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ロンが誕生日を迎えた。
そして、誕生日を迎えた日にぶっ倒れて運ばれた。
ハリー宛に送られてきた惚れ薬入りの菓子を食べ、それを治すためにスラグホーンのところへ行った後、毒入り蜂蜜酒を飲んでしまったらしい。
なぜ、スラグホーンの部屋に毒入りの蜂蜜酒があったのだろうか。
ハリー曰くマルフォイの仕業に違いないということだ。
ロンが倒れたとなると、クィディッチのキーパーの代理を立てなくてはならない。
ハリーはマルフォイのストーカーをすることに執心していて、心ここに在らずだったため、エスペランサはそれとなくコーマックを推薦してみた。
センチュリオンで実戦経験が豊富なコーマックならブラッジャーがぶつかっても箒から落ちることはないだろう、と。
ハリーが了承したので、彼は正式にキーパーとなった。
無論、ロンの機嫌は悪くなった。
そして迎えたグリフィンドール対ハッフルパフの試合はコーマックの活躍もあり、グリフィンドールの圧勝に終わった。
ロンの機嫌は更に悪くなったが、コーマックはロンが復活するのであれば自分は次の試合は辞退するつもりだ、とハリーに伝えている。
コーマック自身、クィディッチは好きだったが、戦時中の今、スポーツを楽しむ気にはなれないとのことだった。
ロンが退院すること頃、ハリーはクリーチャーという元ブラック家の屋敷僕妖精とドビーにマルフォイの追跡を依頼していた。
この追跡は有効な手段だったようで、ドビーからマルフォイがスリザリン寮内の一角で"何かを修理している"という情報を得る事ができている。
その他に目新しい出来事と言えば、アラゴクが死んだという悲報(朗報)をハグリッドがしてきたことくらいである。
禁じられた森のアクロマンチュラはエスペランサの手によって全滅したとばかりに思っていたが、どうやらアラゴクとその子供達の一部はかろうじで生き延びていたそうだ。
エスペランサはアラゴクの家族を爆薬で吹き飛ばした張本人であるため、アラゴクの葬式にはもちろん行かなかった。
「間違いなく呪われる」とエスペランサは冗談混じりに言ったが、事実として呪いをかけられて昏睡状態になった経験があるため冗談に受け取られなかった。
アラゴクの葬式から帰ってきたハリーはダンブルドアのところへ、つまり校長室へ興奮気味に走っていった。
幸運薬の効果もあってスラグホーンから重要な記憶を入手することに成功したからだ。
そして、校長室からグリフィンドールに帰る途中でエスペランサをはじめとするセンチュリオンの幹部に拿捕され、必要の部屋へ拉致されたのである。
「おい!エスペランサ、何をするんだ。離してくれ」
「まあそう暴れんな。こっちはダンブルドアと1時間以上長話してたハリーをずっと待っていたんだから」
ジタバタともがくハリーをエスペランサ、ネビル、アンソニーの3人で押さえつける。
細いハリーは最も簡単に拘束された。
「僕はグリフィンドールの寮に帰るんだ。ロン達に伝えないといけないことが……」
「おうおう。仲の良いこった。スラグホーンから重要な事が聞けたんだろ?俺には伝えてくれないのか?ダンブルドアの個人レッスンの内容を」
「後で話すよ。だから離してくれ」
「嫌なこった。それに、ロンとハーマイオニーも必要の部屋に呼んである。心配すんな」
「心配するなって?君たち、まさかロンとハーマイオニーも拉致したんじゃないだろうな」
「人聞きが悪い。任意同行だよ。俺がそんな非人道的なことをすると思うか?」
「余罪がたくさんあるんだよ!君が人道的だった頃があったら教えて欲しいくらいだ」
「諸説あるな」
「無いよ!」
「そりゃあ1年生や2年生の時は非人道的な事もしたさ。スリザリン生のニンバス2001の刻印をKAWASAKIに変えたりな。だが、最近はそんなことしてない。大人になったのさ」
「あれ君が犯人だったのか!?ウッドが疑われてスネイプに連れていかれたんだぞ!スリザリンは嫌いだけど、人の箒の刻印をオートバイみたいにされたスリザリンの選手には同情したよ!?あと、一部のマグル出身が"よりによってカワサキかよ"って言ってたけど、あれはなぜ!?」
エスペランサ達屈強な隊員に捕まった哀れなハリーは抵抗虚しく、センチュリオン本部となっている必要の部屋の片隅に連れ込まれてしまった。
必要の部屋は更に拡張されており、当初はブリーフィング用の小屋が本部として使われていたが、今では複数の庁舎が出来ている。
白い塗装のされた3階建、4階建の庁舎が連なる光景は、マグルの軍隊の基地を彷彿させた。
何せ、エスペランサが中東で暮らしていた時の米陸軍の施設を模倣しているのだ。
そのうち一番大きな庁舎の地下に続く階段を進むと、厳重な警備がされた大部屋が存在した。
建物の内部は魔法界に似合わない現代風の構造をしており、役所のようである。
エスペランサは魔法により認証ロックされているその部屋に入った。
「お疲れ様です。服務規律、保安警戒異状ありません」
部屋の入り口で警備に当たっていた隊員(グリフィンドールの後輩である)がエスペランサに対し敬礼をしながら報告する。
エスペランサも答礼した。
