朝の一件から少し気まずくなったが、何とか落ち着きを取り戻していった。
マドカは未だに顔が赤かったが、何とかいつものように振る舞っていた。
千冬姉はそんな俺達を呆れ返った目で見ていたが……
そしてそろそろお昼時。
俺と真耶さんは台所でお昼ご飯を作っていた。
「お昼は何を作りましょうか」
そうはにかみながら真耶さんが聞いてくる。その笑顔も可愛いと思いながら俺は冷蔵庫から食材を取り出していた。
「そうですね……まぁ、正月ですのでお雑煮にしてみようかと。昨日の内に少しは食材を買っておきましたしね」
「お雑煮ですか~、いいですね。でも、どういうのにしますか?」
雑煮というのは地方によって作り方や味がまるで違う。
味噌味や醤油味などに始まり中に入れる餅も焼き餅や煮込んだ餅など、多岐に渡る。
なので何を作るのか、それが結構難しいのだ。
「家では一応、関東風のすましで作ります。真耶さんのお家ではどうでしたか?」
「私の家では関西風の白味噌です。お母さんが京都の出身なんですよ」
「ああ、やはりそうですか」
「わかるんですか?」
俺がそう言うと、真耶さんが少し驚いていた。
そこまで難しいことではない。あの、のんびりとした雰囲気が何となく京都っぽく感じたのが一つ。
そして……
「料理の味付けにそういった癖が出るんですよ。京都は出汁を重視した繊細な味付けが特徴ですから。真奈さんの料理はこっちに合わせてありましたが、やはりそう言うのは誤魔化せません」
そう答えると、真耶さんは関心していた。
「凄いです、まさかあの夕飯からそこまで分かるなんて!?」
「一応は料理人ですからね。ちなみに真耶さんの料理にもそういう癖は出てますよ。しっかりと真奈さんから学んだみたいですね」
そう褒めると、真っ赤になって恥ずかしがる真耶さん。
(本当に可愛いなぁ……エプロン姿なんて、まさに新妻って感じで……)
そんなよからぬことを考えてしまう自分をどうかとは思うが、たまには良いだろう。
そのまま冷蔵庫から食材を取り出していき、台所に広げていく。
「にんじん、大根、鶏肉、小松菜、ネギ……玉子にお魚? サツマイモに栗? あの、これは?」
出した食材を見て真耶さんが頭を傾げていた。
雑煮を作るには材料が多すぎる上に、雑煮では使わないような食材もあるのだから当たり前である。
「ついでに軽くおせちを作ろうと思いまして。去年は忙しかったので作れなかったんですよ。なのでそこまで多くは作れませんが、二品くらいは作れますよ」
「えぇ~、おせちも作れるんですか!? 凄いです」
真耶さんが尊敬の眼差しを俺に向けてくる。
その視線が何だかこそばゆい。
「わ、私に作り方を教えてくれませんか」
真耶さんは上目使いにそうお願いしてきた。
そんなお願いをされて断る訳にはいかない。まぁ、断る気もないのだが。
「えぇ、もちろん。俺も真耶さんが作ったおせち、食べてみたいですしね」
「が、頑張ります」
そう真耶さんが意気込み、手を前に出して、ぐっと握りしめている姿は実に微笑ましかった。
その後さっそく料理を開始する。
「まずお昼ご飯のお雑煮からですね」
「はい、よろしくお願いします」
まるでお料理教室のような感じである。
「まず、出汁を取ります。鰹節を削り、それを出汁に使います」
「この家ってこんな物まであったんですか!?」
持ってきた鰹節を専用の鉋で削っていくと、大量のカツオ節へと変わっていく。
「結構な量ですね」
「ええ、これくらい削らないと、良い出汁が出ないんですよ」
そのまま削ったカツオ節を沸騰させた鍋に入れ、十秒くらいで取り出す。
「いいんですか、そんな短くて?」
「カツオ節は長く湯に晒すと、えぐみや臭みも出てしまいますので、短時間で良いのですよ」
「はぁ~、勉強になります」
そのまま取った出汁を一旦退かし、別の鍋で大根、にんじん、小松菜を下ゆでしてアクを抜く。あまり旨味が外に出ないように短時間でさっと済ませる。小松菜はすぐにザルに移すと、冷水で晒して冷やしてから水気を抜く。
