御蔭で前とは違うハーレムに……
女将から部屋を案内された一夏は早速荷物を降ろし、水着に着替えて外の海へと飛び出す……と言う訳ではなく、最初に行ったのはカメラの確認であった。
持ってきたいくつかのカメラをテーブルの上に広げ、動作確認と周りの環境に合わせての調整を行っていく。これも偏に『美しいもの』を取るために必要なことである。
それを済ませた後はフィルムの確認など、余念なく行っていく。
まずこれらを済ませないことには、一夏は海に出ることが出来ない。
そして写真を撮るために必要な全てを終えて、やっと一夏は動き始めた。
水着が入ったバックを持って更衣室の代わりにされている部屋に向かうが、その姿は海に泳ぎに行く若者と言うよりも、海水浴で子供の遊んでいる姿を撮影する父親と言った方が良いだろう。特に水着以上のに撮影用の機材の方が目立っているのがその証明かもしれない。
更衣室まで歩いている際中、一夏は通常では有り得ないものを目撃する。
それは地面から生えていた……ウサミミであった。
ウサミミ……読んで字の如く、兎の耳のこと。勿論、動物の耳が地面から生えるわけもない。
そしてそのウサミミは明らかな人工物であった。機械で作られたらしいメカニック的なウサミミ。そんなものが生えているということはつまり、わざと植えられているということ。
そんな奇怪な光景に一夏はクスりと笑ってしまう。
こんなお茶目なことをする人物を一夏は一人しか知らない。だからこそ、その期待に応えてウサミミに近づき引っこ抜く。
ここで彼女なら本当に地面に埋まっていても可笑しくないが、どうやら今回はそうではなかったらしい。ウサミミは簡単にすっぽ抜けた。
そしてそれと同時に上空から唸りを上げて一夏が立っていた所へと大きな何かが落下してきて、それは一夏の目の前で土煙を上げながら着弾した。
砂煙が立ち籠め、衝撃が旅館を揺らす。
それらが収まると、やっと一夏の前に落ちてきた物が見えてきた。
それは巨大なニンジンだった。勿論、生の物ではなく、コミカルなイラストにでそうな物を立体的にした人工物のニンジンである。
そしてニンジンはそのまま縦にパカッと割れると、中から何かが飛び出して来た。
「やぁやぁ、いっくん、二年ぶり! おっひさ~!」
飛び出して来たのはピンク色の艶やかな長髪をした女性である。
見たところは二十代そこそこでニコニコとした愛嬌のある笑みを浮かべている。服装は見た目に反して幼児趣味とでもい言うべきだろうか。まるでお伽話に出てくるエプロンドレスのような服を着ていたが、その幼児趣味の服装とはかけ離れてその胸元は女性特有の豊満な膨らみを見せつけている。まるでちぐはぐな姿にさらに頭に付けている人工的なウサミミが拍車をかけていた。
一夏は目の前に現れた人物を懐かしく思いながら親しみを込めて笑みを向ける。
「お久しぶりです、束さん。二年ぶりですけど、変わらずのお美しいですよ」
そう、この奇抜な恰好をした女性こそISを開発した産みの親『篠ノ之 束』である。
一夏にとっては幼馴染みのお姉さんといった間柄であり、幼い頃から世話になっている。世間では篠ノ之 束は人嫌いだと言われているがそれには例外があり、自分が認めた人間……家族と友人だけは仲が良い。彼女は自分の大切な人達には惜しみない愛情を注ぐ人間なのである。
故に親友である千冬の弟である一夏とも交友があった。寧ろ親友よりも会ったかも知れない。
一夏はそんな幼い頃から世話になっている女性との再会を喜びつつ、手に持っていたカメラで束の写真を撮る。
そのカメラのモニターには、再会に満面の笑みを浮かべる束の姿が映し出されていた。
束は再会してかけられた暖かな言葉と、喜んでいたところを撮られたことに恥ずかしさから顔を真っ赤にしてしまう。
「うぅ~、いっくん、いきなり撮るなんて卑怯だよ~」
「すみません。束さんが綺麗で美しかったのでつい…」
少し涙目になって上目使いで睨む束に、一夏はついやってしまったと苦笑しながら頬を掻く。
それを聞いた束はさらに熟したトマトのように顔を真っ赤にして照れ始める。
「そ、そんな…綺麗だなんて~…いっくんったら、お上手なんだから~」
「俺は美しく綺麗なことに嘘は言いませんよ。嘘偽りのない本音です」
「は、はぅ~~~~~」
束は一夏に褒められてことに恥ずかしがって身じろぐが、嬉しそうに笑う。
そして一夏に食い付くかのように話しかけた。
「そ、そうだ、いっくん! せっかくだから連絡先教えて! ね、いいでしょ」
「ええ、いいですよ。でも……」
「でも?」
束が首を小さく傾げると、一夏は顔を若干赤らめながら答える。
「顔が近いです。そんなに近いと色々と意識しちゃいますよ」
「あっ!? ご、ごめん!」
自分の顔が一夏の目の前にあることに束は今更気付き、慌てて顔を離した。
その顔はもう真っ赤になりすぎている。
そんな束を見て一夏は微笑むと、懐から携帯を取り出した。
「これが俺の連絡先です。どうぞ」
携帯を差し出すと、束はそれを慌てて赤外線通信で受信する。
そして一夏の連絡先を確認次第、顔をぱぁっと輝かせた。
「ありがとう、いっくん!」
「いえいえ。俺も束さんの連絡先がもらえて嬉しいですよ」
喜ぶ束に一夏は笑い返す。
その笑みを見て束が顔を真っ赤にして一夏に魅入ってしまう。
大人びていながらもどこか幼さを感じさせ、それでいて清廉なその笑みに束の胸はドキドキと高鳴ってしまう。
それを知られたくなくて、束は慌てて顔を逸らす。
「じゃ、じゃあ、これから毎日いっくんにメールするからね。絶対するから!」
「ええ、楽しみに待ってますよ」
束は一夏にそう言うと共に一夏から離れる。
一夏からは見えないのだが、その顔は夕陽のように赤く染まっていた。
「そ、それじゃあ束さん、まだ用事があるから! そ、それじゃあいっくん、ばいば~い!!」
「はい、それではまた」
そのまま走りる束に一夏は手をヒラヒラと振って後ろ姿を見届けていた。
見送られた束はというと、今にも泣きそうなくらい顔を真っ赤にして必死に走る。
(うわぁ~ん、いっくんったら二年間も会わないうちにさらに格好良く可愛くなってるんだから~! 束さん、ドキドキしっぱなしだよ~! あう~、ドキドキし過ぎていっくんの顔がまともに見れないよ~! もう、いっくんたら悪い子なんだから~!)
