最近、ついつい話が長くなっちゃうんですよね~。
「悪かったわねぇ、色々と無茶を言って」
「いえ、此方も色々と経験になりました。ありがとうございました」
撮影も何とか終わり、雷蝶様から労いの言葉を受ける。
色々と大変な撮影であったが、何だかんだと言ってもとても良い経験になった。
特に真耶さんのいろいろな姿を見られたのは本当に良かった。まさに眼福と言えるだろう。
目を閉じても真耶さんのいろいろな姿が目に焼き付いて離れない。
それだけで今回の仕事を受けた甲斐がある。
「私も呼んでいただいてありがとうございました」
俺に続いて真耶さんが雷蝶様にお礼を言うと、雷蝶様は上機嫌に応じていた。
どうやら雷蝶様にとって真耶さんも美しいと認識したらしい。美しいものが好きな雷鳥様に認められるというのは、恋人として鼻が高い。
内心凄く喜んでしまう。恋人が褒められて嬉しくない人なんていないだろう。
俺はそう考えながら真耶さんを見つつ、背中にあるものを持ち直す。
「ふにゅ~~……」
「もうちょっとで帰れるから我慢しなさい」
「ん~~~~~」
俺の背中では、今にも眠りそうなマドカが背負われていた。
撮影の最後あたりに疲れて眠ってしまったが、流石にこのままではいけないと軽く起こした。
だが、本当に軽くだったため寝ぼけていてすぐにでも眠りそうな状態になっていた。
そんなマドカを背負いながら俺達は帰り支度を始めるのだが……
「そうそう、織斑。少し待ちなさい」
「はい?」
何故か雷蝶様に止められてしまった。
「せっかく来たんだから……少し手合わせしない」
雷蝶様は俺にそう言うと、殺気を混ぜた笑みを俺に向けてきた。
いきなりなんなのか! と思うが、もう二度目なので驚くことはない。
獅子吼様の仕事を手伝ったときも同じ風に獅子吼様と手合わせをしたのだ。武者ならやらずにはいられないだろう。
それに……実は俺も出来れば手合わせしたいと思っていた。
獅子吼様から聞いたことがあるのだが、六波羅の武者の中で最強と言えば雷蝶様のことらしい。
別に獅子吼様が雷蝶様に劣っているというわけではない。ただ、真っ正面からのぶつかり合いでは雷蝶様に分があるとか。
そういうわけで、六波羅で真っ正面から戦う武力において雷蝶様に叶う者はいないらしい。
武者として強者と戦えることは本望である。伊達さんや真田さんほどではないが、俺とて武者なのだ。そこまで言われている達人とは是非とも手合わせしたい。
俺は雷蝶様のその申し出に殺気を乗せた笑みを浮かべ応じた。
「はい、是非に」
「ふふ、良い顔するじゃない」
俺の笑みを受けて不敵に笑う雷蝶様。
こうして帰る前に手合わせすることになった。
そのことを真耶さんに伝えると、真耶さんは凄い心配してきた。
「本当に大丈夫なんですか。怪我とかしたりしませんか」
今にも泣き出しそうなくらい心配して俺に詰め寄る真耶さん。
それだけ心配してもらえることが凄く嬉しいが、同時に申し訳無い気持ちも一杯になって仕方ない。
だからこそ、安心させる為に笑顔で返した。
「大丈夫ですよ、死合いではないですから。寧ろ胸を借りての稽古みたいなものですから、怪我なんてしませんよ」
「で、でも…心配なんです……」
潤んだ瞳で真耶さんが俺を見つめる。
それだけでも、心配していることがヒシヒシと伝わってくる。その心配をもっと和らげてあげようと、俺は真耶さんの耳元で囁く。
「なら約束します。怪我したりしないって。俺が約束を破ったことがありますか?」
すると真耶さんは俺の目をジッと見つめ、少しだけ膨れた。
「何度か破りそうになったことが何回かありましたけど」
「うっ!? それは………すみません……」
そう言われては何も言えなくなってしまう。
確かに言われて見れば、ちゃんと守れていないことの方が多かった気がする。
そのことにバツが悪くなる俺。そんな俺を見て、真耶さんは仕方ないなぁ、といった感じに微笑んだ。
「もう、別にいいですよ。旦那様がそういう人だっていうことは…好きになった時から分かってましたから。わかりました、ちゃんと約束を守って下さいね。そ、それで…約束の証明に…キス、して下さい」
顔を赤らめ、恥ずかしそうに真耶さんはお願いしてきた。
「い、いや、それは……人前だし……」