「警戒態勢に変更はないか?」
「はい。敵の動きもないため、特に引き上げる必要はないと副隊長が判断されています」
「警戒態勢?」
聞き慣れない単語にハリーが質問する。
「ああ。英国魔法界の情勢の変化にあわせて警戒を小から大まで変更するようにしてあるんだ。今は中の段階だな」
センチュリオンでは、警戒態勢、武器使用制限、哨戒直の配備の段階など情勢によって様々なステータスを変えるようにしている。
現在は有事であるので、各々の段階は平時より引き上げられていた。
警戒態勢が引き上げられることによって各部隊を展開させたり、情報収集活動を活発化させている。
警備の隊員の後ろからセオドールが現れ、苛立ちながら話しかけてきた。
「遅い。予定より5分は遅れている」
地下にあるこの部屋は、ここ最近改良が加えられて、その広さはホグワーツの食堂程度になっていた。
見た目もブリーフィングルームからコマンドルームのように変わっていて、それこそ軍隊における作戦室のようになっている。
それこそハリウッド映画等に出てくるような見た目をしていた。
エスペランサはそのまま作戦室と呼んでいた。
通信機器は勿論、中央には巨大なスクリーンが複数台あり、それを囲うように作戦室員の座れる机と椅子が並べられている。
スクリーンには試作品のホグワーツの地図(ホムンクルスの魔法は使っているが、劣化忍びの地図となっている)や、英国本土の地図が投影されていて、そこにセンチュリオンの戦力、つまり人員や武器弾薬の数、敵の所在地が記されていた。
「すまん副隊長。ちょっと抵抗された。これが敵ならぶん殴って連れてきたんだが、ハリーを殴って連れてくるわけにもいかんだろう?」
「殴りはせずとも、何かしらの暴力的措置は取りそうと見ていたが」
拉致されてきたハリーはエスペランサ達への憤りも忘れて、素直に感心する。
スクリーンに映されている英国地図には敵の所在や戦力の情報も記されていた。
人数だけではなく戦力の評価や兵站の補給線まで可視化されている。
ハリーはこの情報量に驚いているのだろう。
「すごい。死喰い人の所在まで書いてある。まるでマグルの刑事ドラマに出てくる部屋みたいだ。あんまり見たことはないけど」
「うちの黄金虫、つまり諜報員がかき集めた情報だ。情報こそ命だからな。ハリーの忍びの地図には劣るが……。それからこの地図には俺たちの現有戦力も記載されている。それら情報は最高機密で部外秘だ。センチュリオンの隊員の中でも適性評価を得た隊員のみが知る事ができるんだ」
センチュリオンがかき集めた情報はこの地図に全て記憶されている。
マグルの世界で発展が著しいコンピュータのようなものであるが、エスペランサはセオドールとザビニを主体として、統合的なシステムの構築を命じていた。
発想としては、戦闘員と後方の縦割りをなくし、歩兵・砲兵・遊撃・通信・衛生・補給・整備・需品・人事・諜報などのセンチュリオンが持つ各部門のデータを一つのシステムで共有し、部門間の連携を確実なものにすることで、部分最適ではなく、全体の生産性を上げることを目的としたものだった。
例えば、A地区の戦闘で戦闘員が射耗した弾薬の種類をシステムに反映させると、どういった戦闘ではどの程度の弾薬を使用しなくてはいけないかという最適解が導出される。
その解を元にして補給部隊が武器弾薬を効率的に用意する、といったシステムだ。
他にも、人事情報や経理の情報も全て蓄積されているため、各部門の隊員はこのシステムだけあれば作戦に関わる情報をすべて見ることができる。
各戦線に展開する隊員たちの持つ情報を魔法力を使ってシステムに反映させることで常に最新のデータが蓄積できるわけだ。
無論、個人がシステムに何かデータを入れる必要はない。
隊員の目で見た、戦闘中に肌で感じた記憶そのものがデータとしてシステムにリアルタイムで反映されるように魔法が施されている。
センチュリオンが使用する魔法の流れを活用した無線通信を発展応用させた上で、憂の篩(ペンシーブ)から着想を得て作り出した魔法力データリンクである。
センチュリオンではこの魔力データリンクをリンク19と呼称していた。
19はセンチュリオン創設隊員の数から取っている。
ちなみにシステム本体の名称はまだ決まっていないが、今のところはCDS(Combat Direction System:戦闘指揮システム)と呼ばれていた。
CDSというのはC4Iシステム、つまり戦術情報処理装置の一つである。
戦術情報処理装置というのはマグルの軍隊で使用される情報処理システムのことだ。
「うちの作戦室はマグルの軍用艦艇におけるCIC(combat information center)を参考にしている。CICの歴史は先の大戦のマリアナ沖海戦まで遡るが……、兎にも角にもそのCICで各種センサーの情報やデータをもとにして敵目標の脅威の評価、また脅威に対して武器の割り当てをするのがCDSだ。簡単に言えば指揮官、つまりうちの隊長の意思決定と戦闘指揮を支援するシステムと言えば分かりやすいか?」
ザビニが自慢げに説明する。
このシステムの基盤を開発しているのは諜報部隊を束ねるザビニだ。