束はそんなことを考えながらひたすらに走る。
その顔はにやついて仕方なかった。
指定された部屋で迅速に着替えると、一夏は早速海へと出た。
視界一杯に広がる蒼。白と薄い茶の混じった砂浜に時折生えている緑の松。
その自然が織りなす美の中に、色とりどりの水着を纏った少女達が戯れている。
一夏はその光景を見て早速カメラを構えて一枚撮った。
その写真を見て美しさを感じていると、背後から声がかけられた。
「い~ちか! 一緒に泳ぐわよ!」
「一夏さん、すみませんがサンオイルを塗るのを手伝ってもらえませんか。手が届かない部分があるので」
一夏が振り向いた先にいたのは鈴とセシリアだった。
鈴はオレンジ色のタンキニタイプの水着で、セシリアはパレオを腰に巻いた青いビキニ姿である。
二人とも同時に声をかけたため、その後はお互いに譲らぬと火花を散らしあっていた。
それを見て一夏は苦笑する。
「鈴、少しだけ待っていてくれ。先にセシリアの方を手伝うからさ。その方が二人で喧嘩するよりも速く済むよ」
一夏は鈴にそう言うと、優しく笑いかけながら鈴の頭を撫でる。
頭を撫でられた鈴は顔を赤くして恥じらうが、どこか嬉しそうであり、羨ましそうに見ているセシリアにその幸せな気持ちを見せつける。
「ふにゃ~~~~……わ、わかったわよ。セシリアが終わるまで待ってる」
「ああ、ありがとう」
(鈴さん、羨ましいですわ!)
鈴が納得した後、一夏はセシリアの方へと歩いて行く。
「それじゃあセシリア。オイルを貸してくれないか」
「は、はい! よろしくお願いしますわ」
セシリアは一夏にオイルを塗ってもらえることに恥ずかしがりながらも歓喜し、セットしていたパラソルに一夏を招く。
そして一夏にオイルを塗られていくわけだが……
「そ、そこはっ…んぁっ…はぁはぁ、そんな……わたくしっ……んぅ~~~~~!!」
何やら嬌声を上げてしまい、一夏を困らせることに。
その後もそれは続き、塗り終えた後もセシリアはしばらく横たわっていた。
その顔は真っ赤でとろんとした情欲に満ちた表情になっており、吐く息には熱が籠もっている。そして身体に力が入らず、パラソルの影で気付かないが身体も桜色に染まっていた。
そして……それに気付かす一夏はセシリアにシャッターを切ったのであった。
セシリアの用事を終わらせた一夏は今度は鈴の方に一夏は向かう。
「待ってたわよ、一夏! さぁ、泳ぐわよ!」
すぐにでも泳ぎだそうとする鈴に一夏はとあることを聞く。
「鈴、泳ぎたいのはわかるけど、準備体操はちゃんとしたのか?」
「そんなもの必要ないわよ! 私、泳ぐの得意だから。前世は人魚かもね~」
上機嫌な鈴に一夏は苦笑を浮かべつつ、鈴を叱る。
「鈴、喩えそうだといてもちゃんと準備運動しなきゃ駄目だよ。猿も木から落ちる、弘法も筆の誤り。いつ何時やらなかったことが響くのか分からないんだから。ちゃんとやって危険は減らさないと。やらないと一緒に泳がないぞ」
「うっ…………ごめんなさい……」
優しく叱られた鈴は少ししおれつつも、一夏の言い分を素直に聞いて謝る。
それは一夏がちゃんと鈴のことを思ってのことだと分かっているからだ。
こうして一夏と鈴はその場で充分に準備運動をした後、一緒に泳いだ。
鈴は気付かなかったが、泳いでいる姿を一夏が耐水性カメラで写真を撮っていた。