その事に俺は戸惑うが、皆から言わせれば何を今更ということなのだろう。
そのことにじれったく感じたのか、真耶さんがさらに強く押す。
「キス…して下さい。じゃないと許しませんからね」
甘い声で全く怖くはないのだが、何とも言えない威圧感を感じて俺は折れた。
「は、はい……じゃぁ、しますね」
「はい…」
真耶さんは嬉しそうに目を瞑り唇を俺に差し出す。俺はその甘そうな唇に顔を近づけ…キスをした。
「「んぅ……」」
いつもよりも優しく甘い感触に胸を満たされながら10秒以上唇を合わせ、そして離す。
唇を離した後、真耶さんは俺の目をジッと見つめながら優しい笑顔を浮かべる。
「はい、では約束ですよ」
「約束します」
何とか納得して貰い、俺は背中に負ぶっていたマドカを真耶さんに預ける。
「では…行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
俺がそう言うと、真耶さんは笑顔で送り出してくれた。
と言っても、俺と雷蝶様の手合わせをマドカと一緒に見るために付いてくるのだが。
そして俺達はビルの地下にある格技場に来た。
前もそうだが、六波羅のビルの地下には必ず格技場が作られている。これも六波羅ならではといえよう。
「まぁ、このビルの格技場はそこまで広くはないから合当理は噴かせられないわねぇ。純粋に剣技のみになるわぁ。不満はあるかしら」
「いえ、滅相もないです。しかし、何故俺と手合わせを?」
俺は疑問に思っていた所、雷蝶様はニヤリと笑いながら答えた。
「獅子吼から聞いたけど、あなたって結構やるって聞いたのよ。今一番有名な武者の技量がどれくらいなのか、知りたいじゃない」
それを聞いて納得する。
獅子吼様経由からそのことを聞いたのからこそ、こうしたのか。
前から知っていたが、この人も武者だからな。
「成程。そういうことですか」
「そういうことよ」
その事を聞いた後、雷蝶様は格技場の奥の方に向かう。
俺も前に進み中央近くまで進んだ。
「んぅ~、何だ~?」
「ほら、マドカちゃん、起きて下さい。旦那様が今から手合わせをするそうですから」
真耶さん達は危なくないよう、格技場の出口付近で座っていた。
マドカは先程まで眠そうにしていたが、俺が戦うと聞いて目を覚ました。
「それ、本当か。兄さんが戦うのか! みたいみたい」
「はい、ちゃんと目が覚めたみたいですね。よしよし」
「えへへへへ~~~~~~」
そんな二人のやり取りに心が和むが、既に戦闘態勢に移行している以上表にそれは出さない。
「じゃ、やりましょうか」
「はい」
そう言い、お互いに装甲の構えを取り、己が劔冑を呼び出す。
「来い、正宗!」
『応!!』
俺の呼びかけに応じて正宗が格技場の入り口から入ってきた。
雷蝶様の方を見ると、格技場の奥から鋼鉄で出来た馬が雷蝶様に向かって歩いてきた。あれが雷蝶様の劔冑か。
「いくわよ、『膝丸』」
その馬に雷蝶様が言うと、馬が鳴き声を上げた。
そして俺と雷蝶様は装甲する。
『世に鬼あれば鬼を断つ 世に悪あれば悪を断つ ツルギの理ここに在り』
『帰命頂礼八幡大菩薩 我、御剣と罷り成る』
そして格技場には、濃藍と金色の武者が顕現した。
「では……いかせてもらいます」
「来なさい!」
その声と同時に、斬馬刀を抜刀し斬りかかった。
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「きぇえええええええええええええええええええええええええええ!!」
お互いに咆吼を上げながら初撃を放ち、お互いに激突する。
その瞬間、ビルが揺れるんじゃないかというくらいの衝撃が格技場に走った。
刀と刀がぶつかった瞬間から、俺はとてつもない力に押されかける。
「ぐあっ! なんという力だ!! こんな金剛力、師匠以外に味わったことはないぞ」
『うむ! この力…相当な鍛錬を積んだものだ』
「んんんんん、やるじゃない! 大体の者は初撃で潰れるというのに。中々に美しいわよ!」
そのまま鍔迫り合いに持ち込まれ、ジリジリと押される。このままでは不味いと判断し、熱量を一瞬だけ筋力強化に全て回し、力技で突き放した。
「熱量分配もなかなかの物ね。その年でここまで出来るというのは凄いわよ」