彼の説明はハリーには今一ピンと来なかったが、センチュリオンが本気でヴォルデモートと戦う気でいるのは理解できた。
「君たちがここまでヴォルデモートとやりあおうとしてるとは思わなかった。僕も力を貸したい」
「力を貸して欲しいのはこっちなんだ。ポッター」
セオドールが言う。
作戦室にはエスペランサ、セオドールのほかにネビル、アンソニー、ザビニ、フローラ、ダフネ、フナサカ、コーマック、チョウといったセンチュリオン幹部のみが集まっていた。
また、スクリーン近くの椅子にコーヒーを片手にしたロンとハーマイオニーもいる。
誰の趣味かは知らないが、コーヒーメーカーが部屋の端に設置されていた。
室内がやけに良い匂いなのはそのせいだったようだ。
ハリーはアメリカに行ったことなど無かったし、バーノン・ダーズリーから米国の悪口ばかり聞かされていたが、この作戦室はどことなく合衆国の匂いが漂っていると感じた。
全員を一瞥したエスペランサは口を開く。
「よし。全員揃ったな。さて、今夜は特別ゲストをお迎えしている。選ばれし者ことハリー・ポッターだ。知らない奴は日刊預言者新聞を読んでみることだ」
ネビルあたりが口笛を吹いて囃し立てる。
「ハリーがダンブルドアに受けた個人レッスンの内容は我々も幹部のみで共有していた。その内容を整理すると、ヴォルデモートは分霊箱を作ることで死を克服しているとのこと。そうだな。ハリー」
「あー、うん。その通りだ」
「そして、その分霊箱の詳細について、スラグホーンが知っており、本日、ハリーがそれを聞き出すことに成功したということだ。間違いないな?」
「えーと、それは……」
「大丈夫だハリー。俺たちセンチュリオンはダンブルドアの指揮下にある組織だ。情報を提供しても差し支えない。ダンブルドアもそう言っている」
エスペランサが口を挟んだ。
無論、半分は嘘である。
ダンブルドアはエスペランサのみに情報の共有は許可していたが、センチュリオン全体への情報共有に言及したことはなかった。
「わかった。ダンブルドアがそう言うなら仕方がないね。スラグホーンの記憶によればヴォルデモートは7つの分霊箱を作ったみたいだ。そして、その7つの分霊箱はホグワーツに関係のあるものと推測してる」
「7つ……か。多いな。どう思う副隊長?」
「7つ……魔法数字的に最も強力とされる数字だな。結論から言えば、我々では対処不能だ。いや、当然予想されていたことではある。ヴォルデモートは用心深い。死を克服してもなお、無敵の状態が作りたかったのだろう。しかし、7つか…」
「魂を7つに分離してカバディでも始めようとしてんのかな」
フナサカが言った冗談にピンとくる隊員はいなかったため、無視された。
「僕がそれを一つ破壊して、ダンブルドアも一つ破壊した。エスペランサも覚えているだろう?リドルの日記だ。あれが分霊箱だったんだ」
エスペランサもリドルの日記は鮮明に覚えていた。
あれが分霊箱というのは確かに納得がいく。
表情を変えずにセオドールは話を続けた。
「それは朗報だ。分霊箱の破壊方法についてはこちらも調査中。しかし、対ヴォルデモートとなると我々の通常火力では太刀打ちできない。分霊箱が残っているのであれば尚更だ」
「ダンブルドアも一つ破壊した。その代償に手を負傷したけど。残る分霊箱は分からないけど、一つはヴォルデモートのペットのナギニじゃないかってダンブルドアは言っている」
「なるほど。ということは残りはヴォルデモート本人を含めて5つということだな。そして、その5つをハリーとダンブルドアで破壊する訳か」
「そういうことだ。予言されていたことだけど、他方が生きる限り一方は生きられない。僕は僕の両親を殺したヴォルデモートを倒さないといけないんだ」
「ということはポッターはダンブルドアに分霊箱を破壊する術を習ってきたんだな!?」
セオドールが彼にしては珍しく、興奮気味に言葉を発した。
一方のハリーは少し顔を暗くする。
「習ってないんだ。僕に非凡な才能はない。あるのは、愛……ってダンブルドアは言っている」
「何だよ。また愛かよ…」
コーマックやザビニが落胆した。
しかし、セオドールはその限りではなかった。
「愛と表現しているが、ポッターを守ったのはポッターの母親が使用した古代魔術だ。その古代魔術の力の源が人を愛する感情ということだ。つまり、その魔術を愛を知らないヴォルデモートは使用することができない。ダンブルドアはポッターにあってヴォルデモートにない力が愛だと言ったのはつまり、そのことではないのか?」
セオドールの言葉にハリーが驚く。
ハリーは今の今まで、セオドールをスリザリン生であるという理由で毛嫌いしていた。
だが、エスペランサがセオドールを信頼している理由がはっきりと分かった気がした。
「僕が生きる限り、ヴォルデモートは生きられない。そう予言されたんだ。でも、それは僕がヴォルデモートをこの世から葬り去りたいと強く思うから存在する予言だ。他方は生きられない。そうだとも。僕がヴォルデモートが生きることを許さないから予言は効力を発揮するんだ」
ハリーの目には闘志の炎が宿っている。
「ようやく覚悟が決まったみたいだな。兵士の目をしてるぜ?」
エスペランサがハリーに言う。
