現在、第三アリーナにて、俺はマドカの訓練に付き合っていた。
マドカは打鉄を装着し、近接ブレード抜いて此方に襲い掛かる。
「やぁあああああああああああああああああああああ!!」
幼いながらにも気迫の籠もった叫びが上がり、俺に向かって近接ブレードが振るわれる。
重さがそれなりに乗ってはいるが、まだまだ未熟な斬撃。
「ふんっ!!」
その一閃を俺は斬馬刀で弾き返す。
弾かれた近接ブレードに引かれて、マドカが体勢を少し崩した。
そのまま少し踏鞴を踏むと、マドカは感動した目を俺に向けてきた。
「やっぱり凄いな、兄さんは!」
尊敬するような視線に気恥ずかしさを感じつつ、俺は苦笑する。
「そんなことはないぞ。俺なんて、他の武者から見たらまだまだ未熟者だ」
「そう謙遜することは無いと思うぞ、私は! だって……『劒冑を纏わず、刀だけで』ISと戦えるんだからな」
この訓練では、俺は正宗を使わずに斬馬刀のみでマドカと戦っていた。
今回マドカに頼まれたのは近接戦の訓練だ。なので俺も鍛錬しようと思い、こうした。
己の心にある油断を消す為に受けたのだ。
昔説明したが、『IS操縦者は絶対防御による安心……言い替えれば慢心がある』。これは武者にもある意味言えたことで、『劒冑があるから絶対に強い』という考えに陥りそうになるのだ。
だからこそ、最近では鈴川みたいな奴が出たわけだが。
劒冑は強力だが、あくまでもその力を発揮させるのは人の力だ。
劒冑があって人があるのではなく、人があってこそ劒冑がある。
故に真の武者は鍛錬を怠らず、常に己を鍛えるのだ。
武者は劒冑があるからこそ、武者にあらず。己の信念を己が武によって表す者こそが武者也。
おれはその教えに従い、より生身でも戦えるように鍛錬を積む。それがより武者として高みを目指すことに繋がることを知っているからだ。
だからこそ、俺は生身に斬馬刀のみで打鉄を纏うマドカと斬り結んでいた。
「何て言うか……姉さんといい兄さんといい、皆凄く強いな。私も兄さんみたいに強くなりたい!」
そう顔を興奮気味に上気させながら力強く言うマドカ。
兄としては嬉しいかぎりである。最近ではすっかりクラスにも混じり、よく布仏さんから『まどっち』と呼ばれお昼を一緒に取っている姿を見かける。
とても少し前まで『亡国機業』にいたとは思えないほどの馴染みっぷりである。すっかりクラスのマスコットとして扱われかわいがられている。
だが、IS操縦に関してはやはり群を抜いていた。
専用機は無いが、それでも量産機で専用機持ちと互角に渡り合える力を周りに見せつけた。
この事にはクラス中が驚き、箒達専用機持ちは気が抜けなくなっていた。
ちなみに、何故こんな訓練をしているのかという経緯についてはこの間、真耶さんと授業で模擬戦をした時に負けたからである。
「私だってマドカちゃんのお義姉さんなんですから。姉がそう簡単に負けるわけにはいきません」
と、真耶さんは自信に満ちあふれた表情で胸を張っていた。
まぁ言いたいことは分かるし、この時自信に満ちた顔をした真耶さんも可愛かった。
それはそれで良いのだが、マドカは結構悔しそうにしていた。
それで真耶さんに勝とうと考えた結果、近接戦へと考えが至った。近接戦を鍛える為に、この学園で近接最強? と皆が勝手に言ってる俺に訓練を頼んだというわけだ。
俺は自分の鍛錬も兼ねて、この話を受け今に至る。
その後もマドカは俺に容赦無く近接ブレードを振るうが、俺はこれを全て弾き返し、マドカに寸止めで反撃を入れる。そしてその度にマドカの斬撃に関して指摘し、より良くなるよう教えていく。
そうしてこの訓練を初めて一時間ほど経った頃だろうか。
前にも同じようなことがあった気がする出来事が起こった。
「ねぇ、聞いた。今、学園入り口前のゲートで不審者がいるんだって」
「え、でも一応入場許可証は持ってるって聞いたよ」
「それが何でも、あまりにも不気味だから警備員さんが不審がってるんだって」
少し休もうとマドカと一緒に休憩室に行こうと歩いていたところ、すれ違った生徒達からそんな話が聞こえてきた。
「兄さん、不審者だって。よく来るのか?」
「いや、そんなことは……無いとは言い切れないが…」
「随分な奴だな。何が狙いかは分からないが、このIS学園に侵入しようなどと」
マドカは自信満々にそう言うが、お前は過去にそのIS学園に侵入して暴れようとしたところを伊達さんに切り捨てられたんだぞ。 お前が言うなと言いたい所だが、この無邪気な妹に害意は無いのだろう。
そのまま苦笑しながらさらに歩いていると、すれ違った生徒達から他にも色々と情報を聞いた。
曰く、不審者は三人である。曰く、不審者の二人はきっちりとしたスーツだが、一人だけ着崩したスーツ姿で姿勢が悪く、杖を突いている白髪の男性だと。この男性があまりにも不審に見えるため、ゲート前で止められていると。
俺はその『杖を突いた白髪の男性』というのに覚えがある。
もし、俺の知っている人なら急いでゲートを通してあげないといけない。見た目は不気味で不審だが、根はとても真面目な良い人だ。何かしら世話になったこともある人なので、あまり粗相はしたくない。
「マドカ、少し気になるからゲートに行ってくる。お前はどうする?」
「私も少し気にはなる。一緒に行くぞ」
マドカは興味深そうに頷く。俺はそれを確認し、急いで一緒にゲートに向かうことにした。
そしてゲートに近づいた所で声が聞こえてきた。
「織斑君の知り合いで山田先生が許可するのなら、此方としては問題ないですよ」
「はい、ありがとうございます」
「いや~、お嬢さんの御蔭で助かりやした。お礼を申し上げますよ」
「まったくもってその通りだね。ところでお嬢さん、パンツをくれないだろうか」
その声に……嫌な予感がした。
いや、一つは問題ない。さっき言った通りの人のようだ。あの人は真面目だから良い。だが、もう一人はまさか……
そう思い急いでさらにゲートに歩く。
話し声は更に聞こえてきた。
「あなたの御蔭で助かりました。まさかこのような美しい女性に助けてもらえるとは、感激の至りです」
「いや、そんなことはないですよ。一夏君のお知り合いですから」
声からして後一人いる。そして真耶さんが応じているようだ。
急がなくては『あの変態』の毒牙に掛かってしまう。俺はさらに焦りながらゲートに近づいた。
そして……
「是非お礼を言わせてもらえませんか。まるで女神のように美しい貴方」
「そ、そんなことは……え?」
俺が見たのは、スーツ姿の金髪の男が真耶さんの前に跪き真耶さんの手を取って、その甲にキスしている姿だった。
「え……えぇええええええええええええええええええええええええ!!」
少しして上がる真耶さんの驚いた声。
そして……俺は自分の中で何かが切れる音を聞いた。