俺のエルフが、チート魔術師で美少女で、そして元男な件について。   作:主(ぬし)

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こんなに主人公らしい主人公を描いたのは初めてです。なので、実質物書き初心者勢と言えるのでは?


その14 エルフを巡るリベンジマッチ

「まるであの夜みたいだ」

 

 俺は星に輝く空にぼうっと浮かんでいる満月を見上げて呟いた。いつもより大きくて強い輝きを放つ月は、まさにアキリヤと初めて会った夜の忠実な再現だった。運命に感じ入る俺の手にはアキリヤが大事にしていたガクセイフクと、アキリヤが本当に大事にしたかったものが握られている。彼女がこの黒い外套を誰にも触らせたがらなかったのは、これが以前の世界との唯一の繋がりを示すものだと思っていた。それは当たらずとも遠からずだった。

 

「すげえな、これが“シャシン”か」

 

 それは赤子の手のひらほどの小さな写真(・・)だった。アキリヤの世界では普通に使われているらしい技術で、絵ではなく風景そのままを光で特殊な紙に写し撮ったという意味の分からない代物。アキリヤの話でしか聞いたことのなかったそれが擦り切れた手帳に貼り付けられていた。それを見つめて、俺はあらためてフッと頬を緩めた。

 

「なにが『背も高くて顔もそれなりによかったんだ』、だよ。強がりやがって」

 

 そのまま、だった。目元に生硬い少年らしさはあっても、その可憐な顔立ちは今のアキリヤとほぼ変わらなかった。線が細く、華奢で、なにより背も低そうだった。アキリヤは負けず嫌いだから、同年代なのに元の自分よりもずっと大柄な体格の俺に対抗してつい空威張りをしたのだろう。まったく子どもっぽい奴だ。そんなところも愛らしくて仕方がない。

 月夜の柔らかい風が顔を撫でて火照った素肌を冷やす。1秒でも早くアキリヤに会いたかった。彼女の姿を目にしたかった。俺の姿を見てほしかった。謝り倒したかった。好きだと伝えたかった。別れてからの数カ月、アキリヤのいない喪失感がどれだけ辛かったかを話して聞かせたかった。伝えたいことが山のようにあった。

 背後からの力強い足取りを耳にして、俺は彼女の大事な宝物を丁寧に畳んで鎧の懐の奥に仕舞い込む。ジョーが俺の隣に並び立ち、同じように月を見上げて低く囁く。

 

「いよいよだぞ、ドラゴンキラー。準備はいいか?」

「望むところだ。そっちこそ、城をいくらぶっ壊されてもあとで文句を言うなよ」 

「好きにやってくれ。その方が良い」

 

 短い会話を終えると、俺は小脇に抱えていた兜を頭部に着装し、首の固定革具(バックル)を音を立ててきつく絞めた。待っていてくれ、アキリヤ。

 

 

 

 

 

 俺は自他ともに認める田舎育ちだ。だから、王都というものは想像もつかないほど豊かな都市だと思っていた。いつも笑顔を絶やさない鉄火肌の住人たちがいて、昼も夜も万華鏡のように綺羅びやかで、歴史と風格のある場所だと。それは間違いだった。

 遥か先に見上げる国王の居城まで真っ直ぐに伸びる大通りに仁王立ち、俺はいや増す義憤に喉を震わせた。

 

「これが……これが王都だってのかよ」

 

 夜霧に混じって汚水の臭いが側溝から溢れていた。家々は粗朶と木っ端でところどころが補修され、怪我人がなんとか片足で立っているようにみすぼらしい。道端に並ぶ粗末な露天には蝿のたかる肉がぶら下がったままだ。捨てられた古物を詰んだ手押し車が道端に放置され、ボロを着た老婆が薄い月明かりを頼りに値打ち物が落ちていないかと道を漁っている。やせ細った裸足の家無し子が無気力な顔でこちらを呆然と見ている。まるで、悪魔のゴミ捨て場のような惨状だった。

 

「信じられんだろう。だが事実さ。これが、少し前まで栄華を極めていたクリプト王国の首都だ。今や全ての富が国王のもとにかき集められている。たった一人の男の倨傲(エゴ)で大勢の無辜の人々が得も言われぬ苦しみを味わっている」

 

 「正さなければならない」。ジョーの 狼の唸りのような台詞に俺は頷きを返す。親父は、こんなことをする奴のために死んだのか。アキリヤはそんな奴の嫁にされるのか。

 

「ああ、許せねえ」

 