今のハリーは間違いなく兵士であった。
「ちょっと待ってよ。ハリーもあなた達と一緒に戦わせる気?」
待ったをかけたのはハーマイオニーである。
「予言の通りならハリーは戦う定めなんだろ?それにハリーは戦う気満々だ。それを止めることはできないだろう」
「誰も止めるとは言ってないわ。ダンブルドアの言う通り、ハリーは分霊箱を破壊しないといけない。でも、あなた達と同じ戦場で戦うわけじゃないでしょう?」
「場合によっては共闘するかもしれんぞ?」
「ハリーはセンチュリオンで戦闘訓練を受けている訳じゃないでしょ?あなた達が死喰い人に対して善戦できているのは組織として訓練されているからだわ。でも、そこへ全く訓練をしていないハリーを投入したらどうなるかしら」
「そりゃあ……上手くいかないだろ。組織戦闘に関してはハリーは素人だしな」
エスペランサの言葉に他の隊員も頷く。
少なくともハリーは失望したようだ。
しかし、ハーマイオニーの指摘はもっともである。
「そうよ。だから、ハリーはダンブルドアと共に分霊箱の破壊にのみ注力する。その間、魔法界の治安維持はあなた達がすれば良い」
「つまり、ハリーとダンブルドアは2人のみ編成した個別の部隊として任務行動に従事するということだな」
「ええ、そうよ。それに、2人だけじゃないわ。もちろん、私もハリーに協力する。ハリーだけで戦わせる訳ないでしょ?それに、敢えてこの場で言わせてもらうけど、私はここに居る誰よりもOWLの結果が良いわ」
「試験の結果が能力の優劣に比例するとは限らんぜ?」
アーニーが横槍を入れた。
「ええ、そうね。もしかしたら学年成績11位のあなたよりも私の方が能力で劣るかもしれないわ」
「おいおい。まさか俺達の成績まで知り尽くしてるのかよ?」
「素晴らしい情報収集能力だな。是非とも諜報部に欲しい人材だ」
頭を抱えるアーニーの横でザビニが真剣にリクルートをしようとしていた。
「生憎と私はあなた達の組織には入りません。それにエスペランサだって私とロンを入隊させる気はないんでしょ?」
「無論だ。ハリーを含めてお前達を我々の指揮系統に入れるつもりはない。あくまでも……」
「私達はヴォルデモートを倒すという理念が一致しているから協力関係があるに過ぎない。そうでしょ?」
「ああ。そういうことだ」
「あなた達が魔法界の秩序を保ち、死喰い人を殲滅している間に、ハリーが分霊箱を破壊する。そして私とロンがそのハリーを支援する。整理すると簡単な話ね」
「ロンは同意するのか?さっきから喋ってないが……」
「もちのロンさ。友達だしね。ハリーについていくよ。今までだってそうだっただろ?」
ロンがやれやれと言わんばかりに同意する。
彼にとってハリーは特別な友人だ。
力を貸さないという選択肢は存在しない。
「よし。決まりだ。ポッター達には分霊箱の破壊のために動いてもらおう。我々はその間、敵勢力を殲滅するが如く行動する。ただし、ポッター達が分霊箱を破壊するための後方支援も可能な限りできればと思っている。隊長、それでよろしいな?」
「後方支援をする余力はあるのか?」
「少なくとも今のところは問題ない。それと、我々の手に入れた情報も適宜、共有していく」
セオドールが言う。
「了解した。ハリー、共に戦おう」
「もちろん。一緒にヴォルデモートを倒そう」
ハリーとエスペランサは握手を交わした。
「ハーマイオニー、ロン。ハリーのお守りを頼んだぞ」
「お守り!?」
ハリーが憤慨する。
ロンとハーマイオニーは苦笑いした。
ハリーの暴走を止めるのはいつもこの2人だった。
センチュリオンと共同でヴォルデモートとその勢力を殲滅する。
共通の目的を持つ事でエスペランサとハリーの距離は3学年時よりも前、つまり、センチュリオン創設以前に戻ってきた。
思えば、エスペランサがセンチュリオンを立ち上げ、その任務に没頭するに比例してハリー達グリフィンドールの仲間と共に過ごす時間は少なくなっていった。
かつては談話室でハリーやロン、ハーマイオニーと共に過ごした時間も、センチュリオンの訓練や任務で削られていき、ここ数年は無に等しかった。
しかし、考えてみればハリーもエスペランサもヴォルデモートを倒そうとしていることには変わりない。
それに、二人とも同じ戦場を共にしてきたのである。
ハリーもハリーで、ヴォルデモートと戦う術を共に考えてくれる友人はエスペランサの他に居ないと思っていたのだろう。
授業の合間や、談話室で隙を見ては対ヴォルデモートの話に花を咲かせた。
戦略戦術戦史に通じていないハリーの話は絵空事に変わりなかったが、一方で彼はある意味でヴォルデモートを理解している者であったため、エスペランサには思いもつかない思想を披露してくれる。
また、ハリーにとって救いだったのが、エスペランサがマルフォイ黒幕説の支持者だったことだ。
「ロンもハーマイオニーもマルフォイにそんな度胸はないと言って聞かないんだ。でも、奴の言動からするに、マルフォイはヴォルデモートの命令で動いている。現に、ドビーがマルフォイが何か企んでいるということを知らせてきたんだ」
ハリーは夕食に向かう途中で熱弁していた。