「お褒めいただきありがとうございます」
雷蝶様は構え直しながら俺にそう言うが、その声には余裕がありありと感じられた。
これが六波羅最強と言われる武者の力か……正直勝てる気がしない。
それ故に、どこまでいけるのか試したくもなる。
「しゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「えぇえええええええええええええええええええええええええええええいいいいいいいいい!!」
その後も俺は全力で刀を振るい、雷蝶様に攻撃を仕掛けていった。
そして………
「凄かったな、兄さん!」
帰り道でマドカが興奮気味に俺にそう言ってきた。
武者の戦いを間近で見れたことに興奮しているようだ。
「そうですね。旦那様、格好良かったです」
真耶さんは俺を見つめながら顔を赤くして褒めてくれた。
だが、俺はイマイチ納得のいかない顔をしたままであった。
「そう褒めてくれるのは嬉しいんですけど、如何せん納得しかねるというか何というか……」
俺がそう答える理由。
それは雷蝶様との手合わせの結果である。
あの後もしばらく剣戟は続き、格技場では金属同士の激突による甲高い音が鳴り響いていた。
俺の全力の攻撃を真っ正面から受け止め、余裕で返すその姿はまるで師範代を彷彿とさせる。
どれだけ此方が攻撃をだしても、見事に防がれて反撃を受ける。その一撃一撃がとてつもない重さと破壊力を持って襲い掛かるのだ。手合わせだったが、俺には死合いと何も変わらなくなっていた。
そのまま必死に、夢中に刀を振るって戦っていく。
気がつけば俺は汗だくで呼吸が荒くなっていた。それに対し、雷蝶様からはまったく疲れた感じを感じない。
それがどれだけの差なのかを実感させる。
だが、絶望したりはしない。それはつまり、人は鍛えればそれだけ強くなれるという証明だから。
俺はこの手合わせを純粋に楽しんで刀を振っていき、そして距離を取りって突撃をかけようとしたのだが……
「あら、もうこんな時間じゃない。悪いわね、これで手合わせは終わりよ。これからエステの時間だから」
と言われて装甲を解除されてしまった。
俺は呆気に捕らわれてしまい、開いた口が塞がらなくなった。
まさかそんな理由で手合わせを終わらせるなんて……武者らしくはない。
だが、人の予定にとやかく言う筋合いもないのだ。俺は装甲を解除次第に床に座り込んでしまった。
そのまま雷蝶様は俺に近づく。
「あなた、その歳にしては凄いわよ。でもね…その分急ぎすぎなところもあるわぁ。人生長いのだもの、もう少しゆとりを持って稽古なさい。美は時間をかけても失われない物もあるわ」
そう言って格技場から出て行ってしまった。
そんなわけで、イマイチ不完全燃焼気味に感じながらも帰ることになったのだ。
「でも、やっぱり旦那様は格好良かったですよ。私はそんな旦那様が……大好きです!」
少ししょぼくれる俺に向かって、真耶さんが顔を真っ赤にしながらも満面の笑みでそう言う。
その笑顔を見ていれば、そんな気持ちも薄まってくる。夕日以上に真っ赤な真耶さんはとても幻想的で美しく、可愛かった。
「私も兄さんのこと、大好きだぞ!」
そう言ってマドカが抱きついてきた。
二人に心配させてしまったことは申し訳無いが、こう言ってもらえたのは嬉しいものだ。
「ああ、ありがとう、マドカ」
「えへへ~~~」
俺はそう答えながらマドカの頭を撫でてやると、マドカは嬉しそうだった。
そのまま
真耶さんの方に歩き、真耶さんを抱きしめる。
「ありがとうございます、真耶さん。俺も大好きです」
「旦那様ぁ……はい!」
真耶さんは俺の胸に顔を埋めて幸せそうに笑う。
「に、兄さん、真耶義姉さん、く、苦しい~~~~~~」
その間にマドカを挟みながら抱きしめ合った。
こんな経験もたまには良いと思う。
真耶さんの魅力的な姿も見られたし、もっと鍛錬して強くなることが出来ると理解したし。
今日は本当に良い日だった。
そしてその後、三人で手を繋ぎながらIS学園へと帰っていった。
ちなみに……
雷蝶はこの後、胸焼けを起こしたので薬を飲むために手合わせを中断したというのもあったとか。
曰く……
「あんなに甘いカップル、初めてみたわ。甘過ぎて胃が……痛ててて……」
とのことだったとか。