金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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奇妙な奇妙な金髪さんの物語の始まりです。


プロローグ:”エル・ファシルは燃えているか?”
第001話:”一杯のコーヒーから歴史が変わる時もある”


 

 

 

ココハドコダ……?

”私”ハダレダ……?

 

私? チガウ。

オレハ”俺”ダ。

 

イヤ、”私”は銀河ヲ平定シ病デコノ世ヲ……

 

(なら? ()は誰だ……?)

 

それにこの暗闇に閉ざされた世界は……

 

 

 

☆☆☆

 

 

「おい! ()()()()()! しっかりするんだ!」

 

随分と懐かしい呼び方をするな?

だが、その名字はやめてくれ。嫌いなんだ。

いや……そうでもない。

だが、胸焼けのような不快感はあるな。

 

ああ、そうか。

もう息子も成人してるってのに、未だ新婚気分が抜けてない両親に食傷気味なだけだな。うん。

 

父はセバスティアン、母はクラリベル。姉はアンネローゼ……うん。間違いない。

帝国の下級貴族だった父は、当時花屋で働いていた平民の母に恋をした。

周囲に身分違いだと母との交際を反対された父は一念発起し、母を連れてフェザーン・ルートで自由惑星同盟に亡命。

貴族の証であるフォンを捨て、セバスティアン・ミューゼルとして母に改めて求婚。

そして姉上と俺が生まれた……

 

あと父さん、母さん、弟や妹は別に要らないからな?

 

これで間違ってないはずだが……なんだ? この姉上が皇帝寵姫になったって記憶の断片は?

いや、それだけじゃない……この圧倒的な質と量の記憶の羅列は……

 

(まるで俺が生きたもう一つの人生じゃないか……)

 

 

 

「まだ目を覚まさないか……仕方ない。誰かアンモニアをもってきてくれないか? できれば高濃度なのをだ。気付け薬になる」

 

冗談ではない!

 

ん? 暗闇かと思ったら、もしかして俺は単に目をつぶってただけか?

やれやれ。そろそろ目を覚まさないと鼻が曲がりかねんな。

 

「大丈夫だ……問題ない」

 

俺がゆっくりと瞼を開けると映ったのは黒髪に黒い瞳の優しげな男だった。

見覚えはある。ただし、もっと歳を重ねた後だったが……って何を言ってる?

 

「ヤン()()、アンモニアは勘弁してくれ。気付けなら、せめてポケットに忍ばせてるスキットルの中身がいいな」

 

先輩、今ギクッとしたな?

相変わらず戦場にはブランデー持参か? この不良軍人めっ!

まあ、もっともそれが先輩の士官学校時代から変わらぬキャラといえばキャラなんだが……

 

「ところで後輩、気分と具合はどうだい?」

 

「最悪だ。頭がぐらぐらする」

 

というかローゼンリッターの飲兵衛共と飲み明かした翌日の気分だ。

あるいはアッテンボローの阿呆とフォークとバカ騒ぎしたとき……要するに二日酔いに近いアレだ。

 

「過労だろうね。働きすぎなんだよ、後輩。もう少し息の抜き方を覚えたほうがいいぞ?」

 

「そうも言ってはいられないだろ? もうすぐここは戦場になるんだ」

 

間違いなくな。

なんせ”クソッタレな()()艦隊”は目と鼻の先まで来てるんだ。

 

「かといって戦死の前に過労死じゃ洒落にならないだろうか? 知ってるか? 歴史上、ありとあらゆる古今東西の英雄豪傑の死因は過労なんだぞ?」

 

過労ごときに殺されてたまるか! 病に倒れた俺が言える台詞じゃ……まて。さっきから俺は何を考えている?

 

「ところで後輩」

 

「ん?」

 

先輩は親指でドアの方を指差し、

 

「あのお嬢さんにも一声かけてやったらどうだい? ずっとお前さんを心配して、ドアの前でうろうろしてるんだ」

 

先輩の指差す方向には、金褐色の髪が揺れていた。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ごめんなさい!」

 

そのヘイゼルの髪の少女にいきなり謝られた俺は困惑してしまう。

 

「頭を上げてくれ。どう考えても俺が倒れたのは君のせいじゃない」

 

「でも……」

 

俺はなるべく優しく微笑むよう努力して、

 

「むしろ差し入れには感謝してる」

 

 

 

さて、俺が覚えてるところまで掻い摘んで話すとしよう。

そう、確かこの少女がサンドイッチとコーヒーを差し入れに来たんだ。

だが、先輩が「コーヒーより紅茶がよかった」なんてヌカしたんで、

 

『先輩が要らないなら、そのコーヒーは俺が貰おう。ちょうど喉が渇いてた』

 

とカップを受け取ろうとして……ん? その先の記憶が無いな?

 

 

 

「コーヒーを受け取ろうとして、そのままぶっ倒れたのさ。後輩」

 

なるほど。道理で記憶がそこで途切れてるわけだ。

 

「そういう訳らしい。な? 君は陣中見舞いを差し入れてくれただけで、俺が倒れた事とは無関係だ」

 

「そうそう。我が後輩は昔から万能なくせに変なところで融通が利かなくてね……まあ、おそらく今回も根を詰めすぎてたまった疲労が出ただけだろうさ」

 

先輩、援護射撃に感謝する。

 

「それに俺はこう見えても頑丈だ。心配には及ばない……むしろ、君には礼を言う。えっと、」

 

「フレデリカ」

 

その少女は花がほころぶような笑顔で、

 

「フレデリカ・グリーンヒルです」

 

と名乗った……

 

ん? フレデリカ・グリーンヒル?

先輩の将来の嫁の名だったんじゃ……ってなんで俺はそんなことを知っている?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ラインハルト様は、フラグを立ててしまったのです!(挨拶

誰にとは言いませんが(^^

厳密には、ラインハルトは転生ではなく「別世界線の同位存在の記憶」を取り込み”融合体”になったような感じです。

もっとも彼はオカルティックな考え方より合理性を好みそうなので、

「もう一人の俺の記憶というのも、今後色々参考になりそうだな」

とか言い出しそうですが。


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