「俺もセオドールも同じ意見だよ。だが、マルフォイは泳がせていた方が良いという意見がセンチュリオンの総意だ。マルフォイはつまるところ、ヴォルデモートの隙なんだ。奴を通じて敵の内情が掴めるかもしれんってことさ」
「そうも言ってられないだろ?現に君もケイティも死ぬところだったんだから」
ハリーは廊下の端で忍びの地図を取り出した。
彼の日課はこの便利な地図を使用してマルフォイをストーキングすることである。
「見て、これ。マルフォイは下の階の男子トイレに篭っている」
「そうか。マルフォイの味方をするわけじゃないが、奴も糞くらい捻り出すだろ。そっとしといてやれよ。便秘なんだろ」
「違うんだ!」
「便秘ではなく下痢か?」
「君はなんでそう下品なんだ。君と話しているとクリーチャーが貴族に思えてくる。それはともかく見てくれ、マルフォイは嘆きのマートルと一緒に男子トイレに篭ってる」
「おいおい勘弁してくれよ。マートルは男子トイレにも出没するのか。学校に苦情を入れるレベルだぞ」
エスペランサはうんざりしたが、ハリーはマルフォイの居るであろう男子トイレに走っていってしまう。
エスペランサもエスペランサで嘆きのマートルに男子便所に侵入するなと釘を刺すためにその後を追った。
大便中に覗き込まれたら堪らない。
排便後のアフターケアくらい安心してやりたいものだ。
男子便所の中では洗面台に手をつき、泣いているマルフォイとそれを励ますマートルが居た。
「駄目だ。僕にはできない。やりたくない。でも、僕がやらないと家族を殺すと脅されている」
「大丈夫!私があなたを助けてあげるから」
「ゴーストに何が出来ると言うんだ!それに、僕に指示をしてきている方はお前をゴーストにした張本人……」
マルフォイが泣いている。
それをマートルが慰めているのが何とも奇妙な光景だった。
ハリーもエスペランサも唖然としていたが、やがて、洗面台の鏡越しにマルフォイと目があってしまう。
「お前達のせいだ!」
マルフォイは身体を反転し、杖を取り出すと失神光線を放ってきた。
エスペランサ達は便所の個室の陰にスライディングし、それを交わす。
マートルは「やめて!やめてちょうだい!」と叫んでいたが、死人に口無しとはこの事とばかりに皆、無視した。
「先制攻撃とは……マルフォイも攻撃的になったもんだ」
エスペランサは腰のホルスターから拳銃を取り出し、弾倉をゴム弾のものから実弾のものに切り替える。
この間4秒。
そして、目の端に見えていた洗面台の蛇口に3発ほど9ミリ弾を撃ち込んだ。
蛇口は吹き飛ばされ、水が狂ったように散乱する。
目眩しのためでもあったが、実弾射撃による牽制でマルフォイの攻撃意欲を削ぐのが目的だ。
マルフォイもエスペランサの持つ拳銃の威力は知っている。
案の定、追撃は来なかった。
便所の個室そのものを盾にしてマルフォイの呪いから身を守るハリーにエスペランサは目で合図をする。
- 挟撃して敵を潰す
ハリーはエスペランサの目による合図を理解した。
ハリーもこの6年間、数多もの修羅場を乗り越えてきたし、神秘部ではエスペランサと共に戦闘を繰り広げた歴戦の猛者である。
故に、阿吽の呼吸で共に戦うことができていた。
便所の個室から勢いよく飛び出したエスペランサとハリーはそれぞれ銃と杖を構え、マルフォイを無力化しようとする。
ここで思わぬ誤算が生じた。
マルフォイは挟撃されるのを予測していたのである。
彼は目標をエスペランサのみに絞り、ハリーからの攻撃に対して何ら防御をしようとしていなかった。
逆に、エスペランサに杖を向けて立っていたのである。
もし仮にマルフォイが死の呪いを放てばエスペランサは詰みだ。
故に彼は拳銃の引き金を絞り、マルフォイの生命活動を停止させようとした。
しかし、マルフォイの目の奥にある感情に殺意はない。
あるのは深い哀しみだ。
刹那の躊躇が命取りになり、マルフォイに詠唱する隙を作ってしまう。
「クルーシ……」
「セクタム・センプラ」
ハリーはマルフォイを阻止するために、すかさず呪いを放った。
しかし、その呪いは狙いが逸れたため、エスペランサに直撃する。
呪いはエスペランサの皮膚を合計して20箇所以上切り裂き、床に夥しい量の血を撒き散らした。
「ぐっ……」
流石のエスペランサも銃を落として、膝をつく。
彼は咄嗟に自身の身体を確認した。
幸にして大動脈等の致命的な箇所は傷ついていない。
ただし、出血が多く意識が朦朧としてくる。
「きゃああああ!人殺し!!トイレで人殺し!!!」
マートルが叫びながらトイレの外へ出ていくのが分かる。
センチュリオンの隊員が聞きつければすぐに駆けつけるだろう。
「ぼ、僕じゃない。僕じゃないぞ!」
「エスペランサ!!」
マルフォイはすっかり腰を抜かし、ハリーは慌てて駆け寄ってくる。
案の定、センチュリオンの隊員がマートルの叫びを聞きつけたようで、約10名の隊員がトイレに駆けつけてきた。
セオドールを先頭に、フローラやコーマックが居ることから、幹部陣がまとまって来たのだろう。
セオドールは状況を確認するや否や、M733の銃口をマルフォイの頭に突きつけた。
「泳がせていたつもりだったが、ここまでだ。隊員が攻撃された場合、その場の判断で射殺することをダンブルドアには許可してもらっている」
