金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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人間丸くなったラインハルト様の本領発揮!……かもです(^^




第028話:”ラインハルトは心配性?”

 

 

 

うむ。ラインハルト・ローエ……コホン。なんでもないぞ。

ローエングリンはいいオペラだと思っただけだ。

 

さて、中尉の階級章をつけてエコニアでの馬鹿騒ぎから家へと戻ってきてみれば、ヤン先輩(姉上と結婚している訳ではないので、まだ義兄とは呼べん。婚約はしているが)から、「ちょっと読んでみてくれないか? 感想を聞きたい」とレポートの原案を手渡された。

 

基本的に『大学初っ端の自由課題レポートのため、自分を印象付けるため少しは派手な内容になるように書いてみた』という骨子のレポートだったが……

 

(中身がなぜか()()()だった件について)

 

我ながら何を言ってるかわからんな。

だが、事実だ。

 

 

 

「先輩……自分が何を書いたかわかってるのか?」

 

「どうした後輩? 怖い顔をして?」

 

どうして先輩こそ、そんなのほほんとした顔をしていられる!

先輩に限って、自分がレポートに書いた内容を理解してないとは思えんが……

 

「先輩のレポートを端的にまとめるとこうなる。”純軍事的には大して害の無い定点要塞を政治的理由で攻撃。破壊するなどもっと簡単な無力化の方法があるのに、攻略の大義名分を得た軍が助平根性出して奪い取ろうとするから4度も失敗した。頭が制帽を載せる台以外の使い道があるのなら、もう少しマシなプランを考えろ”……違うか?」

 

”ぱちぱちぱち”

 

「おお~。さすが士官学校始まって以来の麒麟児、天才の中の天才と音に聞こえしラインハルト・ミューゼル。一読しただけで、実に的確な要約だね?」

 

「暢気に拍手などしてる場合かっ!!」

 

この男、絶対に確信犯だっ!!

 

「軍大学の壱号レポートに託けて、軍/政府、下手をすれば市民にも同時にケンカを売るようなもんだぞ!!」

 

「……だが、いずれ誰かが声をあげるべきことじゃないのかい? ”イゼルローン要塞攻略は、現状の奪取方針ではリスクばかりで益は無い”ってさ」

 

 

 

……なるほど。

冷静になってみれば当たり前だが、闇雲にケンカを売る気はないわけか。

 

「先輩、本当にわかっているのか? これは今までのイゼルローンに対する軍の方針の全否定だ。政治を絡めてる以上、政治家も上手く立ち回らねば敵に回す……人と言うのは自分の過ちは認めたがらないもんだ。特に投資が多ければ多いほど、だ」

 

「わかってるさ」

 

ヤン先輩は頷き、

 

「4回の攻略……奪取失敗は、素直に認めるには大きすぎる損失だ。だからこそ、これを今までどおりの方針で進めるべきじゃないのさ。軍にとって、政府にとって、何より政府の命令で軍に人だけでなく金まで吸い上げられてる納税者たる同盟市民にとってだ」

 

それはわかった。

納得もしてやろう。

だが、

 

「何故、先輩なんだ?」

 

「私は今のところ一介の軍大生に過ぎない。”()()()()軍のお偉いさん”なら、せいぜい一笑に付すぐらいさ。『夢と現実の区別がつかぬ若造の妄言』とか言ってね」

 

「だが問題は”笑い事じゃ済まない”と上層部に認識された場合だろ? 反応は両極端になると思うぞ? 絶賛なら文句はないが……」

 

俺でさえ想像できるんだから、先輩が想像できない訳はないんだが……

 

「悪く捉えられれば、”危険思想の持ち主”として軍から放逐。その後も24時間監視体制となっても不思議じゃない」

 

俺の”もう一つの記憶”の中にいたヤン・ウェンリーとヤン先輩が同一人物だなんて言うつもりは無い。

無論、士官学校の頃から親しい付き合いをしてるってのもあるが、はっきり言えば、目の前の先輩の方が人間的に遥かに好感が持てる。

多分、これは同じ陣営にいるってだけじゃない。

 

(でも、やはり似ている部分はある……)

 

致命的に、あるいは決定的に二人のヤン・ウェンリーに異なる部分があることはわかっている。

どこがと聞かれると、まだ言語化できるほどまとまったものじゃないが。

しかし、

 

(もう一人のヤン・ウェンリーは結果として……)

 

()()()()()()”ている。

戦場で無敗を誇っていても、戦場外まで強いとは限らない。

いや、むしろ敵には勝ち続けても味方である筈の者達から政争で殺される例は、古今東西いやと言うほどあるものだ。

あやふやな言い方になってしまうが、”もう一つの人生”を生きた俺も、その手の苦い経験が無かったわけじゃない。

 

 

「今の同盟の気質から考えて、いきなり”英雄を消す”というのは考えにくいが……濡れ衣を着せて名誉を剥奪、”堕ちた英雄”に仕立て上げてから人知れず始末するのはありえそうだな……」

 

「ヲイヲイ。たかが大学のレポートにひどく物騒じゃないか?」

 

「それだけ物騒な内容のレポートだと言ってるんだ!!」

 

この人は政治的思考はできるのに、もしかして政治的配慮は苦手なのか?

 

「だがね()()()()()()……私はこう思ってしまうんだよ」

 

ん? 今、珍しく名で呼んだか?

 

「権力やら弾圧やらを恐れて言いたいことも言えず、書きたいことも書けなくなった時……その時は、」

 

先輩はその時、確かに笑っていた。

 

「民主主義は、死んだも同然だとね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




実は「ヤンを本気で心配するラインハルト」ってシチュエーション、このシリーズで是非とも書いてみたいシーンの一つだったんですよ(^^

それにしてもヤン、やっぱ確信犯で怪文書に仕立て上げたみたいです(^^

そして、ヤンの中での変化……ヤンにとって民主主義とは?


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