 怒りでこめかみがじくじくと疼いていた。自分がやるべきことだと思った。

 

「頼んだぞ、ドラゴンキラー」

「そっちもな」

 

 そう言ってジョーたちは静かに濃霧のなかに紛れた。目立つ大通りに残されたのは俺だけとなった。

 ここから先は二手に別れる。つまり、俺と、俺以外に。俺に期待されたのは文字通りの百人力だ。一人で100人分の戦力として数えられ、城に真正面から殴り込む。城の構造を知り尽くしたジョーが率いる本隊から目を逸らす囮となり、城内で合流する算段だ。

 普通の人間なら100人分の働きをしろなど無茶だと抗弁する指示を、俺は躊躇いもなく受け入れた。「出来るか」と内なる自分に尋ねれば、打てば響くように「出来る」と即座に返ってきたからだ。アキリヤを取り戻すという至上命題は、“神の使徒”としての俺に滾々と漲る力を与えてくれた。

 

 かつては立派な舗装をされていたであろう、今はでこぼことした土の道を歩度を速めながらズンズンと進む。家一軒ほど幅広の道の先に見えるのは、荒廃する城下とは打って変わって豪華絢爛を維持する王城だ。霧に包まれた世界に荘厳な城が夢見るようにぼんやりと浮かんでいる。それを護る城門に向かって一歩踏みしめるごとに、アキリヤの存在が近くなっているのを知覚する。鼻孔の奥に彼女の首筋から漂う花のような匂いが甦り、気持ちが逸る。きっとアキリヤとの魂の繋がりが俺に教えてくれているのだ。

 全身大鎧(フルアーマー)ががなり立てる金属音が俺の激情を現すように夜の王都の静寂を砕いて響き渡る。

 

「閣下……?」

 

 不意に呆けた声がした。目庇(まびさし)の狭い視野の中、目線だけでそちらを見ると、壮年の男が明らかに興奮の兆しを滲ませていた。浮浪者のような見てくれだが、瘤のように盛り上がった筋肉と顔や腕に走る刃傷の跡が元兵士であることを示している。

 

「おお……騎士団長閣下!やはり生きていらしたのですね!信じておりました……!」

 

 この鎧を目にしてそう思ったのかと俺が得心しているうちに、男の興奮に触発されたのか次々と群衆が路肩に躍り出てくる。

 

「本当だ、騎士団長閣下だ!」

「生きてなすった!生きてなすったぞ!」

「ついに帰ってきていらっしゃった!」

「お待ちしておりました!」

「凱旋だ!凱旋だ!」

「騎士団長閣下!!」

 

 ポツポツとした台詞は堰を切ったように次々と湧き上がり、やがて一つに(どう)じ、わあわあという歓声に纏まって大通りの闇を吹き散らすほどに膨れ上がった。気付けば道の両肩はあっという間に人垣に埋もれていた。どうしたものかと逡巡したのも束の間、身に付けた鎧がザワと震えた気がした。

 

『応えてやるんだ』

 

 途端、俺の意思ではなく鎧に残された熱い情念に突き動かされ、硬く握った拳を天に向かって思い切り突き上げた。群衆の反応がひときわ高まり、夜気を押し広げて爆発した。視界の端から端まで居並ぶ老若男女が涙を流し、口々に助けを求めていた。彼らは俺に希望を見出しているのだとわかった。俺は自分の選択がかけがえのない大勢の人々の運命を左右しているのだと悟った。

 

「貴様らいったいなにを騒いでいる!斬り殺されたい───のか───……」

 

 荒廃した都市の夜にそぐわないざわめきを聞きつけた兵士数人が通りの角から飛び出してきて、その眼差しと同様に肉体を硬直させた。兵士たちを睨み返す人々の視線から、こいつらの普段の高圧的な態度が想像できた。

 俺はためらうこと無く背負った大剣を一掴みで振り抜くと、そのままの勢いで地面に叩きつけた。超高強度を誇る鉄鉱竜の大剣が大地を銅鑼のようにビリビリと振動させ、その余波で兵士たちが腰を抜かして尻餅をつく。醜態を晒す雑魚どもを睨み下ろし、俺は凄みを効かせた低い声で大きく唸る。

 

「ゾッドに伝えろ。今から死者が会いに行くぞ、とな」




TSといえばTS娘目線で物語が進むのが一般的(?)な作品群のなかで、親友くんポジションで物語が進むこの奇特な小説を読んでくれている貴方に感謝。
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