「や、やめろ。ぼ、僕じゃない。ポッターだ」
「ポッターは我々と友好関係にある。残念だが、ドラコ。お前はここで処分しなくてはならん」
セオドールは淡々と言いつつも、怒りを露わにしていた。
無論、それは他の隊員も同様だ。
フローラは膝をついて血を流すエスペランサのもとへ駆け寄り、止血帯を取り出した。
「傷はそう深くありません。強力な闇の魔術に間違いありませんが、使った人が未熟だったのが幸いでしたね。致命傷には至っていません。しかし、輸血しないと命取りです」
「今学期は……医務室に縁があるな」
「笑い事ではありません。こっちがどんな思いで……」
「何の騒ぎだ!何をやっている!」
フローラが言葉を最後まで言うよりも前に、トイレにスネイプがやってきた。
心なしか焦っているようにも見える。
スネイプはトイレの中を一瞥した。
血塗れで倒れるエスペランサ。
その応急処置をするフローラ。
さらにその横で佇むハリー。
震えながらしゃがみ込むマルフォイ。
マルフォイに銃口を向けるセオドールほか8名の隊員。
「お前達。その武器をさっさと下ろしたまえ」
スネイプは静かにそう命じた。
しかし、センチュリオンの指揮系統にスネイプは入っていない。
故に誰も従わなかった。
「先生。我々の仲間が攻撃を受けました。よって反撃としてドラコ・マルフォイを射殺します。本件は臨時の戦闘であり、ダンブルドアの許可は不必要です」
「黙るのだノット。それにロングボトムとマクラーゲンはその馬鹿げた武器を下ろせ」
「下ろしません。これはセンチュリオンに対する明確な敵対行為です。なぜ、先生はドラコを庇うのですか?」
「ノット、口の利き方を忘れてしまったようだな。お前達の戦争ごっこにはつくづく虫唾が走る。ならば教えてやろう。お前達が武器を向ける先が誰なのかを」
スネイプはハリーから杖を奪い取った。
そして、直前呪文を詠唱する。
「プライオア・インカンタート 直前呪文」
ハリーの杖から魔法が飛び出し、トイレの壁面に深い傷をつけた。
「これが何を意味するのか……。賢いお前なら理解できるだろう」
「いや、まさか。ポッターが隊長を?」
セオドールは動揺した。
慌ててハリーは弁明する。
「エスペランサに呪いを当てたのは僕だ。だけど、それは事故だったんだ。マルフォイがエスペランサを攻撃するのを阻止しようとして……狙いが逸れた」
「ほう。阻止しようとして闇の魔術を使おうとしたのかね?」
スネイプが意地悪くハリーを問い詰めた。
「闇の魔術?」
「そうだ。ポッターが使った魔法は未登録の闇の魔術だ。照合すればすぐに分かる。問題はなぜ、ポッターが闇の魔術を知っていたか……だが」
ハリーが使用した魔法の出所は半純血のプリンスによるものだ。
そのことはエスペランサも推測できた。
このご時世にスネイプがハリーを退学させるなんてことはしないだろうが、何かしらのペナルティは食らうだろう。
それはセンチュリオンにとってもあまり好ましくない。
「俺が教えた。昨年、死喰い人との戦闘で使用しているのを見たから、これは使えると思いハリーに共有した……ゲホッ」
エスペランサは口から出まかせを言った。
おそらくこの場にいる誰もが、嘘八百に気付いただろう。
スネイプもそれに気付き、何かを言いかけたが、その前にエスペランサが血の塊を吐き出したため、有耶無耶になった。
「出血が多いです。すぐに処置しなければ命が危ないです。このまま医務室に搬送しますが、構いませんね?」
フローラがスネイプに鋭く言う。
しかし、スネイプは動じなかった。
「その必要はない」
そう言うとスネイプは杖をエスペランサの傷に向け、ブツブツと呪文を唱えはじめた。
複雑な呪文だが、エスペランサの傷が瞬く間に治り始める。
「反対呪文……」
フローラはある考えに辿り着いたが、ハッと我に帰り、輸血パックを医療セットから取り出す。
傷が治っても失血には変わりがない。
湾岸戦争での事例になるが、助けられたはずの軍人が助からなかった原因の大部分は失血死を防ぐことができなかったというものだ。
故に米軍では戦闘中の止血について研究と訓練を重ねている。
エスペランサもそこを熟知していたからこそ、フローラに戦闘時の医療については研究を重ねるように指示していた。
輸血セットによる輸血は間に合わないと判断し、魔法により失われた血を直接体内に低速で流し始める。
「カローはルックウッドを医務室に連れて行け。ポッターは……」
「ポッターはグリフィンドールの寮監であるマクゴナガルにより裁かれ、ドラコはスリザリンの寮監であるあなたに裁かれる。これがホグワーツの規則と思いますが?」
セオドールがハリーを庇うようにしてスネイプに言う。
「それは退学に関する部分だ。校則違反に対する裁定は現場の教師がすることになっている」
「であれば、ドラコとポッターの処罰を教えて下さい」
「ふむ……。ドラコについては追って伝える。ポッターは今度の土曜日の10時に我輩の部屋で雑用の罰則を与えるとする」
「そうですか。それだけで済むのであれば我々は特に抵抗しません」
セオドールは銃に安全装置をかけ、実弾入り弾倉を外した。
他の隊員もそれに倣う。
