エコニアの後日譚的な話でもありますが……
いや~、本来この時点では出てきてはいけない人が出てきてたりしてます(^^
惑星ハイネセン某所、とある酒場
「よう、パトリチェフ」
店に入ってきた軍制服のブルゾンに”
「”バグダッシュ”。待たせたか?」
バーの
同じく同盟軍のブルゾンに大尉の階級章付だ。
「いんや。それより何か頼めよ? 酒場で酒抜きじゃ逆に目立つ」
「そうだな……じゃあハドリアン・ビールを。できればアルンハイム印のを」
「ん? 酒の趣味が変わったのか?」
「まあ、色々あってな……」
☆☆☆
「ほ~う……エコニアで、そんなことがな」
外で仕事の話をするのは危険……それが常識の世界の男達だが、そこはそれ。
まず、酒場のチョイス。
情報部で”色々と”確認された店であり、また予約などを入れる必要が無い店であること。
つまり、彼ら二人のカスタマイズされた個人端末から情報を抜かないかぎり、この二人が今夜この店に来る事は予想不可能だろう。
また、尾行に関してもチェック済み。
更に私服ではなく、あえて軍服で来てるのもわざとだった。
そして話で使う
「凄い……というより恐ろしい青年だったよ。コッチの手口なんて筒抜け、まるで任務前に受けたレクチャーの内容まで全て知ってるような口ぶりだった。そんな筈はないんだがね」
「そりゃご愁傷様だな。んで?
「現状、する意味が無いって判断だ。余生をパルプ・フィクションの作家として過ごすなら問題はないってな」
「そいつは重畳。出来れば老いた新米作家が、現代のイアン・フレミングやフレデリック・フォーサイスにならんことを」
バグダッシュの言葉は、見事にケーフェンヒラーの未来を言い当てていた。
ケーフェンヒラーは無事に老後、あるいは余生と言う時代を「スパイアクション物を得意とする人気娯楽作家」として大過なく過ごすこととなる。
映像化された作品も排出し、多くのファンに惜しまれながらこの世を去った。
享年93歳、文句なく大往生である。
「また古典作家を引っ張り出してきたな……ところで、そっちはどうなんだ?」
「あ~、こっちか……」
するとバグダッシュは困ったような顔で苦笑し、
「軍大学の同級生って形で入れたまではよかったんだがな……」
バグダッシュの目がなんとなく死んだ魚を
「ターゲットから接触してくるなり、いきなり情報部の人間だとバレて資料提供に協力させられてる」
「ほわっと!?」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
舞台は少し前の軍大学キャンパスへと遡る……
バグダッシュ、同盟軍情報部大尉”ナポレオン・バグダッシュ”は、今回の任務に不満は無いが文句はあった。
(何で俺がわざわざ一介の将校の私生活を見張らにゃならんのだ?)
今回、彼に与えられた任務は”ヤン・ウェンリーの
相手は”エル・ファシルの三銃士”と最近巷で持て囃されている青二才だ。
資料を読んだときの第一印象は、
”冴えないやつだなぁ~”
だった。
顔立ちは整っているが、精悍さと言うか……軍人らしさがとことん欠落していた。
どこかの学術機関の研究員という肩書きなら納得できそうだ。
実際、歴史が得意な上に好物だとバグダッシュは資料で読んでいた。
エル・ファシルの三銃士とひとくくりにされているが、実際には世間の注目はアーサー・リンチ中将とラインハルト・ミューゼル中尉に大部分注がれていた。
前者は若かりし頃は”悪童”、最近になっては”闘将”という呼び方が定着した傑物で、戦意が高く部下の信頼も厚く(ただし自分たちを侠客に準えるなど、堅苦しい面々から問題視される行動も多い)、元々「近い将来、どこかの正規艦隊司令官になるのでは?」と思われていた。そして、今回の一件も重なり確実視されている。
言い方はアレだが、彼の率いる艦隊が同盟軍内でも”リンチ一家”で通ってしまう名物提督でもあるのだから、これは納得できる。
そして後者は……とにかく容姿がすばらしい。
長身で細身だが、決して華奢ではなくむしろ精悍さが滲み出て、恐ろしさを感じるほど整った風貌には強い意志を感じさせる……
きっと同盟/帝国を問わず、「理想的な若手将校」を具現化させたらこのような容姿になるのではないだろうか?
事実、軍上層部は早速、ミューゼル中尉をモデルとした志願兵募集のポスターをはじめとする映像メディアの大量製造と流布を始めたとバグダッシュも耳に挟んでいた。
ただ、ポスターなどはすぐに盗まれてしまい、その犯人の大半が歳若い婦女子だというのだから担当者は頭を抱えてるそうだ。
まあ、同盟軍は民主化が進んだ軍隊で、全人員の3割強が女性であることを考えれば、全くの無駄ではないことが救いと言えば救いだ。
対してヤン・ウェンリーという男はどうだろうか?
脱出作戦を立案、主導的な役割を果たしたというが……
(だが、エル・ファシルの住民達によれば、ほとんど印象に残ってないという……)
それは逆に言えば、艦隊の8割以上を失いながら戦い抜いたリンチや、”名演説”と評してよい弁舌を用いて市民達を奮い立たせ、意識を一つに纏め上げたラインハルトが強烈な印象を残しすぎたともいえる。
”影の功労者”……リンチが持ち上げなければ、ヤンの功績もおおっぴらにならず、狭い範囲の軍関係者のみがそう評していただけかもしれない。
事実、遡ってみても士官学校時も尉官として任官した後も、客観的な
(主観的には、全く違う評価もある……)
今回、たまたま入学が許される大尉という階級だったバグダッシュが、わざわざ”軍大学の同級生”名目で派遣された理由も『有名になった三銃士の中で一番地味な奴で、一番地味な配置転換だから
好ましくないというのは、例えば左翼的あるいはパヨク的反戦活動家(こういう輩も当然、国家の健全性を保つ必要悪という政治的理由で存在が許容されている。ただし野放しではない)から始まり、国家としては”過ぎたるは及ばざるが如し”と言いたくなる真逆の思想を持つ極右的政治結社、当たり前だが帝国の諜報員や破壊工作員、暗殺者。あるいはフェザーンのハニトラ要員というのも違う意味でタチが悪い。
極右と言えば”憂国騎士団”が出てきそうだが……アレは中身が怪しすぎる。極右団体の看板を掲げた別の何かだ。
要するに高まった名声が地に落ちれば、それを使ったプロパガンダも一気に政府や軍へのネガティブ・キャンペーンに早変わりしてしまうということだ。
まあ、現在ターゲットが居候しているミューゼル家……同盟屈指の人気恋愛作家で、今や同盟亡命者社会の重鎮に数えられる当主の娘といい仲となるのは、宥和政策の名の元に亡命者の積極的な取り込み(と地味な帝国の切り崩し)を標榜する政府にとっても軍にとっても都合が良いので、どんどんやってくれということだろう。
だが、
「やあ、始めまして。君がバグダッシュ大尉かい?
軍人らしくないということ以外は結局はよくわからないヤン・ウェンリーを無意識のうちに甘く見ていたことを、バグダッシュはこの後、酷く後悔する事になる。
バグダッシュに”巻き込まれフラグ”、”苦労人フラグ”が立ちました♪(挨拶
正確には、幻想入りならぬ”ヤン・ファミリー入り”フラグですかね?
やったねヤン! 多分、
まあ、これもヤン覚醒の一環だと思っていただければと(^^