸り声のような音を立て始めた、崩壊への足音だ。

 

「いっそ逃げるか? いや、無理だな、今から抜け出してる時間もねえし魔力の流れもぐちゃぐちゃだ、逃げることが出来ねえ」

「そうでありますか」

「ああ、そうだ、無理だぜ、力も知恵も及ばねえですまねえな、提督に注意してなかった俺のせいだ」

「そんなことないであります、ジョーク殿は朝から晩まで部屋にこもってずっと魔方を唱えて鎮守府内部をコントロールしてくれていたことを自分は知っているであります」

 

 雨の日だろうが風の日だろうが薄暗い部屋で魔法を唱えているのをあきつ丸は隣の部屋で発声練習しながら常に感じていた。

 提督以上に働きながら、愚痴を吐きつつだがやめることなく、まじめに取り組むジョークの事を。

 

「知ってくれててありがとう、でももうおしまいだ、せめてあきつのまるちゃんだけでもそこの窓から飛び出て海に逃げろ、俺はもう少し残って他の艦娘に避難を促す」

「嫌であります、まだ、諦めたらそこで終了であります」

「お前の命はここで終了させるものじゃねえ、どうやら俺はここまでだがな、早く逃げろ!」

「いや、いや、十秒待ってほしいであります」

 

 ジョークが二の句を告げぬようにあきつ丸は腕を組み、目をきつく瞑って頭を回す。

 考えなければ、ジョークを失わず、鎮守府を失わず、自分を失わない方法を。

 唸り声はさらに大きくなる、あきつ丸がいつも発声練習で出す声のように響いて思考をかき乱す。

 だが、負けじとその響きが届かないほどの思考の奥深くまであきつ丸は潜る。

 同じ陸軍の艦であるまるゆもめを見張るほどの潜り巧者となたあきつ丸は思考速度を閃光とする。

 光の閃きは能のひらめきとなる。

 

「一つ、方法を思いついたであります、ジョーク殿に苦労を掛けてしまうでありますが」

「苦労を掛ける? 死ななけりゃ安いモンだがどんな方法だ?」

「それは――これであります」

 

 あきつ丸は素早い動きで執務室に取って返し、ある白い衣服を持ってジョークに投げる。

 呆然としたジョーク、だがすぐに気を取り直しそれをキャッチし、衣服を広げてみる、そしてあきつ丸の方法を理解した。

 

「俺がやっていいのか?」

「いいも悪いもこの方法しかないであります、それに誰が適任か、と聞かれたら自分はジョーク殿を間違いなく押すであります」

「そう……か、ならやるしかねえな」

 

 ジョークは一つため息を吐き、白い服に腕を通す、その服はまごうことなき海軍の、提督しか着ることが許されない、軍服だ。

 それを着るという事はすなわち提督になることを意味する。

 

「聞け! 妖精たち! 俺が提督だ!!」

「提督が鎮守府に着任したであります!!!!!!!!!!」

 

 崩れ出す鎮守府内に二人の声が木霊する、それに呼応したのか鎮守府はぐらりと揺れたかと思うと闇に包まれていった。

 

 

 

 執務室の蛍光灯の光が目を刺し、二人は意識を取り戻す。

 気が付いたらジョークは執務室についていて、あきつ丸はその傍らに立っていた。

 

「何とかなったでありますか?」

「そうみたいだな、魔法は安定したみてえだな」

 

 執務室を見回し、二人は長い息を吐く、執務室の床には無数の小さい足跡、妖精のモノだ。

 ジョークはどうやら提督として認められたようだ。

 

「けどよお、勢いでなっちまったけどどうすっか、あいつに提督の座を返すに返せねえし」

「そこは大丈夫だと思うであります、こっちに案があるであります」

「そうか、なら俺は魔方陣の様子を見てくる、提督になったからって放っておけるもんじゃねえしな」

「待つであります!!!!!!!」

「ぐお! うるせえ! いてえ!」

 

 立ち上がろうとするジョークをあきつ丸はがっしりと肩をつかんで椅子にとどめる。

 艦娘の力で抑えられたジョークの骨と皮ばかりの肩がギリギリと悲鳴を上げ、あきつ丸の大声を至近距離で耳に受けて鼓膜がめちゃくちゃに揺れてジョークは思わず叫ぶ。

 

「何だよいてえな」

「ちょっとしたお願いがあるであります、聞いてくれるでありますか?」

「いいけどよお、出来る範囲なら」

 

 ジョークの言葉を聞き、あきつ丸のは手を放し、執務机の横の棚から一つの小さな箱を取り出し、ジョークの所に持ってきた。

 

「これは?」

「見ればわかるであります」

「嫌な予感がするんだけどこの予感は当たんねえよな?」

「パカッと開くであります」

「おい! ……これは」

 

 小さな箱に入っていたのはさらに小さい銀色のリング、提督になりたてのジョークもそれをしっていた。

 曰く、提督と艦娘との絆が高まると、このシステムを使い、艦娘はさらなる高みへと昇るという。

 その時につけるのがこのリング、システムの名はケッコンカッコカリ。

 

「してくれるでありますか?」

「……よろこんで」

 

 聞いて笑顔のあきつ丸とどこか釈然としない顔のジョーク。

 こうして絆で結ばれた彼と彼女は騒がしく鎮守府を経営していく事になるのだが、それはまた別の話。


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