「え、え、いやいや、ちょっと待ってよ!その日はクィディッチの決勝戦だ!その日に罰則を入れられるのは困る!」
ハリーがとんでもないとばかりに騒ぎ始めた。
「退学じゃないんだから問題ないだろ。雑用の罰則なら規則どおりだ。ポッターは罰則は慣れているだろ?」
クィディッチの話となるとセオドールはハリーに冷たくなる。
スリザリンはもう負けているからだ。
ハリーはそれでも抵抗した。
「でも、僕はキャプテンとして試合に出ないと……。最後の試合が……」
「そういえばルックウッドの罰則も決める必要がある。そうだな……。ポッターの穴埋めとしてキャプテンはルックウッドがすることにしよう。これが奴の罰則だ」
スネイプはニヤリと笑いながら言い放った。
ハリーは絶望する。
自分が試合に出ることができないことに対してだけではない。
エスペランサの飛行技術が壊滅的であることは周知の事実だ。
セオドール以下、センチュリオンの隊員達は相変わらずスネイプとマルフォイに腹を立てていた。
だがしかし、エスペランサがクィディッチのキャプテンとして箒に乗る姿を思い浮かべると怒りとは別の感情が出てくる。
飛行訓練の授業で箒から落ちた回数は100を超え、城壁に突っ込むことも日常茶飯事。
そんなエスペランサがクィディッチのキャプテン……。
「残念なことにグリフィンドールは……最下位だろうな」
去り際にスネイプが言い放った。
『あー、本日は晴天なり。本日は晴天なり』
『絶好のクィディッチ日和だ。不本意ながら、クィディッチの決勝戦であるグリフィンドール対レイブンクローの試合を実況するのは……』
『俺、センチュリオン諜報部隊指揮官のブレーズ・ザビニと』
『センチュリオン副隊長のセオドール・ノットだ。繰り返すが不本意ながら実況する』
クィディッチの競技場は微妙な空気に包まれている。
何せ司会がこの二人では盛り上がらない。
セオドールもザビニも淡々と司会をする。
マクゴナガルですら反応に困っていた。
『さて、すでに試合は開始している。まず、グリフィンドール側だが、知っての通り、キャプテンのポッターが不在だ』
『遺憾だが、ポッターが隊長に対して呪いを放ったことにより、現在進行形でスネイプ教授による罰則を受けている。よって、グリフィンドールはキャプテン不在のまま戦わなくてはならない』
『ポッターはグリフィンドールの司令塔であり、精神的支柱でもあった。その支柱がない今、グリフィンドールチームの指揮は著しく低下しているだろう……えーと、副隊長?俺の見間違いでなければだが、シーカーをしているのは……』
『本日2回目の遺憾だが、今回シーカーを務めているのはうちの隊長だ。スネイプによる罰則で彼は本日、シーカー兼ねてキャプテンだ』
競技場の中央、地上から5メートル程の上空で蝿のようにフラフラ飛んでいるのは間違いなくエスペランサ・ルックウッドだった。
その飛びっぷりは素人そのものである。
『おい、もう医務室から復帰したのか?聞いてないぞ』
『今朝、本人から連絡があった。スネイプから罰則としてクィディッチに出ろと命じられ、復帰したそうだ。その時の隊長の顔は忘れられんな』
『それにしても何だあの下手な飛び方は……。見ろよ。フーチが頭を抱えているぞ』
エスペランサは飛行訓練が苦手である。
その下手さ加減はハーマイオニーを下回った。
地上から5メートルの位置で左右にフラフラと揺れるように飛ぶエスペランサを見て、観客は腹を抱えて笑っている。
『あっ!隊長の箒!あれは学校の備品の流れ星(シューティング・スター)だぞ?』
『隊長が他のセンチュリオンの隊員、えーと、コーマックとかだな。彼らに箒を貸してくれと言ったみたいだが、誰も貸さなかったらしい。壊されるから、だとさ』
『あの飛び方じゃあ無理もない。これじゃグリフィンドールチームの士気はドン底だ』
フヨフヨと飛ぶエスペランサは格好の的だった。
何せ、彼はシーカーである。
シーカーを戦闘不能にすれば、相手チームは勝ったも同然だ。
レイブンクローのビーターはクラブを振り、ブラッジャーをエスペランサに向けて打ち飛ばす。
しかし、エスペランサは右手を箒から離すと、真っ直ぐに飛んできたブラッジャーを拳骨で殴り飛ばした。
『うっ?痛いぞこれは。馬鹿じゃねえのか?』
『ブラッジャーを殴り飛ばした選手は後にも先にも隊長くらいなものだろう。しかし、ブラッジャーは鉄製だ。しかもその速度からすれば拳は無事では済まない』
殴られたブラッジャーは競技場の地面に衝突し、明後日の方向へ逃げていく。
エスペランサは手首を2.3回振り、上昇した。
『大丈夫そうだな』
セオドールはため息まじりにマイクを置いた。
『観客が唖然としている。無理もない。ブラッジャーはかつて、ポッターの腕をへし折るなど、数多もの選手を医務室送りにしてきたんだ。まさか、殴り返す奴が出るとは思わなかっただろう』
『ん?隊長が何やら叫んでるな?』
よく見るとエスペランサは箒に跨りながら誰かを怒鳴りつけている。
ザビニはマイクを手に持ち、エスペランサに呼びかけた。
『おーい。隊長。こっちまで聞こえないからソノーラスを使ってくれよ』
エスペランサは杖を取り出し、拡声呪文を使った。