「わぁ、にんじんがお花の形をしてます!」
「一応それなりに飾り切りをしました。せっかくですから、家でこういうのもいいかと」
にんじんの飾り切りを見て驚き、子共のようにはしゃぐ真耶さん。
その無邪気な笑顔もまた可愛い。
「その間に餅を焼いておきましょうか。本当はつきたての方が美味しいのですが、流石にそれを作る余裕まではありませんから。市販品のお餅を使います。家ですので、オーブントースターを使いましょう。個人的には、七輪を使って網で焼きたいところですが」
そう言いながら俺は餅を取り出し、オーブントースターに投入。時間を設定して焼き始める。
「次は出汁に鶏のモモ肉を入れて煮ます。皮は取り除いて余分な脂は取り、純粋に鶏の旨味を抽出します。アクが出てきたら丁寧にこれを取り除きますね」
皮を取り除いた鶏モモ肉を一口大に切り、それを出汁に入れて煮る。次第に出てきたアクを丁寧に取り除いていく。
「わぁ~、これだけでも良い匂いがします~」
「もっと美味しくなりますからね」
匂いに期待を膨らませている真耶さんを見て、少し笑いながら俺は作業を続けていく。
「そこにさっきアク取りしたにんじんと大根を加えてもう一煮立ちさせ、旨味を合わせます。そして最後に味をまとめるために醤油を少量加え、塩で味を調えます」
味を調え終えたのを確認すると火を止め、焼けた餅をお椀に入れる。
そしてそれに出来た汁を入れ、水分を取った小松菜と細く細かく切った白髪ネギをのせる。
「これで雑煮の完成です」
「美味しそうですね。さすがは私の旦那様です!」
俺を尊敬と熱の籠もった視線で見つめる真耶さん。
それがこそばゆいながらも嬉しい。
「次はおせちを作りましょう。簡単に伊達巻きと栗きんとんを作りますよ」
「どっちも美味しいですよね~。私、両方とも大好きですよ」
「そうですか。それは気合いを入れて作らないと、ですね」
真耶さんが好きと聞いては、頑張らなければ。
俺はさっそくおせちに取りかかる。時間も押している事もあって、今回は結構本気だ。
「まず、栗を剝いて甘露煮にします。これは時間が掛かるので先に作りますが、この時間では完成しないのでまた後日に。サツマイモは皮のまま蒸し器で蒸します。ここで皮を剝いた方が火は通りやすいのですが、一緒に旨味も蒸気と一緒に抜けてしまうので敢えて剝きません」
「栗きんとんは後ですね。出来るのが楽しみですよ~」
蒸し器にある程度のサイズに切ったサツマイモを入れて蒸し始めると、俺は次に伊達巻きに取りかかる。
「まず魚を捌きます。めでたい事にちなんで鯛を使おうかと思います。普段なら勿体ないので使わないのですが」
「豪華ですね~」
そのまま鯛を綺麗に捌き、三枚下ろしにした後に擂り鉢で丹念にすり身にしていく。その際に塩を少量加えながら練っていくと、粘りがより出てくる。
「すり身が出来たら、そこに卵白を加えてよく擂ります。よく混ざったら卵黄を加えさらによく混ぜ、砂糖、みりん、純米酒、醤油で味を調えます」
「伊達巻き、こうやって作るんですね~」
素直に関心する真耶さん。
普段から作るものじゃないだけに、結構珍しい。
「そしてタネが出来たら型に流し込み、オーブンで焼きます」
そして待つこと約二十分。
「わぁ~甘くてお菓子みたいな匂いがしますね~」
「ええ、お菓子みたいですからね」
そう答えながらオーブンから取りだし、それを巻き簀に載せて巻く。
そのまま輪ゴムを使って固定し、冷蔵庫で冷やす。
「これで冷めれば伊達巻きの完成ですよ」
「はぁ~、お腹空いて来ちゃいますね」
「そうですね。それじゃお昼にしましょうか」
「はい!」
そう言いながら俺は真耶さんと一緒にお雑煮をリビングに運びに行った。
ちなみに……
二人が料理をしている姿を見て、千冬が言っていた。
「もう新婚と何も変わらんな……つまみ食いをしに行けん…」
そう零していた。