「さっきから失礼な実況が聞こえているが、貴様らか!?まあ良い、今はこっちの指導が先だ!おい、アンドリューとスローパー!!これが戦闘だったら指揮官に弾が直撃して戦死だぞ!しっかり防衛しろ!」
「わわわ…。隊長、申し訳ありません!以後気を付けます」
「帰ったらハイポート10周だ!」
「そんなぁ」
『あー。なるほど。補足しておくと、今回グリフィンドールのビーターを務めているアンドリューとスローパーは共にセンチュリオンの隊員だ。その2人がしっかり守らなかったせいで隊長が危険な目に遭った……つまり指揮官を守りきれていないということで隊長は激怒しているみたいだな』
『説教かましてる場合か?ビーターは指導受中で動けないし、シーカーはへっぽこ。またブラッジャーの良い的になるぞ?』
レイブンクローのシーカーであるチョウはこの時点で勝利を確信していた。
エスペランサの戦闘能力は認める。
しかし、飛行能力は生徒の中でも最低だ。
だから、エスペランサがスニッチを取ることはない。
一方で警戒すべきはジニーとロンの2人である。
ジニーのチェイサーとしての腕はプロ顔負けだ。
あれよあれよと言ううちにグリフィンドールの得点が増えていく。
そして、レイブンクローの攻撃はすべてロンに防がれていた。
本試合8度目のゴールを簡単に防いだロンをエスペランサが褒めちぎる。
「良くやったぞロン。帰ったらビールを奢る」
「バタービールにしてくれよ?」
『元々、ロナルド・ウィーズリーはフィジカルに特化した選手だ。メンタル面が弱点であったが、それを克服した今、レイブンクローにとって非常に脅威となる存在だな』
『だが副隊長。クィディッチはスニッチを取った時点で150点が入り試合が終わる。グリフィンドールとレイブンクローの点数の差はまだ80点だ。チョウがスニッチを取れば試合は終わるぞ』
『そうだな……。今回の試合ではポッターではなくエスペランサがキャプテンとして戦略を立ててきている。さて、うちの隊長はどんな戦略で勝とうと思っているのか……』
再び、ブラッジャーがエスペランサに叩き込まれる。
エスペランサは舌打ちしながら、そのブラッジャーをまるでドッチボールのボールのように受け止めた。
『は?はあ??ブラッジャーを受け止めただと!?』
ブラッジャーは暴れる鉄球だ。
成人男性でも抑え込むのは至難の業であり、まして箒に乗って飛行中なら尚更である。
しかし……
『なんか…平然と持ってるぞ』
『体幹を鍛えれば可能な技だ。隊長は並外れた筋力を持ち、体幹のトレーニングを欠かしていない。隊長だけではない。我々センチュリオンは精強無比。ブラッジャーなぞ恐るるに足らず。そうだな?ザビニ』
『あー…。なるほど。勧誘か……。もちろん!センチュリオンに入ればあのようにブラッジャーを抑え込むなんて朝飯前。精強な肉体と強靭な精神力を持つことができる。私もあんな身体になりたい!という人はお近くのセンチュリオン隊員までお声かけ下さい』
『ここはリクルートの場所ではありません!司会に集中してください!』
『マクゴナガル先生すみません』
司会の2人が広報している間にエスペランサは二つ目のブラッジャーを抑え込むことに成功した。
つまり両脇に一つずつ、合計二つのブラッジャーを抱えているわけだ。
そして、彼はそのままレイブンクローのゴールポストに低速で接近した。
「え?何をするの……」
チョウは困惑しながらその光景を見る。
エスペランサはレイブンクローのゴールキーパーの正面まで到達した。
その後、右脇で抱えていたブラッジャーをほぼ0距離でキーパーの顔面にぶつけたのである。
「ぐほっ」
キーパーは吐血しながら箒と共に地面へ落下した。
この光景に恐れをなしたのは観客とレイブンクローの選手である。
エスペランサは止まらない。
次の狙いはチェイサー3人だった。
チェイサーは逃げ回るが、エスペランサはブラッジャーを捕まえては投げつけ、捕まえては投げつけ始めた。
キーパーは不在。
チェイサーは逃げ回る。
その隙にジニーはクアッフルをゴールに次々と入れていく。
『えーと。今グリフィンドールは何点決めたんだ?』
『280点目だな。そらそうだ。ブラッジャーは隊長の玩具にされているし、キーパーがノックアウトしてるんだから』
こうなってしまうともう試合にならない。
エスペランサの腕が良いのかマグレなのか、ブラッジャーがチェイサー3人に直撃する。
グリフィンドールとレイブンクローの点数の差が400点を超えたところで、チョウが不本意ながら、スニッチを捕まえた。
観客は湧かない。
これほどまでにスポーツマンシップに欠け、スリザリンよりも悪質で、面白くない試合は有史以来はじめてだと生徒は口を揃えて言った。
この試合はホグワーツの歴史に名を刻んだどころか、国際クィディッチ連盟の耳にも届き、エスペランサをクィディッチに関わらせること自体禁止する措置が取られた。
そして、彼が行った非道なプレーはすべて禁止事項に規定されたのである。
なお、エスペランサはこの試合で左右の指を骨折したほか、打撲多数、肋骨骨折等をしており、フローラに大目玉をくらうことになった。
魔法使いの飛行能力は努力ではなく才能だと思っています。原作を読む感じだと……